第396話  振り返るヴォルデモート卿


10月1日(風曜日)


晩の交換会話。


「ファーちゃん。もう10日目なんだけど?」


取り合えずは海賊狩りを休んでくれと言われたが、8日になっても9日になっても何も言ってこない。少し遅れてるのかな?と心に秘めて早10日。衛星都市マリンの海賊の選別と更生村移住が気になるのでとうとう聞いた。


「もっと休んで下さって結構です」

「海賊狩りは休みでも更生村で休めてないよ(笑)」


「お疲れなら気分転換に銀行を建てられては?」

「もっと疲れるわ!なんだ、あの数は!(笑)」


数日前に渡された各国に予定する銀行誘致の契約書が20cmの束だった。見た瞬間に目を背けて考えない様にしていた。


「銀行誘致会議の結晶です」

「港だけと思ってたのに!ひっくり返ったわ(笑)」


「(笑)」


「あの数を視て萎えてるの。明日も更生村やります」

「今や開拓と村作りが勝負の様相ですからね」


「勝負になってないよ!200キロも先じゃん(笑)」

「追い付かれるとは想定外です(笑)」


「追い付いてないっちゅーの!」


「お疲れのアル様を応援してるのです(笑)」

「アロアか!ムチで応援すんな!(笑)」


「まだマリンは忙しいの?」


「今は朝の6時から19時までに選別を終えたグループの移住を終わらせてます」


「19時から移住ってそれも人でなしの様な気がする」

(充分に人でなしだ)


「19時に移住しても当日はそれで終わりです。翌日から村や町の案内、支度金の支給、村役の振り分け、生活物資の搬入、耕作地の抽選などを済ませて約1週間後から農作業の講習を行っております」


「講習までワンクッション置いてるのね(笑)」


「男女比率や家族と子供の比率、職業経験による村構成にするには1万人単位の平均値で選別するので聞き取りと振り分けで対応が遅くなってしまいます」


「船大工とか料理人はやっぱ町勤務なの?(笑)」


「鍛冶師や大工と商店経験者と繁華街経験者は優先してサービス業に選別しております。五村一町の割合で息抜きを楽しめる町を配置してます」


「村民は町にお金使いに行く?」

「男衆は連れだって遊びに行ってます」


「それならいいや(笑)」


「足りぬ職業はメイド達が入ってます。靴屋や床屋や裁縫などの職人が人口割合で圧倒的に足りません」


「元々犯罪者ばかりで生産者が居なかったからなぁ」


「既製品はあるのですが、どうしても基礎技術の職人が居ないと既製品の直しも農機具の補修も出来無いので底上げにメイドと執事を入れてます」


「そんじゃ、呼ぶまで海賊狩りはいいのね?」

「海賊も増えてますのでまだ休んで下さい」


「増えてる? 海賊は動き出してる?」

海賊が増えています」


「それ捕まえてるじゃん!(笑)」

「他国から寄港する海賊もいました」

「まだ居たのかよ。大海賊時代か!」


「今、治安艦隊が12隻いますので大丈夫です」


「12隻?」

「はい」

「また出して来た?」

「・・・」


「何で増えてんのよ?なぜ黙る(笑)」


「実は出港した海賊を捕捉し、捕えるとオーランド王国の貴族家領主でした。魔動帆船に大砲も完備した海賊船で、国王が叙爵した大海賊でした」


「国王が叙爵した海賊?」


「アル様の知識にある私掠船しりゃくせんですね、そういった海賊です」


「あー!なんかそんなの居たけど貴族家が庇護する海賊だと思ってた。貴族家が丸ごと海賊だったんだ(笑)」


海賊を操ってたカラム王国をイメージしてたのだ。


「豪華な海賊船を鹵獲してショートジャンプで保管するよりも数を増やして効率的に運用しております。海に出た海賊は高空観測で捕捉し最短で殲滅しております」


「豪華なの4隻も捕まえたんだ?(笑)」

「はい」

「10日で当社比1.5倍?」

「はい(笑)」

「効率追い過ぎ!」


「効率重視なら残りの魔動補給船も出していいよ」


「とりあえず現地調達で間に合います」

「現地調達!(笑)」


「まぁ、被害が無いならいいよ」

「海上での被害は出ておりません」


「なんかもう・・・」

「なにか?」


「それで良い気もするけど、海賊を生み出す土壌も腐ってるから街も全部消すからね」


「かしこまりました」


「あの吹き溜まり(海域一帯の島々)はまだ20万人以上居ると思う・・・あーぁ!」


俺のイメージする悪人くくりでするとGPSプロットが埋め尽くされているのだ。殺人、詐欺師、泥棒、盗賊と検索要件を変えてもプロットに目に見える変化が無いと言う凄さ。


好意とか感謝で世の中を住み易くしたいと思う範疇を超越してる状況なんだよ。やってしまった俺の責任は分かるけど、朝から晩まで受け入れ施設の更生村をPTに頼み込んでまで作ってる俺の苦労も分かってくれ。


