第3話 紅葉とコスプレ少女

「耳よりな情報があるの。あの、プルトニウムを盗んだ犯人はグラディエーターよ」


 狐耳のビアンカが窃盗犯の情報を話し始めた。グラディエーターとは半グレのチンピラ集団だ。既に都市警察からはマークされているはず。しかし、あれはレッドフォックスの犯行ではなかったのか。


「上手く情報操作して騙したんだよ。そして怪盗レッドフォックスに罪を被せた」

「なるほど」

「ムカツクよね」

「そうだな」


 親しげに話している紅葉とビアンカだったのだが、どうしてこんな情報を持っているのか。


「あの……ビアンカちゃん? 何故そんな事を知ってるの? レッドフォックスの事も知ってるの?」

「あはは。それはね、私たちがレッドフォックスだからなのです」

「私たち?」

「そう。私と紅葉トリニティがレッドフォックス」

「え?」


 マジでびっくりした。


「あー。みどりちゃん、騙すつもりはなかったんだよ。この件は僕も知らなかった最新情報さ」

「そうそう、最新情報。ミニスターをコキ使って情報収集したんですよ」

「ミニスター。詳細を」


 紅葉の呼びかけに応じ、付近の空間が歪んだ。そしてその中から白人の少年が姿を現した。


「本当に人使いが荒いんだから」

「アンタ、AIでしょ」

「AIにも人格はあるし人権だって尊重されるべきなんです」

「そんな与太話は聞こえない。さっさと報告して」


 AIが実体化し人格化していて、長時間労働に対して苦言を呈しているのだが、その上司はそれをまるっと無視している……のだろうか。このコスプレ少女はあのくそババアより性質が悪いのかもしれない。

 不機嫌そうな表情のまま、白人の少年AI、ミニスターが話し始めた。


「一見、テロリストの犯行に見せかけていますが、政治的な権謀術数であると断定します」

「概要を」

「はい。今回グラディエーターを雇ったのは副市長のアヤベ女史です。半年後の市長選に備え、トリニティ市長の失脚を狙った犯行です」

「ほう。私をテロリストに仕立てると?」

「肯定します」


 少年の言葉に紅葉は頷く。


 待て。

 ここ、火星連邦首都オリンポスの市長はトシ・トリニティ。しかし彼は政治家でちょっと年食ってるが「お父さんにしたい人ランキング」では常にトップクラスのイケメン親父である。私が密かに憧れている人物だ。目の前にいる紅葉とは似ても似つかない。いや、顔は似ているかもしれないが、身長はかなり低いし親子ほどの年齢差があって同一人物とは思えない。しかし、先ほど紅葉は自分の事を市長と言った。


 混乱して何が何やらわからなくなった私は、その場に座り込んでしまった。マジ、困った。 

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