ドラ嘘くえすと〜ゆうしゃとでんせつのつるぎ〜:前編
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Twitterのスペースで開催された『第8回ドラ嘘朗読LIVE』にて朗読していただいた記念書き下ろし。台本処理前の状態なのでいつもの小説形式でお読みいただけます。オールキャラギャグ、前後編。関連リンクは最下部に♪
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「ここが、先生の“ご友人”がいらっしゃるお城なんですね……!」
自分も王都の城に住まう身でありながら、王女――フィールーンは、好奇心に輝く顔でその建物を見上げた。真昼の空色をした瞳に映るのは、長い歴史を感じさせる黒々とした壁を持つ巨大な城だ。
鬱蒼とした森もその異様さを恐れているのだろう、荘厳な門扉を越えて侵入しようとする枝はひとつもない。そんな不思議な静寂に包まれた広場の中央で、王女の旅仲間たちが次々と所感を述べた。
「……ボロいな」
「ボロいっす!」
「手入れがなっとらんな。庭師は何をしている」
「うう、イヤだわ。なんというか、こう……“いかにも”って感じじゃない」
若者たちの素直な意見に苦笑したのは、最年長である竜――今はヒトの姿をしたアーガントリウスだ。
「好き勝手言うねえ。けどこの城の主はちょーっと耳が良いから、聞こえちゃうかもしんないよ?」
「あ、
「そ。しかも美女の血が大好きな
男にしては細い褐色の首筋をトントンと叩き、大魔法使いは気楽に警告を送った。ますます瞳を輝かせたのはフィールーンだけで、他の“女のコたち”はサッと自身の首を守るように手を添える。
「やはり聞き捨てなりません! 本当に、このような危険な場所に立ち寄る必要があるのですか」
「だから言ったじゃない、騎士サマ。変なヤツだけど、悪い吸血鬼じゃないのよ。近隣の村とも和解していてヒトも襲わないし。それにあの収集家なら、“例の薬”に必要な材料を持ってる可能性が高いんだ」
怪訝な表情をしているリクスンをなだめている師の健闘を祈りつつ、フィールーンは鉄柵の前で騒いでいる商人と木こり兄妹たちの元へ向かった。
「すげえや、敷地内にもアンデッドらしいヤツらがウヨウヨいやすぜ……あっ、ほら、あのガイコツと目が合ったでやんす!」
「目なんかないだろ」
「きゃああっ!? あ、頭が落ちたわ!」
「あいつらのふざけた挨拶だと、テオが……。それよりエルシー、怖いならさっきの村で待っていろ」
「残る方がいいコトないのよ、こういうのはっ! それに、み、みみ、皆が怪我した時、あたしがいなきゃ困るでしょ」
震える精霊使いとは対照的に、片手に箒、もう一方の手に自身の頭蓋骨を抱いた白骨死体――“スケルトン”は、どこか陽気な様子でこちらを見ている。それを歓迎の態度だと感じたフィールーンは、礼儀正しくぺこりと頭を下げた。
ぱん、と手を打ち、一行の引率者である竜が若者たちの注目を集める。
「さーて。不気味で愉快なお友達に会う前に、大事なコト言っとくわ」
「先方がお嫌いな銀類なら、村に置いてきやしたぜ?」
「大変よろしい。でもそれとは別に、もうひとつ」
長い指を立て、フィールーンの魔法の師である男は続けた。
「アンデッドってヤツらはその名の通り、死を超越した存在。これが何を意味するかわかるかな、弟子ちゃん?」
「はい。あらゆる魔法攻撃は効かず、一般的な武器類も通じない――倒すには純銀製の武器、あるいは信仰によって清められた聖水が必要です!」
「大正解〜。つまりアイツら、めちゃくちゃヒマを持て余してるのよ」
「わぁすげえやこの知恵竜、めちゃくちゃ弟子に甘いっす!」
商人の非難には耳を貸さず、アーガントリウスは涼しい顔をして話を進めた。
