第125話  偽りの国


2月中旬。


朝5時からの日課は変わらない。

両手剣で技を落とし込んでいく。両手剣と言っても子供用だ、身体強化をぶん回して振るう分には何も問題なかった。


半年前の模擬戦で両手剣を使う師匠をトレースしながら団員たちの武器に対応して行く。やる事は同じなのだ。


手にする得物が変わっただけ。やる事は一緒。

食事後は副団長達と模擬戦。スピードが鈍る分、剣で押し込めるようになった。スピードの速い片手剣の運動エネルギーも両手剣の運動エネルギーも一緒だった。


長所と短所が変わるだけだ、長所を生かして短所を隠す様に立ち回る。


両手剣と仲良くなりながら声を聞いた。こちらの両手剣は防御承知の叩きつける打撃武器でもある。甲冑、兜関係無く中の人間を潰せば勝ちなのだ。


今までアルが片手剣で流していた両手剣。躱しにくい所に渾身の身体強化で流されても相手に当たる一点目掛けて振り下ろす。

遅いのは承知なのだ、片手剣なら受けを潰す、流されても当てる、質量で圧し潰す。


当然重く腰などに付けられない。アルの体でまともに振ろうと思うと身体強化無しには振れない、無しで振るとハエが停まる程遅い上に体ごと遠心力で持って行かれるのだ。



ガルスさんに抜刀、納刀を教わった。

抜くのも入れるのも短剣術の取り回しが関係していたと教えてくれた。短剣術のLvが上がると抜刀も納刀も早くなったそうだ。


クルッと回して逆手で納刀は男のロマンだった。

ペン回しの納刀版だ。メチャクチャかっこいい!

が!刃があるとマジ危ない。覚えるまでに頸動脈斬る。


俺は逆手に持たず普通に入れることにした。

柄を普通に持ってても入るし・・・危険ダメ。



今日は聖教国へ跳んで打ち合わせの日だった。

屋敷での模擬戦が終わると跳んだ。



・・・・・



聖教国大教会、教皇の間に行く。


腕輪の件でアルノール大司教の伝言があった。

腕輪を見て欲しいとの事。出来たのか?


大喜びで教義部に駆け込んだ。


「アルノール大司教!来ました」

「御子様、腕輪を試して頂きたいのです」

「はい、出来たのですか?」


「一つ一つの魔術紋の形は出来ております、が複数の魔術紋がどう作用するのか危険過ぎて・・・」

「腕輪危険なんです?」


「危険と言うか、発動が阻害された場合にその・・・危険」

危険なんじゃねーか(笑)


まぁ、自己再生あるから腕が吹っ飛ぶぐらいなら・・・じゃ無くって、こんな時は身代わりの珠。4個付けよ。


「一回見てみましょうか」

「お願い致します」



各部門?担当者の部屋に通され、各魔術紋と使われている魔法陣技術の進化させた部分を教えて貰う。


・1月で60曲しか入らなかったと謝られても俺も困る。その代わり厳選した名曲のみが入っていると言う。


1月で60曲を再現するあんたらの根性がすごいわ。視たら魔術証文の転写技術を応用して楽曲を転写してた。楽曲ナンバーの選曲本を腕輪に叩き込んだ。



・当初半径50mと言われていた同心円状の光の波は半径100mになった事。俺が魔力に制限無しと言ったので倍の半径になったようだ。

7850㎡から31400㎡て4倍か。魔力も4倍てすごいな。


聞いてみた。

「100mの距離は壁とか通り抜けますか?」

「魔法障壁が無ければ通ります、演出効果も浄化も魅了も」


「2000mは出来ます?」1256万㎡で50mの1600倍だ。

「魔術紋の書き換えで行けますが、魔力を全部吸われて死んでしまい、発動もしないかと・・・」


「書き換えというか50、100、2000mの3種で選べますか?」

「それなら楽曲の魔術紋グループに相談してみます」

「お願いします」


「でも2000mはやり過ぎでは?死んでしまいます」

「腕輪に私の認証を刻んで、事故を防げます?」

「認証紋は今回付けました。御子さまが・・・」

「大丈夫です、テストの後でやって下さい」


「いえ、ピューリファイと魅了効果も有るんですよ?」

「あ!そうだった!」そっちも1600倍?(笑)

テミス様は宇宙全体の神だ。魔力も大丈夫だ。


「まぁいいです。やってください」

「・・・」皆が押し黙る。死なないよ。




教皇様装備のセットはこんな感じです。御要望のアクセサリーは6。腕輪×1ネックレス×1アンクレット×2リング×2


セット1:教皇装備

武器(錫杖)頭装備(冠)外套装備(ローブ)足装備(天に向かってとんがった靴)


「この変わった靴は?」

「教皇様が履かれる儀礼靴を製作いたしました」

「・・・」

「サイズは自動調節を付与しましたので心配は要りません」

サイズ心配してねぇよ!お前らを心配するわ!



