第5話 精霊の薬
私は首にかけていた袋の中から光る種を取り出したのだ。
よく見ると、3つあるうちの1つだけが光っていたのだ。
「ちょっと、外の空気を吸って考えても良いかしら?」
私は何となくブロムに見られない方が良いと思い、部屋から外のバルコニーの様なところに出たのだ。
外に出て、手のひらに乗せた光る種をじっと見ていると、その種から優しい光の塊が出てきたのだ。
それは見覚えのある人物に変わっていったのだ。
手のひらに乗るくらい小さくはあったが、確かにあの森の精霊であったのだ。
「舞、何か困った事がありましたか?
この種は私の一部なので、舞が身につけていると、舞の気持ちが私に伝わって来るのですよ。
ところで舞、ここはどこですか?」
精霊がキョロキョロして周りをみていたので、私はこの黒翼人の国や、少女の病気について話したのだ。
そして、黒い影と森を分離した時に使った薬があればと話したのだ。
「それなら、先日舞から薬をもらったので、すでに私の中でつくることが出来ますよ。
ちょっと待ってください。」
そう言うと、精霊の姿が消えて綺麗な球体が現れた。
その中身を見ると生薬の様には見えなかったが、匂いは私がよく知っているものであった。
「舞、ブラックが黒い翼を持つ人物を警戒していましたよ。
早く戻ったほうがいいかと。
気をつけてくださいね。
何かあったら、私の事を呼んで下さいね。」
綺麗な球体を残して、種と一緒に精霊との繋がりが消えたのだ。
ブラックに何も言わずに来ることになってしまったけれど、問題だっただろうか。
私にはブロム達がそんなに警戒しなければいけない人達には見えなかったのだ。
ただ、この国においては翼を持たない私は異質であり、どう思われるかはわからないのだ。
私は部屋に戻り、心配そうなブロムに伝えた。
「あの・・・この薬、病気を治す薬ではないのですが、使ってみる価値はあるかもしれません。」
「本当ですか?
それはどんな?」
ブロムは目を輝かせて聞いてきた。
私は精霊からもらった綺麗な球体の薬を見せたのだ。
「これは、異物や毒物を外に出す働きがあるのです。
だから、身体に害のあるものがあるならば、それを分離する事はできると思います。
でも、呪いや魔法の類いであれば効果はないかと思いますが。
使ってみますか?」
「ええ。少しでもよくなる可能性があるなら。」
もしもこの薬で元気になるようなら、異物や毒物などの可能性が出て来るのだ。
・・・そうなるとまた別の問題も出てくるかもしれないが。
とにかく今はこの少女が良くなる事を願って、その球体を彼女の身体の上に置き、軽く押さえてみたのだ。
するとその球体が変化し、彼女を綺麗な光で包み込んだのだ。
そしてその光が身体の中に吸収されていった後、今度は黒い煙の様な物が出てきて少しすると消滅したのである。
何かはわからないが、彼女の身体の中に異物というべきものがあったのは事実の様なのだ。
「あれは、いったい・・・」
そうブロムが呟いた時、横になっていた少女が目を覚ましたのだ。
眠っていた時に比べ、顔色が良くなり頬にも赤みがさしていたのだ。
その時、ドアがノックされ部屋の扉が開いたのだ。
「ブロム様、どう言う事でしょうか?
この国の者で無い人物を城の中に入れるとは。
問題でありますよ。
ましてや、病気のリオ様の元になど・・・。」
数人の兵士たちを引き連れた、老人が入ってきたのだ。
やはり黒い立派な翼を持ち、とても威厳のある人物のように見えた。
「ああ、この方は私が無理に来てもらったのですよ。
確かにこの国の者ではありませんが、リオをみてもらっていたのですよ。
もしかしたら、良くなるかもしれないのです。
今、薬で顔色も良くなったところですよ。」
ブロムがそう言ってくれたのだが、その厳しい顔をした老人は表情を変えることはなかった。
横になっている少女に目を向けると、ますます顔をしかめたように見えたのだ。
「ブロム様、よそ者をこの国に入れないという決まりは知っておりますよね?
何者かもわからないのに、このままにしておく事は出来ません。
しばらくは拘束させていただきます。」
そう言うと、一緒に来た兵士に指示を出し、私はその部屋から出るように促されたのだ。
何だかまずい展開になってしまったのだ。
「ちょっと待ってくれ。
すぐに元の世界に戻っていただく予定だから、拘束の必要はないですよ。」
ブロムがその老人に向かい反論したのだが、兵士たちは王子であるブロムの言うことよりも、その老人の指示の通り私に歩くように促したのだ。
王子よりも力のある存在なのだろうか。
「必ず後で元の世界に連れて行きますから。
待っててください。」
ブロムはかなり焦った表情で私に向かって叫んだのだ。
それもそのはずである。
無理してきてもらった客人がいきなり拘束されたのだ。
私といえば、実はかなり冷静でいられたのだ。
このリオという少女があの薬で良くなるという事は、何者かが意図的に毒物の様な物を摂取させた可能性があるのだ。
そうなると、私のような者がここにいる事を面白く思わない人が必ずいるはずだと思ったのだ。
この偉そうな老人が関係しているかはわからないが、この城からすんなりと出ることが出来ないのではないかと思っていたのだ。
相手は王家の姫を陥れているくらいなのだから。
しかし、私にはブラックからもらったペンダントと精霊からもらった種があるのだ。
きっと何とかなると、相変わらず楽天的であった。
それよりも、あの少女を衰弱させた者や、その意図が気になったのだ。
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