MARIONETTE ver.Bullet

台本書ク子

(声劇台本 マリオネット)ver.Bullet

【役表】

クチナワ ナオト(蛇 尚兎):♂

ダカツダ ナガレ(堕蠍駄 流):♂

ムシクイ ツツジ(夢梓喰 躑躅):♀

アモリギ ツトム(亞森樹 義):♂

虎独(コドク)/クチナワ タイガ(蛇 大雅):不問

クチナワ タクミ(蛇 拓巳):♂

吸血鬼:♂(上4人以外と兼ね役可)



()内の漢字表記名は、劇中には登場しませんがリニューアル前に使用していたものである為表記してあります。


*蛇蠍(ダカツ)......蛇やサソリのように、忌み嫌われているもの。

*マリオネット......操り人形。



【注意事項】

台本書ク子から演者全員に許可が無い場合は使用禁止。


男女逆転、自作発言、この台本を使用した作品の有償公開はお断りしております。


ご了承ください。


アドリブ、アレンジ(一人称改変含め)は内容が変わらぬ程度にお願いしております。


使用報告は任意ですが、してくださると大変ありがたいです。(投稿している場所を明記してくだされば、聞きに行ってしまうかも。ごめんなさい)



【コピペ用】(配信テーマなどにどうぞ)

【M/A/R/I/O/N/E/T/T/E】

台本書ク子作

クチナワ ナオト:

ダカツダ ナガレ:

ムシクイ ツツジ:

アモリギ ツトム:

虎独:

クチナワ タクミ:

吸血鬼:




ナガレ:吸血鬼更生施設?


タクミ:嗚呼。施設といっても、刑務所の様な殺伐としたところじゃ無い。差別に苦しむ吸血鬼達の更生と社会復帰を後押し出来る場所にする予定だ。恐らく君がヴァンパイアハンターとして活動する頃には、ある程度活躍してくれているんじゃ無いかな。


ナガレ:更生......か。


タクミ:その通り。従来のヴァンパイアハンターは、人や動物に害を及ぼす吸血鬼達を“退治する”形で活動していただろう?だがこれからは、その吸血鬼らを捕まえて施設に送り込んでもらおうと思っている。まぁ、警察よりも圧倒的に吸血鬼特化型にはなるが、警察のようなものだな。


ナガレ:しかし、人や動物を喰い殺している吸血鬼も少なくありません。人間でもやり直すのが難しいこの世界で、あまり居場所のない吸血鬼に更生なんて......


タクミ:ナガレ君はそう思うかい?ははは、分かるよ。私もそうだった、ずっとね。


ナガレ......


タクミ:だがね、ナガレ君。人間や吸血鬼に、いや、この世界の罪を犯す全ての生物に、やり直せないものは無いと思っているんだ。実際、私も昔殺人を犯したことがある......


ナガレ:タクミさんが?


タクミ:と、いっても間接的にだがね。そうだな、あれは......まだ君と同じくらいの新米だった頃。とある吸血鬼の研究所で一体の被検体の管理を任されてね。私の担当だったそいつは、随分と大人しかったんだが......ある日、ほんのちょっとした管理のミスで暴走し始めたんだよ。我を失い、私を含め取り押さえに来た研究員達に襲いかかった。最終的にそいつは気絶する寸前まで行ったらしいが、逃げてしまった。どこに行ったかは分からない。きっと今でも、この世界のどこかで生きている......


ナガレ:......


タクミ:嗚呼、今でも時々夢の中に見るんだ。あの赤く怯えた様に光る目と、成長し過ぎてしまった大きな体。ちりちりの黒髪に青白い肌......たとえそいつ自身が殺人を犯したとしても、私のミスでそいつが野に放たれてしまった事実は変わらない。つまり、そいつが罪を犯すたびに私の罪になるわけだ。


ナガレ:......そう、ですね。


タクミ:一般的に言う“取り返しのつかないこと”とは、まさにこう言うことを言うんだろうな。だがね、先程言った通り私はやり直せないことなんてないと思っているんだよ、ナガレ君。私はやり直すためにここにいる。そしてナガレ君、君もいつか実感するだろう。贖罪と更生というものがどれほど難しくて、どれほど素晴らしいことか。


ナガレ(N):「やり直せないことはない。」僕は、この言葉を信じるためだけに生きて来た。この言葉が、本当に正しいのか......ただ、その為に。


アモリギ(タイトルコール):「MARIONETTE team Bulletバレット


(少し間を開けて)


虎独(N):23世紀後半。科学の進歩や医療の発達により、人類は進化を遂げていった。が、同時にそれは破滅への道を進んで行っていると言うことでもある。権力や技術を巡った世界各地での争いは絶えないし、人の住むこの世界は汚れていくばかり。そんな中、ここ最近で最も注目されているテーマはこれだ。“吸血鬼”。人間の差別に怒り狂った吸血鬼達によって、やはり争いは絶えない。淀みきったここ、東京では、闇に紛れたとある連続殺人吸血鬼を捕らえるべく、4人のヴァンパイアハンターが立ち上がった。


ナオト:ふあぁぁ、おはよ。


ツツジ:おはよ、って......もうお昼よ?


ナオト:え、まじ?もうみんな起きてんの?


ツツジ:えぇ、私はさっき起きたばかりだけれどね。ツトム君は外に調査しに行ってて、ナガレは......


ナガレ:だとしたら動機は...?んん、違う、絶対こうじゃない......でもなぁ、んー......(苛々している様に悩む)


ツツジ:(苦笑)こんな感じ。


虎独(N):『データファイルNo.1、“吸血鬼”。23世紀半ばに発見された比較的新しい生物。発見から数十年間、その数は毎日毎日、徐々に増え続けている。この“吸血鬼”は人間の血液を回復薬や媚薬として摂取する事があり、必要があれば人間を襲う、つまり噛む事もできる。噛まれた人間の殆どは亡くなるが、稀に容姿を変えず吸血鬼と化すことがある為注意が必要。何故なら、彼等が生物的に活動を永久停止できる方法は、頭を潰されるか心臓を撃ち抜かれるか、この二択に限られてしまう為だ。また、吸血鬼は日に長い時間当たると火傷を負ってしまう。人間の血液は、火傷の回復にも効果的だ。』


ナガレ:(溜息)駄目だ、全ッ然分からない。


ツツジ:お疲れ様。コーヒー出来たけれどいる?


ナガレ:あー、近くに置いておいて。


ナオト:折り紙、オリガミ、origami......こんなに捜査しても見つかんないもんか?


ツツジ:まぁ、仕方ないじゃない。正体不明の猟奇殺人鬼......本の中でも、そう簡単には見つからないでしょう?


ナガレ:『史上最恐の吸血鬼』か......