俺は聖人君子じゃない。文化祭の実行委員や最少催行人員でプールぐらいなら引き受けるさ。しかしなぁ、人間には本音と建て前と言うか、こうしたいと思う自分と実際には目を背ける自分という二面性だってあるだろ?・・・銀行が皆の為に役立つと分かっていても契約書を渡されて目を背ける俺だって同居してるのよ・・・。(弱気に沈むアル)


「なにかございましたか?」


「オーランド群島ってスッキリ消せない?」

「アル様、国主にあるまじき言動です(笑)」


「マリンの主砲で一発・・・」


「オーランド王国も消えます(笑)」

「あ!そうだった(笑)」


「群島が隠れ家だから秘密基地好きが集まるんよ」

「(笑)」


「群島消せば犯罪者は集まって来ないし・・・こんな可愛い僕を襲って来るどうしようもない奴らだよ。個人的にはあの元凶の島々を消したいよ・・・島が元凶じゃ無いけどさぁ(笑)」


分かってるさ。元凶はこの時代の食えないシステムだ。


「アル様の方が襲ってますよね?(笑)」


「それは暴論よ!襲って来たから襲ってるの。イヤ違う!ロトの守護天使が舞い降りてソドムとゴモラを天の火で焼くのよ」


「アル様!(笑)」


「マリンの一発なら天の火かなって(笑)」

「アル様を襲うと恐ろしい結末になります(笑)」


「恐ろしいのは僕の後ろに居るよ?」

「主砲がありますからね(笑)」


「焼いてもカナン神教国※に導くから(笑)」


※ロトの伯父が与えられた神の約束の地。


「アル様のお言葉に齟齬はございません」


「もうさぁ、あの海域は任せるから自由にやって。海賊被害が無いならいいや。マリンが平常に戻り次第に街を消しに行く。早くしないと悪人同士が食い合って人口が減る(笑)」


「かしこまりました(笑)」


・・・・


10月2日(火曜日)


タナウスまであと一週間と迫ったハーヴェスの褒章船6隻のうち時化で1隻の舵が損傷し最寄りの島に停泊して修理してるらしい。3日ほど遅れると乗り組むコアさんから連絡があった。


収穫祭の日程に直撃するので?と相談。


コアさん的にはハーヴェスの船長に高空観測の気象情報など伝えられる訳も無い。ただの低気圧だろうと航海し、予想以上に大きな嵐で損傷した。


褒章船には歓迎セレモニーを予定している。


6日以上ずれ込むがハーヴェスの6隻には収穫祭を避けて10月15日以降に入港してもらう事にした。ハーヴェスの船長はタナウスの位置を知らないから道案内のコアさんの口先一つでどうとでもなる。


・・・・


10月5日までPT五人で頑張って更生村を作ったが開拓地に追い付くどころかどんどん離されて行った。アレは絶対追い付かれまいと意地になって開拓(伐採)してるに違いない。それにしてもナノロボット軍団が24時間開拓するって恐ろしい。


・・・・


10月6日(土曜日)


収穫祭の街区分担作業の説明会の日。

クルムさんアルムさんシズク、スフィアは朝食食べたらファーちゃん連れて教会に行った。俺は見送りながらPTの居ない今日の予定を考える。


7時40分か・・・。


予定では今日の晩にでもダウドさんがメルデスに着く筈だ。ダウドさんを見たポッティさんの感想が聞きたい(笑) 


そんな興味はさておき、元々ハーヴェスの入港セレモニーから収穫祭までの予定は開けていた。八隻まで横付け出来る神都の岸壁に六隻も入港したら魔動クレーン二台で足りるのかと心配してたのよ。造船用の重機は大きいし吊り上げも大変な筈だからインベントリ要員で待機日程を取ってたのよ。


