第346話  不可欠な物。


5月10日(光曜日)


ハーヴェス帝国の戦勝記念式典に出席した。戦勝とはハーヴェスの前に広がる海域で一年半にも及ぶ海賊被害に対して、去年の7月から始まった海賊討伐の戦いに終止符が打たれた報告だった。


カラムの民には何も知らされず王家の主導で海賊行為が行われていた事実。責任を取ったカラム王家は民を安堵する事を条件としてカラム王国をハーヴェス帝国に委譲した事が民に報告された。


戦勝報告とは凄まじい物で地鳴りのような歓声と歓喜が地響きの様に耳に聞こえる。歓喜の渦が収まると拡声魔法で次の報告と進んで行き、海賊被害を受けた国外の商人やハーヴェス国内の商会に見舞金と鹵獲船の配布が約束された。死んだ人は帰って来ないが、何もしてくれないよりも仇を討ってくれた国には感謝すると思う。(海賊に鹵獲されて生きてた人はアルが助けてます)


戦勝報告の後、ハーヴェス帝国は海賊討伐に共闘した同盟国(いつ同盟組んだ?)神教国タナウスに対して魔動帆船10隻を送り両国のよしみを結ぶことを宣言した。(国内の武官を差し置いて戦功一位よりも同盟的な共闘をうたった方が聞こえが良いとなったのだ)


勲功褒章で帝国戦功一位勲章がなんと宰相だった。

苦難の年を迎えたあの日から二年半。国の為に日夜励む事で(神託を呼び込み神教国を導いた)今日の戦勝報告のいしずえを築いた最大功労者とされた。帝国で宰相職にある者の高位軍功褒章は初めてだそうだ。(先日の勲功会議で俺とバスティーさんと陛下が宰相を推した)


宰相には領地が与えられた。宰相はそれこそ伯爵家の領主だったのだが、領地が加増された。領が大きくなったという事だ。


俺が貰う筈だった皇帝領から割譲される広大な伯爵領地を利用して帝国内の歪な領境を是正した。今回の功労の多寡によって加増や領地替えをした貴族は宰相を入れて五家にも及んだ。武官は男爵に男爵は子爵に昇爵した。従軍した武官は全て一号俸いちごうほうから二号俸にごうほうアップの序列昇爵となった。※号俸:号俸給といい俸給の基準となる序列段階。


そんな事はさておき、宰相の勲功を聞いて思った。俺が二年半前にハーヴェスに苦難を与えた張本人と知られたらよしみを結ぶどころか必ず戦争になると思った。


以後真相を知った奴には消えてもらう(笑)


俺自身は軍国主義な国とよしみを結ぶ気はなかったが、世界の先端科学や文化が集まる国と思えば、以前の様にコソコソお茶を買いに来なくて良いので、仲良くするのも悪くないと思う事にした。


・・・・


豪華な昼食を頂いた後、陛下よりマジックアイテムを下賜かししたいと呼ばれて宰相と宝物庫に連れて来てもらった。宝物庫の前には政務官が控えていた。


宰相は政務官が小脇に持った分厚いマジックアイテムの目録を受け取り、宝物庫内の資料を広げる大きな机で見せてくれた。


俺の興味が魔法道具と聞いても武官に魔法剣、魔法士に魔法杖と言う訳に行かず、神教国は魔法大国なので選んでもらう方法にしたという。リストの宝物には帝国の国宝も記載されているが関係なく選んで良いと言う。


テンションが上がった!


ダンジョン産以外のマジックアイテムで検索した。そんな魔法道具は、歴史ある国じゃ無いとなかなかお目に掛かれない。コアさんも知らないリルの拙速の剣の様にこの世界の人間、種族が作りだしたマジックアイテムがそれなりにあった。


中でも俺の興味を引いたのは以下の物だった。


・魚人のエラ(国宝):水中耐性(水圧)と呼吸。


・メタモルフォーゼの腕輪(国宝):変身魔術紋


・隠れ身のマント(国宝):透明魔術紋。


・セイレーンの声帯(国宝):全体魅了効果(大)


