第341話  侯爵のサルーテ訪問



4月12日(光曜日)


今日はリナス(37)の結婚式だ。10時からメルデスの教会でレイニー(46)と結婚する。クランの事務員と教官の結婚なので俺の代理でイコアさんが出席する。結婚式後に母親のラーナが以前勤めていた食堂でパーティーをやるそうなので祝杯分の大壺を出しておいた。


俺はハムナイで移民希望者の面接だった。


ハムナイ国での移民面接はすごかった。2000人集まっていた。技術系の移民を欲しいと募集したら精密加工、鉱物学者、造形、音楽、学校の教師など学識高い人の応募が多かった。戦争が10年続く国、ハムナイVSアドワに巻き込まれた人たちだった。元々の宝石系を始めとして鉱物資源が豊富で宝飾関係の彫金技師も多かった。


宝石を磨く技術が高く、ガラスの硬度など物ともしない技術者がレンズを作れたりする。面談で自分の技術を示す物を提出する者にメガネや望遠鏡を提出する家族が多かった。


技術を示す物を提出するとか面談の要項にあった訳ではない。ハムナイ国は、物事を上手く回すために付け届けを行う習慣があった(笑) 日本と同じだ、と言うかどこの国もそうか? ラムール会長曰く、礼を言い受け取るのがマナーなのでメイド達に伝えておいた。


家長は手続きの最後、書類にサインしてお菓子と菓子パンの入った袋を人数分貰って冷えたジュースを飲んで帰る。子供がお菓子の入った袋を俺に振ってバイバイしてくれる。


ラムール会長もこれ程集まるとは考えていなかった様で、多くの若者が義憤に燃えて出征し戦争に参加している中、反戦とは言わないが戦争を鼓舞する国にウンザリしてる家族も一定数いるみたいだ。


今回の移民面接に来た人たちは元々親の代や祖父の代にハムナイに移り住んだ周辺国の人達で生粋のハムナイ人は戦争に行って少なかった。アドワ、エスジウ、ダイロンからハムナイに移って来た人だ。


ハムナイとアドワは鉱床を巡っての対立から戦争になっていた。特に両国はコランダムの原産地だ、コランダムは硬度10のダイヤモンドの次に固い鉱石で貴石と言われる。赤ければルビー、青ければサファイアとなる。


ハムナイはルビー、エメラルド。

アドワはサファイアで有名。


以前アルがアドワの鉱山からサファイアの原石をパクって来た。あの時アドワと揉めてた(アルが種をまいた)ダイロンにその領で産出する最大級のサファイア原石を持って行った。ハムナイはアドワとダイロンに国境を接する大きな国でこの三国はかなり大きい。モンスターの多い山岳地帯や未開の密林地帯が多くコルアーノの2倍近くあるのだ。


昔の国境の決め方が、その土地に住んでいる部族長がハムナイに所属すると宣言すると部族の住む土地がハムナイに。ダイロンと宣言するとダイロンに、アドワに所属と宣言するとアドワになった経緯がある。3国とも国に属さぬ空白地帯の部族長を篭絡ろうらくして国土を広げた。


3国が元々持っていた鉱山以外に山岳地帯や密林の豊富な鉱物資源に気が付いて空白地帯の部族長勧誘戦争があった。


当時の土地を治める部族はマジ未開の部族。例えるなら(改題:コイサンマン)だ。


※空から降って来たコーラのびんを初めて見たアフリカ原住民ブッシュマンは神からの贈り物と思い、光り輝くガラスのビンに恐れおののき怖がりながらも触る。その内に水が溜められることを知る。ビン口に息を吹きかけると笛になる。なめし皮を作るのに丁度良い曲線。神器を巡って一族の争いが始まり、心を痛めたブッシュマンは地平の彼方、神のいる世界の果てに神器を返上に行く。そんな感じの原住民。一説には指輪物語ロード・オブ・ザ・リングの原作とも言われる(注:言われてません)


密林の山間の部族には死兵を操る呪術師の部族がいたり、吹き矢、モンスターの毒針、テリトリーに入り込んだ人間の持っていた武器で武装する未開の引き籠もりがたくさんいた。ウガー!と襲って来るモンスターよりタチが悪い密林の忍者で山に入ったランボーと戦う様なもんだ、まともに戦えない。なのでハムナイ、ダイロン、アドワは国に属さぬ空白地帯を埋める族長を自国の美しい宝石で釣った(笑)


アルも武器を売りに行ったアドワとハムナイの前線基地はどこも密林地帯だ。そこを治める部族の保有する土地や山(未開)が、国境を接する部族に侵犯され鉱物の試掘をされ紛争が起こり、試掘で幾ら盗んだと鉱物資源の賠償で部族間が揉めて両国の戦争にまで発展している。


脱線した。


1か月後、6隻の移民船が直通でタナウスまでやってくる。移民船が出るまで2000人の面倒を見る移民センターの従業員は30人を常駐させた。


昼食時にラムール会長に移民面接の日にランジェロさんとバーツさんが家を建てた話をすると根掘り葉掘り聞かれて家を見たいと言うので連れてった。


家を建てても転移装置でハムナイに帰れる事と相互通信機を貸すので何時でも息子さん(副会長:ジスクさん)と連絡を取れるようにする事を教えた。タナウスからは仕事上の連絡は取らないと言うので視たらラムール会長はハムナイの利権全てを息子さんに引き継いでからタナウスに来るつもりだった。凄い人だった、昔の仲間を呼び寄せてタナウスで一から作り上げるつもりだ。


家の敷地がどの位なのか、宮殿まで馬車でどのぐらいなのか、港までの距離を調べて帰った。


その日に移民に来る家族の職業、家族構成、街希望、村希望が出揃った。総勢2000人。30万都市を目指して作った神都だが、街に必要とされる職人にはまだまだ足りない。


来週にはワールスからの移民船が2隻出港する。忙しい中でも取り合えず移民の職種にあった家、店、工房、建物を用意する事に走り回った。


忙しい中とは、テズ教国圏、サンテ教国圏は基本内陸の農政国なのでハイブリッド種子を配布する為の布石の部署を作っている所なのだ。山岳地帯も多く険しい道もあるので大陸交易路構想の転移ターミナルは海に比較的近い平地のラウム教国に計画している。


・・・・


4月16日。


テズ教国に顔を出し過ぎてすでにテズ教の御子様になっている状態だ。たまに現地で予定する交易路の視察とかはあるが、最近は建設用地やインフラの相談もだいぶ余裕が出来て運営の基本指針を決めるようになってきた。


そんな時に相互通信機から初めてミウム伯の呼び出しがあった。忘れていたがメルデスの学校の話だった。応接へ跳んで来いと言う。


「バトール、聞いておったの?応接に茶を頼む(笑)」

「かしこまりました」


テズ教国12時>ミウム8時。


通信を止めて跳ぶと大叔父が応接に入って来るところだった。


「大叔父様、お久しぶりです」

「ホントに早いな!(笑)」

「学校の件とか?」

「学校の資金は領が出すぞ。政務官も大賛成じゃ」

「え?よいのです?」


「よい、うちが武力に金を使わなくなったら、世に金が回らなくなる。学校は将来の領民への投資だ、平和な世になった事を思えば武(武力)から文(内政)への投資なら安いもんじゃ(笑)」


「あ!お爺様もサルーテの人員不足にミウム領が協力してくれると喜んでおりました。ありがとうございます」


「おぉ、若手の武官や文官、独身で夢のある奴はすでに希望しておるぞ。あとな、儂の領の忠臣じゃがオード子爵の三男とお主の兄が貴族院で同期でな、弟の領地の代官で来てくれないかと手紙をもらっておったらしい。王都でアランから聞いたぞ(笑)」


