ノベルバトラー ライト -新時代小説ゲーム戦記-

板野かも

第1話 NOVEL BATTLE

『さあ、本日の特別イベントのラストバトル! ここまで連戦連勝のアイドル作家、令和の才媛・春風はるかぜレイナに、最後の挑戦者チャレンジャーは一泡吹かせることができるのかっ!』


 ステージ上の大画面でテンション高く声を張り上げるのは、AIアバターの黒人DJ。

 雷斗ライトが見上げるその画面一杯に、金と銀の二枚のカードがくるくると回りながら表示される。「2,500 letters」「20 minutes」の文字、そしてのライフポイントのゲージとともに。


『メジャーワードは「転生」! マイナーワードは「織田信長」!』


 二枚のカードの文字が画面に大きく輝くと、屋外のステージを取り囲む観客達が、ワアッと一斉に声を上げた。


試合規定レギュレーション2,500文字クォーター・ショート20トゥエンティ分間ミニッツ! Let'sレッツ writeライトNOVELノベル BATTLEバトル!』


 派手な爆発音とともに、戦いの火蓋が切って落とされる。


「お父様から受け継いだわたくしの文才、あなたにも見せて差し上げますわ!」


 大ステージの中心を挟んで立つ美貌の少女――春風はるかぜレイナが、ゴスロリ調のミニワンピースの腰に片手を当て、もう片手でびしりと雷斗ライトを指差してくる。

 ステージを吹き抜ける風にツインテールを揺らし、翡翠ひすいのような瞳できらりと雷斗の姿を見据えて。


 そして――



【第一話 信長、異世界に立つ】



 眼前の空間に展開したクリアブルーの仮想バーチャルキーボードに両手を添え、彼女は凄まじい速さで物語を紡ぎ始めた。

 周囲の観客達がやかましく声を張り上げながら大画面を指差している。雷斗も見上げた画面には、早くも何行にもわたる文字がすらすらと並べられている。



【「――ちょっと、おじさん。ちょっと」


  本能寺で焼け死んだはずの信長の意識は、どことも知れない世界で目覚めた。

  闇の中で最初に聞いたのは、女性にょしょうの声だった。いや、女性にょしょうというより、これは年端も行かない女子おなごの声だろう。


 「起きてってば。もうー、困っちゃったなあ。おーじーさーんー」


  やわらかい手が信長の両肩を掴み、乱暴に揺さぶっている。


 「……ひょっとして、死んじゃってるの? 困るよぉ、アナタと一緒に世界を救えって言われたんだからぁー」

 「そんなに揺さぶらんでも起きておるわ」


  やれやれと心の中で呟いて、信長はぱちりと目を開けた。

  眼前に映るのは、困り顔からたちまち驚きの表情に転じる、色の白い女子おなごの姿。

  その小柄な肩の向こうに広がるのは、嫌味なほど青く晴れ渡った空と、一面の大草原であった。 】



 これだけの文章を、お題のオープンから1分足らずで……。

 雷斗がごくりと息を呑んで春風レイナの姿を見ると、彼女はキーボードを打つ手を一瞬止め、ふふんと不敵な顔で笑ってきた。


「ずっと退屈でしたわ。同世代にライバルがいないのが。あなた、を叩いたくらいなら、わたくしを楽しませてくださるんでしょうね」


 ざわざわと騒ぐ観客ギャラリーを意にも介さないように、春風レイナは雷斗をまっすぐ見据えてそう言った。


(あんなこと言ってるけど……どうするんだ?)


 雷斗は自分の前の仮想バーチャルキーボードをじっと見て、一歩後ろに控えたに問いかける。


《《……おっけー》》


 雷斗以外の誰にも見えない口元に、は楽しそうな笑みを浮かべて。

 雷斗以外の誰にも聞こえない声を弾ませて、言った。


《《そーゆーことなら、あの子を楽しませてあげなきゃねっ。平成の紫式部の名にかけて!》》


 ばさりと紫の着物の袖をひるがえして、は雷斗のすぐ隣に歩み出てくる。


(……まったく、なんでこんなことになっちまったんだ)


 雷斗は誰にも悟られないように小さく溜息をついて、キーボードに手を添えた。


 あらた雷斗ライト、中学三年生。

 小説など一行も書いたことのなかった彼が、突如としてノベルバトルの場に立つことになった経緯は、僅か一日前に遡る――。

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