セレモニーから荷揚げ待機の10月8日から12日の五日が丸々空いた。


空いた五日なら、今日と明日を足せば一週間ある。そろそろ三外相に指定された他国の銀行を作りに行くのも良いなぁと思ってる。契約書では12月末までだが、実質銀行の内装とか現地執政官の講習を考えると二か月ぐらいしかない。目を背けるのも俺的に限界まで来ている(笑)


・・・・


各国の銀行誘致はコアさんと三人の外相で進められた。その進展が契約書に纏められ各国の国主や豪商、神教国の魔術証文まで揃った確かな物になっていた。


銀行誘致は当初、商国連合に利便性の高い大きな港(国際貿易港)だけの話だと俺は簡単に思っていた。しかし世界を股に掛ける豪商にとってはそんな小さな話では無かった。港に銀行は最初に国主か領主の了解がいるのだ。


豪商が国主。サントやワールスの様な国は早々無い。


実際に銀行を運用する執政官や政務官の銀行知識講習の件、建設用地の件、銀行使用料の件などは国や領主主導で行う事業である。ましてや国際貿易港のような税収利権に国が噛んでない訳が無いのだ。王国であれば王様、帝国であれば皇帝、公国ならば大公へ謁見を取り付け、無理なら宰相にでも届け出て銀行誘致に為政者を乗り気にさせなければならなかった。


この世の制海権を握る商国同盟の二巨頭、バーツ議長とランジェロ会頭が細心の注意で各国に進めた銀行誘致計画だった。何しろ国主が庇護しないと何も進まないのが銀行だからだ。


※サントとワールスの商国同盟に賛同する豪商達の集団を指して商国連合(商業国家連合)と言い今では星の表裏の豪商達を束ねる二巨頭である。


そもそもがに銀行と言う新商売を勧め、国の保有通貨を預かる話なのだ。預ける預けないは別にして銀行の業務と便利さを納得しないと国主がサインするわけがない。如何に二巨頭の仲介であっても、銀行誘致の契約を国対国で結ぶとはそれほど高難易度な交渉だったのだ。


実はサントもワールスも国を賭けて神教国の後ろ盾になるとの裏書を以てその契約は成った。


※裏書:第三者がその契約を担保する意味。損害を補填する借金の連帯保証人の様なもの。サントとワールスが神教国の連帯保証人になって銀行誘致契約は結ばれた。


そりゃ、土地を用意させて銀行を置き、使用料は国や領主の口座から天引く契約だから信用と裏書は絶対に必要だよな。


時間が掛かるとは三外相も言っていたが本当に時間が掛かったのだ。正確には銀行の運用法と運用国の打ち合わせをしたのは1月25日だ。今日が10月6日だから正味契約まで8か月以上掛かっている。


そんな契約に子供は要らない、オミソである。子供と卑下してしまうのはその用意周到な策謀と手順。利詰めで収益を弾き出して可視化し提示する老練な交渉術に比べたら俺なんて子供どころか赤ちゃんである。俺がスキルで視る事を、そんな物など不要と実現するのだ。出来上がった豪商と言うのは簡単だが中身が違う。


その姿になった人間の磨きの過程に平伏する他はない。アルは転生前にはただの大学生だった。当然、共存共栄を唱えた城下町の神様、松下幸之助と会った事・・・というか生きた時代すら違っているからスティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグに会った事もない。三外相を見るにつけアルは思うのだ。多分変わらない存在なのだろうと。


まぁ巨人の話はおいて、銀行の話だ。


一国に作る銀行の数は国によって15~30軒にも及ぶ。設置は王都、公爵領、侯爵領などの主要都市と大きな貿易港である。


オミソの俺は現場の兵隊で動くだけだ。


2168年12月30日までに銀行を導入する7国。


(契約国):相互通信機で魔石相場連絡する豪商


(サント海商国)  :海神かいしん

(ワールス共和国) :ショバンニ

(ハムナイ国:王政):探鉱たんこう

(モン王国)  :北王ほくおう

(ライナ王国) :白織しらおり 次期移民募集国

(オーサ公国) :丸武まるたけ 次期移民募集団

(コントス王国):玉帝ぎょくてい 次期移民募集国



予定地が確保された銀行だけなら12月までに楽勝だ。



各国に銀行を誘致するに当たってサルーテ銀行の設置時に試作した金庫室とは少し変わっている。サルーテ→ロスレーン→ミウム→マルテンと順に流通硬貨の規模が大きくなった事で一国に必要な大金庫の容積データが集まる様になった。世界の港では換金宝石や軍用魔石の預かりも増える為に金庫の構造も変わっている。


