飛竜戦士リザードマスク ~怪人ザコトカゲだった俺が異世界で無敵のドラゴンライダーになった話~

板野かも

第0話 見よ!飛竜戦士リザードマスク

 雲を引き裂いては飛ぶ。魔力の源が渦巻くという異世界の空を、遥か彼方から響く人々の悲鳴を追って。


「急げっ、リュウスケ!」


 手綱たづなを握る俺の呼びかけに応え、俺のまたがる巨大なドラゴンがギャオオッと一声鳴いて速度を上げる。炎を纏う翼でぐわりと空気を押し出し、俺達の灼熱の闘志に空を染め上げて。

 ――そう、正義のヒーロー・リザードマスクたる俺と、その相棒、火焔竜フレイムドラゴンのリュウスケ。この一人と一匹を除いて、この世界の空を制するものはいない。


《《誰か! 誰か助けてっ!》》

《《早く来てくれぇっ! リザードマスクーっ!!》》


 逃げ惑う人々の悲痛な声が、強化聴力を備えた俺の人工鼓膜を揺らす。

 俺の身体に僅かに残った生身の部分、ざっくりと切り揃えた黒髪が視界の端でバタバタと揺れる。機械の眼球に置き換わった俺の眼が、視界の彼方に燃える街を捉える。

 皆が俺を待っている。元いた世界では怪人ザコトカゲに過ぎなかった俺を、この世界の皆は救いのヒーローとして頼りにしてくれている。その自信が、その誇りが、俺の背中を押していた。


「行くぞ……っ!」


 戦火の街へ向かって急降下するリュウスケの鞍上あんじょうで、俺は両腕をびしりとX字にクロスさせ、気合を込めて叫んだ。


鎧閃がいせんッ!!」


 刹那、真紅の閃光が俺の腹部のから放たれ、灼熱の熱風が全身を包み込んでいく。熱い血液オイルが全身を駆け巡り、手足の強化筋肉に力が満ちる。

 生身の人間に擬態していた俺の肌は、ウロコ状の装甲を持つ鋼鉄の皮膚に置き換わり――


「トォッ!」


 蜥蜴リザード仮面マスクが頭部を覆うが早いか、俺はリュウスケの背の上から風を巻いて飛び出した。


「ドラゴン・ブレイザー!」


 燃える街を目掛けて舞い降りながら、変身ベルトの腰のホルスターから剣を引き抜く。太古の邪竜の魔力を宿したという真紅の剣が、俺の意のままに鼓動を上げる。


「リザードマスクだ!」

「リザードマスクが来てくれた!」


 人々の安堵と歓喜の声を耳に捉え、俺は粉塵を巻き上げ地面に着地する。灼熱の疾風を引き連れたリュウスケが俺の背後に追いつき、天をく咆哮を上げる。


「おのれ、現れたか、トカゲ野郎!」


 漆黒の鎧を着込んだ醜悪なゴブリンが、しわがれた声で俺に呪いの言葉を吐きかける。棍棒を振り上げ人々を追い回していた骸骨ワイトの群れが、ざわざわと言葉にならない声を発して俺に眼窩がんかを向けてくる。

 人々の平和を脅かす魔物どもめ、正義のヒーローが相手だ――。


飛竜ひりゅう戦士せんし! リザードマスク!」


 リュウスケの炎と人々の声援を背に受け、俺はびしりと剣を構えてポーズを決めた。



 これは、悪の組織に捕まり改造手術を受けた俺が、異世界で正義のヒーローとしての人生を歩み始めた物語だ。 

 一介のトカゲ怪人に過ぎなかった俺が、なぜこの世界で無敵のドラゴンライダーとなったのか。その経緯を、これから良い子の皆さんにお見せしようと思う。

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