第27話 アルゴンの暴走

 舞はブラック達とアクアに乗って黒翼人の国の国境に向かっていた。


 先ほどユークレイスから王が着いたと連絡が来たのだ。

 どうやらブロムが上手く王を説得して、戦いを再度検討する事になったようだ。

 後はアルゴンが王の指示に従ってくれるのを願った。


 しかし私達が国境に近づくと、一斉に怪しい光を放った矢が飛んできたのだ。

 ブラックがいち早く私たちの前に大きな結界を作り、アクアを含め誰も当たる事はなく無事であった。

 それはどうも普通の矢ではなく、ドラゴンにも効果のある矢であったらしい。


「この矢ではアクアでもキツイかもしれないですね。

 王はすでに着いてるはずなのに攻撃をしてくるという事はアルゴンの暴走という事ですね。

 ・・・アクア、兵士が来るようなら、対応するしかないですよ。

 わかってますよね?」


 ブラックはそう言って、アクアに確認したのだ。

 予想通り、矢が放たれた後は兵士達が剣を持ち、次々と私達に向かって飛んで来るのが見えたのだ。


 思考誘導とはなんて残酷な魔法なのかと思った。

 なぜそこまでアルゴンは彼らの考えを支配し、勝ち目のない戦いに進ませるのだろう。

 アクアは翼を使い風を起こし、兵士達を暗闇に落としていったのだ。

 

「もう、兵士達をこちらに向かわせるのはやめて下さい!」


 私はアルゴンに向けて叫んだのだ。


「私達を乗り越えてまで戦争に向かいたいのですか?

 王様は一度考えると言っているはずですよね?

 兵士達を苦しませてどうするのですか?」


 アルゴンは少し笑いながら私を見て言ったのだ。


「そうだ、人間の娘よ。

 兵士、いやこの国を苦しめるために私は何百年もかけてきたのだよ。

 黒翼人の寿命は短いので、演じるのは大変であったよ。

 それほど長生き出来ないため、その者が引退するとまた後継者として私は別の者を演じなければいけなかったからな。

 しかし、上手く国が私の望む方向に動いてくれたのだよ。

 今の王も、先代の王も良い働きをしてくれたからな。」

 

 そう言うと、老人だった風貌のアルゴンは姿を変え、本来の細身の青年のような姿になったのだ。

 それは明らかに黒翼人ではなく、魔人であったのだ。


「どうしてそんな事を・・・」


 私は楽しげに話すアルゴンを見て、吐き気がしてきた。

 ブラックにもたれかかりながら、アルゴンを睨んだのだ。


「私の大事な人をこの国は奪ったのだよ。

 その復讐の為だけに私はここに存在するのだ。」


「もしかして、あの絵の女性?」


 やはり、城の地下にあった絵の女性がアルゴンの大事な人であるのは間違いないようだ。

 アルゴンは悲しげな目をして話したのだ。


 国のためにと思って自分を犠牲にし、白翼人の国に嫁いだ王女。

 しかし戦争で国に戻ると今度はスパイと国民に罵られ、王室さえ味方になってくれず、彼女を追い詰め死に追いやったのだと。


 どう言う経緯かは分からないが、アルゴンはその王女を心から愛していたのだろう。

 何百年経ってもその復讐の気持ちが消えなかったとは、悲しい事であるのだ。


「いや、アルゴン、私は先代の王からその話は聞いた事がある。

 しかしその王女の父であった王は、彼女が亡くなった後とても悲しみ、白翼人の国に停戦を申し入れたのだよ。

 もちろん、国民の批判の声から王女を守る事が出来なかった事は、父として不甲斐ないとは思う。

 だが王女が自分が悪者となることで、この国の争いが無くなるのなら喜んで受け入れると言って亡くなってからは、何もしなかった王が動いたのだよ。

 もちろんこの話は王室にとって都合が良い話では無かったので、公にはなっていないのだ。

 そんな話を知っていながら、国をまた戦争に、向かわせた自分も情けないのであるが。」

 

 ブロムの父である王はそう話したのだ。


「亡くなった後にどうこうしても、遅いのだよ。

 彼女を守ってあげる事が出来なかった王室を許す事は出来ないのだ。

 さあ、兵士達よ、ドラゴンに向かい戦うのだ。」


 そう言って引き続き兵士達をこちらに向かわせたのだ。


 私はその王女の気持ちになってみたのだ。

 国のために嫁いで、国のために死んで行ったのであれば、今彼女が言うことは一つなのだ。


「ねえ、アルゴン。

 あなたの大切な王女はこんな事を望んでいたのかしら?

 いつでも国のためと思ってきた彼女は今のあなたを見てどう思うの?

 今あなたがやっている事は、自分の命が無くなっても平和にしたかった彼女の考えに背くことよ。

 あなたは彼女がいなくなった悲しみや怒りをぶつけたいだけなのよ。

 でも、これは彼女の望むことではない。

 それはわかっているはずじゃない?

 きっと、彼女はあなたにこう言うと思うわ。

 ・・・あなたと過ごした幸せな国に戻してほしいって。

 素敵な絵を描いていた時を思い出して。」


「何も分からない者が勝手な事を言うな。

 私は・・・私は・・・。」


 頭を抱えながら、ひざまずいたのだ。

 しかしアルゴンは意を決して魔力を乗せて叫んだのだ。


「皆の者、戦い続けるのだ!」


 それを聞いたブラックはユークレイスに思念で全員の思考誘導を解くように指示したのだ。


「アルゴン、お前の負けだ。

 兵士達をこちらに向けても、我々は彼らを傷つける事はしないつもりですよ。」


 ブラックはそう言うとアルゴンのもとに降り立ったのだ。

 そして、ブロムの父である王に向かい会釈したのだ。


「ブラックと申します。

 魔人の国の者がご迷惑をおかけしていたようで、申し訳ありません。

 この国の兵士達は皆無事ですのでご安心ください。」

 

 それを聞いたアルゴンは驚いた顔で叫んだのだ。


「そんな馬鹿な!

 暗闇に落ちていったものは怪しき生き物の餌食のはずだ。

 無事なわけが無いのだ。」


 しかしアルゴンの思惑とは違い、暗闇に落ちた兵士達は精霊の力で無事だったのだ。


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