第232話  聞いてないよ



動植物の楽園。

そういう名の弱肉強食の土地が有った。


そこでは知性ある魔獣がコロニーを作って繁殖し、生ある命を謳歌おうかしていた。強い者が奪い繁栄するこの星を象徴する豊かな土地だった。


そんな場所に絶対の強者が現れた。


突如とつじょ現れて大森林を切り倒し、更地にした人間。それを見た魔獣たちはあらがった。しかし半年もすると悪魔の所業しょぎょうの人間を心底恐れていた。


生きる場所の陣地取りとも言える生存競争。タナウス島の大森林に生息していた動物、魔獣にとって大問題が発生した。


狸、キツネ、熊を始めスライム、ゴブリン、ノーム、ウルフ、オーク、オーガ、トロール、ギガース、大ムカデ、双頭蛇、大熊、剣虎など無数の魔獣を子供扱いする者が侵攻して来たのだ。


その名をナノロボットと言う。


そのまま人間の執事とメイドの恰好かっこうをして大森林を蹂躙じゅうりんする。大森林の木を引っこ抜いて更地さらちにして行く、まさしく大森林を蹂躙じゅうりんしていた。魔獣たちも噛もうが爪の一撃だろうが酸の毒だろうが臭い肛門腺の噴出液さえ気にもしない強者だ。


最初は種族の部落を壊しに来たのであらがった。強い個体が闘いを挑んだ。しかし、子供扱いされてしまう。人間の衣服にすら傷一つ付かない。つかまれてビンタされて投げられる。蹴り飛ばされてあっちに行けと開拓地から奥の大森林に向かってペイと放りだされる。


その扱いは大森林の嫌われ者も一緒だった。そのテリトリーには何人なんぴとたりとも入れないでさえぶっ飛ばされて行く。


>痛い目に遭わせて追い払って。


主人の言葉。指令を忠実に実行するコア、ニウ、ナノ、アクアと3万体の戦闘メイド。忠実であるがゆえに魔獣を殺さなければ何をやっても良かった。指令はだ。



何をやっても殺さなければオールOK!

戦闘メイド達は全力スマイルで走り出した。


アルの思考論理から夢の技が魔獣達に繰り出されたのだ。ジャーマンスープレックス。パイルドライバー、掴み投げ、ホワイトファング、筋肉バスターならまだ良かった。夢のタッグ技:マッスルドッキング、ペガサス流星拳やラッコちゃんインパクト、ギャラクティカマグナムという夢の必殺技をメイドが操り、成す術もなくぶっ飛ばされる魔獣たち。


アルが読んだ漫画で描写されたシーンをそのまま再現していく戦闘メイド。諦めの悪いオーガの長は徹底的にやられた。お手玉された。落ちて来るとビンタされてまたお手玉される。


ジェルは山の様に大きなトロールの長を顔だけ出したモジモジくんの様におおいい尽くし、トロールの長自らが大泣きしながら村を叩き潰すという鬼畜の所業を行い。トロール種族の心を折った。


イタチ魔獣など肛門腺の分泌液を山ほど掛けても意味など無く、不用意につかまれた尻尾も千切れよという渾身こんしんのフォームで300mもぶん投げられる始末。場外ホームランの倍投げられる烈子の恐怖は言語に絶する。心臓も破れる程駆けて遠くへ逃げた。


今では森の動物や魔獣がコア達を怖がって大森林から出て来ない。文字通り蹂躙じゅうりんされてぶっ飛ばされるルーチンだからだ。コア達は何もウケを狙っていない。アル様ならウケを狙ってそうすると思考論理から予測しているだけだ。


人を知らない動物。危害を加えられない動物は慣れる。魚も逃げない、鳥も逃げない、動物も逃げない、魔獣も逃げない。しかしこの土地で人間の危険性を知った大森林の鳥、動物、魔獣は心底恐れた。出会ったら終わりの種族と認定した。


魔獣は他の魔獣と戦って、勝つときも負ける時もある。それが弱肉強食のおきてだ。負けたら食われるから帰って来ない。帰って来た時は獲物を持っている。それが普通だった。しかしナノロボットに見つかり、何度も遊ばれ痛い目に遭った動物や魔獣は学習した。指令のを学習した、大森林さえ出なければ痛い目に遭わない、いじめられないと。



オークやオーガの2ランクも3ランクも上の上位個体や変異体の長も言った。アクマニ サカラッテハ イケナイと。


タナウス島の魔獣達は、獲物を探す途中に絶対強者を見ると森の奥に一目散いちもくさんに逃げ帰った。逆らわなければ安住させてくれるのが分かって来た。大森林の中では弱肉強食。大森林の外に出ると悪魔がやって来てひどい目に逢うからだ。


魔獣が恐れて人間のテリトリーに来ない土地はタナウス島だけだった。


そんな事、アルは知らない。



・・・・



ナレス王国第三王女と聖教国の皇太子の婚約はナレスでは7月5日に公布された。二、三か月経つと各国にナレスから知らせが届いた。そんな知らせなど日常茶飯事、届けられた国の王家すら「ふーん、オメデトウ!」で祝福の親書を出して終わるお知らせだった。


この知らせの場合は違った。周辺国は寝耳に水だった。聞いたことのない聖教国の皇太子と書いてあったのだ。


>「聖教国って皇太子居たの?」


王女の嫁ぎ先や縁談を決めた王家は驚いた。本来なら一番最初にお婿さんの候補に出る筈なのだ。各国の宰相は聖教国に問い合わせた。勿論、聖教国の教皇の選出方法や受け継がれ方も知っている。しかし、聞かずばいられない、聞いたことも無い皇太子の事を。


聖教国、教皇の名前はライトス・ド・ミラゴ・イ・クレンブル。今回ナレス王国から知らされた婚約は、聖教国、皇太子:アルベルト・ド・ミラゴ・イ・クレンブル。


名前はそのまま息子を表した皇太子である。


聖教国の教皇はその婚約は間違いないと返信した。


各国の宰相(政務官のトップ)は失点を犯した。聖教国の皇太子などと言う大物。王家の嫁入り先を逃したからだ。


ナレス王国でアルの婚約が公示されて問い合わせが殺到した事を受け、返答を前に聖教国では重大な会議が行われた。御子アルの実績、実力、人柄、神々の使徒と言う加護を加味し七大司教及び教皇の八人、神聖国の大司教七人(うち一人は教皇)で検討された結果。総意を得て|ライトス教皇の次の聖教国教皇はアルが継ぐべき者となる事が決まった。


問い合わせた各国への返答には、聖教国の正式な跡継ぎの皇太子としるされた。


アルはタナウスの宗教国家の事を聖教国に告げるつもりは無かった。それはアルが他の大陸に出かけて交戦したキレた時、聖教国に害が及ぶからだ。建国も言うつもりすら無かった。そんな理由で現在ズブズブの関係を改善しようと思っていた。タナウスを宗教国にしようと思った時から聖教国とは距離を置いていた。


当然、聖教国に用事が無いと行かないから放置する。各国への聖教国の返答も知らなかった。


聖教国はライトス(現教皇)が崩御もしくは引退する齢では無いのでまだまだ先の事と思っている。アルも距離を置いて俸給をもらいに導師の所しか行かなかった。


そして、半年程経ってそろそろアルに正式に聖教国の次期教皇である事を教えようと思っていた時期にいきなり神教国タナウスの教皇:アルベルト・ド・カミヤ・メラ・タナウス(案)を知ることになる。

(訳:タナウスを継ぐカミヤ家のアルベルト)


そんな事、今の時点でアルは知らない。聖教国も知らない。



・・・・



12月27日。


教室が終わってから居残って、ミッチスのタダ券をざら紙で作っていたらコアからの相互通信の呼び出し。相手はリナスだ(笑) 教室にいるぞ!と教えて通信を切った。リナスと一緒にベルが来たので聞くと、足の小指の傷を放置して重症な患者がベルの所に来たらしい。


鉄級6位がビッコを引いて教室に来た。相当我慢してる顔だ。

見て驚いた、もう足の小指が腐って痛みの感覚が無い。菌が入ってる感じなので昏睡魔法掛けて浄化Lv10とクリーンで患部を綺麗にして小指ごと落としてしまう。光魔法のヒールで再生した。昏睡魔法を解いて頭を叩き怒っといた(笑) 何も知らないと言うのは呑気なもんだ。


ベルは最後まで見ていた。高位の光魔法を見ても系統が違うので魔法的には意味がないが、処置は説明してやったので薬師の薬で消毒して腐った部分の小指を落とした後に水魔法のヒールなら再生はしなくとも同じ様に命を救える事は解った。


そのまま教室をクリーンして雷鳴食堂で食事を取ってるとアルムさん達がひょっこり現れた。


「え!村は?お医者さんは終わったの?」


「終わって無いけど、持って行った食料が無くなったから帰って来たのよ。九つの村で診療して、アルムとシズクが村の奥さん達と毎日炊き出しやってたの、正直あの数じゃ終わらないもの」


「みんな喜んでた?」

「喜んでたわよ!いい事すると気分いいわね(笑)」


「アルムは炊き出しを邪魔する奴らを〆てたけどね」


「え!邪魔される?」


「村人が買えない値段で塩売ってる行商の奴ら」

「塩?」


「うん、スプーン一杯売りよ(笑) 初めて見た」


「まぁ国によって売り方もあるだろうけど(笑) 内陸の塩の無い土地なら必需品で高いんだろうね」


「炊き出しで使う岩塩の塊見て目の玉が飛び出てた(笑)」


「だいぶ厳しい生活してる?」


「うん、国自体が貧しい感じ、人口は多いけど仕事が無いからお金を手に入れる手段が無いわね」


「そういう感じかぁ」光景を視ながら説明を受ける。


領民が何も持ってないじゃ税金もクソも何も取れないしなぁ、国も困っちゃうよな。海沿いにあれば覇権国に一番に切り取られて労働力にされるな。そりゃ医者も薬師もいない訳だ。