セイレーンの声帯を視たらアプカルルの涙なんて目じゃない。この喉に巻くベルトに魔力通してしゃべったら最後、耐性無ければ効果範囲内全魅了だ。怖いわ!マジ精神耐性は重要だわ。効果範囲に入った瞬間にやられる。セイレーンを討伐してゲットしたみたいだな。北の海にいるらしい、以後精神耐性は絶対外さない事を誓った。


目録見ながら検索で効果を確かめて行く。


陛下と宰相を視たら数あるマジックアイテムの中でも特にエリクサーは選ぶの止めてと思っていた。


国宝の中にあったのだ。


・エリクサー:万能薬。


俺の中では隠れ身のマント、メタモルフォーゼの腕輪どちらかの二択問題。も洋と和でやっぱ地球にはわれはあった。この世の人は魔法で作っちゃってた(笑) ファンタジーだよなぁ。


それは神教国が手に入れたら魔術紋を解析して量産が出来てしまうから二度美味しい。どうしても抗いがたい魅力に感じてしまう。


そして、怖いのがセイレーンの声帯だ。これを人間に持たせたらマジ危ないと思う。取り上げるか、俺が貰うかの二択だけど使いもしない物をもらいたくない。


折衷案を提案した。


「セイレーンの声帯だけは本当に危険なものとなります。奪われた途端に陛下以下ハーヴェスの全ての者が魅了されて好き放題にされてしまいます。これは人の持つ物ではありません。人に送ってもなりません。盗まれてもなりません。それはお判りでしょうか?」


「分かっております」


「代々続く皇帝の次男以下が帝位を狙わない事を誓えますか?この最先端の武装国家を陰謀で手に入れる世に危険な皇帝が生まれてしまいます」


「そ、それは・・・」顔が青ざめる。


「それが怖いのです、皇太子や陛下に待遇の恨みを持った時の弟が。そんな話は王族にまつわる話に幾らでもあります。その話の結末は決まって国の没落です。このアイテムは神教国でも高位の者しか防げない魔性の魅了を持っています。神教国に封印なさいませんか?神教国なら使われても教皇以下高位の者は魅了を防げますが、これは普通の国ではまず防げません」


「神教国を信じ奉納致します」


「はい。確実に封印して世の災いを断ちます」


「お願い致します」


宰相がセイレーンの声帯の入った装飾箱を宝物庫から持ちだして来た。陛下に渡して確認を取る。


「御子様、よろしくお願い致します」

「確かに、お預かりいたします」


視るとセイレーンの本物の声帯がベルトに加工されている。


「これで安心してご褒美ほうび強請ねだれます(笑)」


「何なりとどうぞ(笑)」


「決めました!」

「どれですかな?」

「これを!」


おれは目録の魔法道具を指差した。


「報告でお聞きと思いますが、北の海商王に帝国との調停役がこんな小さな子供!とあなどられました。こんな小さな子供の私にメタモルフォーゼの腕輪を下さい。国宝を欲しがってすみません」


「イエ、御子様の興味を引く物があって良かった」

「もう一つ下さい(笑)」

「え!もう一つです?」目が点。


目録の中のそのページを視て開く。


「これです、いざないのリングです」

「これですかな?三級の宝物でよろしいので?」


「はい!変身しても子供の声でバレますのでコレがないとダメなんです(笑)」


「(笑)」


いざないのリング:魔力を込めると聞く者がイメージする声に聞こえる。あなたの母よと話しかけると母が居なくても母の声に聞こえる。霧の中で話しかけ、闇の者が己の世界に誘い込む為の声帯リング。セイレーンの声帯とセット。このリングでセイレーンの兵隊が女王の魅了範囲に船を誘い込む。セイレーンの声帯を視た時に一緒にフラッシュで知ったリングだ。


