本編

第1回(16世紀英国転生小説)

「ミクニちゃん、どうしたの。そんな大昔の電網書籍ブックを引っ張り出してきて」

「あ、カスガさん。シナリオライティングの勉強ですよ。わたし、アイドルを卒業したら脚本家になることに決めたんで」

「『アストロナイトボーグ』の改稿がウケたから? そっかぁ、ミクニちゃんはSFの道を邁進しちゃうんだね」

「いえ、今度は歴史物を書こうと思って」

「歴史物? SFへのこだわりはどうしたの?」

「わたし、別にSFしか読まないわけじゃないですよ。前に言ったじゃないですか、歴史は得意教科だったんです」

「……じゃあ、その電網書籍ブックは歴史の資料ってこと?」

「21世紀に書かれた歴史小説です。舞台は16世紀、宗教改革に揺れる時代。タイトルは『**************』……*******さんって作家さんの作品ですね」

「***(再掲時注:日本の料理名)? じゃあ、この国のお話なんだ? あれ、でも、宗教改革……?」

「いえ、イングランドみたいな西欧の国を舞台にしたお話です」

「……なんで西欧のお話に、***(再掲時注:日本の料理名)が出てくるの?」

「そこがこの作品の核心であり、面白いところなんじゃないですか」

「ふうん……わたしも今度読んでみようかな」

「ぜひぜひ。それで、さっき、勉強のために、この作品の一部をわたしなりの文体でリライトしてたんですけど」

「面白そうだね」

「せっかくだから、カスガさん、ちょっと読み比べてみてください。まず、これが原文です。お酒好きの****お嬢様が、錬金術師*****に自身の過去を話しながら、飲み比べの対決をするシーンですね。このお嬢様は、幼い頃からお酒の醸造所に遊びで出入りして、自分より年上の見習い少年に文字の読み書きを教えていたほどの才女なんですよ」



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



(原作引用部分 省略)



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



「お嬢様、すごいね。錬金術師さんを心酔させちゃったんだ」

「ね、いいシーンでしょ。錬金術師の視点を通じて、お嬢様の人となりがよく伝わってきますよね。……で、こっちはわたしが書いてみたものなんですけど」



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



(リライト部分 省略)



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



「……なにこれ。ほとんど別物じゃない」

「わたしもちょっと反省してます。……神視点の文章って難しいんですよ」

「なあに? 神視点って」

「登場人物の全員を天から見下ろしてるような視点の文章ってことです。上手い作家さんはこれを容易く書きこなすんですよねえ」

「ミクニちゃんにはできないの?」

「わたしにはまだまだ……。修業が足りません。自分の力で出来る限りのことを、と思って、錬金術師*****の視点に絞って書いてみました」

「視点うんぬんはいいんだけど……。ミクニちゃんの文章、くどくどと説明が長くない?」

「あいにく、そういう書き方しかできないんですよ。さらっとした読み味の文章を書けるようになるのが今後の課題ですね」

「まあ、わたしは難しいことはわからないけど、ミクニちゃんが楽しそうでよかった」

「この『**************』って小説、このワンシーンだけじゃ伝わりきらないくらい面白いので、カスガさんも読んでみてくださいね。端末にアドレス送っておきますから」

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