死者と生者 ー巡る罪の輪ー

仲仁へび(旧:離久)

第1話





 今日、僕を虐めていた奴を殺した。

 細心の注意を払って、犯行を行ったけれど。

 でも、その行為を見られてしまったようだ。


 足音がして、振り返ったらそこに女性がいた。

 だから、その目撃者も殺した。


 酷い事をしてしまったな。


 虐めてきた奴等には同情しないし、そんな気持ちこれっぽっちもわかない。

 やつらが死んだのは、自業自得だと思う。

 だから納得できたんだ。

 まともな人間としてはどうかと思うけど。


 でも、彼女は違う。

 ただ、不幸に目撃してしまっただけだ。

 ああ、どうしよう。

 関係のない人を巻き込んでしまった。





 その日から僕は、毎日うなされるようになった。

 あの女性が僕の首を絞める夢を見る。

 それで朝、飛び起きたら自分で自分の首をしめている。


 鏡で見たら、のどもとに指の跡がくっきりついていた。


 重症だ。

 大変な状態だ。

 困っていた。

 どうにかしたかった。


 けれどそんな事、誰かに相談できるはずがない。

 人を殺しました。

 罪悪感に苦しんでます。

 なんて、言ったって。

 警察につれていかれるだけ。


 だから、ずっと黙っているしかなかったた。


 しかしある時、友達に感づかれてしまったようだ。

 寝起きに突撃してきたそいつは、僕の首元を見て根掘り葉掘りと事情を聞いてきた。

 やむなく一部分だけ話したら、「大変じゃないか」と言われて、あれよあれよ。


 腕の良いお払い師を紹介するよ。と言われてしまった。

 僕は断ったんだ。

 夢に出てくるのが、あのろくでもない連中だったら。それも考えたさ。

 けど、僕が殺してしまったの彼女に呪われるのは、僕の罪でもあるから。


 それなのに、あいつは人の言う事を聞きやしない。

 お払い師のいる店とやらに、強引に連れていってくれた。

 僕は頭を抱えるしかなかったよ。


 そもそも君が迂闊な事を言わなければ、僕がオタクである事がばれて、虐められる事もなかったんだけどね。

 君はそんな事、気が付いてもいないようだったけれど。


 あいつら、人の目がある所では虐めなんてしないからな。


 話しを戻すけど。


 僕の症状を相談したお払い師は、幽霊がいるって言ってきた。


 ただの気のせいじゃなかったのか。

 少しびっくりした。

 まあ、そのお払い師が本物であれば、の話だけど。

 

 そのお払い師が言うには、早急な対処が必要らしい。

 まだその幽霊は普通の幽霊だけど、成仏できないでいるから、悪霊になりかけてるって。


 僕は彼女を助けるべきなんだろうな。

 僕の不注意で巻き込んでしまったんだから。


 だから、もっと詳しい話を聞くことになった。


 その少女が成仏できないのは、過去に僕が何か彼女にしてしまったからしい。

 それで、恨みを抱いているようだ。

 

 あの犯行現場で会ったのが初対面だと思ったけど、どうやら違うようだ。

 僕は思い出せなかったから、首をかしげるしかない。


 その日から少女の事を色々、友人と共に調べる事になった。


 すると、少女は僕と同じように昔虐められていたらしい。


 けれど、僕が助けなかったから、根に持っていたようだ。


 僕の記憶には、そんな事はない。

 でも、注意深く思い出せば、少しだけ不自然な思い出があるのは確かだ。


 あれは、お気に入りの公園で遊んでいた子供の頃。


 そこに、顔色の良くない女の子がいたっけ。


 遠くで、他の子達と遊んでいたようだったから、話しかけなかったけれど。

 あれが、そうだったのかもしれない。


 なんてことだ。

 僕は今まで被害者ぶっていたけど、僕だって他の虐めの加害者の一人だったじゃないか。


 虐めに直接関与してないから関係ない、なんて言い逃れできない。

 だって僕は友人の事を、「きっかけをつくったくせに」と思っていたのだから。

 そう思った僕は、他のは違うなんて言えやしないよ。


 僕は一晩中起きて、彼女が首を絞めに来るのを待った。

 そして、彼女が現れたのを見て、謝った。


 見て見ぬふりをしただけでなく、彼女の命まで奪ってしまったのだ。

 弁解のしようがない。


 本気の謝罪であるという事を示すつもりで、命をもくれてやると自分の首をさしだした。


 すると、彼女は何を思ったのか、その場でじっとこちらを見つめてきて。


 それからすっと消えていなくなってしまった。

 その晩から、彼女が夢に出てくることはなかった。


 僕は、許されたのだろうか。

 分からなかった。

 けれど、彼女へのけじめとして、警察へ自首する事にした。


 色々取り調べされて、裁判もあって、それで加害者の家族の顔も見た。


 泣いていたよ。

 そして、怒っていたよ。


 虐めてきたあいつらはずっと嫌な奴だったけど、最後に会った時も謝りもしなかったけど、家族には愛されてたんだろうね。


 僕は、絶対に命を奪ってもいい奴なんていないんだな、とその時になって初めて思った。


 あいつらは自分の事しか見えてなかったから、僕を虐めてたんだろうけれど。


 僕だって、僕の事しか見えてなかったから、目撃者の女性も家族の人達も苦しめてしまったのだろう。


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死者と生者 ー巡る罪の輪ー 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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