「俺っちみたいに旅でもすりゃあいいのに、ただただ暗い場所でゴロゴロしながら娯楽に飢えてる。だから向こうから何かの“提案”があった時には、少々付き合ってやる必要があるってわけ」
「“提案”とは……力くらべのようなものですか」
「そうだったら楽なんだけどねえ。ま、向こうも気まぐれな長命種だ。機嫌によっちゃ、案外すんなり材料を譲ってくれるかもしんないよ」
肩をすくめてみせた優男の背後で、ぎぎぎと重厚な音を立てて門扉が左右に割れた。まるでこちらの会話をそばで聞いていたかのようなタイミングに、若者たちの目が丸くなる。
立ち込める霧の中から現れたのは、カビくさい燕尾服に身を包んだ腐乱死体――“ゾンビ”の給仕である。
『お茶の用意ができまシタ。ドウゾお入りくだサイ――“新鮮”なお客様がた』
頬まで裂けた口を歪めて微笑む給仕。一瞬の間を置き、緑髪の少女が半泣きになって叫んだ。
「あれも彼らの挨拶なのよね!? あたしたち、とっても歓迎されてるのよね!?!?」
「袖を掴むな、ホワード妹! いざという時、剣が抜けないではないか」
「なんで平気なのよリンさん! あたしと同じ希少な“ヒト枠”じゃない、ちゃんと怖がりなさいよ!」
「そう言われてもな……。視えていれば、対処のしようもあるというものだ。
「持つんじゃないわよ!」
エルシーに襟首を掴まれている臣下に、フィールーンは心中で謝る。魔力適性の高い自分がゴーストを視るのは、幼い頃からの日常茶飯事であった。側付であるリクスンにはほとんど視えなかったものの、彼の恐怖心を薄めてしまった原因は間違いなく自分だろう。
「やあゲラート、元気そうだね。その額の傷、イカしてる」
『城で流行しているのデス、アーガントリウス様。さア、主人がお待ちデス』
恭しく腰を折ったゾンビ――ゲラートの額の傷から、ぺろりとハート型の皮膚が垂れ下がった。それを気にする様子もなく霧の中へ消えていった給仕を追い、フィールーンたちも謎多き城へと足を踏み入れたのだった。
*
煌びやかな家具に囲まれた応接室に、朗々とした声が響き渡る。
「やあやァ、よく来てくださったね、お客人たち! 古い顔も新しい顔も、このヴィルケット・ヴァンスリー・ヴァルマン卿が歓迎しよう!」
まるで舞台に立つ役者のごとくよく通る声に、フィールーンは思わず拍手を送りそうになった。しかし左右の椅子に腰掛けている護衛と仲間――リクスンとセイルが揃って真剣な表情を浮かべているのを見、手を引っ込める。
「これが吸血鬼……! やはり只者ではないな。隙が見えん」
「……腹が減った」
正反対の理由で思い悩んでいる二人に挟まれたまま、王女は長机の向こう側に座る存在を見る。
「いやァ、門前で待たせてすまなかったね。なにせ、客人を迎えるのは久しぶりだったものだから! 食器のひとつにも埃がついていないようにと、私みずからが厨房を見回りに赴いたのだよ。銀のフォークを磨こうとして火傷してしまった、ハハハ! ところでなんであんなものがあるんだろうね? あとで料理長に訊いてみなくっちゃ」
淀みなく喋る男は耳が尖っているものの、それ以外は一見してヒトそのものだ。陽を浴びる機会もない肌は青白いが、金色の瞳を有する顔は美しい。まとっている紳士服もサマになっており、このままどこかの城の晩餐会に登場しても誰も不審がることはないだろうと思えるほどだった。
その満月のように輝く瞳がフィールーンへと向けられ、妖しく細められる。
「こんにちは、可憐なお嬢さん。君がアーガントリウスのお弟子さんかい?」
「は、はい! フィールーンと申します。私が先生の弟子だと、どうしてお分かりになったのですか? ヴァルマン卿」
「あーフィル、そんなかしこまらなくていいよ。“卿”だなんて、自分で言ってるだけなんだから。それに前は、“大公”じゃなかった?」
呆れたようにテーブルに肘をついたアーガントリウスに、吸血鬼は痩せ気味の頬をぷうと膨らませて反論した。
「いいじゃないか、知恵竜! ここ100年ほどはそう名乗ってるんだ」
