第4話 病
大きな建物の前に降りると、先にクロルとアルがその中に入っていった。
そして、ブロムは私に一緒に中に入るように促したのだ。
「私を抱えて大変でしたよね。
重かったのにごめんなさい。
それに、自己紹介がまだでしたね。
私は舞と申します。」
「知ってますよ。
しばらく、あなたを見てましたから。
強い魔人のお友達もいるみたいですね。
あ、重くは無かったですよ。」
そう言うと、微笑んだのだ。
見られていたと思うと、何となく恥ずかしいのだ。
やはり、魔人や魔獣についても知っているようだった。
「実は会って欲しい人がいるのです。」
なるほど、私をここに呼んだ理由はそれなのだろう。
私が思った通り、ここはこの国の城のようなのだ。
建物の中は大理石のような綺麗な石で出来ていて、他の建物にくらべて豪華な作りになっていたのだ。
広い廊下を進み、一番奥まで行くとブロムがある部屋の前で止まった。
そこには同じく黒い翼を持つ衛兵が控えており、ブロムを見ると挨拶をし、ドアの横に移動したのだ。
ブロムがノックをして大きな扉を開けると、そこには一人の人物がベッドで横になっていたのだ。
近づくと、可愛らしい少女である事がわかった。
しかし顔色が悪くかなり痩せており、見るからに病人であったのだ。
今は静かに眠っているようなのだ。
「この方は?」
私がブロムに聞いてみると、とても悲しそうな顔をして彼女を見つめていたのだ。
「この子は私の妹なのです。
何代か前から王家に女子が産まれると、原因不明の病気にかかってしまい、年頃になると亡くなってしまうと言うのです。
どうにか病を治したくて、この世界と繋がっている異世界に行っていたのです。
実は先程の世界には、治癒を促す薬草があると言い伝えられておりました。
それを兄弟達と探しに行った時に、あなたを見かけたのですよ。
今まであの森には簡単には近づく事が出来なかったのですが、あの時は違ったもので。」
「近くにいたのですね。
気付きませんでした。
あの時は、森が大変な事になっていたので。」
「でも、長くはあの世界にはいられないのですよ。
半日もすると呼吸が苦しくなるのです。
私たちの身体には合わない環境のようで、よほどのことがない限り、我々の種族が行くことは無いのですよ。」
だから時間がないと言っていたり、飛んでいる時に苦しくなったのだと理解したのだ。
ブロムの話によると、魔人と違い黒翼人の寿命はそれほど長くなく、人間よりも少し長い150歳くらいとのことなのだ。
しかし、空を飛べるだけでなく、ある程度の魔法が使えるようなのだ。
本来、老化はあるが病気というものにはかかる種族では無いようで、自分自身の治癒能力が高いらしいのだ。
だからこそ、この妹の病状が特異的であり不吉とされているようなのだ。
治癒を促す薬草というのが少し気になった。
何かハナさんの薬が関係しているではと思ったが、あえて話すのをやめたのだ。
今はこの少女が、どうすれば良くなるかを考えたかった。
私は医者では無いし、ましてや黒翼人の特殊な病などわかるわけが無かった。
私が今持っている薬といえば、常備している市販薬。
そして誰かの命の危機の時に使用するための薬が一つなのだ。
先日アクアに使ってしまったので、また一つだけ作って持ってはいたのだ。
これを使うべきか迷ったが、症状を聞いて様子を見たかった。
話の流れから、ブロム達3兄弟はこの国の王家の人物である事がわかった。
そして、この少女も。
ブロムに彼女の症状を聞くと、初めは痺れが出てきて、そのうちめまい、吐き気、嘔吐、腹痛といった症状が出て、食事もあまり食べれなくなり、身体が衰弱してしまったと言うのだ。
何だかどこかで聞いたような症状なのだ。
私の世界では、特定の植物やキノコなどの毒による食中毒で見られる症状に似ていると思ったのだ。
しかし、食中毒の症状が長く持続するだろうか?
人間とは違い治癒能力が高いなら、たまたま摂取したものであればすぐに改善されると思われるのだ。
「確か、ある時期から女の子は早くして亡くなったと言ってましたよね?
それ以前は問題なかったのですよね?
その頃、何か変わったことなどあったのでしょうか?」
「関係があるか分かりませんが。
実は・・・この世界には私達黒翼人以外に白翼人という種族がいるのです。
今は停戦状態と言うか、国交がない状態です。」
ブロムの話によると以前は交流があったが、王家の娘が白翼人の国に嫁いだ後、白翼人達がこちらの国に侵攻し戦争になったそうなのだ。
その後戦いがしばらく続いたが、不可侵協定のようなものを取り決め、戦いがない状態ではあるのだという。
それから、王家の女子が亡くなるようになったのは確かのようだ。
もしかすると、戦争の時から何か呪いのような魔法がかけられているのだろうか。
そうであれば、もし回復の薬を使って元気にさせてもまた同じ症状に苦しむ事になるかもしれない。
ブラックや魔人達なら、そういう魔法がかかっているか分かるかもしれない。
原因が分かると一番いいのだが。
そういえば、森で使ったあの薬ならひとつだけわかる事があるかもしれない。
だが、今はその薬を持っていないのでどうしようもないのだが。
私は色々考えてみたが、今この状況で私が出来ることは無かったのだ。
ブロムに、そう伝えようと思った時である。
首からかけていた袋の中身が光ったのだ。
それは、森の精霊からもらった種が入った袋だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます