第365話  神速の昇進


8月19日(風曜日)


今日は待ちに待った7位冒険者講習の日。


申請書書いたら即日に7位冒険者と軽く考えていた俺。都会ではそういうギルドもあると言う話だ。田舎ギルドはそうとは限らない(笑) 


お陰で講習までの三日間は思ったよりも有意義に過ごせたと思う。この休みが無かったらクランの焼肉祭りやリナスのご成婚記念の花火も上がらなかった。休みが無ければ狩りをやろうとも思わなかったし、ベルの話も一週間ぐらい開けて聞きに行った筈だし、その流れで出たサントの旅行の話も無かったと思う。


そんな事を並列思考で考えながら(全員1位の五人PTが)7位の講習を受ける。俺たちは冒険者の恰好なんだけど、どう安く見ても5位の魔鉄だ。7位の冒険者には見られない。


初心者講習に来た他の五人は普通の服で講義を必死で聞いてんだもん。剣すらも持って無い、7位の冒険者に剣は必要ないからだ。俺達はポケーと気が入ってない時間つぶしで座ってる(笑)


その辺にいる街の子供が五人+異様な訳アリ五人がじる異質な講習だ。資料室に入って来た教官が俺のリルをガン見したからな。


いくら拙速の剣で武骨に過ぎたって、刀身は見えなくとも7位を受けに来た初心者が持つような剣じゃないと見抜くよ。だから教官も俺達PTに忖度して何も聞いて来ない。コアさんやニウさんの顔色見て教官が敬語だ(笑)


余りに変なので教官を視たらギルド長がと申し渡してあった。


階下のギルド長を視たら冒険者申請に来たのに落ち着き払って受け答えするやからだ、勝手知ったるギルド嬢との会話は熟練冒険者と同じと見当を付けていた。


そんなこんなでやっと12時に講習が終わって、講習の出口でもらったのがラジオ体操みたいな紙のスタンプカード。それが7位の冒険者証だ。7位は討伐依頼無いからタグも作って貰えない(笑) 


ギルド食堂で五人で昼食を取りながらやっと明日にニベを出られるねぇ、とみんなで笑う。シズクとスフィアが二度目のスタンプカードで嬉しそうなのが救いだ。コアさんとニウさんも情報として知っていても依頼自体をやった事が無い。皆がやりたそうなので、軽いのが有ればやろうかとお茶の時間もそこそこに五人でクエストボードを見に行った。


昼から依頼表取るなら、ノルマ達成系がセオリー。ゴブリンの耳や角うさぎの角と一緒の成果報酬を狙うって事ね。ノルマ達成報酬に時間拘束は無い。


俺がクエストボードの木の剪定せんていの依頼を提案したら全員がそれでいいと言う。指定の枝一本切ると大銅貨一枚。切って枝を払って薪ぐらいに小さくして辺りの掃除して依頼達成。


依頼票に付箋ふせんが貼られる曰く付きの依頼票だ。と大きな付箋が張ってある。依頼表をがして受けるタイプの仕事じゃ無いって事ね。



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『注意:現在適宜依頼より常時依頼に変わっています』


依頼票  


木の枝打ち、剪定せんてい 


報酬:大銅貨一枚/一本


中央公園東側、南側、西側外周に植わった木の枝打ちと剪定。道に張り出して通行に支障がある枝を落し処理する。


達成条件:指定木の枝打ち。完了後現認が必要。


期限:指定箇所の剪定を現認して完了。


依頼者、ニベ執政官事務所 調整担当


ニベギルド受付番号 No.02658

掲示日:2164年4月1日 

掲示期限:指定箇所が無くなるまでの適宜 


※アルの大陸年号に変換、現在2167年8月18日。


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なんと三年半前の依頼が貼ってある。


視たら三年半も放置されて、もはや枝打ちから枝の切り倒しにまで育って受けようとした冒険者が逃げ散っている。


執政官事務所に行くと担当者が俺達を救世主の様に崇めてくれる、本当にやるのか?本当だな?と話し掛けたニウさんに念押しが凄い。


視ると俺達を逃がさない!と燃えている。


この食い付きで疑念を持った冒険者は現地の指定の枝を見て驚いて一目散に逃げ散るんだよ。


現地の説明を受けた。

公園の外周にある木が伸びすぎて、騎馬や馬車に邪魔だとかの枝打ちレベルをはるかに超えている。枝の太さが20cmもある10mの茂った枝を切ったら落ちて来る生木の重量は200kgはあるんじゃなかろうか。


そんなの身体強化も無い7位の冒険者に無理過ぎる。安全に切るなら先端まで行って細切こまぎれにしなきゃダメ。何回切るんだって話だ。


公園から道を挟んだ家まで届いてる南側の木の枝は全部切って良いと言う。公園横の柵から内側に控えて剪定する依頼だぞ。10m近くも伸びてるって事だ。イヤイヤイヤ、これ一本切って大銅貨一枚は無いだろう!


「アル様。?」


聞こえよがしに俺に聞く。コアさんの考えは分かった。そういう事だな(笑) 俺がPTのリーダーだと子供がズイと前に出る。


「これ切って大銅貨一枚って・・・」

「ごもっとも!」


ごもっともじゃねーよ。笑えて悶えるわ(笑)


「ごもっともじゃ無いよ!何言ってんの(笑)」

「それに対しては特別手当を考慮して・・・」

「これ一本やったら幾らくれるの?」

「大銅貨三枚・・・」

「さようなら」きびすを返す。

「・・・では安いので五枚?」

「何僕に聞いてんの!(笑)」


「執政官さん、僕こんな格好だけど伯爵家の三男なのよ、これを見てよ」


認証指輪で身分証を見せる。


「は!失礼しました」背筋がピンとなる。


「事務所の内情は分るよ、伯爵家を出て7位の冒険者になったんだ。折角だから執政官事務所の仕事を助けようと受けたのよ」


「ありがとうございます」


「ぶっちゃけ、これ予算幾らでやろうとしてんの?この道沿い東も南も西も全部枝打ちの対象じゃん。三年半もよくも放置したね・・・違う!四年半前の夏以来やってないって事だ!足掛け五年だよ?分かってるの?」


「は、それは・・・街の恥になりますれば」

「あー!分かったよ、全部の予算は?」

「4月からの予算は・・・」


「イヤ、うちの領はそんな事する執政官いないよ。未執行残額はあの手この手で理由を付けて部署でプールしてるよね?」


子供がとんでもないこと言い出す。


「・・・」


「このPTは伯爵家が付けてくれた優秀な魔法士なのよ。折角受けた依頼表を縁にこの公園の枝打ちを終わらせる気は無い?」


「終わらせるとは?」

「三年半なら四年分の予算があるよね?」


「・・・」


「最初の夏以降の剪定の分を入れたら四年半分ぐらいの予算はあるんじゃないの?」


「それは・・・」


「どんな理由か知らないけど普通に枝打ちを執行してたらこうはならないのよ。執行出来なかった理由を聞いてもこの現状は無くならないよ?予算を使ってこの現状を収める気はないの?」


「・・・収められるのですか?」


「三年分の予算で丸く収めてやろうとは思うけど、他国の貴族の子供と侮るならこのまま帰る。領の執政官として叙爵か任命かは知らんけどさ、俸給を領からもらう以上は前向きに仕事してよ」


「それは、どの様な仕事をすれば?」


「四年分の予算といっても少額でしょ?たかが枝打ちだもの。但し、俺達は今日7位になったばかりのPTで一名で30件の依頼をこなしたいのよ。三年分の予算を150の依頼完了報酬に割り振ってくれたら全部綺麗に剪定せんていしてあげる。やる気ある?」


「やる気はありますが、意味が良く分かりません」


「何本あるか分からないけど全部切るから150の依頼書に分けろって言ってるの。300本あっても150本の依頼書と三年分の予算で切って上げる」


「それは・・・」


「簡単な事よ?150本の枝打ちを現認し完了証明を出せばいい。ただし3年分の予算を枝の太さで割り当てて適宜依頼の報酬額と辻褄つじつま合わせるのは事務所でやってね。そのまま金額を乗せると来年度から剪定せんてい依頼が苦しくなるよ。今からやって明日の朝にギルドに持って行けるように完了証を届けてくれる?何も不正はしてないし、予算を回して仕事を行うだけだよ。前例が無いと言う奴がこういう難題を放置し皆が困るんだからこれを解決しない?」


「・・・一年銀貨二十枚です。三年分六十枚で?」

「まぁ、予備費は勘弁してやるか(笑)」


執政官は下を向いて笑った。


※その仕事(銀貨二十枚の仕事)を完了するために掛かる間接費や管理費。ギルド手数料などもこれ、発注は執政官事務所なので役務費えきむひとも言うかもしれない。


「伯爵家の魔法士の技を現認してね(笑)」

「是非!」


「魔法を使います、これを飲んであちらで現認下さい」


冷えたグレープジュースを渡して公園の隅を示す。


俺達は交感会話で打ち合わせ。それをシズクとスフィアが読む。


「行きまーす」手を上げると執政官も手を上げる。


シズクが道沿いから3m控えた枝をエアカッターで切って行く。シズクの風魔法が遅いので丁度良いスピードでチョコンチョコンと太い枝が切れて行く。一緒に切れたり舞い散った枝葉をスフィアが風を操って公園の中央に集めて行く。一本が切れると枝の根元からシャドが保持して中央に置いて行く。置かれた枝をコアさんとニウさんが枝打ちして細い枝は焚き付け、太い枝は焚き木の大きさにしていく。


南向きの枝の成長が凄まじく、製材できそうな丸太の枝だ。金になりそうな奴は適当な大きさでニウさんに切ってもらった。


三時間後には昼でも暗い道が美しい道に変わった。


落ちて集められた山の様な葉っぱをコアさんがファイアで焼き尽くす。どうしても出ちゃう白煙をスフィアが高空へ飛ばす。シズクはファイアの炎に風を送って燃焼を加速する。


16時半を回った所で片付いた。


驚き切った執政官が笑顔で近付いてきた。


「焚き木や焚き付けに使えそうな枝はここに置いておきます。そっちの丸太は製材で売れますよね?」


「充分です!ありがとうございました」


「それでは銀貨六十枚の振り分けで五人分の完了証をお願いしますよ?」


「まだ16時半なので充分に間に合います、19時頃までに宿にお届けしますが宿はどちらにご滞在でしょうか?」


「それなら森のたき火亭にお願いします」

「分かりました、作成しますのでお待ちを」


常時依頼なので依頼票が無い事を言いスタンプカードを五枚見せて必要事項を確認してもらった。スタンプカードのマスは斜線が引かれ執政官のトマスン・リズムスというサインが入れられた。


・・・・


19時とは言わず18時に完了証が来たので確認してワロタ。執政官事務所の公用紙に30項目の枝打ちの完了証と免税の印と共にトマスンさんのサインと報酬額がバーンと入った完了証が五枚届いた。こんな立派な公文書の完了証初めて見た!


予備費の三年分を勘弁した分、免税にしてあった。執政官事務所らしいいきはからいにホント笑えた(笑)


夕食前に五人でギルドに提出に行ったらギルド嬢の目が点。今日の昼に7位になった五人が三十件×五の依頼を半日で終えて6位になるのだ。


気が付いた!

これがテンプレの力だ!それは?と言いながらも鼻高々の主人公の心を体現する・・・(チガイマス)


完了証を見せに行ったギルド嬢の後ろからギルド長にも声を掛けられた。


「お見それした(笑)」

「分かってる癖に(笑)」

「常時依頼を適宜依頼に変えてもらい感謝する」

「いいえ。7位のこれじゃぁねぇ?(笑)」


カウンターの紙を指す。


「タグと冒険者証を発行するので30分待ってくれ」

「五人共ジョブの刻印は要りません(笑)」

「なるほど(笑)」ギルド長がニヤリと笑う。


免税は分かるがギルド手数料も取られず、一人銀貨十二枚まるごともらえた!わーい。


※ギルドは今回の依頼に常時依頼発注者から手数料を取ってます。(冒険者に割りの良い仕事として早く達成させるため)


・・・・


森のたき火亭で夕食を取りながら明日の朝発つことを伝える。


「あれ、行っちゃうのかい?今日講習って言ってたから犬の旦那と一緒にこの街の依頼受けるのかと思ってたよ」


「僕たちは身分証が欲しかっただけなので」

「そうかい、それならしょうがないねぇ」


話してたら大将とエドモントとクロスが帰って来た。


「犬の旦那、お互い埃まみれだ、先に水浴びしな、食事に一杯付けてやるからな」


「お!すまねえな、クロス!先に水浴びるぞ」

「はい!お父さん」

「一旦部屋着に替えて服も洗っちまうか?」

「はーい」


「何だい?一緒だったのかい?」


「おう。お父ちゃん!水浴びするまで頼むわ」


「あいよー」厨房のお爺ちゃんが笑う。


言い捨てて大将が裏の井戸に消えた。


「何かあったの?」

「粉ひき小屋のわらのふき替えさ(笑)」

「あー!依頼が出てたのね?(笑)」


「そうだと思うよ、この街区で大体十年置きにやるんだよ。男衆は全員出るんだよ(笑)」


言いながら厨房を見る女将さん。


「俺は男じゃ無いからな!爺ぃだ(笑)」

「ああ言って行かないのもたまにいる(笑)」


ALL「(笑)」


・・・・


大将がザっと水浴びして帰って来た。獣人親子も入れ違いに井戸に向かった。


「どうだったんだい?上手く出来たかい?」

「おぉ!また十年は保つな」

「ご苦労さん!あんたも一杯やんなよ」

「あぁ、勝手にやるよ(笑)」


「やっぱ獣人てのは凄ぇなぁ!」


ツマミとエールのジョッキを持って近くの机に座った大将が言った。


「そんなに?」

「働く奴の二人分は使えるな」

「そんなに働くの?」


わらかたまり持ってヒョイヒョイ屋根の骨組みに上がって行くんだぞ、あんな真似は無理だ。坊主の方も大人より使えるぞ(笑)」


「クロスも持って上がれたの?」

「坊主は屋根の上を渡り歩いてしばる係だな」


「あぁ、身が軽いの?」

「軽いなんて!屋根の骨組み走るぞ」

「えー!」

「見てる方が怖いぜ(笑)」

「あはは!」


「お陰で俺は屋根でわらを並べる係だ(笑)」


「それで一杯奢るって言ってたの?」


「そうだよ。同じ報酬でやとった奴の倍働くんだぞ。この街区の者としてだな、気持ちは表さなきゃな(笑)」


「大将、男前!」

「うちの旦那は男前だろ?(笑)」


エドモントとクロスが入って来た。


「あ!来た!大活躍の藁葺わらぶき職人が!」

「あはは(笑)」

「なんだそりゃ?(笑)」


「服は干しといてあげるよ、食事にしな」

「女将さん、済まねぇな」

「大活躍したって聞いたからね!(笑)」



~~~~



「今日みたいにこいつが褒められるより、馬の依頼やってこいつが笑われて依頼を達成する方が俺は大事だと思うぜ。褒められると得意になっちまう、軽く見ちまう、稼いだ金まで軽くなる。臭くて汚い仕事で笑われて稼いだ金は軽く無いってもんだ(笑)」


「おぉ!犬の旦那!分かってんじゃねーか!そうでなくちゃいけねぇよ。おめぇは立派だ!それが正解だ!」


「まぁ、そうは言いながらもだな・・・7位の時しか受けられない仕事も経験させなきゃ・・・そうだろ?大将?」


「そん通りだ!おめえの言う通りよ、俺も息子にはそうやって当たった。間違っちゃいねぇ!そん通りだ!」


酔っ払いがうるさい。


クロスに明日発つとお別れを言った。


最後までタメ口だった子犬を忘れない。




次回 366話  ゴブリンの大繁殖

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