虎独(N):『データファイルNo.2、“origami”。数年前に勃発した世界大戦の終戦後、注目され始めた吸血鬼。10代前半の少女のみを狙った連続殺人は、全てこの“origami”の仕業だと見られる。origamiは少女を噛んだのち、遺体の横に黒い折り鶴を置き去る。シェーレ設立から一年半、現在も調査は続いているが、未だその尻尾は掴めない。』


アモリギ:......ドモ。


ナオト:どぅぁあっ!?ツトム、お前......いつの間に帰ってたんだよぉ。


アモリギ:気配なくてすんませんね......一応、今帰った......筈。


ツツジ:おかえり、ツトム君。調査お疲れ様。


アモリギ:あ、ども......


ツツジ:さ、4人揃ったし、随分と追い込んでるみたいだけれど、みんな一旦休みましょう?


ナオト:へぇい。


ナガレ:まぁ、今強引に考えを進めても分からないか......うん、一回休憩にしよう。


ツツジ:ツトム君も、寒かったし疲れたでしょう?


アモリギ:いや、別に......


ツツジ:そう?


ナオト:あー、こりゃあれだな?強がってんなぁ!?どぉせ、好きな人の前で弱い姿見せらんねぇ〜とかそういうやつだろ?


アモリギ:.......そ、そういうの、いいんで。


ナオト:ちぇっ、つれねぇなぁ。


ナガレ:ナオト、やめてやれ。ツトムが身体震わせてるから。


虎独(N):『データファイルNo.3、“特殊部隊シェーレ”。隊長のクチナワ ナオトとダカツダ ナガレ、ムシクイ ツツジ、アモリギ ツトムの4人で結成された吸血鬼駆除部隊。駆除部隊と言っても、実際の目的は日本各地にある“吸血鬼更生施設”に送り込むこと。元々 origamiのみが対象とされていたが、現在はorigamiを含め人間に有害とされる吸血鬼を更生させる為活動中。』


ナオト:んにしても、シェーレができてもう一年半かぁ。


ナガレ:嗚呼、origamiが現れてから数年......


ツツジ:ちょっと、気が張りすぎなんじゃない?


ナガレ:......そうだね。


ナオト:んー、俺も気が張りすぎてる気がする。


ツツジ:アンタは張らなすぎ!隊長でしょう、しっかりして頂戴よ。


アモリギ:ごめんなさい......


ナオト:んぁ?なんでお前が謝ってんだよ。


アモリギ:い、いや......なんか、人が怒られてるのを見ると、自分も......謝んなきゃって、なる。


虎独(N):『データファイルNo.4、“クチナワ ナオト”。シェーレ結成時、18歳。世界大戦時の役職は軍人。最年少にして隊長を務める程、その腕も頭も非常に優秀である。生まれ持った才能と努力家な性格は、恐らくシェーレを設立した彼の兄、タクミから受け継いだものと見られる。武器は金属バット。最前線で道を切り開きつつ、吸血鬼を殴っていくのが派手で豪快なナオトのやり方らしい。』


ナガレ:(溜息)......origami、オリガミ、折り紙......わからない。


ツツジ:だいぶ悩んでるのは分かるけれど、今は休憩しない?


ナオト:まぁ、悩むのは当然だろ。もう俺らがシェーレを結成して、あいつを探し始めてから一年半だ。一年半だぞ?その上、あの神童なんて呼ばれたダカツダ大先生が導き出せない答えだぜ?余程だ。


アモリギ:......大先生。(少しからかうように)


ナガレ:......(苛々しているような息遣い)


ツツジ:まぁまぁ、からかうのはやめましょう。神童、って言うのは本当だけれど。


ナガレ:どうも。


ナオト:まぁ、俺は休憩の時にも考えちまうような超天才的思考もいいと思うけど〜!


ナガレ:ちょっと黙っててくれ!


虎独(N):『データファイルNo.5、“ダカツダ ナガレ”。シェーレ結成時、21歳。世界大戦時の役職は吸血鬼研究者。武器は遠距離用麻酔銃とピストル。麻酔銃は背中に、ピストルは腰のホルダーに携帯しているがピストルを使うことは滅多に無い。敏捷性びんしょうせいには欠けるものの、彼は銃の扱いに長けているようだ。持ち前の解析力と思考力を生かし、後方から他の隊員に指示を出しつつ、一瞬の隙を見つけてトドメを刺す。いかにも彼らしい戦い方だ。』


ナガレ:......やっぱり、僕は解析に戻るよ。どうしても考えちゃうみたいで。あ、別に話しかけなければここで喋ってても大丈夫だから。


ツツジ:考えてる横で喋る、って言うのもなんだか気が引けるけれど。大丈夫なの?


ナオト:いいんじゃねぇの?あいつ、基本自分の世界に入っちまうと何言っても全く受け付けないし。


ツツジ:そうだけど......


アモリギ:気ぃつかえるとことか......優しいよね、そゆとこ。


ナオト:え!?俺俺ぇ?


アモリギ:(さりげなく舌打ち)


ナオト:あ、失礼しました。


ツツジ:ふふっ、有難うね。ツトム君。


アモリギ:あ......はい。


ナオト:まぁでも、ツツジさんが優しいのはマジだよなぁ。さっき言ってたみたいに気遣いとか半端ねぇし、お姉さんって感じ。


ツツジ:そう?


虎独(N):『データファイルNo.6、“ムシクイ ツツジ”。シェーレ結成時、27歳。世界大戦時の役職は軍医。武器はむち。医者の知識を生かして部隊の治癒係ちゆがかりになると共に、生まれ持つ敏捷性びんしょうせいと身体の柔らかさを使い敵を惑わせながら戦う。ちなみに、同じ戦場に派遣されていたアモリギ ツトムとは今も仲が良い。』


ツツジ:まぁ、おばさんじゃなくて良かったわ。何気に最年長だし。


ナオト:こ、こんな綺麗なお姉様にそんな事言う奴ぁいねぇだろ......(少々怯えた様子で)


ツツジ:あら?声が震えてるわよナオト。


ナオト:い、いやぁ......?なぁ?ツトム、なんか言ってやれよ!


アモリギ:......


ナオト:ツトムぅ!なんか喋って!!!


アモリギ:......


ナオト:(寂しそうに)ツ、ツトムぅ.....?うんとかすんとか言ってぇ?


アモリギ:......すんっ。


ナオト:あぁ!絶対言うと思った!ちがぁう!そういうことじゃなあああい!


ツツジ:(微笑)ツトム君が口を開くのは、大体戦闘の時だけだものね。


アモリギ:......まぁ。


ナオト:ずっと気になってたんだけどさ、そんなに喋るのに抵抗があんのか?


