第70話  賢者来訪


朝から晩まで訓練漬けのアルベルト。


すでに目覚めて6か月経っても未だに街に出ていない。


アッチの世界の場合は学校があった。小学校、中学校、高校、予備校、大学と必ず通うところがあった。こちらでは一日中好きな事していられるので訓練漬けで毎日演習場に通うだけ。


馬車の外など見向きもしない。師匠に質問や例を挙げてもらい、耳学問している。興味のある事に一途に向かっていた。


元々そのがあった。気を引く物に夢中で納得するまで追い求めてはいたが、学校へ行くことで歯止めになっていた。雫の面倒を見ることで歯止めになっていた。今の生活には歯止めが無い。


朝から晩まで好きなだけ鍛錬している。ここまで来ると変人である。アニーは何時お出かけするのかワクワクしているのに何の素振りもない。演習場と屋敷の往復しかない。


それでもアルの家族は大喜びなのだ。夕食では今日の演習場の出来事と、今は何を課題に取り組んでるかを話すだけで夕食に付き従うメイドまでが目を細めて聞いてくれる。


アルが話を振ってリードが肯定し皆が驚いたりうんうんと頷く。アリアも邸内に一人しか居ないお兄様に甘えて色々聞きたがる。そんな楽し気な家族の夕食だ。


3年近くも寝たきりで死の淵に有った10歳の子供なのだ。皆が可愛くて仕方がない。好きなだけ鍛錬して元気になればよいのだ。家中の者にもアルの処遇は言い含めてある。


夕食が終わると、型の鍛錬。復習が終わるとリードを訪ねて魔力を回して貰いに行く。もちろん一日中身体強化をやっている。


無理にでも回す事で魔力の通る道が太くなったり、回して貰う痛みの耐性が付いたり、速度に体が慣れて早くなったりしないかな?という思惑である。


リードも見たことも聞いたことも無い鍛錬を行うアルに感化されて一日中身体強化を行うようになっていた。


しょうがねぇなぁ、と毎日言いながら、アルが体得したにも関わらず「あががが」ぶん回してやる。身体強化を覚えた弟子に追加で回して効果あるのか半信半疑だが本人がやってくれと来るのだ。


その効果を見るだけでも面白い。


アルはアルで、武官、傭兵、冒険者がこの痛みを覚えて身体強化を手に入れてるのに自分がスキルにポイント振ったらとんでもないチョンボで魂が磨けなかったとホッ!としている。


この苦行を追えば余分に磨かれると思って、激痛を伴う「あががが」しに行っているのだ。ついでに魔力の道が太くなったり魔力循環が早く回れば儲けだと思っている。

(逃げる所か向かって行く。本当にコイツだけは侮れない)


※実は大正解なのだ、根本を知らずにスクロールや魔法玉と呼ばれる神の恩寵アイテムを使うとボタンを押して発動する様な恩寵となる。


身体強化Lv1でもそうだ。痛みも何も無く覚える代わりにボタンを押して定速で魔力が巡る身体強化となる。武官ならだれでも知ってるので泣きながらでも自身で巡らせるように体得する。


逆はOK、Lv1を体得してから身体強化Lv2の恩寵を使えば早く強くなれるが、そういう物は高い。誰も使わない。


そんな毎日。


来訪者が現れた。


ベント・キャンディル元宮廷魔導士筆頭。


大魔導士を多数輩出してきた名高いキャンディル伯爵家の次男に生まれ類稀たぐいまれなる才能を開花させた魔導士。この国でその名を知らぬ者はいない稀代きだいの魔導士である。


