7th stage:光の星の歌姫たち

 暗雲の消えた空が、夕陽に染まっていく。

 たくさんの人たちの安堵の声が街に溢れかえる中、わたしたちは、瓦礫を踏みしめ立っている。


 わたしの隣には銀髪の少女が居た。レイが、杏奈が、そして巨人との融合を解かれた二人の若い男の子たちが居た。わたしたちは暖かな光に包まれて、光の巨人を見上げている。


『私の力だけでは、あの侵略者を倒すことはできなかった。君たちの光が、この星を救ったのだ』


「……行っちゃうの?」


 わたしが問うと、巨人はそっと頷いた。


『もしまた、この星に危機が迫ったならば、我々は何度でも君達を守る盾となろう。君達がいつか自力で宇宙の大海原に飛び出し、我々と肩を並べ銀河を駆ける、その時まで』


 巨人が語る遠い遠い未来の話に、わたしたちは頷き返す。

 アイゼンと流星というらしい男の子二人は、暖かな光の中で、互いに固く握手を交わしていた。


「ほんの少しの間だったが、この星に来れて良かったぜ。俺達の世界が失った本物の音楽ってやつを、束の間、味わえたからな」

「俺も、これからも大切にしていくよ。皆の力で守った、この星の美しい歌声たちを」


 そして、銀髪の少女――アイは、わたしとレイと杏奈に、満面の笑みを向けて言った。


「みなさんとのライブ、最っ高にでした! わたし、これからも頑張ります。わたしたちの世界を、この星みたいに、ステキな音楽に満ちた世界にしてみせます!」

「うん。わたしも、アイちゃんと歌えてよかった」


 わたしたちは誰からともなく手を出し、重ね合った。みんなで守った希望の光を、噛みしめるように。


「夜空を見たら、思い出してくださいねっ。あの広い宇宙のどこかで、わたしたちも、希望を信じて歌ってますから!」


 とびきりの笑顔をわたしたちに向けて、彼女はギターを手に、男の子と一緒に宇宙船へ乗り込んでいく。

 そして、光の巨人が、ふわりと彼らの宇宙船を抱え上げ――


『さらばだ、我が友リュウセイ。そして、光の星の歌姫たちよ』


 夜のとばりが降り、星がまたたく空に、巨人は飛び立ってゆく。わたしたちの視界にいつまでも残る、金色の光の軌跡を引いて。


「……行っちゃったね」


 流星と呼ばれた男の子に身を寄せて、杏奈が少し寂しそうに言う。


「ルヴォリュードは、これからも俺達を見守ってくれるさ。俺達が、そうある努力を続ける限り」


 笑顔で頷き合う二人の雰囲気は、なんだかとてもいい感じで。

 杏奈にお礼を言わなきゃと思いながらも、わたしが、なかなか彼女に話しかけられずにいると――


「カナちゃん」


 ふいに、杏奈は自分からわたしに振り向いてきて、そっと手を差し出してくれた。

 わたしは手のひらの汗を衣装で拭って、緊張を抑えながらその手を握り返す。わたしが目指す世界の遥か高みに居た、伝説のアイドルの白く柔らかなその手を。


「わたしから偉い人たちに紹介してあげる、なんて言わないよ。あなたなら、きっといつか、自分の力で大きなステージに立てるから」

「……ハイ。必ず」


 大スターの優しい瞳をわたしはまっすぐ見つめて、わたしは笑い返した。杏奈の横では、レイも、くしゃっとした笑顔でわたしに頷いてくれていた。


 ――いつか、我々と肩を並べ銀河を駆ける、その時まで――


 光の巨人が残した言葉が、ふっとわたしの心に蘇った。

 わたしと彼女たちの距離は、ちょうど、この星の人類とあの巨人くらい遠いのかもしれない。今はまだ遥か遠くにある、巨大な輝き。だけど、わたしは諦めない。わたしたちの間にあるのは、壁ではなく距離だけだから。


「待ってて。すぐに追いつくから」


 わたしは決意を込めて、杏奈とレイの前に、ぐっと拳を突き出した。



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



 わたしたちは生きている。戦火の絶えないこの世界で、それでも前向きに希望を抱いて。


 怪獣に壊された街は少しずつ復興が進んでいる。この前は、ULT78の復興支援ライブがあって、レニーことレイたちの歌声にたくさんの人たちが勇気付けられたらしい。

 アヤとリオは、あの戦いのあと、ラインや電話で「カナ、格好よかったよ」なんて言ってくれた。二人とも高校生活は順調らしい。今度、ライブを聴きにきてくれるって約束もしてくれた。二人が来るのなら、わたしも恥ずかしい姿は見せられない。


 侵略者の魔の手を退しりぞけても、わたしたちの世界から悪が消え去ることはない。

 新調されたばかりのシャインレンジャーの最新鋭ヘリが、今日も忙しそうに空を駆けてゆく。テレビのニュースに目をやれば、元レンジャーの男の裁判だとか、ロアンの残党の壊滅だとか、物騒な話ばかりが毎日のように流れている。

 でも、だけど。

 そんな世界だからこそ、みんなに希望を届ける光になりたいと、わたしは強く思うんだ。



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



 閉じていた瞳を開ける。

 そこに見えるのは、光のステージ。

 大きくても小さくても関係ない、わたしの大切な大舞台ステージだ。


 視界いっぱいに広がるサイリウムの海から目を上げれば、夜空には満天の星がきらきらと輝いている。


 あの広い広い宇宙のどこかに、希望を信じて歌い続ける旅人たちがいる。

 夜空の星たちを見るたび、わたしは思い出すんだ。一緒に歌ったあの子の笑顔を。彼女が目を輝かせて語った夢を。

 あの子たちに負けないように、わたしも頑張らないと。


 星々の輝きを一手に受けて、わたしは歌う。遥かな銀河の果てまでも届くように。


 スターへのきざはしを駆け上がるわたしの戦いは、まだ夢半ば。だけど、この先どんな闇に襲われようとも、絶対に光を諦めないと誓って――


 わたしは拳を握り、きんいろの希望を、歌い続ける。



(完)

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