アモリギ:......疲れる。


ツツジ:まぁね。口は災いの元、とも言うしね。


アモリギ:あと......恥ずかしい。


虎独(N):『データファイルNo.7、“アモリギ ツトム”。唯一、偽名で活動する隊員。彼の義理の妹が、origamiの最初の被害者である。シェーレ結成時、23歳。世界大戦時の役職は軍人。武器は金属製のペーパーナイフ。鋭利なペーパーナイフは、小さな見た目とは裏腹に殺傷能力が高い。だがどちらかと言うと彼は守備担当。190cm近いその大きな身体と、人を超越した耐久力で仲間を守る。ちなみに彼は、戦闘時以外は部屋の隅に引きこもっているようだが、密かにムシクイに特別な想いを抱いているらしい。』


虎独:......全員の情報に誤りは無し。見落としも無し......と。


(少し遠くに、楽しそうな声が響く)


ナオト:ちょ、恥ずかしいってどう言う意味だよぉ!


アモリギ:あっ、あぁ......なんでも、ない......


ツツジ:ふふっ、やめてあげなさいよ。


虎独:......楽しそうで何より。面白い情報はこれ以上得られなそうだし、また今度。


(虎独、シェーレの監視を終え立ち去る。視点はシェーレに戻る)

(SE:物音)


ツツジ:......今なんか、物音しなかった?


ナオト:え?なんかあったか?俺ぁ何も聞こえなかったけど。


アモリギ:隊長の声......うるさかった。


ツツジ:気の所為かしら?それなら良いんだけれど。


ナガレ:休憩中に失礼。どうしても行き詰まるから、そろそろ議論に戻りたいんだけれど......良い?


ツツジ:そうね。ナオトとツトム君は?


ナオト:俺は大丈夫だけど?


アモリギ:別に......


ナガレ:有難う。やっぱりどうしても、どうしても分からないんだ。


ナオト:何がわかんねぇんだ?


ナガレ:origamiの動機だよ。裏で儀式的なことが行われてる、なんて事は今の東京じゃあんまり無いし、ただの幼児性虐待者にしては犯行があっさりしすぎてる。別に暴行をした形跡があるわけでもないから、目的は殺す事のみということになるけど......


ナオト:女児になんか恨みでもあんのかな?


ナガレ:それじゃあ、黒い鶴を置いていく理由とは結び付けられない。


ナオト:うーん、成程なぁ。


ナガレ:無知な人間達の差別に反抗して、人を喰い荒らす奴も居るようだけど......origamiは違う気がするんだよ。だって、反抗するだけなら女児に絞る理由がない。


ツツジ:そうね。っていうかそもそも、差別って喰い荒らしてなくなるもの?


ナオト:腹いせだろ。だが、origamiの登場で吸血鬼も人間も今までよりもっともっと混乱してる。差別は止まらねぇし、origamiはますます闇に紛れ込んでいくし......


ナガレ:......何か、見落としている気がするんだ。


ナオト:見落としてる、って?


ナガレ:さっきナオトが言った通りだ。これだけ入念に長い時間調査を続けて、手掛かりがほぼゼロと言っていいほど見つからないのはおかしい。でも、何を見落としてるのか......


ナオト:つまり、これは単純にどっかに住むロリコン吸血鬼がテキトーに獲物みっけてテキトーに襲ってるわけじゃねぇ、ってことか?


ナガレ:まぁ、それはそうだよね。


ツツジ:被害の出た地区は?


ナガレ:全部、今いる事務所から遠くはない場所だ。東京の宵闇になら、うまく隠れる事だってできるんだろう。それにしてもうますぎだと思うんだけれどね。


アモリギ:......


(数秒間の沈黙)


ナオト:すまねぇ、俺ぁパトロールに行ってくる。


ナガレ:僕も同行するよ。調査を続けたいんだ。後の2人はどうする?


ツツジ:嗚呼、私は備品の確認。ツトム君は?


アモリギ:じゃ、じゃあ俺もそれで.......


ナオト:じゃあって......まぁ、行ってくるわ!


ナガレ:また後でね。


(SE:ドアの閉まる音)

(ナオト、ナガレ退出)


ツツジ:よし。じゃあ、確認に行かなきゃ。本当に手伝ってくれるの?


アモリギ:は、はい......


ツツジ:ふふ、有難う。やっぱりツトム君は優しいわね。


アモリギ:あっ、い、いえ......別、に。


ツツジ:全く、照れちゃって。じゃあ行きましょう?


(2人、歩き始める。)

(少し間を開けて)


(SE:歩く足音。なくても◯)


ツツジ:最近、誰かさんが無茶重ねて怪我ばっかりするから、治療道具がどんどん無くなっていくのよね。


アモリギ:隊長はそういう奴......だと、思う。


ツツジ:あははっ、それもそうね。あの子は本当、お兄さんに似て無茶ばっかり。


アモリギ:お兄、さん......?


ツツジ:あら、知らない?彼のお兄さん、タクミさんのこと。


アモリギ:一応知ってるけど......


ツツジ:そう。まぁ、シェーレを作ったのも、ナオトを隊長にしたのもタクミさんよ。それは知ってるわよね。


アモリギ:......はい。


ツツジ:ナオトと似て、かなり無茶する人だったみたいよ。シェーレが出来る少し前、病気で亡くなったでしょう。どうやら、亡くなる直前まで吸血鬼の研究をされていたみたいで、最後会った時は凄く楽しそうな顔をされてたわ。


アモリギ:......


ツツジ:でも、その時の笑顔がどうしても頭から離れないの。やつれてて、目は凄く窪んでて、それでも楽しそうで......「吸血鬼も、人も救える様な素敵な部隊にしてやって下さいね」って言われた。凄く複雑......


アモリギ:......ふぅん。


ツツジ:ナガレなら、タクミさんの後輩だからもっと色々な事を知ってるんじゃないかしら?


アモリギ:そう......ですか。いいなぁ......仲良い兄弟とか......


ツツジ:ツトム君は、孤児だったものね。


アモリギ:そ。一応拾われた先に妹と母さんはいたし、2人とも愛してくれたけど、血ぃ繋がってないし......


ツツジ:......そうね。


アモリギ:......


ツツジ:あ、ほら、着いたわよ。倉庫に来るの、ほぼ初めてだっけ?


アモリギ:あ、はい......


ツツジ:じゃあ説明するわね。えーっと、その前に鍵を開けなきゃ。鍵、鍵鍵......ん?あれ、鍵、どこだっけ?


(ツツジ、ポケットを漁る)


ツツジ:あれぇ、忘れてきちゃったかなぁ。


アモリギ:あ、鍵、俺......ありました。


ツツジ:あぁ!持っててくれたのね。有難う。


アモリギ:はい、どーぞ......