「え!都督!」領都の代官は都督と呼ばれる。その国、その領地一番の政務官と言う事だ。


「お兄様と同期って第三騎士団の武官なのです?」

「おぉ、そうだ。武官だ(笑)」

「武官の代官って領主以外で初めて聞きました」

「駐屯地で鍛錬させるに勿体ないのもおる」


「あー!そういう人ですか。お父様が言ったならもう決定です?」


「いつからかは聞いておらんが来年あたりか?」


「へー!進んでますねぇ(笑)」


「子爵家直系でサルーテ領主となる次男と齢もさして変わらず伯爵家のグレンツの同期じゃ。同郷のミウムの武官も文官も文句なく従うじゃろうな、グレンツも食えん奴じゃぞ(笑)」


「(笑)」


「話が逸れた、学校の施設は領が出すが良いか?」

「建てると遅いので持って来ようかと思ってました」

「持って来れるのか!」

「このお屋敷でもすぐに(笑)」


「なんと、そこまでとは。演習場の宿舎の位置が変だと思ったが、他の領の視察で混同しておると思っておった。あれは変えたのじゃな?」


「そうです(笑) 取り合えずメルデスの敷地と人員は分かっているので第三演習場に学校は置いておきます。各地の学校用地は選定次第に子供の数と一緒に教えてもらったら置いて行きますね」


「そこまで簡単ならサルーテには何で持っていかん?すぐじゃろ(笑)」


「それをやると民にお金が回りません、普請は街路灯で集めたお金を領主の方々に還元する手段です」


「ふむ、それで国中が好景気じゃ。良い事じゃ」


「あ!それなら学校の資金は大叔父様に持ってもらうとして、その資金以上の収入となる新たな産業と言いますかサービスエリアと言う物が王都に出来ました。ロスレーン領やサルーテにある奴です」