「はいはい。それじゃ“ヴァルマン卿”、我が弟子に名推理の真相を教えて頂けるかな? 俺っちは弟子をつれていくとは連絡したけど、どんな子かは言ってなかったでしょ」
「任せたまえ、古き友よ」
猫のようにするどい瞳孔を持つ瞳が、静かに光を放つ。古城の主人は椅子に収まった若者たちを次々に眺め、さらに確信を深めたような顔になって言った。
「君たちはここ数百年でも、とくに珍しい客人だ。賢そうな獣人に、私たちにすぐさま銀の杭を突きつけない騎士、それに不思議な精霊の気配を持つ美少女――」
エルシーが腰掛けている椅子が警戒するようにガタタと音を立てたが、吸血鬼はかまわずフィールーン、そしてとなりのセイルを見てささやく。
「そして君たちだ。こんなに奇妙で、奇特で、ずば抜けて“神々しい”魔力――あれ、面白くない? アンデッド界では鉄板のジョークなんだけどな――には、近年お目にかかったことがない。つまり優れた弟子となる素質に恵まれているのは君たちふたり。そして我が友は根っからの女好き。となれば決まりじゃないか?」
「お、お見事です!」
悪戯っぽく微笑むヴァルマンに、フィールーンは今度こそ拍手を送った。仲間たちは緊張した顔のままだったが、彼が芝居くさいただの隠居人でないことは理解したようだ。
「ふぅーむ……。いやしかし、本当に稀有な魔力だ。この感じ、なんと表せばいいのかな……。アーガントリウスが不老となった時も、こんな気配が」
推理が終わったというのに、吸血鬼はじっとこちらを見つめている。竜人であることさえ見抜かれるのではないかと王女が肝を冷やしていると、師がのんびりと口を挟んだ。
「大事なのは、このステキな可能性を持つ若者たちのため、“とある薬”を作ってやらなきゃなんないってコト。お前なら持ってるでしょ――“水晶茸(クリスタル・トリュフ)”」
「ほう、ほう、なーるほど! 我が友よ、君たちの目的は完全に把握した!」
「“報せの鳥”で先に言ってあったじゃないの。聞いちゃいないんでしょうけど」
グラスを満たしている赤い液体――自家菜園のトマトジュースだという――を煽り、吸血鬼は薄い唇をぺろと舐める。フィールーンの頭に、ちらと覗いた長い牙がしっかりと記録された。
「そのピカピカ眩しくてならないキノコなら丁度、今が最盛期だ。城の地下の至る場所にはびこっているよ」
「へえ、そりゃよかった。俺っちたちがキレイに取り除いてやれば、お前たちの大好きな暗くてジメジメした空間が戻ってくる。お互いに利があるじゃないの」
「――果たしてそうだろうか、友よ」
物憂げにグラスを見つめる吸血鬼を取り囲む空気が急転する。笑みを引っ込めた師と同じく、フィールーンは肩を強張らせた。となりの側付と木こりの手が音もなく動き、わずかに自身の得物へと指をかけるのが見える。
「せっかくこうして訪れてくれたんだ。つれないことを言わないでくれ、知恵竜。私がヒマを嫌っているのを、君はよく理解しているだろう」
「……俺っちだけでよければ、数日なら付き合ってあげるけど?」
「ハハ、それも一興! でも、それだけじゃあね――吸血鬼はワガママなんだ」
黒いマントをばさりと翻し、ヴァルマンが優雅に立ち上がる。椅子を引く動作など見えなかった。赤い唇をニィと歪め、吸血鬼は迫力たっぷりの声で言い放つ。
「目の前に、こんなに若くて新鮮な素材があるんだ。我慢などできやしないさ」
フィールーンをはじめ、仲間たちも一斉に椅子を倒しながら臨戦体勢に入った。剣を鞘から抜きつつ、側付が大声を張り上げる。
「やはり何か企んでいたか、不死者め! 姫さまたちには指いっぽ――んぅっ!?」
「ッ!」
勇敢な怒声が狼狽に変わったことに気づき、フィールーンは慌てて左右を見た。そして言葉を失う――室内で見失うはずもない大柄な男たちの姿が、忽然と消えていたのだ。
「せ、セイルさん!? リンっ!」
「フィル、下よ! 床に穴が」