(SE:携帯の着信音)


ツツジ:あら、私だわ。


(ツツジ、電話に出る)


ナガレ:(電話越しに)ツツジさん!origamiの被害者が出た。origamiかどうかはわからないけど、現場付近に怪しい吸血鬼を発見。あの様子から見て、人を噛んだのは確かだ......至急、駆けつけて欲しい!


ツツジ:タイミング最悪......場所は?


ナガレ:GPS繋いでるだろう。今説明する時間がない、兎に角急いで!相手が結構強くて、恐らく僕らじゃ対等に戦うのがやっとだから......!


ツツジ:了解。ツトム君も連れてくわ。


ナガレ:助かる......有難う!


(電話が切れる)


アモリギ:あ、あの......な、なんですって?


ツツジ:吸血鬼だって。そんな急にorigamiが現れる可能性はゼロに近いけれど......一先ず行きましょう。


アモリギ:は、はいぃ......!


(少し間を置いてシーン変)

(ナオトとナガレが吸血鬼と闘っている)

(SE:銃声2発)


ナガレ:くっ、駄目だ隙がない!


ナオト:動きが早ぇ!(息を切らしながら)


吸血鬼:人間なんかに、捕まってたまるかよぉ......!


(ナオトの背後へとまわる吸血鬼)


ナガレ:まずい、ナオト!後ろを取られてる!


ナオト:えっ!?


吸血鬼:これで......!


アモリギ:ウオルァァァ!


(SE:ナイフで斬りつける攻撃音)


吸血鬼:ぐぁっ!?


ナガレ:ツトム、ツツジさん!


ナオト:ツトムナイスだわ......


吸血鬼:ぐ......っ、クソ!


ツツジ:お待たせ。あの2人、やっぱり豪快になっちゃうのね。


ナガレ:仕方ないさ、あの2人は正義感の塊みたいなものだから。君は、負傷者が出た場合と、万が一近距離から僕が狙われた場合に備えて僕の側で待機をお願い。


ツツジ:了解!


吸血鬼:オレは絶対、絶対人間なんかに負けらんねぇんだよ!!一方的に言いがかりつけて弱っちぃ吸血鬼ばっかボコってる、弱いものいじめの人間なんかになぁ!


ナオト:っせぇ!お前、そんなこと言ってるくせに、人噛んでんだろぉが!


吸血鬼:ああ噛んださ!何か悪ぃかよ。


ナオト:それだって弱いものいじめだろうが。それに、いくら回復薬になるからって、そこらの人は噛んじゃダメだろ。越えちゃいけない境界線を越えたようなもんだ。もしお手軽に回復したきゃ、ちょっとお高い血液パックでも買え!


吸血鬼:はぁ!?被害者が加害者殴ってなにが悪ぃ!


ナオト:......どう言うことだ?


吸血鬼:いいか、まずオレぁorigamiじゃねぇ。オレが噛んだのはあんな小さな女じゃなくてよ、喧嘩ふっかけてきたただの男なんだ。そいつ、オレが吸血鬼とも知らずにふっかけてきたもんだから忠告してやったのさ。「血ぃ取られてもいいのか?」ってよ。したらそいつ、なんて言ったと思う?「人の成り損ねは誰かの指先の切り傷でも舐めてろ」......ってさ。


アモリギ:......成り、損ね。


吸血鬼:だから殺っちまったよ。いいだろ?やられたらやり返す。“人の成り損ね”は、そうでもしないと生きていけねぇんだよ。


アモリギ:でも、殺して良いって言う理由にはなんないんじゃないの。お兄さん。


吸血鬼:あ゛ぁ!?


(SE:刃物で斬りつける攻撃音)


アモリギ:い゛っぁ!?


ツツジ:ツトム君!?


ナガレ:いつの間に刃物なんて......!?


吸血鬼:結局、吸血鬼ったって違うのは牙を持ってるか、血を“飲める”かくらいだ。見た目だって、住んでるところだって、なんなら普段食ってるもんだって一緒なんだよ!なのに、なのに変な目でジロジロ見やがって。たったこれだけの違いで!ならさ、もう殺るしか......


(SE:ナイフで刺す攻撃音)


アモリギ:お兄さん、気持ち分かるけどさ。どんな考えを持った奴だって命は命だ。殺して良いって言うわけじゃない。


吸血鬼:う゛......っ、く


アモリギ:嗚呼、あと俺、腕一本斬りつけられたくらいで大人しくはならないから...そこらへん、宜しく。


吸血鬼:くっ......この!


アモリギ:施設に送還される前に、言い残す事は?


吸血鬼:クソ野郎、絶対、絶対......絶対絶対絶対!殺してやらぁああああ!!!!


(SE:銃声)


吸血鬼:う......ぁ


(吸血鬼、倒れる)


ナガレ:別に、施設は悪いところじゃない。少なくとも差別はされないはずだ。だから、それまではゆっくりお休み。


ツツジ:この荒々しさからして、本当にorigamiじゃ無さそうね。


ナガレ:嗚呼。きっとこう言ったタイプにあんな器用な犯行はできないはず。でも、人を噛んだのも本当なんだろう。僕は調査と同時にその被害者を探してくるよ。


ナオト:嗚呼、あんがと。


(ナガレ、その場を去る。間は開けずに)


アモリギ:い゛っ......て


ツツジ:あぁっ、大丈夫?右腕ね、ちょっと見せてね?


アモリギ:あ、ぁ......ども。


ツツジ:うわっ、だいぶ出血が酷い。これでも余裕で立っていられたのは流石ね。まるで人間じゃないみたい。


アモリギ:あ、あはは......ども。実は、結構......痛い、デス。


ツツジ:そうよね、だって凄い血出てるもの。この状態でよく頑張った。よしよし。


アモリギ:(涙目で)あ、ぁ......ひゃいっ......


ツツジ:一先ず止血しましょう。細かい治療は事務所に帰ってからね。


ナオト:ちぇ、いいなぁ。俺もめっちゃ綺麗なお姉さんによしよしとかされてみてぇ。


ツツジ:あら、私って“綺麗なお姉さん”なの?


ナオト:えっ!?いや、んー、どぉだろうな。


ツツジ:えぇー?肯定してくれたら、やってあげようと思ったんだけどなぁー?


ナオト:あ、綺麗、綺麗です!はいっ!


アモリギ:......ツツジさん、は......可愛い。


ツツジ:全く......有難う、2人とも。


(ナオト、不意に空を見上げて)


ナオト:んん?雨雲?今夜は雨か。


ツツジ:そうね。天気予報にも載ってたわよ。


アモリギ:頭痛いの、やだなぁ......