別名を。俗な人々には会おうともせず魔法を極めんと研究に身を捧げる賢人である。


当主ラルフ・ロスレーンと面会し、面妖めんような手紙に付いて問い質そうとキャンディル領から来たという。

ラルフはすぐにリードと同じなのではないかと思った。


毎日徐々に威圧してくる手紙など聞いたことが無い。


すぐにリードとアルベルトを客間に呼んだ。

ノックされジャネットがお二人が来られましたと告げる。


二人に直ぐに入って貰ったのが不味かった。


「貴様ら!何奴じゃ!」


言うが早いかラルフとベントに魔法障壁(物理)が張られた。


「儂を狙うとはいい度胸じゃ、褒めてつかわす!」


アルがなんだこの爺い?と思い視た。


「小僧!何をした?こざかしいことを・・・」


げっ!見た途端に攻撃される・・・と言うか師匠と一緒にパラライズの魔法で全身麻痺させられる寸前だった。


「鑑定か!ちょっと違うの。まさか看破か?」

「違うのぅ、魔力の質が違う。小僧、魔眼持ちか!」


うひゃー!やっぱバレるじゃんか。怖い!バレバレだ!


余りに突然の騒動にラルフがやっと動けるようになる。


「ベント様!ベント様!そこの小僧が儂の孫です!」

「この小僧が孫じゃと?まことか?」

「はい、孫と師匠のリード・オーバン卿でございます」


「なんと、ハルバス公爵家の傭兵か?」


「そうです、そうです。暁の団長殿です」


「して、その禍々まがまがしい魔力の説明どう付ける!男爵!」


爺ぃが威圧出して大きく吼える!


「これは失礼しました、鍛錬の一環です。一日中、身体強化を切らさぬ鍛錬を我が弟子としておりました」


「なんじゃと?身体強化を一日中しておるとな?」


「はい、その通りです」


「ふーむ、その様な鍛錬は聞いたことが無いのう?書物も知らぬ。家伝の鍛錬法か何かかの?」


「いえ、伝承が無いので自身で確かめておりました」


「とりあえず事情は分かった。身体強化は解かれよ、お主らその様な事しとったら命がいくつあっても足りんぞ!」


「失礼いたしました」と師匠が解いたので俺も解く。


「驚いたのう」魔法障壁が解かれた。


「貴族の屋敷でその様な奴がおろうとは驚いたわ(笑)」


「して、この二人を呼んだのには訳があろうの?」


「そちらの小僧が儂の孫アルベルトと申します。面妖な手紙の件をこの二人に話して頂きたいのです」


「この二人に関係するのかの?承知した」


応接の机に一枚の手紙を懐から出した。


「儂の所にロスレーン卿よりこの手紙が来た。この様な手紙は儂の所によく来るでの、儂の名前で箔を付けようと貴族が送ってくるのじゃ」


「儂も研究に忙しくての、そのまま無視しとったら、何やら手紙が威圧して来おる。はて、呪いかと思って調べても何もない。一日経つごとに威圧が強くなり研究も出来ぬほどになってきおった。その手紙の真偽しんぎ、込められた物を知りたくて態々わざわざロスレーンに参った訳じゃ」


「実は私もその手紙が原因でここに参りました。ラルフ殿に呪いを解けと詰め寄りに参りました」


「なんと!お主も?そして師匠になっておるのか?」


「はい、その通りでございます」

「して、種明かしは如何に?」


「孫のステータスを見て頂けませんか?」

「アル、加護付きで見せて差し上げろ」


ベントの眉が上がった。


アルベルト・ロスレーン 10歳 男

ロスレーン子爵家三男  健康

職業 -


体力:51 魔力:- 力:36 器用:336 生命:45 敏捷:31 知力:640 精神:664 魅力:83 幸運:87


スキル  

火魔法Lv1 身体強化Lv2


加護 創世の神々(63神)

    現世の神々(191神)

    創造主、ネロ

     豊穣の神、デフローネ。

     戦いの神、ネフロー。

     審判の神、ウルシュ。 

     慈愛の神、アローシェ。

     学芸の神、ユグ。 



「これは・・・」


「アルベルトは半年程前に死の淵を彷徨さまよっておりました。3年も寝たきりだったのです。元気に起き上がったと思ったら、神々の加護を授かり、宣誓の儀もしていないのにステータスボードを授かり、火魔法まで覚えておりました」