目の良いエルシーに言われて床を見ると、磨かれたタイルがぽっかりと1枚消失していた。男たちが立っていたあたりの場所だ。しかもどういう仕掛けなのか、駆け寄った自分達に反応し、一瞬で元の床へと戻ってしまう。
「な、なんすか、これ!? 旦那、リクスン様ぁーっ!」
「待ってタルトちゃん、静かに!」
青くなって床を叩く商人を退かし、エルシーがすばやく屈み込む。耳を床に近づけ、しばらくじっとしていた。
「……水に落ちる音がふたつ。かなりの高さだけど、あのふたりならきっと大丈夫だわ」
「そんな、旦那は、りゅ――ええと、“例の姿”には成れなかったんでやんすかね?」
「落ちていく穴が細くて、飛べなかったのかもしれないわ。何にしろ、ふたりが囚われたのは明らかね。……どういうつもりなの、吸血鬼さん」
城に入る前に見せていた恐怖はどこへやら、エルシーは決然とした表情で敵を睨みつけている。彼女にならい、フィールーンも手を掲げていつでも魔法が放てるよう構えた。
ちらと師の動向を確認するが、彼がなにも戦闘の準備をしていないことに小さく驚く。しかも呆れているようにさえ見えた。しかし王女が口を開く前に、妙に熱がこもった高笑いが部屋中に響き渡る。
「ハァーッハッハァ!! かかったな、愚かな“勇者”どもよ! 女たちは、この“魔王”ヴァルマンが頂いたッ!」
「えっ!? ま、魔王っ!?」
「ああ、なるほどね……“今回”は、そういう“
ハアとため息を落としたアーガントリウスが、小さく手を振って集合を合図する。背を仰け反らせて高笑いを続ける吸血鬼を警戒しつつ、フィールーンたちは部屋の入り口へと集結した。
こちらの動きに気づいた敵は、意外なことに何やら急にコソコソと相談をし始める。
「おいゲラート、なぜ男たちを落としたんだ? 私さっき、台本通り“女たち”って言ってしまったじゃないか」
『どうやら大道具たちが、仕掛けを間違エタようデス。以降はアドリブでお願いしマス』
「アドリブっておま……魔王が捕らえるのはかわいいプリンセスじゃないとダメだろう!? あんなむさくるしい男たちの血を吸うなんて絶対イヤだよ、私は!」
『最近では、戦う女性タチも人気があると聞きマス』
「そ、そうなのかい!? ふぅむ、なるほど……」
その奇妙な会話にフィールーンは首を傾げたが、隣のエルシーは目を吊り上げて年長者に抗議した。
「ちょっとアガトさん、どうなってるのよあの人! お兄ちゃんとリンさんは、どうして連れて行かれちゃったの!」
「まあまあ落ち着いて、エルシーちゃん。城に入る前に俺っちが言ったこと、覚えてる?」
「えーっとたしか、“向こうから何かの“提案”があった時には、付き合ってやる必要がある”……でやんしたね。はっ、ま、まさか――!?」
「そ。もうその“提案”に、俺っちたちは否応なく巻き込まれてるってコト」
呆然とする自分たちを見回し、知恵竜はさらに声を絞って言った。
「ヴィルケット――ヴィルは、ヒトの娯楽が大好きなのよ。不死者のくせに、愛だの絆だののストーリーに胸が高鳴るんだとか」
「どう見ても心臓動いてないじゃない!」
「で、でも、うまく彼を喜ばせることができたら、二人を無事に返して頂ける。さらに、“クリスタル・トリュフ”も手に入る……ということですか? 先生」
「そゆコト。だから女の子たち、悪いんだけど――今日だけは、頑張って♪」
「えっ?」
にっこりと微笑み、アーガントリウスは颯爽とローブをなびかせて吸血鬼の前に躍り出た。
「“さあ、勇者フィールーンと仲間たち! ここはこの大賢者アーガントリウスに任せて、姫たちの救出へ向かうんだ!”」
「なっ、何言ってるのよ、アガトさん! あたしたちだけなんて――」
「“勇敢なる精霊使いエルシーに、賢き大商人タルトトよ。しっかりと勇者様をお支えし”……えーっと、まあなんか良い感じに収めてきて!」
「役テキトーじゃないっすか! アンタここで楽する気っすね!?」