大山脈一個分に伸張した魔法大金庫大きな魔法袋にして神教国大倉庫に保管され、コアさん達が俺の認証で国に必要な硬貨を計量カウンターの付く国別小出し金庫に入れる仕組みだ。(小出し金庫の硬貨が少なくなると当該国の銀行執事が送迎門で跳んで魔法金庫から移す仕組み)



・・・・


各国の銀行建設は指定用地に夜陰に乗じて銀行を建ててメイド隊と執事隊を置いて来ようと思っている。すでに銀行建築のノウハウはミウムとマルテンで確立してるから心も軽い。


ワールス共和国、サント海商国、ハムナイ国、ライナ王国、モン王国、オーサ公国、コントス王国の銀行賛同国7国。


時間が許せば大陸間交易路を進めるシズン教国、シーズ教国、パリス教国、ミン国、ラウム教国、サンテ教国、テズ教国の7国に銀行を置き、その利便性を教国から発信して世に広めたい。


これは来年以降の大陸間交易路で食糧自給の厳しい国にハイブリッド種子を広める布石だ。隊商が銀行決済を利用するなら優秀な種子も一緒に口コミで広がって行くと思う。


話が逸れた。


実はモン王国の契約だけは即日に成っていた。アルはその時逃げて隠れていたが一緒に行ったワールスのランジェロ会頭から神教国の名を聞いた瞬間にモンの北王、ルーベンス・セシリ会長の鶴の一声で銀行設置と軍用魔石の相場情報の件は決まっていた。


決まってはいたが実質的な契約として銀行設立にはモン王国では無くセシリ子爵家が手数料を払う形のロスレーン型の銀行となっている。便利なら王家が自分の足で相談に来ると笑う肝の据わった爺さんは健在だ(笑)


魔石相場価格で協力する豪商からも商国連合のTOPとは別チャンネルで国に対して銀行誘致を促していた。これは高相場の国で魔石を換金するには銀行と取り扱う豪商が必要だからだ。


ライナの銀行は白織しらおりのストイ会長がライナ王に直接その有益性を説いた。王都並びに貨幣流通量の多い公爵領、侯爵領、伯爵領の大都市、大きな港街に銀行を置く事が王国の発展に繋がると説いて快諾を得ている。


当初にガイナック王国に(内部の政争で)拒否され、次点の候補国だった隣国オーサ公国にはバーツ会長が話を持ち込んだ。オーサ公国はバーツ会長の裏書を信じて7国中トップの37軒の契約になっている。


サントもワールスも銀行の有益性を知っている。最初に銀行を置く国を選定する目的は利便性のデモンストレーションと共に世に知られた大国が導入している銀行の誘致実績を世に示すためだ。


コントス王国は三外相に言わせれば、ガイナックかコントス。オーサかコントスと言う程に無くてはならない重要な交易中継港という理由だ。(俺は山向こうに砂漠しかない事しか知らないが(笑))


話を聞いた時点でコントス→オーサ→ワールス→モン→ハムナイ→サント→ライナと西と東の時差が大きい国から時差の少ない国に回ろうと順番を決めた。コントスとオーサは重要拠点の上に神教国から時差が大きく、俺が現地で逗留する教国が無いからだ(笑)


俺には豪商の思惑は分からないけど重要地域の国主の承認を得てくれただけでもありがたい。国費や領費で用地を確保した上で銀行使用料を払ってくれるのだ。俺ではそんな商談とてもじゃ無いが萎えて無理。


そんな訳でお茶を飲み干し、俺は冒険号に向かった。


コアさんが銀行のドワーフ内装を持ったメイド隊と執事隊を次々と生成して俺は次々とインベントリに吸わす。すでにミウムやマルテンの時にやっているが、今回は多い。その数たるや2000人、すでに軍団である(笑) 


コントス王国の契約16軒の銀行員として140人の執事とメイド隊を予定している。執事は銀行を襲う野郎がいた時にメイド隊が撃退するのもアレなので銀行支店長として勤務してもらう。



俺は準備が出来次第にコントス王国に跳んだ。


コントス 北緯16度、西経125度

https://www.pixiv.net/artworks/104869304


9時に跳ぶと時差-9時間でコントスは0時だ(笑)


コントス王国は16軒の銀行を1日で建て終わった。



・・・・


10月7日(光曜日)