St1:教皇装備 武器、防具別枠。

頭、胴、外套、腰、脚、靴、腕、手、アクセサリ6

錫杖、冠、ローブ、とんがった靴がセットされている。


St2:武器、防具別枠。

頭、胴、外套、腰、脚、靴、腕、手、アクセ6


St3:武器防具別枠。

頭、胴、外套、腰、脚、靴、腕、手、アクセ6


以下同様で腕輪にスロット化されている。



「セット1が教皇様装備に変身ですね?」


「その様になってる筈なんですが」


「いえ、背負ってる両手剣でローブはまずいと思って」


「あ!そうですね、変身するときは腰の装備にして貰えますか?教皇様のローブで背中に両手剣はちょっと」


「酷すぎますよね」

皆がウンウン頷く。



先ほど言っておられたピューリファイと魅了ですが腕輪から同時に出るようになってます。そしてホーリーブライトと魅了と4にしておきました。


アルノール大司教がまた何か変な事を言っている。


「演出効果要らないので、ホーリーブライトと魅了だけに」

「それはいけません、これまでの演出効果にはどれ程の年月と予算が掛けられているか分かりません。無にする訳には参りません」


「・・・」何言ってんだこいつ。


俺を見てウンウン頷くが俺は納得して無いぞ。

周りの誰も何も言ってくれないので諦めた。



説明は聞いたので皆を一時避難先の草原へ誘ってみた。

ここでやったら教義部の研究施設や学校までウエーブに呑まれる。



8人で手を繋いで一時避難の草原に跳んだ。

腕輪の秘密を共有する仲だ。これ位はサービスしないとな。


見たことも無い魔法に、皆が俺にひざまずいて祈りを捧げてくれたが正直言えば子供に縋る大人の絵面で気持ち悪い。



デフォルトで天を手に掴むポーズを取って魔力を込めると楽曲が始まりセット1の変身と100m範囲でピューリファイと魅了が5秒出ると言う。


魔力を込めるとスターウォーズのイントロを思わせる壮大なパイプオルガン風でラッパも鳴る楽曲と共に変身!壮大な演出が始まった。イントロが終わると途端に千の風に乗って体がスイングしてしまう。


その光の奔流は頭上からでは無い、もはや天上から降り注ぐ光の柱。地面に落ちると腰下の高さで同心円状に光の波紋が広がって行く。辺り一面半径100mの輪が清浄な光のキラキラに満ち溢れる。


6名の研究員と大司教が5秒間瞬きもせず俺に見惚れる。


俺のポーズの右手に錫杖、頭に冠、背は。足は天にとんがった靴。


成功だ!大成功だ!



装備セットを引っこめると外套と靴だけが元に戻る。

これも成功!


次に、番号002、30秒と念じて魔力を込める。


また発動。


優美で清らかな笛の音が奏でられ小太鼓がタタタと盛り上げて行く、音が大きくなって来て銅鑼の音がジャーンで変身!イリュージョン一緒、こっちの曲もイントロ終わるとゼロになる体に乗ってしまう。


変身する前のでジンギスカン食べたくなったわ。多分戦場の銅鑼だ(笑)