「俺っちが残らないとこの吸血鬼、本気で何するかわかんないから。ほらほら、背後に意味ありげな穴が空いてるよ! 行った行った」
師の助言通り、いつの間にか背後の壁に『地下大迷宮行き』と書かれた細い穴がぽっかりと口を開いている。しかもご丁寧に、中は滑り降りていけるよう綺麗に整えられているようだ。
「馬鹿げてるわ、こんな芝居!」
穴を隠していた板らしきものを抱えてわたわたと部屋を出ていくゾンビ侍女の背を睨み、エルシーはツンとした声で言った。
「何か他にあたしたちが役に立つことでキノコが手に入るなら、その方法を考えたほうがいいに決まってる。ねえ、フィル?」
「そうでやんすよ。あちらさんはおふざけのつもりかもしれやせんが、あっしたちだけで不死者だらけの地下迷宮を踏破するなんて……ねえ、フィールーンさま?」
「ふたりとも――何を恐れているのです!」
ぎくりとして固まった仲間たちの視線を受けても、王女は顔の輝きをますます強めて笑んだ。
「セイル姫とリクスン姫――おふたりをお救いできるのはこの“勇者”フィールーン、そして勇敢なる仲間の貴女たちしかいません! さあ、出発しましょう!!」
「あーッだめだ! 完全にノリノリでやんす、この元引きこもり姫さま!」
頭を抱える仲間たちの背後からさらに、トドメと言わんばかりの仕掛け人の声が上がった。しかも先ほどよりも明らかに声が弾んでいる。
「ハッハッハァ! 無駄な足掻きだ、勇者フィールーンよ! 姫たちが囚われているのは不死者が跋扈する大迷宮の最奥。その中では時に容赦ない罠が貴様らを待ち受け、時に様々な貴重品が収められた宝箱が貴様らを誘惑するだろう! 序盤の道具を使い己で地図を書き起こさねば、さまよい歩くことは必須であろうな! クククッ!」
「くっ……なんて恐ろしい迷宮なのでしょう! 卑劣な魔王です!」
「いや、すんごい丁寧な解説ありがとうなんすけど」
給仕のゲラートが何かを書きつけた羊皮紙を広げ、アーガントリウスへと近寄っていく。師はこほんとひとつ咳払いをし、空中に王女が見たこともない印を切って告げた。
「あー、“勇者たちよ。今、わしの魔法で、地下迷宮の入り口に必要な装備一式を転送しておいた。各自それらを身につけ、油断なくご安全に地下攻略に挑むのじゃぞ”。――ねえ、賢者ってだけで急にジジイっぽい喋り方にするのやめてくんない? 恥ずかしいんだけど」
『恐縮ですガ、台本通りにお願いしマス』
文句を垂れる“大賢者”に他の助言を聞こうとしたフィールーンだったが、同時に迫ってくるたくさんの足音に気づく。奥の部屋からわらわらと登場したのは、どこか楽しげなうめき声をあげているゾンビ給仕たちだ。
「ひいぃっ! と、とりあえずもう何でもいいでやんすから、この部屋を出やしょう!」
「んもうっ、仕方ないわね! 飛び込むわよ、フィル!」
「……」
「ああもう――飛び込むわよっ、“勇者さま”!」
「はいっ! 行きましょう!!」
雪崩のように押し寄せてくる不死者たちに送り出され、王女――いや“勇者”たちは、慌ただしく魔王の謁見室を後にした。
悲鳴を上げながら穴を滑り落ちていく仲間たちの最後尾。いつもは守られる立場にある少女はひとり、ぐっと拳を握った。
「待っていてくださいね、“姫”――今、勇者フィールーンがまいります!」
〜後半へつづく〜
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こちらはスペース朗読にて読み上げてくださっています!URLを含めた紹介感想エッセイはこちら。素晴らしい演者さんの声でもぜひお楽しみください!
https://kakuyomu.jp/works/16817330658071781812/episodes/16817330662644119747
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