「それが、説明は受けたが使ってないのじゃ」

「使った方が早いですね、行きますか?」


「お!良いのか!大魔法じゃの?」


「バトール!出かけるぞ、昼も要らんと伝えてこい」


「は!」


メイドを呼んで辺境伯のお出かけ装束に着替えようとするので、お忍びですと平服帯剣にしてもらった。帰ってきたバトールさんはそのまま執事服だ。


三人でサルーテ集合住宅の屋上に跳んだ。


「ここは?」

「サルーテに確保した私の家ですね」

銀行の屋上からサルーテを見てもらう。


「これは、まだまだ掛かるな(笑)」

「普通の街まで5年は掛かると思います(笑)」

「空き地のアレがS.Aです。見に行きましょう」


~~~


三人分の鑑札を買いS.Aに入った。


「説明は受けたが使うのは初めてぞ(笑)」


大叔父がご機嫌で言いながら小便器に向かってする。三人並んでおしっこする貴族の側には誰も来ない。


お爺様と同じく普段は気軽に外を出歩ける大叔父では無いので、孫になったつもりで大叔父を引っ張り回して建築現場を色々見せた。


最初に目を引く子供、ロスレーン家の三男アル様に気が付いて、お!視察かな?と思った後にミウム辺境伯に気が付くとショックで腰が砕けるらしい。


ミウムの執政官は目を点にしてひれ伏した。いきなり現場に来た国会議員みたいなもんだ、現場の地方公務員は聞いてないよと涙目の図(笑) 辺境伯はご機嫌で武官らしく執政官の肩を叩いて激励してる。


皆励んでおるな!ヨッシャヨッシャ!的な激励で執政官がビビりまくるのも気にしない。


サルーテの外にある流民サービスセンターに顔を出すとユッコが貴族風の服を着て爪を研いでいた。痩せた体に綺麗に揃えた鼻ヒゲとあごヒゲ、首にネッカチーフを巻いている。マジ田舎の男爵風だ(笑)


アルが顔を見せると顔が引きつった。


「ユッコ、見せてもらうよ」

「はい!アル様」背筋が伸びてその場で直立する。


「メルデスから連れてきた北街の元締めユッコです」


「おう、メルデスか!励めよ!」

「は!はい!」

「僕の大叔父様のミウム辺境伯だよ」

「は?・・・ははー!」ひれ伏した。

「よいよい、忍びじゃ。見せてもらうぞ(笑)」

「ははー!」


ユッコは僕とアルを初めて見た。


・・・・


流民サービスの視察後、横にある貴族邸でお茶をした。まだ11時前だ。


如何いかがです?S.A」

「よいな、民が喜ぶな」

「建てます?試算は言った通り・・・」

「一つ問題がある」

「え?」


「大魔法でマルテン侯爵の所に参ろう。ここに連れて参り侯爵領から話を付けねばならぬ。銀行も見せねばな、王家の次に作るには街路灯と違い大掛かり過ぎじゃ。派閥の長が知らぬでは中立派の名折れとなる」


「あー、すみません」

「よいわ、話の流れとしてじゃ」


「早速行きますか?」

「そうするか」

お茶も早々にマルテン侯爵領に跳んだ。


侯爵邸の門番は以前、先触れも無く馬で乗り付けたロスレーン家のアルを覚えていたがミウム伯が紋章指輪を見せると固まった。普通大貴族は先触れも護衛も無く平服に徒歩で来ない(笑)


報告を聞いたマルテン侯爵も驚いて玄関先まで迎えに出た。普通そんな事は絶対しない。待たせた応接に出向く側だ。


マルテン侯爵はすでにナレスからの密書を受け取っていた。ロスレーン家の廃嫡の三男は数奇な運命で聖教国の皇太子になっている事を婚約後に最重要機密で知ったのだ。


そしてリズの婚約を阻むコルアーノ王家や公爵家、侯爵家の子女が出てきた場合はマルテン侯爵家だけではなく、ナレスの侯爵、公爵、王家の三男も見合いに出す作戦で縁談を壊すという密書だ。(この世は他国に望まれて嫁に行く事は身分やステータスの象徴で大いに貴族の株を上げる)


ミウム辺境伯と密書のその子、アルが一緒だった。

元々リズをミウム領に逃がしたのはマルテン侯爵だが、そのせいでナレス現王家と秘密を共有する密接な繋がりも出来、中立派のラインも盤石になり上機嫌の侯爵だった。


アルは二人が同じ中立派で貴族院の同期とは聞いていたが、侯爵が余りに辺境伯とで話し、上機嫌なので視て色々な事を初めて知った。


話が切れた頃、アルが初めて話に入った。


「大叔父様、侯爵様は秘密をナレス王家から聞いております。聖教国の大魔法の件も」


「お!そうなのか?」

「ナレスの義父おとう様から私の味方だと」

「お!知っておったか、話が早い(笑)」

「色々と陰で守って下さりありがとうございます」

「まだ守ってはおらんがな、情報は得ておる」


・・・・


PTにマルテン侯爵と執事長のゴアさんが加わった。

ナレス名、セフェリ・ド・アルタミラ・デ・ナレス


ナレスのアルタミラ公爵家のセフェリ。240年ほど前のナレス公爵家三男の子孫。薄くはあるがナレス王が何人も死ぬとナレス王になる権利を持っていた。



サルーテの午後。


マルテン侯爵領の執政官がひれ伏した。


二人にはサルーテの建築ラッシュを視察の後、街に作った事例を見てもらう為に、王都のS,Aと騎士団詰所のセットなど色々な形の省スペースな運営を見てもらった。




次回 342話  判例討論研究会

------------------


この物語を読みに来てくれてありがとうございます。


読者様にお願い致します。


応援ポチ。☆も頂けたら嬉しいです。


ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。


一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。


               思預しよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る