「セイレーンの声帯とセットで誘い込まれるのは?」

「分かっております、北海討伐史に残っております」


「変身とリングで老人なら老人の声に聞こえると思います」


「そうでしょうな(笑)」


「御子様どうぞお持ちください(笑)」

「そうですな!リングも必要ですな(笑)」


「ありがとうございます(笑)」


「陛下、私も陛下に差し上げたい物があります」

「何でしょうかな?」

「貴重な薬で私も二つしか持たされておりません」


「?」


「これを差し上げます」


錬金薬のアンプル瓶を二つ出して見せる。


「これは?」


「これは神教国に伝わるエリクサーです。死なない限り欠損も再生する万能薬です。目録では帝国に1本しかない国宝の様子。陛下のお気持ちへのお礼に置いて行きます」


「・・・なんと!・・・」

「・・・」


帝国の国宝を2本も携帯してる事に宰相も目が点だ。


陛下の手を取って握らせる。


「陛下は今回の事件で神のことわりに触れて、神に対する認識がお変わりになりましたね?戦力を保有したまま兵を損耗させず自重する事も大切な事を知ったはずです。周辺諸国の先頭に立ち、歯を食いしばり苦しい血を流しても断行した海賊討伐は結果、カラム王国と言う大きな実に変わったのです。それは神の御導きだと思いますよ。(※武装商船用の大砲買い付けから始まり一年弱に渡る今までの海賊討伐の軍費は眩暈めまいがするほど凄まじい額)


今回の件でカラムの民はハーヴェスの徳をたたえ、国に喜んで税を納める愛すべきハーヴェスの民になったのです。以後も民を愛し守らねばなりませんよ?陛下はこれからも国を導く為にご自愛ください」


「御子様、ありがたく頂戴いたします」


またクルムさんを拝み倒さねば・・・。



「まずはこちらから、国宝になります」


宰相が15cm四方の箱を開けてメタモルフォーゼの腕輪を見せてくれた。ジックリとソレを視て行く。8mm程の平織りのミスリルで全周が装飾様に多重魔術紋で織り成された腕輪だった。


「それとこれですな?」


いざないのリングの小箱を見せてくれた。


「この二品でよろしいですな?」

「はい、これでお願いします」


「神教国に感謝を込めて帝国から贈ろう」


宰相から受け取り陛下が差し出してくれた。


「帝国の国宝を頂戴いたします」


うやうやしく両手で陛下から受け取った。


・・・・


午後二時からの戦勝凱旋パレードは山車だしが出ていた。電飾の無いエレクトリカルパレードだ。(それはエレクトリカルパレードじゃない)


先頭に煌びやかな帝国の紋章が付いた山車だし。軍船や大砲や王城、馬や貴族馬車の張りぼてが付いた山車だし。全てが騎馬に牽かれて山車だしには騎士団や海軍将校(海軍政務武官)が乗って手を振っている。パレードの脇に10m間隔で騎馬の騎士団が護衛に付いている。


山車の中央のオープン台車に演奏隊、続く馬車に陛下夫妻と俺とコアさん、軍功の序列で馬車が続く。紙吹雪が帝都に舞い音楽を奏でながらパレードは進んだ。


おれはパレード出席は二度目だが、俺でもウキウキするパレードで嬉しかった。横に座るコアさんがグーグルマップカーの様に観測していた。


パレードが終わった後の陛下主催のパーティーに出席し、神教国から来た一行(コアさんはじめ最後まで残っていた審議官六名)を連れて提督以下の海軍将校、宮廷騎士団の関係者の所へお礼に回った。


何故お礼を言って回るのか。


正直に言う。

俺の一月時点の気持ちは助けてくれだった。


ネロ様のお話の通り、俺は安易にカラムとハーヴェスの戦争で生まれる難民たちを効率よく助けて神教国に安住の地を約束するつもりだった。


蓋を開けたらとんでもない陰謀だった。まともに放置すれば泥沼の遺恨を残す世紀の大戦争に発展する状態だった。


俺は何カ国相手にすんだよ! その一言。


回避するには当事者のハーヴェスの協力が必要だった。国対国の一対一ならハーヴェスには必勝の力がある。一対一の交渉はハーヴェスに任せて、俺が一対一になるお膳立てに走るなら泥沼は回避可能と思った。


俺は着地点に向かうために助けて欲しかったのだ。窮鳥きゅうちょう懐に入れば猟師も殺さず。そんなつもりで帝国に身を投げた。


本音で言えばマジで関わり合いたくない帝国だった。俺が二年半前に行った大事件だ、(後悔は全くしていない)正直 顔も出したくなかった。しかし俺が考えるモアベターな作戦は神教国と帝国が連携する事が一番の効果を産むと割り切って接触したのが最初だった。