「ほうほう、して?」


「最初は仰る通りに、魔法の師をお願いしようと思っておりましたが、火魔法の意味と魔力の意味をご相談の上で師をお願いしようと思っていた次第です」


「アルベルトとやら、魔力が無いことになっておるが、先程魔力を巡らせておったの。お主分かっておるのか?」


「多分、そこにおわす神々と繋がっているので魔力は使い放題かと思うのですが」


「なんじゃと!その様な話聞いたことも無いぞ」


「ふむ、お主に言っても仕方ないの。火魔法は使えるのか?」


「はい、ファイアボールを」

「ちと見せて貰おうか」


「人気のない裏庭で良かろう、参ろう」


4人で裏庭までやってきた。


「ここで良いじゃろ、空に向かって撃ってみぃ」

「はい」


とにかく魔法見せてから、色々聞けばいいや。

空に撃つならこないだと同じように構えて・・・


「こら!お主どこを狙っておる。空に撃つんじゃ」


この爺ぃ、知るか!撃て!


「ファイアボール!」


またもや指から放たれるバルーインパルス5機!

5機の編隊が天に駆け登っていく。


「なんじゃそれは!お主、火魔法Lv1じゃったの?」


天を見上げてベント様が驚く。


「それを何発撃てるんじゃ?」

「分りませんが、やってみますね」


4発撃ったらベント様が呆れて言った。


まことに凄いのぅ、分かったわ」


「普通のファイアボールを見せてやる。こんな感じじゃ」


「ファイアボール」


直径40cm程の赤々と燃える火が空に飛んでいく。


「鍛錬するとこうにもなる」

「ほ!」


ピンポン玉の様な火がオレンジに大きく輝いて飛んでいく。


「大きさならこの位が飛ばすに使いやすいぞ」

「は!」


3mの真赤に輝く大火球が飛んでいく。


「お主の魔法は凄かったの。考えたのか?」

「はい、太陽を炎で作る感じで」

「良い良い、良いぞ!」


「見る物も見た。客間に戻ろう、もうよい」


客間に戻ったベント卿が言った。


「ロスレーン卿、師の話受けよう」

「ベント卿!本当に受けて頂けるのですか?」


「本当じゃ。ここに来たのは導かれた様じゃからの。神のほまれを頂いた。儂が呼ばれるとはのぅ、光栄な事じゃ」


「アルベルトとやら、今夜夕食後、儂の所に来い」


アルは最初かと思った自分が恥ずかしかった。


「それとの、お主は間違いなく神と繋がっておる。魔法を放ってもお主の魔力は全く減らんかった。そういう事じゃ」


震えが来た。我が身を整え土下座した。


「師よ、私を魔法の道へお導き下さい」

「お、なんじゃなんじゃ?」

「神々に教えを乞う神聖な作法だそうです」


「なるほどのぅ、確かに神聖な作法の様じゃの。よい、神々が望んでおるのじゃ。そういう縁なのじゃ」


「頭を上げるが良いぞ」

「はい」


「ロスレーン卿、空いてる部屋を世話してくれぬか。神々が納得するまで教えねばなるまいからのぅ」


「今夜、夕飯後に魔法契約を結ぶからの」

「アルは火魔法持っていても大丈夫なのですか?」


「ふむ、そういう事か。間違いない、この子に師はおらん。神が火魔法をそのまま授けておるの」


「その様な事もあるのですね」


「神の恩寵そのままじゃ。魔力発現の制御、編込、展開、回転が何も出来ておらんで発現しとる。師はおらんの」


「あの、私の指から魔法が出るのは変じゃないですか?」


「お主、指から出る魔法を見たのではないのか?」

「見てませんが・・・」

「ふむ、おかしいの。その様な物に心当たりがあろう」


「・・・あ!」

「そうじゃろう?それが原因じゃ。それだけじゃ」


絶対ロボットアニメのフィンガー系武器だよコレ。

レーザーやら弾丸やらミサイル出す奴だ。笑うわ!

よく考えたら手の平からは見たこと無いわ。ポーズ凝って格好良いけど魔法陣から出てたわ、確かに見てねぇよ(笑)


ちょっと見ただけで全部解決かよ。

この魔法の爺さんパナイな。


「お爺様、ご紹介頂けませんか?」



ALL「え?」





次回 71話 魔道の洗礼

--------------



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               思預しよ





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