Day 11『からりと』
そんな音がした
机の上に、薬がひとつ置いてあった。水色のカプセル錠。
それを飲むと、病気にならないとか治るとか、元気がでるとか疲れないとか、とにかく良いことがあると聞いた。どの噂も、いかにも『ドラッグ』というような話。そんなあからさまなものに引っかかるわけない。そう思いながら、僕はころっと可愛らしい水色の薬を見ていた。
晴れた空みたいな透きとおった水色と白のカプセル。水色はツルッとしつつも中身が透けて見えていて、白は透けてはないけど艶がある。いかにも人の作ったものという感じの表面。遠目に見たときは、キラッと光って見えたのだけど、近づいて見るとそれほど別にキラキラしていない。たまたまだったのかもしれない。
でも、透けたカプセルに粒が入っているのは、何だか可愛らしくて、ついつい見てしまう。少し強くつまむと、破れてしまいそう。つまんで揺らすと、カシャカシャと中身が揺れた。
カプセルの7割ほど入った粒はほとんどが淡い色をしていて、たまに濃い色がある。カプセル越しでは何色なのかわからないけど。
万華鏡でも見てる気になっていた。ただの怪しい薬なのに。
電灯に透かして、見つめていたときにふと我に返って、可笑しくなる。もう1時間近く眺めていた。
「あ」
そんなに長く触っていたせいか、カプセルがすこし緩くなっていて、パカッと指先で割れていまった。中身の粉粒が宙で弾ける。カプセル越しの淡い色は絵の具みたいに綺麗な白。濃い色も絵の具みたいな赤と青で、思った通りの色だった。
そんな粉が、鼻やら口やら耳の穴やら、僕の顔に降り注ぎ、僕は晴れた空のことを思い出した。お日様の匂いが胸いっぱいにあふれるような、そんな見たこともない幸せな空。
次に気づいたとき、僕はただ立ち尽くしていた。何が起きたのかをぼんやり思った。そして、顔を覆ってしゃがみこんで、机の上に薬を置いた犯人が誰だったのか、一生懸命考え始めた。
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