陛下の前で作戦参謀のNo1政務武官に今回の陰謀によりハーヴェスが滅びる事を断言させるまでがミッションだった。最悪陛下を隷属してそこまで持って行く作戦だった。(隷属だけすればゲッシュで声さえ聞かせたら好きなように言う事を聞く、言わなければ本人の意思で動くから問題はない)


国を動かすTOPとの連携が不可欠だったのだ。


あなたの国が滅びますと告げに来て、私が助けてあげますと言う者を誰が信用するのか。詐欺師の常套手段である(笑) ここに書けば物事は軽くなり上手く行ったの過去形で終わりだが、俺にして見たらやる前には不可能と思えるほど困難な問題だったのだ。


困った俺がハーヴェスに乗り込み説得して理解してもらい味方になって貰う事。それはまさしく窮鳥きゅうちょう懐に入れば猟師も殺さずを地で行く道のりだった。


着地点に辿りついたから言えるだけだ。

分岐は山ほどあったのだ。


だから俺は俺を信用してくれた人に感謝を捧げた。礼を言って回った。そのほとんどの人は俺を、神教国を一緒に戦った戦友と思って感謝を受けてくれた。


俺は帰ってうちの三賢者に胸の内を伝えるつもりだ。陰謀を語って義憤に燃えて教国関係を跳び回って手伝ってくれた賢者には一人ではどうしようもなかった事を正直に伝える。どうしようもない複雑にもつれた糸をほぐすには仲間が必要なのだ。



・・・・


戦勝祝賀パーティーの翌日、S.Aの仕事から帰ると三賢者とPTに事の仔細を最後まで語った。外敵に当たると言いながら俺自らがトラブルを呼んでる気もするが今一度建国前に胸の内を聞いて貰った。皆が神妙に聞いてくれた。


最後にハーヴェスからもらった宝物の話をした。


やはり三賢者はセイレーンの声帯の危険性を指摘したが複製は無理なので封印で正解と言った。いざないのリングも同じく複製無理、興味無さそうだった。


最後の話が全ての話題をさらった。


メタモルフォーゼの腕輪の魔術紋をジェシカさんに再現してもらったのだ。食い入るように見つめる俺と導師とアルノール卿の三人。


途端にアルムハウスで大論争になった、再現した腕輪を誰がどこまでの範囲で使用を許されるのか。


大論争中にハーヴェス国宝の変身腕輪を手に入れるのにエリクサーを二本使った事をクルムさんに伝えると二つ返事で許された。何!その軽さ。ハーヴェスの国宝だぞ!


三賢者とアルム、クルム、俺。

外敵に当たるには変身能力は不可欠で、教会部の人間は持たないとダメだという結論になった。教会部の者は悪用しないと俺が太鼓判を押した事から個々の判断でに落ち着いた。


まぁ、その線で俺も納得した。元々が皆にこれからも手伝ってね?と言う話だったからだ。


翌日には全員分出来ていた。


渡された物は見事なコピー品だった。平打ちのミスリルに紋が刻まれていた。見た目が明らかに若くなったアルノール卿と導師から皆に配られた。二人の薄い頭が蘇っていた。アルシンドになっちゃうよ!どころか、なっていたのに。


配られた翌日、アンチエイジングされた美魔女のジェシカさんが応接で何食わぬ顔で座っていた、誰も何も言わない。


俺もそういう事は口にしない。


口にはしないが、体内循環魔力量を伸ばすと寿命が延びて見た目が若返るという(本当の事だが)手前勝手な論文を執筆しだし、自身の頭を肯定しようとするアルノール卿にやんわりと釘を刺しただけだ。


触れないのは愛だ。


アルムさんは大喜びでオークの姿でオークに突っ込んだ。


二人はエルフ族から人族に変身した。普段編み込みで隠してた耳をさらすようになった。人族だからと二人とも谷間を見せ付ける様に胸を大きくした。それを見たシズクが身長と共に胸を少し盛った。スフィアを視てと言ったらシズクに合わせて少し成長した。



何が外敵に当たるには変身能力は不可欠だ!



コンプレックスを隠すには変身能力は不可欠だった。




次回 347話  大人の露出狂誕生

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               思預しよ

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