ツツジ:今日は頭痛薬でも飲んで早く寝ましょ。さ、止血も終わったし、雨が降ってくる前に帰るわよ!


ナオト・アモリギ:はぁい......


(少し間を空けてシーン変)


ナガレ(N):その夜は、大雨だった。少し嫌な予感がした。最初の犠牲者が、ツトムの妹が殺された夜も、タクミさんが亡くなった夜も、同じような土砂降りだったから。調査から帰ると、僕は“杞憂だ”と自分をなだめて眠りに落ちた......筈だった。


(SE:雨音)

(SE:銃声)


ナガレ:動くな!


ナオト:な、なんだ!?まだ夜中だぞ!?


ナガレ:ナオト......それ以上部屋に入ってこない方がいい。足元、見てみろ。


ナオト:えっ?


(視線を落とすナオト。その足元には、ツツジが倒れていた)


ナオト:ひっ......!?ツツジさん!?


ナガレ:僕が来た時はもう手遅れだった。外傷は首の小さな刺し傷がふたつだけ。毒を盛られたよう形跡もない。つまり......


ナオト:きゅ、吸血鬼......?


ナガレ:嗚呼。そして、この銃口の先......部屋の隅の影に隠れているのが、恐らく犯人だ。


ナオト:それ、って......?


(SE:銃声)

(発射光が照らし上げた顔は、大きくて前髪に覆われたツトムの顔だった)


アモリギ:ひっ......!?


ナオト:つ、ツトム!?


ナガレ:この大雨の中、今この部屋には足跡がひとつもない。つまり、元々犯人はこの建物の中にいたんだ!さぁ、アモリギ ツトム......全てを話してもらおうか。


アモリギ:......い、嫌だ!


ナガレ:......はぁ?


アモリギ:俺は......俺は!もうこれ以上、誰にも嫌われたくない......


ナガレ:......どういうことだ。


アモリギ:俺は、俺はずっとここが好きだ......みんなが好きだ!だから!これ以上嫌われたくない、失いたくないんだ!


ナガレ:意味がわからない。もしやっていないならそう言えば良い。お前に噛み跡はなかっただろう?


アモリギ:そう、俺に噛み跡はない......噛まれた記憶もない......なのに、なんで俺は吸血鬼なんだよ!


(驚くナオト、ナガレ)


ナガレ:だが、吸血鬼同士での自然繁殖は出来ない筈だ。だとすれば、お前は一体どうやって吸血鬼になったんだ?


アモリギ:知るか!俺だって、なりたくてなったわけじゃない......いつからなのかもわからない。人を襲う気なんてはなっから無かった。それなのに......なのに!俺はずっと、この変にデカい身体と種族のせいで、散々忌み嫌われてきたんだ!


ナガレ:......何故ツツジさんを殺した。


アモリギ:何故......はは、なんでだろうなぁ。ツツジさんに“まるで人間じゃないみたい”って言われた時、すごくゾッとしたんだ。吸血鬼であるということが、いつまで隠し通せるかわからなかった。俺は嫌われるのが何より怖い。怖いんだよ!嫌われるくらいなら、そう......この幸せのまま終わりたい。


ナオト:そんな動機で!


アモリギ:うるせぇ!お前らにはわかりっこない。正義の中に生き続けてきたお前らにはな!嫌われるくらいなら、殺してしまえ。俺は何よりも怖かったんだよ。嫌われることが......でも、嫌われる恐怖が無くなった途端、殺した恐怖が膨らんでいった。人間は誰しも、怖いもんのひとつやふたつあるだろ?俺らだって一緒だ。人間だって、誰しも怖いもんから逃げたいと思うだろ?俺らだって一緒だ!


ナガレ:お前の妹を殺したのは、お前自身か?


アモリギ:嗚呼......あいつか。あいつのことも好きだったんだよ、俺。変な感情を抱きっぱなしでそりゃもう恥ずかしかった。でもやっぱり、どうしても吸血鬼ってもんは世の中には受け入れられなくて......あいつが向ける無邪気な笑顔が辛くなって......怖くなった。その笑顔が消える時を思い浮かべたその瞬間が、初めて“好き”を“嫌われたくない”という気持ちが追い抜いた瞬間だった......


ナガレ:他の犠牲者は?直接お前とは関わりなんてなかったろ。“origami”は何故他の犠牲者を出した?


アモリギ:知らない......でも、俺はずっと“origami”を追いかけてたかったんだよ。どんなに架空の存在を追っかけていようと、こうやってみんなと一緒に正義に塗れている時は少しだけ自分が許される気がした。生きる事を許される気がした。悪いか!人間だって所詮そんなもんだろ!誰だって自分の罪を認めたくないだろ、そうだろう!


ナガレ:今、お前が僕らにそれを話してくれたということは、僕らを少しでも信用してくれていて、なおかつ贖罪の意がわずかながらも残っている証拠だ。罪から逃れたいのは誰しもそうだが、だからといって罪もない人々を蹂躙じゅうりんして良いことにはならないんだよ、ツトム。......悪いようにはしない、一緒に施設へ......


アモリギ:嫌だ、絶対に嫌だ!俺は、もう誰にも嫌われたくない!!


(アモリギ、逃走を試みる)


ナオト:おい待てツトム!!!


(SE:銃声)

(SE:弾切れ)


ナガレ:クソ、弾が!


ナオト:あいつ、こんな雨の中外に......追うぞ!


ナガレ:嗚呼!警察にも連絡を入れる。アモリギ ツトムを追え!


(少し間を空けてシーン変)


ナオト(N):その日は夜通し捜査が行われたが、結局ツトムが見つかることはなかった。更に朝方、俺らが事務所に帰ると、床に横たわっていたはずのツツジさんの遺体が無くなっていた。ツトムがさらって行ったんだろう。全くあいつ、どこまで身勝手なんだ......


(SE:ドアの開閉)


ナガレ:......


ナオト:なぁ......帰って早々、アレなんだが......ツトムはいつ吸血鬼になったんだ?赤ん坊の頃に噛まれたとしても、噛み跡は残るんだろ?吸血鬼同士の自然繁殖も今んとこ......


ナガレ:......


ナオト:......わ、悪ぃ。


ナガレ:......研究所から、逃げ出してきた可能性は?


ナオト:......え?


ナガレ:勿論、今のセキュリティ技術でそんなことがあり得る筈はない。だが、ごく稀にあるんだ、研究所から、被検体の吸血鬼が逃げ出してしまうことが。あいつらなら、噛み跡はない。それに......


タクミ(N): 今でも時々夢の中に見るんだ。あの赤く怯えた様に光る目と、成長し過ぎてしまった大きな体。ちりちりの黒髪に青白い肌......


