冷暖分布

雨天雨衣

位置

 確か急いでいたハズだった。

 四階へ駆けあがる。脚パワーが足りないかもしれないな。…いやスキルポイントを振り忘れたか。でも脚はあるからセーフ。ところで足と脚の使い分けって結構アヤシイな。LegとFoot?調べてみたら足首より下か胴体よりも下か、みたいな分け方らしい。

 そんなことはさておき、先の扉を開くとそこにはたくさんの本が詰まっていたりして、それとスポーツドリンクがいくつかある。ざっと見て三ダース。大は小を兼ぁねる?かも。ええと、目的地はここだったっけ。違う気がするけど一応中を確認しようとゆっくり入る。

 すると突然、と扉が閉まった。違ったか…。脚の無い者が現れて二つを閉じたのかな。

 じゃあバタンと本とペットボトルの蓋を開いて、ラベルを読んで…いや違うかも?紙を飲み込む前にちょっと気付いたのが良かった。ドリンクを飲んでエネルギーを補給して、バタンを開いておいて。本を開いて扉を開く準備と呪文を。

 呪文を…ええと、閉ざされた扉を強引に開く呪文は何ページに書いてあったかな。…あぁっと待てよ?そういやこの扉ってAボタンを押せば開くのだったか。

 扉の隣にあるAと書かれている片桐…っと変換ミスだ。片切スイッチをと切り替える。パチとはこういった共同作業をよくやるんだ。ちなみに彼女の名字は片霧。…それじゃあまた後で。

 扉は開いている。そうだな、せっかくだしこの本は借りていこうか。

 一旦外に出て扉を閉じて、今度は引いてみ…おっとっと、転びそうになった…あのお菓子美味しいよね。実はスキなんだ。

 …ふう、仕切り直してと。

 今度は引いてみよう。推してダメなら弾いてみろ。このフレーズって別にドアの事について言っているワケじゃないんだってね。本当に?

 でも推している曲は大体難しくて演奏するのは難しいことがたまによくある。英語で言うとoften。これ出たらよく「しばしば」なんて訳すけど、「しばしば」を使っている人なんていなくないか。しばしばいる?そっか。

 まあそれでドアノブをつかんで…わ!いてて。横にスライドさせて開いた。静電気対策はしていたのだけれど、右手がちょっとだけ痛む。

 ちょっとだけ。

 扉の先には吊り革とふかふかの椅子とドア、あと喧騒…を鳴らしているラジカセがいる。どうやら予定通り電車に乗れたようだ。間に合って良かった。

 一息ついてふわふわの椅子に座る。ふわふわの許可はちゃんと得ているよ。それにしてもスカートと座り方はむずかしい。ゆっくり車内を見回す?見渡す?と、ラジカセ以外には誰もいない。でも猿はいる。温泉以外にも野生の猿がいることってあるんだなって思ったり。なるほどね。

 目的の駅まではもうちょっと時間があるハズ。ふと自分の足を見…あー、いや別にFootと足を引っかけたわけじゃあなくってね。まぁ転んだけどさ。

 …さっき転びかけた原因がわかった。靴紐がほどけている。靴紐の先端の固い部分はAgletっていうらしいね。突然誰も言及しなくなったやつ。

 そうやって結び直したところでラジカセが話しかけてきた。

 …あぁ、ちょっと扉の開き方を間違えてしまって。…ごたごた駅だよ。あなたは?…そうか。ところでさっきはなんでガヤガヤした音を鳴らしていたんだい?フリーの音源?…へぇ、そんなサービスもやっているのか。その人と入れ違いになったのは残念だな。…ふむ、フリーでも結構いいのはあるんだね。…あぁ、それじゃあまた。

 ラジカセは でなでな駅 で降りた。そういや彼はドーナツを食べていたな。彼の座っていた席の真上の吊り革を見てみると、二つほど輪っかの無い吊り革がある。これか。ちょっとお腹もすいていたし食べようか。

 とりあえず真上にある吊り革を取って食べてみる。これは…カップラーメン味か。渋いな。まだ満腹度には余裕がある。二つ目を食べよう。…おぉ、これは板チョコ味だ。甘くていいな。さっきのスポーツドリンクとは…あまり合わなかった。そりゃあそうか。

 そういえば猿と電車といえば何か怖い話が無かっただろうか…なんだったか。思い出せない。逆に今眠ったら夢に出てきて判明しないだろうか、いやしないな。まぁいっか。目的の駅までまだかかるし、眠ろう……。


 なんて、すぐ眠れたらいいのだけれど。目を閉じていろいろさまざまぐるぐるごちゃごちゃ考える。夢が本編だとしたら、現実で起こったことは次回予告の一部と解釈できるかな?しかしそうなると予知夢の存在で矛盾が起こるかも。じゃあどこへ行くのかな。蝶が泳いで竜巻が起こって桶屋が儲かる夢胡蝶之夢とバタフライエフェクト、ブラジルとテキサスと中国と日本と…あとどこだ。電車の猿だ猿夢。活け造りの為の池作り。そんな呑気な事言ってらんない危機が迫っているんだけれど駄洒落を言うのは…自分次第じゃない誰じゃ。?そんな1/fゆらぎがゆらゆらとリラックスしているし椅子もふわふわお墨付きのふわふわでいらっしゃるけど別に汚れてはいなくって電車内いつだってシ(青+絜)せいけつという因数分解。そんな頭の体操を書いている白衣の男性物理の先生を机に頬杖をついて窓越しに見ている少女寝不足の娘はもう片方の手で回していた棒状の何かを落としたがその何かを後ろ手で掴んだハチマキを頭に巻いている汗だくの少年は走り出していたが突然転んでしまってその何かは手から離れ宙を舞っていく。それは宇宙を泳いでいる様子にも見える蝶に加えられた蓋のようで、きっと楽譜が艶やかだったが故にガムテープから称賛されていたんだろうなって思う。しかしガードレールは結構批判的な味辛口評価を持っているらしくって割り箸を溶かしたことがあるらしい。なかなか厄介だ。それでもラベンダーが着用している懐中時計もようやく櫛を聴き取り始めていて、扇風機と一緒に首をひねりまるでフクロウのように、待合室に長らく佇んでいる。煉瓦ってちょっと美味しそうに見えない?見えないか誰か共感してほしい。カレンダーを見つめて、扇いでいる。近くにあった自動販売機に栞を混ぜて、頼んだ意志と鋏と神と箸とイヤホンとペンとバトンが降ってきた。いや、本当に。

 これは自分の意志じゃない電車の中で観ている夢かも。彼らは目の前で一列に並び始めた。そのうち一人を手に取る。

 ようやく、長らくどこかへ行ってしまっていたこの棒状の何かが……。

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