第18話 ブラックの迎え
私の考えが正しければ、あのアルゴンという者は、黒翼人ではなく、魔人のはずなのだ。
そうなると、魔人の王である私が無視するわけにはいかないと思ったのだ。
我々がいる事がバレるとまずいと思い、気配を隠していたが、魔力を使わなくても、だんだんとあの者の本来の姿が透けて見えてきたのだ。
それは、ユークレイスとトルマも同じようであった。
黒い翼を持つ老人であったが、本来は翼を持たない細身の青年のような姿だったのだ。
我々が魔力を使わなくても、本来の姿がある程度わかる事から、私たちに比べるとかなり格下の魔人と考えられるのだ。
多分、魔人の国では特に目立つ立場では無かった事が想像出来るのだ。
それにしても、わざわざ見た目を変えてまで、この国にいる理由がわからなかった。
私はブロムにアルゴンが魔人である可能性が高い事を話した。
「まさかアルゴンが・・・
しかし、魔人の王であるあなたがそう思うなら、きっとそうなのでしょう。
・・・確かにアルゴンには少し不思議な力がありました。
私たちの種族も多少は魔法は使えるのですが、大したことは無いのです。
アルゴンは人を説得したり、手なずける事が得意でした。
私はアルゴンに屈することは無かったのですが、兵士たちや大臣、そして私の父上でさえ、アルゴンの言いなりなのです。
もしかすると、ただ話術が上手いだけでなく、何か魔法の一つなのかと思うくらいで。
ある意味すごい力を持っているのかもしれないと。」
「多分精神に働きかける思考誘導の魔力があるのかも知れません。
あなたのように精神の強い者にはかけることが出来なかったのでしょう。
しかし、所詮はたいした魔人ではありませんよ。
まあ、私なら上書きすることもできますがね。」
ユークレイスが得意げに話し出したのだ。
どうあれ、魔人がこの国で勝手な振る舞いをしてるとなると、私も見過ごすことが出来ないと思ったのだ。
この国にとって良い働きをしているのならともかく、そう言う感じでは無いようなのだ。
ましては、ブロムの妹の病も何か関係があるのか?
ただ、この娘に魔法の類がかかってる訳では無いようなのだが。
舞の薬のおかげで、回復する気配はあった。
まだ体力が弱っているが、自己回復がある程度強い種族のようなので、元気になるのも時間の問題だろう。
「ブラック様、私達がこの国の兵士に潜り込むのはどうでしょうか?
そうすれば、あのアルゴンという者の意図もすぐにわかると思うのですが。」
ユークレイスがそう言うと、トルマは嬉しそうに頷いていた。
トルマはもともとこう言うことが好きなのだ。
ユークレイスは付け加えた。
「ブラック様は舞殿を見つけられましたら、国に戻られて問題ありませんので。」
確かに舞をとりあえず見つけて、安全な場所に連れ帰りたいのだ。
この国の偵察は二人に任せれば、何かあった時も安心ではあるのだ。
「ブロム殿。
ご迷惑でなければ、私の部下を少しの間、置いて行っても良いでしょうか?
アルゴンと言う者について私も気になります。
魔人が迷惑をかけているとなると、話は変わってきますので。」
「もちろんです。
とても心強いです。」
舞を探しにきて、ここで魔人に遭遇したのは意外であったが、この国が正常化すれば、我らの国にとっても友好はプラスになるのではと思ったのだ。
それに、初めて見る黒翼人の国についても、人間の国のように興味が出てきたのだ。
きっとこの国にはまだまだ私が知らない事がきっとあるはずなのだ。
私は二人をブロムに任せる事にして、舞達がどこにいるかを探ったのだ。
さっきまでは、舞もアクアも探知出来なくて焦ってしまったが、私は魔力探知を働かせた。
すると、今は二人がいる所がすぐにわかったのだ。
それはこの国の入り口がある場所であった。
あの場所なら、空間把握が出来ているので瞬時に移動が出来るのだ。
「では、私は舞を迎えに行って来ます。
場所がわかりましたので。
ユークレイス、トルマ、また連絡しますので。
頼みましたよ。」
私は二人にそう伝えブロムに会釈すると、舞達のところに瞬時に移動したのだ。
○
○
○
ブラックが舞達のところに移動する少し前のことである。
クロルやアルからも地下の部屋についてはわからなかったが、リオさんの容体が安定している事を聞いて少しホッとしたのだ。
どうにかリオさんの病の原因を知りたかったので、このままクロル達に協力してもらい、城に戻ろうと考えた時である。
「あ、まずい。
舞、くるぞ。」
アクアが私とスピネルの顔を見てこう呟いたのだ。
私は何のことか分からなかったが、スピネルはため息をついていたのだ。
すると私でもわかる強い気配が急に現れたのだ。
そう、そこには会いたいと思っていたブラックが現れたのだ。
きっと心配していたとか、大丈夫だったかとか、私を気遣う言葉がかけられると思っていたのだが、違ったのだ。
ブラックは私を見るとすぐに怒り出したのだ。
「舞、どうしてこんなところにいるのですか?
私の城に来る予定でしたよね。
こちらに来る事は、ブロム殿が頼んだとは聞きましたが、私に相談してからでも遅くは無かったのでは?」
腕を組みながら私を見下ろし、説教をはじめたのだ。
そして今度はアクアとスピネルに向かい、悪魔のような表情をしたのだ。
「スピネル、アクア・・・言いたい事はわかりますよね。
何で舞を見つけたらすぐに報告しなかったのだ?
それに救出したのは流石だが、なぜすぐに国に戻らなかったのだ?
二人の事だから、面白がっていたのだろう。」
ブラックは怒りをあらわにして、怒鳴っていたのだ。
正直、そんなブラックを見るのは初めてであった。
いつもの二人なら何だかんだと言い訳するところが、今回ばかりは「申し訳ありません」と一言いって、頭を下げたのだ。
よほどブラックの怒りが恐ろしかったのだろう。
やはり、普段は温和で紳士的なブラックだが、魔人の王である事を実感したのだ。
ブラックは怒鳴った事で少しスッキリしたようだった。
そして私に目を向けると、引き寄せ抱きしめたのだ。
「本当に無事でよかった。
ひどい事はされなかったですか?
心配させないでください。」
「ごめんなさい。」
私も沢山言い訳しようと思ったが、一言しかいえなかった。
本当に心配してくれたのだと、実感出来たからなのだ。
魔人と人間という立場ではあるが、少しだけ距離が近づいた気がしたのだ。
そして、ブラックはいつもの紳士的な表情になって話したのだ。
「さあ、舞。
もう帰りますよ。」
それは困るなと、心の中で思ったがこの雰囲気では言い出す事が出来なかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます