第187話 立つ鳥
俺は翌日(4月19日)神殿には行かなかった。
2760年前にセリムと会話した存在なのだ、人の枠の時間で考える存在じゃ無い。
そんな訳で、鍛錬終えると朝から教室に行った。
完全に春だ。5時40分はもう明るい。演習場でサーキットトレーニングしてる奴がいる。チョレスで陽気な曲を弾き鳴らす。
生徒が集まる間にキャプターに伝えておく。急に教室に来なかったら他国に行っている筈だから、生徒に申し伝えてそのまま読み書きを続けてもらう様に申し付ける。
飴屋に行き。嫁のへーゼ(56)に店のクリーンを掛けるついでにパンケーキ屋の厨房と店にもクリーンをお願いする。
ミッチスと飴屋の店は演習場内の裏口では50m程しか離れていない。
教室が終わった後にミッチスに行き店長のアンリ(20)とリリス(19)とルル(18)に言い付ける。
売上金と釣り銭はクラン事務と店長のやり取りだが、これからは始業前のクリーンを飴屋にやってもらうので釣銭を取りに行きがてら飴屋の奥さんを連れて来るように言う。
売上金と釣り銭は裏の演習場の敷地を使ってクランの金庫に入れているのでついでだ。
俺が他国に行って顔を見せられない事もあるので店長のアンリに使用人の事を頼んで行く。開店当初のような行列が出来なければ厨房2カウンター3(兼皿洗い)で(皆が週休1日で)回るのだ。(店長のアンリは使用人の食事やヘルプに入る)
一端朝食に戻って皆の休日を聞く。
クルムさんが3日ほど村に帰って薬師を集めてハイエルフのレポートを伝授したいと言うのでシロップの樽を3樽持たせてエルフの村に連れて行った。
俺は聖教国の布教と言うと、アルムさんもシズクも来ると言う。
9月に後半年から1年とお爺様に行っていた通り、地図上の街は1000人程の小さな町まで布教が済んでいた。
神殿に行く前に納得するまで布教を終わらせたかった。
残るは1000人以下の町ばかりだ。飛空艇で布教に走れば1日で終わるだろうと思っていた。こないだの赤痢騒動で飛空艇のすさまじい効率が分かったのだ。
お昼を仕入れて食べながら飛空艇で布教する。
思ったより手間取らなかった。
上空300mから耕作可能地に点在する村をピョンピョン跳んで一気に布教する事が出来たのだ。大きい村でも500人。楽勝だった。
と言っても布教やってる最中はシズクに魔力供給を代わって貰う。そんな魔力供給でも存在を示してる事になるのか疑問だ。でも来てくれなかったら時間食いまくってた。
アルムさんが真冬の飛空艇と春の飛空艇の違いを身振り手振りで説明する。みんな乗ってんだから分かってるよ!てか食べ終わってから喋れ!マジ小娘だわこの人は(笑) 落ち着きが無い。
14時頃には終わって、ふと4か月も御無沙汰のラムール会長の所に行ってみた。行ってみて気が付いた、1月にシズクが作った高速艇型飛空艇の土台がそのまま庭にあった。ひえー!4か月も放置かよ!嫌味言われそう。
帰る時そのまま飛ぶから分かんなかった。普通に着陸する。タラップもそのままだから降りて行くと、4月に新しく入った?護衛を古い護衛が止めて一悶着起きていた。
ラムール会長が屋敷から出て来る。
「会長、お久しぶりです」
「御子様、お久しいですな!」
握手をしてハグる。
そのまま応接に通された。
「タクサルさんはもう帰って来ました?」
「まだ帰って来ませんな(笑)」
「やっぱりまだ忙しいんでしょうか?」
「植民地国の自衛戦力が整うまで忙しいでしょうな」
「あ!そういう」
「武器商人はそれを手助けしますからな」
「確かに!政治は畑違いですしねぇ」
「何か変わった事は?」
「今回の事は良く為されましたな。ワールスにも話は行っておりますな?」
「あ!報告が遅くなり済みません」
「世の
「ここに持ってきた武器庫以外の武器庫と弾薬庫、大砲、魔動回路などすでにワールス共和国より連合同盟国に行ってる筈、ハーヴェス帝国圏を抑えていると思います」
「そうでしょうな、それでこそ海路を保てます」
「本当に報告が遅れましてすみません」
「なんの!御子様の動きで一段と商人の動きが激しくなっております。ミランダとの交易国も多数商国が食い込んでおります、当然ハーヴェス交易圏も同じ様に食われておるでしょうな」
「計画は聞いてもどこまでどうなのかは知りませんでした、だいぶ進んでそうですね(笑)」
「そうですぞ、各国の話が来るのが待ち遠しくここ3カ月は若返りましたな(笑)」
話の最中、出されたお菓子をパクパク食べてるアルムさんとシズクに、お菓子のお土産をメイドさんが渡している。遠慮しながらも袋を掴む手を俺の眼は見逃さない。
「私は覇権国の海上戦力を消すだけで何も知りません。商国の最近の動向を聞けただけで上手く行ってそうで良かったです」