コントス王国が終わった翌日。

次の契約のオーサ公国へ跳んだ。時差はコントスに似ているので朝の食事後に跳べば良い。


オーサ公国:タナウスとの時差は-8時間。


西側諸国 オーサ公国(西経109°緯度0°)

https://www.pixiv.net/artworks/104869304


タナウス8時>オーサ0時。


オーサ首都に指定された五カ所の銀行用地を追視で視る。アルが持つのは神教国とオーサ公国の契約書。現地で契約書を手に政務官が敷地面積を計るのがフラッシュで視えた。最低限必要な土地面積を見本に公園の一角に赤の杭が打ってある。


指定地で間違いない。


公園の一角。首都銀行は一カ所だけが馬車が双方向に出入りするサルーテ方式で窓口も多い大きなメイン銀行となる。残りの四つの首都銀行は馬車が一方向だけのロスレーン方式となる。サルーテ方式もロスレーン方式も首都銀行は全てサルーテ銀行の二倍の規模で上階アパートの面積も増えている。カウンター嬢のメイド部隊は七名と店長代わりの執事を一名出した。


入り口の前には街路灯を奢った。


銀行が出来るとカウンターレディーと執事が上階を居住施設に内装する。内装が終えると銀行説明会の開催日と完成の日付を入れた書類を執政官事務所にメイド部隊が持ち込んで開業となる。


俺は建てた後にはメイド隊に任せて公爵領に跳んだ。


・・・・


公爵領都の目抜き通りに銀行を建て終りメイド隊と執事を出していた。そんな中、間の悪い奴はいるもんで仕事帰りの強盗に行き会った。


オーサ公国のAM2時半、新月の暗闇である。


戦利品を持った強盗達十二名は通りに一人佇む人影に気が付いた。少し遠くてもそこだけ街路灯に照らされていたからだ。気付いてもそれは強盗団、すれ違いざまに殺っちまえと剣に手を掛けてアルに向かった。


向かった途端に強盗団は度肝を抜かれた。


街路灯に映し出される人影は何も無い所から音も無くシルエットの女を七人、男を一人出したのだ。


それどころか人影に対して女はスカートをチョイとやった。男はお辞儀をした。それは主従の礼であった。


途端に強盗は急ブレーキ! 深夜に闇の者(この世で言う死の使い)に会ってしまったと十二人はたたらを踏んだ。魔獣も穢れ(闇の者)も強盗も跋扈ばっこする世界、闇の世界では強盗が一番弱者だ。止まる者と逃げようとする者に分かれてワタワタしたが後の祭り。


背後を視てそれを理解したアルは変身してゆっくり振り向いた。


#「見~た~な~!」


くぁwせdrftgyふじこlp  ←言葉にならない。


それはヴォルデモート卿だった。


(闇の者のイメージを視たアルが一番に連想する闇の者が出た)


当然強盗団はそんな強烈なキャラを知らない。デスイーターを背後に背負い、灰色の顔に鼻の溶けた極悪顔を見た瞬間チビって完全に腰が抜けた。(と皆が思っているがアルが麻痺を付けている)


「お前らを良い国に連れて行ってやろう」


ニヤリとする凄い顔のヴォルデモート卿。強盗団の顔は恐怖に引きつった。


強盗団に老舗商会の内部情報を流した宿屋がいた。分け前を夢想する宿屋夫婦も一緒に良い国に連れて行った。連れて行っただけだ、それしか言ってない。


銀行は二軒で十六人を駐留させた。ついでに(宿屋夫婦の身内として執事とメイドが入り込み)宿屋を乗っ取った。この大陸にはハイブリッド種子を広げる足掛かりが無いから宿屋は炊き出しの拠点(商人を寄せて穀物を見本に見せる露店)に丁度良かった。


※この大陸の宗教国はサルマン教国


・・・・


余計な仕事をしても三十分もロスしない。粛々と大都市を回って、夜明けを迎えた頃には大きな港に向かった。


最後に港に行くのには訳がある。人気が圧倒的に少ないのが魔動商船の着く港だからだ。


魔動帆船が荷を積み下ろす大きな港はこの世では国際貿易港という規模だ。一般の野次馬も少なく目撃者は海を渡る船乗りが多い。港では魔法士が少々派手に魔法を使っても目立たないのだ。


約八時間でオーサ公国に十七軒の銀行が出来た。契約では最多の三十七軒もあるから朝の鍛錬も抜いて明日には終わらせたい。


オーサ公国8時>タナウス16時。


昨日と同じく夕飯が出来るまで更生村を作り、神教国基準の生活時間は守るので時差ボケは無い。




 

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