第22話 戦いに向けて

 黒翼人の兵に潜り込んでいるユークレイスとトルマは、ブラックからの指示でこの国の王の真の考えを探る事にした。


 今回兵士に向けて攻撃の準備をする様に演説をしたが、それが本意であるかを知りたかったのだ。

 アルゴンによる思考誘導のためなのか、それともそれが王自らの考えなのか。

 

 ブロムは何度か父である王に攻撃をするべきでは無いと話に行ったが、受け入れてはくれなかった。

 そして今回はユークレイスとトルマも一緒に、王の元に伺ったのだ。

 もちろん、アルゴンが国境付近の戦闘準備の状況を見に行っている時を狙ったのだ。

 ブロムは大きな扉をノックし、王の書斎に入った。


「父上、失礼します。

 今回の攻撃について申し上げたいことがあります。

 国境付近で警備をしていた兵士からの話を聞いて欲しく、同行させました。」


 机に向かって資料に目を通していた王は少しだけ顔を上げてブロムを見ると、すぐにまた資料に目を移しながら話したのだ。


「私の考えは、何を言われようが変わることはないぞ。

 全てはアルゴンに任せておる。

 部屋から出て行きなさい。」


「父上、この者達の話だけでもお聞きください。」


 ブロムが強く申し出ると、顔を上げて三人を見たのだ。

 すかさず、ユークレイスは青い瞳を光らせ、王の意識や記憶に入り込んだのだ。

 王は動きを止め、意識がなくなったようにぐったりと椅子にもたれかかったのだ。

 ブロムは心配してトルマの顔を見たが、問題ないと言われしばらく様子を見たのだ。


 ユークレイスの瞳が元に戻ると、二人に向かい読み取れた事を伝えたのだ。


「まず、思考誘導の魔法がやはりかけられていたので、解除しました。

 そして、今後しばらくは同じ魔法にかかることが無いように、私がブロックする魔法をかけておきました。

 ただ、この方はもう長年魔法をかけられていたようで、本人の意思というものが今は正直明確にはわかりませんでした。

 今後も自分で決断する事ができるかどうか・・・。

 そのため、上手く説得できるとは限らないかもしれません。」


「・・・そうですか。

 しかし、やってみようと思います。

 もう一度、国の現状から話してみます。

 私は息子ですから。

 魔法がかかってないなら、きっと説得できます。」


 ブロムは父である王に寄り添い、力強い言葉で二人の魔人に伝えたのだ。


「説得出来れば、アルゴンはもう兵士達に指示することは出来ませんね。

 それでも強行しようとするなら、我々が止めると致しましょう。

 ブロム殿、王を頼みますよ。」


 トルマはそう言ってブロムの肩を叩き、二人は部屋を出たのだ。


 ユークレイスとトルマは上官から言われていた持ち場に着いた。

 もうすぐ攻撃に向けて出陣なのだ。

 国境近くに移動し、攻撃の指示が出ると、空から白翼人の国に攻め入る予定なのだ。

 その時刻までに王の意思を変えたいのだ。


 黒翼人の国の武器はトルマにとっては見たことが無いものが多く、とても興味深かった。

 人間達が使っていた弓矢に似てる物もあり、矢を放つと発火するものがあった。

 また見た目は普通の剣に見えるが、衝撃波を放ったり竜巻を作るもの、炎のムチを出すものなど、初めて見る魔法武器にトルマは釘付けだった。


 それから国境近くに部隊が移動すると、そこには大きな結界が張ってあった。

 黒翼人達は少しは魔法を使うことができ、個々に多少の結界を張ることができるのだ。

 特にその魔法に長けている者を集め、部隊全体を囲む結界を作っていたのだ。

 そして約一万の兵士が各部隊から集まりつつあった。


 この国は大きな木の上に存在する街なので、隣の白翼人の国と接しているわけでは無いのだ。

 国境と言っても、隣の国との間には大きな崖の様な隔たりがあるのだ。

 その為、隣の国の様子を、自分達の国からは簡単に見る事は出来なかったのだ。


 前もって前線部隊の状況を見に来ていたアルゴンが、兵士達に指示を出していた。

 

「さあ、いよいよ我々の力を見せる時だ。

 国のため、王のために戦うのだ。

 かつての白翼人の侵略攻撃があった時から、我々の国は厳しい立場に立たされてきた。

 停戦後も以前の様には戻る事は出来なかった。

 しかし、白翼人達に勝利した暁には、豊かな資源、大地も手に入れることができる。

 昔のような楽園に戻す事も可能なのだ。

 皆の者、立ち上がるのだ。」

 

 そう言いながら、やはり思考誘導の魔法をかけていたのだ。

 兵士達からは歓声が起こり、いつでも攻撃する準備は整ったのだ。

 

 ユークレイスとトルマはブロムと王の到着を待ったが、今のところ姿は見えなかった。

 この国はこのまま戦争に向かっていくのかと、二人は残念でならなかった。

 

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