「それを為しただけで充分でございます。為政者に左右され無い商人の時代がやってきたのです」
「ラムール会長に喜んで頂けただけで満足です。頂いたコインが重くてしょうがないです」
「ははは!そんな物に左右されてはなりませんぞ。為された事でそのコインの重荷は消えておりますな、世を変えなさった」
「会長に褒めてもらえてよかった(笑)」
「あ!今回の商国連合の件ですが、ワールス共和国で連合の話がまとまった時。私がバーツ会長に入れ知恵したと思われたので、ラムール会長の知恵だと答えましたらランジェロ会頭が納得されておりました」
「は?」
「商国連合はラムール会長が仕組んだ事になってます」
「え!」
「コインを持つ者なら可能って言いましたよね?」
「・・・」
「僕が言っても子供なので誰も動きませんよ(笑)」
「・・・」
「会長が言い出しっぺだから分け前の武器庫をサントの誰よりも先にハムナイに持ってこれたの忘れたんですか?(笑)」
※言い出しっぺでも何でもない。アルが面倒くさい荷物を今だ!と会長の背中に乗せている図である。
サント海商国の議長及び評議員は(アルの巧みな虚言Lv3で)苦境のサントを救う手立てを御子様に授けたのはラムール会長と確信している。そしてワールスの会頭とサントの議長の前で御子が証言したのでそれは事実になっている。
なんか言われそうなので大壺を3個置いてさっさと帰った。
タラップを上がって行くと会長が追っかけてきた。
「御子様ー!」
「はい?」
「冥途の自慢話が出来ました。ありがとうございます」
「冥途行くの早すぎますよ!(笑)」
・・・・
15時過ぎに海商国の造船所に行ってきた。
シズクがいるので骨組みと外板が出来ている所まで、世界樹の材料を融合してもらいモノコック構造にしてもらう。鬼の様な強度になってる筈だ。船大工のミールさんに大壺を渡して、出来てもすぐに取りに来られないので、バーツさんの指示に従って保管してもらい、受け渡しまで預かって貰う様に言っておいた。
・・・・
まだ16時でロスレーンに帰るには早すぎる時間だった。時間
ドワーフを見たアルムさんが硬直する!
「ドドドド、ドワーフじゃないの!」
「ドワーフの鍛冶屋の有名店なんだよ」
「なんでドワーフの店なんかで!」
「腕が良いって評判なの」
ドワーフの店員は布教で人も獣人もエルフもスキスキになってアルムさんに大喜びで話しかけるから笑えた。
ドワーフのお茶を警戒して飲まない。
ドワーフがいつ襲ってくるかと警戒を解かない。
※ドワーフは決して蛮族では無い。エルフ村で
視てると笑えてドワーフと話が出来ない。
「この綺麗なお嬢さんですね?」 型紙を腰にあてがいスカートの完成形を見せる。
アルムさんが固まって1mmも動かない。
ひざ丈のスカートを見て、ドワーフがやっぱ分かって無いので絶対領域的な長さを強く指示しておく。
くそー!こんなことならショートパンツにニーソックスにすれば良かった。(中身23歳の明が思ってます)
ちなみに生足になるようにオーバーニーソとショートパンツな事をドワーフに言ったら太ももの防御はどうすんですか?と聞いて貰えなかった。 が!戦闘時以外でのコルアーノ王国の平服的日常デザインだとゴリ押しで追加注文した。虚言がLv4になったが必要な事なので後悔はしていない。
火竜の皮を見せたら首周りの細かい鱗でスパンコールみたいにスカートが出来ると言う・・・うーん。
悩んでいたら火竜の皮も魔力を纏って鱗で攻撃を弾くと言う。
姉妹は派手な色使いが好きだし・・・アルムさんに聞くとそうすると言う。中身はショートパンツだしスカートをそうしてもらった。
商談が終わる頃にはアルムさんは慣れていた。
固まって動けなかった人が言う。
「ドワーフも大した事無かったわね」
「あいつはエルフを分かっていたわ」
「孤高の誇りと聞いたのにニコニコと・・・」
天敵と思っていたドワーフに丁寧に扱って
・・・・
17時半にロスレーン家に3人で帰る。クルムさんはエルフの村だ。
毎年3月20日頃には王都から帰っているお爺様に聞こうと思っていたのだが、年度末は忙し過ぎて聞けなかったので聞きに来た。
グレンツお兄様とアインを連れた家族がそろそろ帰ると思って聞きに来たのだ。お兄様は家族と一緒に4月の末に帰って来ると聞いた。
皆で夕食の食堂に行くと、食堂で並ぶ3人娘と目があった。
3年の修行中のリサ(18) メグ(17) カルラ(17)だ。
カルラが俺に小さく手を振ってアニー(19)に手をバシッ!っと叩かれている。確かにメイドのそんな動作見た事ねぇ。視たら後で説教だな、アニーが
