第6話 どんぐり

どんぐりころころ どんぶりこ

お池にはまって さあ大変

どじょうが出てきてこんにちは

坊っちゃん一緒に遊びましょ

(青木存義 作詞)



沈む。沈む。

どんぐりみたいに小さなこどもが、童謡のように池の深いところにはまりこんで沈んでいく。

あ、足がつかない、と思ってからは、あっという間だった。体が自分のものではないように重く、もがけばもがくほど、こどもの身体は沈んでいった。水の中は暗くて何も見えない。どじょうが助けてくれるようには思えない。


 もうだめだ、と息ができなくなって気を失いかけたその時。

 黒く大きな影が、ぬっとこどもに向かってきた。

 どじょうどころではない。さめかクジラか、とこどもは思ったが池にはそんなものはいない。

 意識が朦朧としているこどもに、その生き物は直接頭の中に響くように語りかけてくる。

『棒切れみたいな子どもだな』

『それでも、こどもの肉はおいしいからね。ちょっとしたおやつには十分だ』

 ――こいつは人間を食べる生き物だ。

 恐ろしさに、水の中だが、こどもは恐怖で凍りつきそうになった。

『しかし………』

 突然ふわりとこどもの体が浮き上がり、ものすごいスピードで水面にむかって上昇する。

 謎の生き物がこどもを乗せて、上へ上へと向かって泳いでいるのだった。

『君は一度、私を助けてくれたからね。今日は逃がしてあげよう。でも、いつか君が大きくなったら、そのときは君の肉を喰らいにいくよ』

 その言葉に、こどもはどう返事をしたのだったか。本人はよく覚えていない。

 気がつけば、こどもは池の水際でずぶ濡れになって倒れていた。通りかかった大人が見付けて助けてくれた。池のなかに黒くて大きな生き物がいたのだと言うと、大人たちが、夢でも見たのだろうと笑って言うので、こどもも夢だったのかと思い込んで、いつしかこの体験を忘れてしまった……。




「なんで人間のこどもって目を離すとすぐ大きくなっちゃうんでしょうねぇ」

ふと遠くを見ながらつぶやく青年に、テツオはぎょっとした。

「なんだお前ついにロリコンまで拗らせやがったのか」

「違いますよ!男の子の話!」

「え、ショタコンまで併発したのかよ怖……」

「ちがーう!」


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