「タナウスの空き地に村ごと連れて来ちゃったら、自分達でやって行くかなぁ?(笑)」


「無気力に転がってる人が多いのよね」


「まぁ、戦争とかで逃げ惑って無いならいいか。そのうち世界中に教会を作って信者を集めて、苦しんでる人は連れて来るから待っててもらおう」


「そうやって人を集めるの?」


「うん、そんな感じで(笑) まだ色々と世界を視て回って無いから決めて無いけどね、宗教国なのに他国に攻めて行く国があるらしいから、化けの皮を剥がしてその国の教会をもらおうと思ってるの」


「神の御子が来たら驚くだろうね(笑)」

「驚くじゃ済まないよ、殺しに来るからね(笑)」


「そうなの!?」

「そうだよ(笑)」

「何で殺しに来るのよ、喜ぶでしょ!」


「御子が居ると困る事があるんだよ、予言だよ(笑)」


「予言なの?(笑)」

「過去の救世主は皆、害されたと書いてあるの」

「ホント?」

「ホントだって、キャンディルで本読んでたでしょ?」


「あぁ?うん」

「あれ、キャンディル宮殿の禁書庫の本よ」

「書いてあったの?」

「そうそう(笑)」


「あ!明日二十八日はナレスで婚約のお披露目のダンスパーティーなの、二十九日はタナウスでナレス王家とスラブ王家を招いて海で遊ぶんだけどどうする?」


「明日の護衛はどうするの?」


「ニウとコアとメイド達がもう一杯いるからいいよ、先にタナウスで遊んでてもいいよ、新しい夏服もコアが作ってくれてると思う」


「それなら先に行ってようかな?」


「うん、僕はナレスだから晩も要らないし泊ってていいよ」


「お屋敷は海の前に有るから・・・あ!そっか、もう一軒お屋敷置いておくか、食べたら行こうか」


「わかったー」


・・・・


アルムさん達が住んでる所に国王とか呼べないから、位置をずらして伯爵邸を置いた。※アルがラルフに買ってもらった内装全部付いた屋敷。


「コア、アルムさん達が今日から新年まで海沿いの屋敷に住んで海水浴に使う、ナレス王家は伯爵邸に逗留させるからね」


「かしこまりました、今からメイドをよこします」

「なにか手伝う事はあるかな?」


「転移装置を伯爵邸のパーティールームへお願いします」

「あ!わかった。今から移すね」

「夏服と水着を持って後ほど伺います」

「ありがとう!」


・・・・


「国王様始め家族の方はこちらで貴族の方はこちら、使用人がこちらで護衛はこちらになります」


色使いが5色が王族、4色が貴族、3色が使用人。アロハの色使いで見事に差別化がなされている。さすがコア。


アルムさん達は貴族用を選ばせた。木綿のアロハに麻のシャツ。女子の水着は木綿で、ビキニタイプだった。海から上がってそのままアロハを羽織れば非常に動き易い。


俺は黒地にヤシの木の緑、海の青に、花の赤と黄色のアロハを当日用に選んだ。


その日アルムさん達と海で遊んで初めて自分の屋敷に泊った。作って1年以上経っていた。


その夜、シェルに起された。夜中の0時回った所だ。


(アル様、起きて!精霊が来てます)

(え!)跳び起きた。

(海の柵を取ってくれと言ってます)

(え?・・・)頭が付いていかない。

(アル様が海に作った柵の奴ですけど・・・)

(え!あ!あぁ、柵作ったけど、どけたらいいの?)

(そう言ってます)


窓から海を視て驚いた。海ガメがいっぱい柵の所にいた。慌てて柵を土にかえすと、海ガメが喜んで泳いでくる。大きな月の光の中、卵を産みに来たカメたちだった。


(シェル、端に避けて産んだら俺が守ってやるって言って)

(はい)

(海の家から離れたら何処で産んでもいいから)

(はい、言ってきます)


小さい人型になって飛んでいく。


と言うかシェルが抱えて端の方に持って行く(笑) 一回陸に上がったら端に行くの大変なのね。


(シャドも助けてあげて)

(はい)


22匹も上がって来たから、今の時期が産卵ラッシュなのかもな。柵を山形にして自然に両脇に泳ぎつける様にするか。海水浴終われば崩せばいいしな。


もう任せて寝る。

(シェル、シャド頼むよ!)

((はい))


あれって、この島で生まれたカメだよなぁ・・・。



・・・・



朝起きてシェルに昨日の事を聞く。


(昨夜はウミガメの精霊じゃ無いよね)

(ウミガメの精霊は会った事無いです)

((笑)ウミガメ好きの精霊と思っちゃった)

((笑))

(何の精霊だったのよ)

(月の光の精霊と思います)

(そんなのいるんだ(笑))

(月の光で遊んでたらカメが困っていたのでは?)

(あぁ、なるほど)

(また、何か言いに来たら教えてね)

(教えるです)



朝の5時から山型というかタケノコ型に柵を作ってウミガメを端に誘導するようにした。


(カメの繁栄を邪魔しようと思って無いです)

思っておけば通じるだろ。


(プッ!)

シェルが笑った。





次回 233話  ダンスダンスダンス

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               思預しよ

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