コーヒー
一之瀬 透
コーヒー
今日はいつもの喫茶店に向かうためにいつものバスに乗っている。
今日は快晴でコーヒーが美味しく飲めそうだった。
しかし、俺は今苛立っている。
悪口を言われたり、胸糞悪いことがあった訳でもない。
俺はバスの座席に座っていた。
そしたら、前にお爺さんが立ってきた。
何も言わず、無言で。
ただ俺の方を見ていた。
俺は何もしなかった。しかし、
周りからの目線を感じる。
恐らく、「譲ってやれよ。」
的なことを考えているのだろう。
こう言うところだ。どこまでの範囲の人間がこうなのか分からないがこう言うところだ。
俺はこう言うところが苛立って嫌いなんだ。
言えばいいじゃないか。
「席を譲ってくれ。」と。
周りのやつは声をかけてやるのが正しいと思うならそうすればいいじゃないか。
なんで、自己主張もできない奴を察して譲ってやらなきゃいけないんだ。
分からない。
例えば、食堂なんかで店員が自分が頼みたいものを察して注文を受けてくれるのかと言うことだ。
今回の話ならこのお爺さんの願いは席を譲って欲しいのか否か。
分からない。
何も言わないならわざわざこちらから聞くのか?俺の自己主張はこうだ。自己主張をしない奴にわざわざ尋ねてまで相手の願いを聞きたくない。
だから、無視して座っていた。
だがこれは、お爺さんがだけが悪い訳ではない。
今のこの国の風潮として、多数派が正しいみたいな風潮がある。
だから黙ってても座席は空くし、
立ってるお爺さんがいればみんな譲る。
だから、俺みたいな意見を持ってる奴らは、間違ってると否定される。
分からない。
こんな風潮があるからみんな自己主張ができない。
さらに、できる奴に嫉妬して言葉の石を投げつけたり、意見が通らなかったりする。
そうやって多数派の波に飲み込まれていく。
結局俺もその1人だった。
周りの視線に耐えきれず、お爺さんに席を譲った。
そうしたら周りの奴らは微笑ましい顔をして俺を見た。
気持ちが悪い。反吐が出る。
こうやって自分たちは高いところから見ることしかできない。
素晴らしい人間だ。
また、俺は多数派に飲み込まれた。今日飲むコーヒーはきっと不味いだろう。
コーヒー 一之瀬 透 @kem0324
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