とりあえず全部発動して良かった。

すぐ半径2000mに改良してくれると言う。

半径100mをデフォルト距離にしてもらう。



・・・・


同じく二月中旬


もうそろそろゾルタス子爵始め各地の男爵も集まってる頃と

帝都の教会に戻った。ステレン大司教に聞いてみる。


「聖女の謁見は終わりました?」


「終わりましたぞ、議会は3月10日の初日。皇帝が開会を宣言して去るまで皇帝と一緒に同席出来るという事です」


「それで充分です」


「この国に御子がお生まれになったと喜んで聖女と御子のご紹介を議会で行うと仰いました」


「え!聖女と御子の紹介を?」

「はい、皇帝がことのほか喜んで」

「それは良かったです(笑)」

「多分、議会の前に詳細は知らされると思います」

「お迎えの件とかですかね?」

「はい、皇帝と同席ですから厳重かと思います」

「あ!御子の正式な服とかは」


「ありますぞ、謁見ですから相応しい物を作りましょう」


「そういうものですか?」

「聖教国の次代の御子ですからな」

「サイズとか今測りますか?」

「そうですな、侍女を呼びましょう」



御子服のサイズを測り終え執務室に帰って来た。


「御子様、聖教国の方の準備は如何でしょうか?」

「順調に進めてくれてます。大丈夫です」


「大司教様、少しお聞きしてもいいです?」

「はい?何でしょうか」


「全ての司祭が持っている物って何かありますか?」

「全ての司祭ですか?」

「この国の司祭の証明みたいな」

「ふーむ、聖魔法が証明みたいなものですから」

「あ!それだ!それで結構です」


「教会はどの様な街にもありますか?」

「その国の政治形態にも寄りますが街に代官が居て、街の周りに農民たちの村という形態なら街に有る事が多いです」


「この帝国はどうです?」

「荒野の村には無いですが余程辺鄙へんぴじゃ無ければ街にあるかと」

「充分です」

「何がです?」

「御子と誓約を交わす民の国造りです」

「・・・」



・・・・・・・



ロスレーンに帰って導師と打ち合わせた。



議会で奴隷紋を刻んだ後の制約(ゲッシュ)に付いてだ。


・悪い事は全部禁止とする。

・獣人も人も平等、その悪口も禁止とする。

・罪だけを憎む。死刑は禁止で鉱山奴隷とする。

・周りの人を幸せにして国のためを思う事。


導師は言った。

「良い国になりそうじゃの。ドミニオンの隷属紋を作った者が喜んでおるわ」



神聖ほにゃらら国(案)


・全ての領地の街にいる司祭が代官、領都にいる司祭がその地を治める領主。首都の教会の大司教が教皇の名代として国主となる。


・貴族及び街の武官、文官は司祭の元で内政を行う。


・民が御子と誓約後の罪は貴族が裁く。

誓約後に罪を犯すのは領民以外。貴族が勝手に裁く。


・皇帝は良い国を作るよう宰相として国に尽くす。

誓約後罪を自己申告させた後に宰相として働く。


・全ての皇帝以下の貴族は現行の男爵位になる。

男爵は自分の名を冠した領を行政監督する仕事でその身分が代々保証される。男爵はその地の代官、領主、国主の補佐として行政の代行支配を行う。


憎たらしいが、現行貴族は高い教育を受けている。怒りのままに鉱山に送っては人材が居なくなってしまう。粉骨砕身働いてもらって鉱山の富を国中に分配してもらう。


神の御子と誓約し100年反省して立ち上がってもらう。


100年後隷属したものが徐々に居なくなった時、この国は罪を憎む中央大陸一番の国になると思う。



誓約によって自己申告させる事。


獣人、人を、

・悪いと知って、当然と思って殺した者:無期。

・嬲って殺した者。部落を襲った者:無期

・当然と思って迫害した者:無期

・悪いと知って殺す、迫害する様に指示した者:無期

・略取、奴隷を悪いと知り関わった者。無期。

・差別無く権力に断れずに関わった者。無罪。

・自身を守るために殺した者。無罪。



まだ時間がある、煮詰めて行けばいいさ。



毎日どこかの子供が攫われている、獣人部落が襲われて殺されている。囚われたら死ぬまで奴隷だ、絶対に許せない。裏でそんな事やりながら、貴族だなんだと慈善事業しやがって。何人殺したんだ。何人嬲ったんだ。何人踏みつぶした。


全員に責任を取らせる。


皇帝は親だ。

親にも責任は取って貰う。子供の責任は取って貰う。



あと25日ほどで300万~400万と言う帝国の差別を消す。獣人排斥の歴史を根源から埋める。そして差別を刈り取る誓約の旅が始まる。


何万も助かる人がいるんだ。この国も人の幸せを壊す事は無くなるさ。そして許されない業を背負った人間も自分から喜んで徳を配って魂も少しは綺麗になるさ。


始祖の望んだ国を作ってやる。


それが偽りの国でも。




次回 126話 分水嶺

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                思預しよ

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