ナガレ:......ひとつだけ、思い当たる節がある。もし僕の予想が当たっていれば、全てが繋がる。やはりあいつがorigamiと見て間違い無いだろう。


ナオト:そう、か。


ナガレ:僕は警察の連絡を待ちつつ、自分でももう一度捜査に当たってみるよ。何か報告があったらすぐに連絡して。じゃあ。


(ナガレ、退場)


ナオト:......俺ら、どうすりゃよかったんだろ。


(少し間を空けてシーン変)

(薄暗い路地裏を走るアモリギ。その腕の中にはすでに、ツツジは居なかった)


アモリギ:(息を切らしながら)もっと、もっと遠くに逃げなきゃ......もう日が登ってる、けどここなら暗いし......


(不意に、誰かが彼の目の前に降り立つ)


虎独:おやぁ?お兄さん、1人?


アモリギ:ヒィッ!?


虎独:あーあー、驚かれちゃった。そんなに身体はでっかいのに、案外気はちっちゃめ?まぁそういうのも嫌いじゃないけど。


アモリギ:だ、誰......警察?


虎独:えぇ?警察?......あっはっはっはっは!!!!


(暫く何故か大爆笑し続ける虎独。アモリギは困惑する)


虎独:ふふっ、お兄さん、ほんっと面白い......警察がこんなにすばしっこいわけないじゃん!てか、この格好見て?どう考えても警察なわけないでしょ。


アモリギ:た、確かに......じゃ、じゃあ、誰?


虎独:うーん、そうだなぁ。“何でも屋忍者”ってところ?


アモリギ:な、何でも屋、忍者......?


虎独:そ。何でも屋やってんの。忍者ってのは、闇に紛れるすばしっこいやつ!っていう意味ね。かっこいいだろ!


アモリギ:は、はぁ......


虎独:勿論、実績多数!浮気の証拠探しから殺人の証拠隠滅まで、何だってやっちゃうんだぜ?


アモリギ:そ、そうなの......?


虎独:お兄さん、さっきからすっごく急いでるみたいだったけど......もしかして、誰かから逃げてる感じ?そうでしょ、そうなんでしょ!


アモリギ:え、あぁ......ハイ。


虎独:ふぅーん?その話、ちょっと聞かせてよ。


アモリギ:え、えぇ......?なんで......


虎独:力になれるかもしれないから。ね?


アモリギ:でも、誰の味方かもわからないのに......


虎独:なぁに言ってんのさ!ボクは誰の味方でもない。ずーっと1人、ずーっと孤独!それがボク!んさ、ここに居たっていずれは見つかる。折角だから、ボクのアジトにご招待して差し上げよう!“origami”さん。


アモリギ:ひぃっ......!?


虎独:(おかしそうに笑って)言ったろ?ボクは誰の味方でもない。別にお兄さんを警察に突き出すつもりは無いし、仕事の依頼をしてくれれば何だってできる。例えばそう......お兄さんをあの優秀な“特殊部隊シェーレ”から逃してやる、とかね。


アモリギ:で、でも......依頼ったって、お金ないんです......


虎独:お金ぇ?お金なんていらないさ。大抵、こんなちびっ子に依頼なんてする奴らに金はない。だからボクはいつも、ボクが欲しいものをもらってる。


アモリギ:身体で......とか?


虎独:違う違う。ボクはそんなに下衆じゃない。ボクはその人しか持ってないものが欲しいんだ。例えば何かの専門家だったらその専門知識をもらうし、自分に持ってない技術を持ってる人であればそれを貰う。でも......お兄さん。アンタは、ボクが今まで会った誰よりも特別だ。


アモリギ:お、俺が......特別?


虎独:その通り。丁度、お兄さんから欲しいものがあってさ。


アモリギ:な、何......?


虎独:情報、だよ。特殊部隊シェーレのさ。


アモリギ:!?


虎独:なぁに、減るもんじゃないだろ?どっちにしろある程度シェーレについて知っておかないと、お兄さんを逃すことはできないし。それに、もう逃げる身だ。別にここでちっぽけな情報をひとつふたつボクにくれたって、なんの損もないだろ?


アモリギ:ま、まぁ......


虎独:どう?ボクがお兄さんをここから逃がす代わりに、お兄さんからは特殊部隊シェーレの情報を貰う。結構平等だろ?


アモリギ:......本当に、ここから逃がしてくれるんですか......?


虎独:ボク、約束は守る主義だから。


アモリギ:じゃ、じゃあ......よ、よろしく、お願いします。


虎独:はい契約成立ぅ!んじゃ、そんなわけでボクのアジトにレッツゴー!


アモリギ:え、ほんとに、いいの?


虎独:だって、相手の動向を掴めなきゃどっちみち逃しようがない。むやみやたらに東京から逃したって、そんじゃ不公平だろ?だから、しばらくの間うち......というか、ボクのアジトに泊まっていけばいいよ。誰かに存在を教えたことすらないけど、お兄さんはさっき言った通り、特別だからね。


アモリギ:と、特別......(少し嬉しそうに)


虎独:そ。んじゃあお兄さん、ついてきて!


(少し間を開けてシーン変)

(SE:重いドアの開閉)

(2人がやってきたのは小さい廃病院。鬱蒼とした空気が辺りには流れる)


アモリギ:ね、ねぇ、ここ、本当に合ってるの......?廃病院......じゃん。(少し怯えたように)


虎独:あれぇ?吸血鬼って暗いところが好きなんじゃないんだ。


アモリギ:偏見......


虎独:まぁ、暗い方が都合いいでしょ?日中も日は当たらないし、ランプをつけりゃ生活はできる。それに、そっちの方が見つからないしね。


アモリギ:そ、そう......


虎独:んで、ここ1階は消毒液とか包帯とか、治療道具全般が揃ってる。薬に関しては全部期限切れてるだろうけど、案外使えるんだ。


アモリギ:そ、それ、大丈夫なの......?


虎独:知らない。でも、使えるもんは使わなきゃやってらんないよ。


アモリギ:そ、そうなの......あ、俺どこに居ればいい感じ、ですか?


虎独:2階にちっちゃいけど入院スペースがある。ボクもそこに寝るけど、それでもよかったら使って。


アモリギ:あ、な、慣れてるんで大丈夫......


虎独:そう。それならよかった。


(虎独、薬品の並べられた棚を漁る)


虎独:えぇーっとぉ?確かここらに......あっ、あったあった。


(虎独、注射器を取り出す)


アモリギ:な、なにその注射器?


虎独:ん?あぁ、これ?わかんない。


アモリギ:わかんない!?


虎独:うん、わかんないよ。でもこの注射を打つ事で......


