出かけて忘れて

家の鍵を閉めてから

だいたい百メートルくらいで

「本当に閉めたっけ」と思う

鍵を差し込んで閉まったことを確認する為にガチャガチャとノブを回し、その感覚を手に覚えさせているから、私は手のひらを見る

感覚と視覚をフル回転すると感触と思い出と音が聞こえて安堵した

次に持ち物が不安になって鞄を漁る

ちゃんと入っていたので胸をなで下ろすと今度は目的地について何をするのか、とバカな考えが頭の中を駆け巡るので、歩きながら「どれ、それ、これ」と反芻した

指を折り曲げて数えていく

数えれば目的地について自動ドアが開くのだ

席については、次はなに、なに、なにと忘れないようにする

メモをしていないのは、メモ自体を忘れている上にスマフォのメモ欄に記入することまで忘れているからだ

出かけると忘れてばかり

こうやって人は忘れていくと、他人も忘れていくんだろうて考える

昔々に会っていた人の名前も浮かばない

毎日毎日、会話していたはずなのに顔も忘れて、誰だっけと頭に浮かぶが、すぐに消える

興味がないからだ

私は出かける度に忘れていくらしい

思い出すのは身近なものだけで、最近は「忘れていいや」と思うことにした

きっと人生には関係ないものだったんだ。そう思う

それじゃなきゃ可笑しくなりそうで、今の自分を肯定してやる

川の流れのように、どんどん海へ押し出して

我先に貯水槽に飛び込み濾過され

誰かの材料になっているのだと、思いついたが、可笑しい気がして忘れようと思う

ここに書いたことも、少し経てば忘れるのだろう

みんなも、そうだろう

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