異世界王子様ライフ-ゼロ

銀紫蝶

プロローグ

第1話

チュン、チュン、と小鳥のさえずりに、起こされる。


ぬくい布団からでたくなくって、俺はタオルケットを握りしめる。


ものすごく、静かな朝。


小鳥たちのささやかな妨害以外、俺の安眠を邪魔するものはない。

至福だ……。


すやすやと幸せを満喫していたら、ふいにドアをノックされた。


「…………」


「…朝だぞ……?」


「…………」


「リュウキ…? 先に、みんなでメシ食ってるからな。なくなっても知らないぞ」


なぬ。


メシ、と聞いて、俺の腹が反応する。


起きたくはない。


だが、メシにありつけないのは、勘弁。

仕方なく、眼を開ける。



真っ白い壁に、暗い真紅の天井。


12畳ほどの広さの部屋に、洋風のベッド、椅子、小さな丸テーブル、洋服箪笥。


あとは、白いゴミ箱。


それしか設置されてない、妙に綺麗で洒落た部屋。


もちろん、俺の部屋じゃない。


ぼーっと窓を見上げていたら、またノック。


「リュウキ?」


まだいやがる。


「へーへー。…っ起きるよ」


不機嫌に返事したのに、ドアの向こうで苦笑された。


「顔も洗えよ」


ああもー、うるせー。


俺は無返事で、布団を蹴った。



昨日とおんなじ服を着る。


下着の替えは持ってきたけど、Tシャツと黒ジーパンは着の身着のまま。


いかにも客用なスリッパを履き、部屋から出る。


きしりと鳴るのは、白木のフローリングの廊下で、左右に伸びている。


俺は、きょろりと左右を見た。


洗面所……どっちだよ……。


勝手を知らない、他人の家だ。

さっぱりわからん。


とりあえず、左に歩いていく。


廊下はそんなに長くなかった。


突き当たりに階段があって、階下から人のうごく気配をキャッチ。


うし、きっとあっちが、メシにありつける部屋だな。


階段を、スリッパで降りるのに苦労しながら、一階まで降りた。


やっぱり廊下が続き、二番目のドアがちょっと開きっぱなしに。


「…は? まだ寝てた…?」


「もう、起きてくるでしょう」


俺は、なんとなく、そっと中をのぞく。



朝の、まぶしい光が射し照らすのは、かなりひろいリビングダイニングだ。


手前に、6人掛けのテーブルと、奥にキッチンがある。


庭に出られるテラスがあって、そこで外を眺めてるのは、俺のオヤジだ。


キッチンで、朝メシの盛り付けを終わらせたらしいのが、俺の母親。


母親の隣で、冷蔵庫から牛乳パックを取り出してたのは、若い男。


「おはよう。リュウキ」


「あら、ちゃんと起きてきたわね。珍しく。おはよう」


「お、リュウキ、起きたか」


三人が一斉に俺を見つけ、笑顔を向けてくる。


「…はよ…」


オヤジがテラスから戻ってきて、ぐしゃりと俺の頭に手をおく。


「まだ眠そうだな。顔あらってきたか?」


「洗面所どこだよ」


「おっと、おしえてなかったな。廊下出て、左奥から二番目だ」


皿に盛られた、色とりどりの野菜とハムエッグに腹が鳴りながら、俺はいわれた通り洗面所を探しにいった。


やっぱりきしりと音をたてる、フローリングの廊下は、建物じゅうおんなじらしい。

庭に面した壁には木枠の窓があって、外は一面の緑色。


ちいさく低い花壇に、まばらに小さい花。

花壇の奥に、たくさんの木。


隣の家すらみえない、どこまで敷地なんだかって感じだ。





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