(虎独、顔を歪めながら衣服の隙間から注射を打つ)


虎独:......ッ!理想の中に生きることができる。


アモリギ:な、何か病気だったりするの......?


虎独:いぃや?別に。ただ、特殊な事情で筋力と体力があまり無くってさ。これでも回復はした方なんだけど、やっぱり忍者って名乗るからにはかっこよく動きたいじゃん?


アモリギ:そ、そなの......大変、だね。


虎独:お兄さんはいいよね。身体おっきいし、声も低いし、強そうで。ボクの欲しい物、全部持ってる。


アモリギ:......身体が大きくて良いこと、無かったよ。


虎独:そうなの?意外。ボクは逆に、ちっちゃくて声も高いから何も良い事なかったなぁ。


アモリギ:そなの......?意外。


虎独:おんなじ事言ってんじゃん!


アモリギ:ヒヒッ、本当。


虎独:(溜息)大きすぎたって、小さすぎたって、良いことは無いんだろうね。難しいな、世界って。


アモリギ:あ......そういえば、名前、なんて呼べば良いか、聞き忘れた。


虎独:ボク?ボクは虎独コドク。あ、トラって言う字にひとりのドクでコドク。


アモリギ:あ、その、俺、アモリギ......


虎独:アモリギ ツトムでしょ?知ってるよ。そんくらい。


アモリギ:!?こわ......


虎独:当然だよ、特別な客だから。


アモリギ:さっきから言ってるそれ、ど、どゆこと......?


虎独:......いずれ分かるよ。ボクは少し外に用があるから、先休んでて。薬品類は何使っても良いけど、どうなっても知らないよ!


(虎独、退場)


アモリギ:えっ、あっ、ちょ......行っちゃった......怖い人。


(少し間を開けてシーン変)


ナオト(N):ツツジさんが亡くなって、1週間が経った。未だツツジさんの遺体も、ツトムも見つかっていない。俺は前より率先して捜索に出るようになったが、ナガレは変な時間にふらふら出かけていったり、1日中寝ずに何かを悩んでいたりと、少し精神を病んでしまったように思えた。


(SE:ドアの開閉)


ナオト:た、ただいま......?


ナガレ:......おかえり。


ナオト:お前、ちょ、クマすげぇぞ!?大丈夫かよ本当に。


ナガレ:大丈夫そうに見えれば良いんだけど。


ナオト:......悪かったな。


ナガレ:いや、別に。ところでさ、ナオト。


ナオト:んん?


ナガレ:......人間や吸血鬼に、やり直せないことってないと思う?


ナオト:......ぇ?


ナガレ:いやぁ、ね。昔、ボクの恩師がそう言ってたからさ。“罪を犯す全ての生き物にやり直せないものはない”って。


ナオト:それ、もしかして俺の兄貴?


ナガレ:そ。ずっと納得出来ずにいるんだ。ツトムのことも、タクミさんの言ってた言葉も。贖罪をしたって、死んだ人はもどらない。傷は勝手に癒えたりしない。じゃあ、贖罪の意味って何だ?償う意味は何だ?


ナオト:(溜息)お前も兄貴もそうだけど、変に考えすぎなところあるからなぁ。


ナガレ:じゃあ、分かるの?ナオトには。


ナオト:わかんねぇよ。俺はそんなに頭良く無い。ただ、周りがそうだったからそうしてきただけ。いつの間にか、自分の中にもそうしなきゃって言う考えがあったからそうしてるだけ。


ナガレ:今までそうはいかなかったから今こうやって悩んでるんだろうが!!!


(ナガレ、大声で怒鳴る。ナオト、驚いたように目を見開く)


ナオト:......


ナガレ:......ごめん、僕、ちょっとおかしくなってる。本当、ごめん。一旦外の空気を吸ってこようかな。


ナオト:あ、あぁ......いってらっしゃい。


(SE:固定電話の着信音)


ナガレ:電話?誰から?


ナオト:俺が出るわ。もしかしたら、ツトムの目撃情報かもしれねぇ。


(ナオト、電話に出る)


ナオト:はい。特殊部隊シェーレです。あ、クチナワ?俺ですけど。え、あ、お世話になってます。はい、はい......え゛ぇ!?


ナガレ:え?大丈夫?


ナオト:はぁ!?お前、管理どうなってんだよ!クソ、話にならねぇ、こっちで探す!じゃあ!!!!


(ナオト、怒った様子で受話器を投げる)


ナガレ:どうした?


ナオト:(溜息)最悪、最悪最悪。ツトムを全力で探したいところだが......無理だ。タイガが逃げた。


ナガレ:え?は?た、タイガ?逃げたとは?


ナオト:俺の双子の弟だよ、クチナワ タイガ!


ナガレ:お前......弟、居たんだ。知らなかった......


ナオト:そうか、会ったことないか。言ってもないよな。俺と一緒に戦争で戦ってたんだよ。んで、帰ってきたあと目の前で兄貴が死ぬのを見たきり、かなり病んじゃって。精神病院に入院させてたんだが......今、それが失踪したって言う連絡が来た。


ナガレ:現代のセキュリティでも逃げることがあるのか。


ナオト:システムのほんの僅かな隙をついて脱出したらしい。......クソ、本当にどうなってんだ。


ナガレ:まずい、ツトムの事もあるのに。


(ナオト、少し迷った末に口を開いて)


ナオト:俺に残された、最後の家族だ。勿論、ツトムの捜索は続ける。けれど......タイガのことも、探させてくれ。


ナガレ:嗚呼。僕はナオトがタイガ君を探しやすいよう、全力でツトムの捜索にあたるよ。


ナオト:お前、大丈夫なのか?


ナガレ:......大丈夫であろうとなかろうと、そうしなきゃいけないんだ。また新たな犠牲者が出る前に。


ナオト:ツツジさんの遺体も探さなきゃいけねぇのに......


ナガレ:そう......だね。そうか、ツツジさんか。それも、僕が何とかするよ。


ナオト:え、いや、まじで無理すんなよ。良い加減ぶっ倒れるぞ。


ナガレ:僕がそうしたいと思って動いているから良いんだ。そんな事より、ナオトは早くタイガ君を探して。


ナオト:......お、おぅ。


ナガレ:僕は、捜索に出るよ。じゃあまた。


(SE:ドアの開閉)


ナガレ:(溜息)......と、いったものの、確実に信頼できるあてがあるわけじゃないしなぁ。いや、誰も絶対に信頼は出来ないか。


虎独:お兄さぁん?どぉも。


ナガレ:!?なんだ、君か......


虎独:元気してる?


ナガレ:......そう見えるか?


虎独:いぃや?全く。寝てないっしょ、お兄さん。


ナガレ:よく分かったな。と、いうか、ここは事務所の前だ。場所を変えないか?


