明快なところが少ない。主人公の柚月や小夜子は正直な思いを吐露しているのに、あまりに謎に満ちた物語である。それはまるで、夜の色をしたビロードのような手触りで読者の心を惹きつける。柚月の求めるものは真実、何なのか。また、夜の神とは実在するのか。気づけばこの物語に惹きこまれている私がいた。悲しいかな、美しい物語は昨今、少ない。その中でも本作は、美しく退廃の芳香漂う物語と言えるだろう。