夕食を食べながらお爺様と近況を知らせ合う。
今年はヒルスン兄様とマーフが貴族院政務官(文官)に叙爵されるので家族は叙爵式まで王都別邸に逗留。グレンツお兄様とアインは貴族院の騎士を解任と共に同期とバカ騒ぎをして帰って来ると言う。
地元に帰るとそれぞれの領地で叙爵されて貴族になるが、コルアーノ全土から集まる貴族院の同期と以後に会するのは戦争しかない。そういう意味から貴族院で2年を務めあげた同期で羽目を外して溺れる程飲んで王都の街で遊ぶらしい。
お婆様が
解任の晩は繁華街の路上でベロベロ。同期と別れるのが寂しいと泣き叫ぶ姿や遊郭でヘロヘロになった貴族の子弟が腰砕けているのが風物詩と言った。誰もが通る貴族院のしきたりだと得意げだ。
そして(あんたは孫ん前で何て事言いよーと!)とお婆様の固まった顔に気が付く。
気を利かせて、お爺様も?と聞くと
お爺様にクランメンバーも今月中に600人超えそうだと発展を報告し、教官も増えた事、庇護する店が3軒出来た事。それとなく演習場の土地に家を持って行くと伝える。
続けて神聖国の布教も終わった事を告げた。
後はひと月に一回ほど聖教国に顔を出せばよいと言った。恩給を取りに行くついでに・・・と付け足して笑わせた。
お爺様は上機嫌で聞いてくれた。
ゆっくり語ったお茶の時間。
20時半には辞してメルデスに帰ってきた。
アルムさんにクルムさんを迎えに行くまでの明日、明後日は完全休養と言い渡してゆっくり風呂に付かる。
取り合えず目先の事は終わった。
寝る前にシズクが部屋に来た。
鉢の壺を持って行けと言う。あれは、概念の存在を感知できないと言う。具現化して動くシズクは感知できても、シャドやシェルには気が付いてないと言う。
困ったらいつでも呼べと言う。
アルの心配をシズクは知っていた。
あの交感時間だ。
悠久の時を過ごし2760年前を平然と覚えている存在。
機械ならメンテナンスが無いと身が持たない。
主人と会って話せば時間感覚が完全に狂うと思う。あの場で30~40分も話した感覚が2分と言われる。時間さえも超越してる場所へ招かれる可能性を何度も考えた。浦島太郎になる可能性が怖かった。
同じ世界に招かれれば帰って来た時1000年後とかもあり得る。
あの見た事もない濃い魔力線が人工物なのだ。全く視えない。次の返答が読めない。そんな存在は死兵以外今まであり得なかった。
主人と会うとどうなるか分からない上に
友好的な会話で安心はしている。だが油断はしていない。
明日、神殿に行こうと決めていた。
アルの防御本能が考えられる結末に備えられていた。
シズクに言って聞かせた。
俺の状態は繋がっているシズクなら分かる筈なのだ。10日帰って来ない場合は、その時の状態で元気だったら必ず帰ると伝えてくれとお願いした。死んだらアルムさんに神に招かれて逝ったと伝えてもらう。アルムさんから導師に、それで皆に伝わる筈だ。
殺された時にインベントリの物がどうなるか分からない。もし排出されるなら、死んだ瞬間にインベントリの屋敷や4Fの執政官庁舎が2棟も突然出てきたら蝉のおしっこぐらいになるだろ(笑)
庶民のアルは、口ではゴミは捨てる捨てる言いながら、何かに使えるかも?と思い実は一回も捨てた事が無い。使えそうと言い訳しながら何千年も前の魔法ランプを取っておくほどだ。
蝉のおしっこ作戦考えてたら寝た。
死ぬー死ぬーと泣き叫びながら復活して全恩寵ブーストの大魔神覚醒!とおしっこの前にやってやると能天気な事考えてたら寝た。
・・・・
翌日の4月20日。いつもの時間にアルムさんにぶっ飛ばされて5時半になると5分走ってクランへ行く。
いつもの日常をトレースしていく。
教室が終わるとキャプターに言った。
もしかしたら明日から2~3日来られないかも知れないから頼みます、何かありましたら家のアルムさんに指示を受ける様にと伝える
朝食の準備はアルムさんがしてくれてた。
今日はシズクと買い物に出かけると言う。
昼も晩も要らないと伝えて聖教国に跳んだ。
朝一から導師に今月の俸給下さいとねだる。
しょうがないのうと言いながらポケットマネーでくれた。
いいもの見せますよ。とエルフ村の世界樹を見せてあげた。一度はレンツ様にも見せてあげて下さいねと蛇足を伝える。
師匠に俸給と大壺を持って行く。ミノタウロス戦で師匠も上がった恩寵の話に花を咲かせる。話しながら応接の木馬を撫でる。
ハウスに帰って、今月の給金を3人分机に置く。
シズクのは小遣いだ。
インベントリの残り弁当36人分を確認して神殿に跳んだ。
次回 188話 星を継ぐ者
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