第26話 対 ドラゴン

 アルゴンは何百年も前に聞いた、ドラゴンの民の話を思い出したのだ。


 まだ、魔人が人間達と同じ世界に住んでいた頃のことだ。

 魔人の国にある岩山に、ドラゴンの民が住んでいたと言われていた。

 しかし何故か多くの民が命を落とすことになり、生き残ったのは一人の子供だけであったと、聞いた事があるのだ。


 だが、黒翼人の世界に400年近くいるが、この国でドラゴンの話は聞いた事が無かった。

 もちろん、地下の森には見たことがない生物が色々いる事は知っていた。

 私自身も城の地下の出口から森の中を歩いた事があるのだ。

 怪しい生物に遭遇し、やっとの思いで逃げて来たのを今も覚えているのだ。


 やはり、魔人の国から来たドラゴンなのだろうか。

 先日の人間の娘の件から、何やらおかしいのだ。

 魔人が何かしら関与しているのかもしれない。

 しかし、ドラゴンだとするなら、あの武器を使えばいいだろう。

 

「持って来てほしい武器がある。

 ドラゴンにも弱点はあるのだよ。」


 私はそう言って、近くの兵士に声をかけ準備をさせる事にしたのだ。

 相手を凍らせる働きのある氷結の弓矢なら効果があるはずなのだ。

 確か、ドラゴンは氷などの低温を苦手とするもの。

 一斉に打ち込めば必ず動きが鈍くなるはずなのだ。

 さっさと邪魔なドラゴンを早くどうにかしなければ。


 私は部隊を再編成させ、弓矢を扱う兵士を揃えたのだ。

 国境沿いに向かうと、多くの兵士達が騒いでいた。

 どうも、先ほどの話にあったドラゴンのような怪物がこちらに向かって来ているのが見えたようなのだ。

 私は弓矢の部隊を最前列で控えるように指示し、目標に向けていつでも攻撃出来る体制を整えたのだ。

 

「皆の者、恐れる事はない。

 氷結の弓矢であればドラゴンにも効果があるはずだ。

 引き寄せて一斉に矢を放つのだ。」

 

 私がそう指示をした直後、後ろから声が上がったのだ。


「攻撃を止めるのだ。

 アルゴン、兵士達に待機するように指示をするのだ。」


 それはブロム王子と一緒に到着した、王の言葉だったのだ。

 私に一任していたはずなのに、この場に王が現れるとは予想外であったのだ。

 

「王、どういう事でしょうか?

 攻撃は私に一任のはずでは?

 今は出撃を邪魔してくる怪物を攻撃するところです。

 我らは白翼人の国に向かわなければなりません。」


 私は思考誘導の魔法を乗せて王に向かって話した。

 しかし、なぜか今までとは違ったのだ。


「いや、戦争について再度大臣達と協議することにしたのだ。

 兵士達は待機させ、まだ出撃させないようにするのだ。」


 王は躊躇せず、答えたのだ。


 そう、私の魔法が効かなかったのだ。

 王子の態度を見ると、王に何かあった事は確かなようだ。

 しかし、まだ兵士達は私の思うがままに動くのだ。

 王がなんと言おうと、私がやめろと言わなければ攻撃を止める事は無いのだ。


「いえ、このまま攻撃を開始します。

 ドラゴンを排除した後は白翼人の国に攻め入るのが我らの国の進む道であります。」


「やめるのだ、アルゴン。

 でないと、後悔することになるぞ。

 王の言う通りにするのだ。」


 王子がそう叫んだが、私は王や王子の言う事を無視し、魔力を乗せて兵士達に向けて叫んだのだ。


「攻撃開始!」


 私の声に合わせて弓矢の部隊は近づいてくる怪物に向けて、氷結の矢を放ったのだ。

 大きな目標物である為、殆どの矢がドラゴンに当たっていったのだ。

 ・・・いや、それは当たって見えただけであったのだ。

 よく見ると、ドラゴンの前に大きな結界が張られており、矢はそこに突き刺さって留まっているように見えたのだ。

 そして、ドラゴンの翼の辺りに何人かが乗っているのが見えたのだ。

 そこには、前に王子が連れてきた人間の娘がいたのだ。

 そしてその横には、遠い昔に見た事がある黒髪の男性が立っていたのだ。

 その人物が左手を出すと、パラパラと刺さった矢が下に落ちていったのだ。


 だいぶ昔、人混みに紛れてその人物を見に行った事があったのだ。

 なんの取り柄もない弱い魔人では、話すことなど出来ない立場のお方なのだ。

 あの娘、魔人と関係があるとは思ったが、まさか王を連れてくるとは。

 ただの人間では無かったようだな。


 だが、私の目的はこの国の絶望への道。

 相手が白翼人では無いのは残念だが、私は引き続きドラゴンに向かい攻撃を指示したのだ。

 

「全部隊、怪物に向けて攻撃開始するのだ。」


 魔力を乗せて力強く叫んだのだ。

 すると、不思議な剣を携えた兵士達が次々に飛び立ち、ドラゴンに向かって行ったのだ。

 ドラゴンは翼を羽ばたかせ竜巻を起こし、殆どの兵士達は暗い森に落ちていったのだ。

 そして王を見ると絶望の顔をしていたのだ。

 忠実な部下と思っていた者が、実は自身の言うことを全く聞かず、自分がその者の指示で動かされていた事に気づいたのだろう。


 なんと、面白い。

 それが見たかったのだ。

 そして、勝ち目のない相手に死に急ぐ兵士達。

 本来は国の中での戦闘に持ち込み、一般市民にも戦争での被害を与えたかったのだが、仕方がない。

 だが、今回部隊の全滅という悲劇を生む事で、また国は荒んでいくだろう。

 それも、王の指示で動いていた私によってだ。


「王よ、潔く戦いに進む兵士達は素晴らしいですな。

 私が何百年もかけて作り上げた兵隊ですからね。

 戦争を長引かせる為に、弱い兵隊ではだめなのですよ。

 どんな困難でも立ち向かう強さがあり、そして私の指示により敗北していく兵士が欲しかったのですよ。」


 王は何も話す事が出来ないようだった。


「アルゴン、お前の思う通りにはいかない。

 お前が黒翼人ではなく、魔人であるのはわかっているのだ。

 だからこそ、ドラゴンの弱点も知っていたのだろう。

 父にもその話はすでに話してあるのだ。

 王である父の指示に従わないときは、友人達の力を借りる話になっていたのだ。

 戦争は回避させてもらう。」


 王と違い、その王子の目からは強い意志が感じられたのだ。

 

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