虎独:別に良いけど、そんなに時間かかる用事じゃないよ?ま、そっか。こんな事がバレちゃったら、お兄さん大変だもんね。


ナガレ:うるさい。もう、出来ることは全てやらなきゃいけない段階まで来ている。君に頼るのだって、仕方がない事なんだよ。きっと。


虎独:まぁねぇ。あそこまで逃げられちゃね。


ナガレ:......で?何をしに来た。


虎独:ただ顔見に来ただけ。あと、少しだけ報告。


ナガレ:と、いうと?


虎独:依頼の件。お兄さん、ほんっと面白い依頼するよね。過去1だよ。でもその分だいぶ大変でさ。んま、かなり頑張った結果、明日あたりには良い報告ができそうだ。


ナガレ:早いな。まだ会って2日程だろ?


虎独:忍者だからね、すごく仕事は早いつもり。


ナガレ:そう、か......有難う。僕の身勝手な願いを叶えてくれて。


虎独:身勝手な願い?何言っちゃってんの。これはちゃんとした契約、アンタの一方的な押し付けがましい願いじゃない。


ナガレ:いや、充分に身勝手だ。会って数日の奴を信じる程に。


虎独:......お兄さんさ、なんか優しさが滲み出ちゃってるよね。もっと自己中なもんじゃないの?人間って。


ナガレ:僕は自己中心的だよ。ツツジさんを守れなかった上にナオトのことはこうやって裏切って、さらにツトムは捕まえられてない。なんなんだ、僕は。


虎独:いいんじゃない?別に。好きな人を守ろうとしていた意思はあったんだし。


ナガレ:......何で知ってるんだ。


虎独:ありゃ、否定しないんだ。まぁそのくらいわかるよ。お兄さん、案外可愛いところあるしね。片思いの相手を幸せにするために別のやつに譲ったら、それが裏目に出ちゃったって感じ?


ナガレ:全部お見通しだな。人の心を抉って楽しいか?


虎独:違うよ、お兄さん。これは慰めだ。お兄さんには大事な人を守ろうとした意思もあるし、今こうして僕に依頼をしたことは別に裏切りでも寝返りでもない。それにアンタ、今自分の身体駄目にしてまで探し出そうとしてるんだろ?逃げ出した自分の仲間を。お兄さん、考えすぎ。悪いこと何もしてないから。10しか出来ない体に100は出来ないんだよ。それこそ......そう、ヤクでもやらない限りはね。


ナガレ:(乾いた笑い)それもそうだね。


虎独:それに、過去には戻れない。お兄さん頭いいんでしょ?ならもっと効率よく考えなきゃ。


ナガレ:嗚呼......有難う。


虎独:話は終わり。えーっと?例の人を探しに行くんだっけ。


ナガレ:......聞いてたのか。


虎独:まぁね。抜かりないのがボクだから。


ナガレ:本当。じゃ、行ってくる。


虎独:はいよ。


(ナガレ、退場)


虎独:......んにしても僕、何気に結構良いこと言ってない?“10しか出来ない体に100は出来ない”か。(悔しそうに笑って)これほどのブーメランは無いだろうな。


(アモリギ、建物の影から現れる)


アモリギ:ねぇ、誰と話してたの......?


(虎独、急に声を冷たくして)


虎独:やぁ、居たんだ。......いつから?


アモリギ:ヒェッ......い、今。


虎独:......見た?


アモリギ:いや、誰と話してたかはわかんなかった......


(虎独、アモリギの言葉を聞いた途端にまたいつもの明るさを取り戻す)


虎独:なぁんだ、それなら良いや。因みにさっきの人は、別の依頼者って感じ。


アモリギ:そ、そなの......掛け持ちとか、できるんだ。


虎独:そりゃぁそうでしょ。ボクは、アンタのおり係じゃ無い。


アモリギ:そう、だよね......今、どれくらいいるの......?


虎独:今はツトム含めて3人。しかも皆んなだいぶ変わった依頼ばっかだから、大変で仕方ないよ。まぁ、でも欲しいものを手に入れるにはこのくらいやらないとね。


アモリギ:何が欲しいんだろ......


虎独:それは今度のお楽しみ。ってか、1人で歩いてきたの?今は夜で暗いからいいけど、日に焼けるし警察が彷徨いてるから外出るなって言ったのに。


アモリギ:ご、ごめん......なさい。


虎独:それにここ、シェーレの事務所の真ん前だよ?捕まりに来た様なもんでしょ、それ。


アモリギ:でも......その、1人が嫌で。


虎独:くふ......っ、あっはっはっはっは!なにそれ!子供?


アモリギ:う......うるさいぃ......


(虎独、笑いながら途切れ途切れに言葉を連ねる)


虎独:ふふっ、ごめん、多分ボクより年上なのに、可愛いとこあるなって......


アモリギ:......


虎独:でも、確かに1人って怖いよね。暗いところに1人。そういうのって、嫌い?


アモリギ:......そう、大っ嫌い。1人が何より嫌い。本当に、孤独になっちゃったみたいで。


虎独:孤独、かぁ。でもさ?ボクらって、産まれてから死ぬまで、ずっと独りなんだよ。双子でも無い限り、母さんの腹の中だって1人。死ぬ時も、誰かを連れてはいけない。そう考えると案外楽じゃない?


アモリギ:......そう、かな。


虎独:そう!だから別に、1人でいることは何も変なことじゃ無い。安心していいよ。


アモリギ:そ......っか。


虎独:さ、独りぼっち同士、一緒に帰ろう。変な奴らに絡まれたらそれはそれで厄介だからね。


アモリギ:......うん。


(SE:足音)

(数秒開ける。2人、暗い路地を歩く)


虎独:そういえば、その“アモリギ ツトム”って名前。ツトム自身がつけたの?


アモリギ:あ、うん......もともと名前なんて無かったようなものだし......孤児として引き取られた俺じゃなくて、1人の俺として生きたかったとか言ってみる......


虎独:へーぇ?なかなか気が合うなぁ、ボク達って。まぁ虎独も当然本名な訳ないんだけど、偽名で活動してるのは結構おんなじ理由。まぁ、ボクには名前があったけどね。


アモリギ:そ、そなの......


虎独:それに、もし本当にアンタがつけたんなら......偶然か意図的かは分からないけど、ちょっと面白いね。その名前。


アモリギ:え......?な、なんで......?


虎独:アナグラムだろ?“ORIGAMI”の。並べ替えたら“AMORIGI”になる。


アモリギ:ヒッ......!?そ、それあんま大声で言わないで......


虎独:その反応は意図的だな?なら尚更......アンタ、ボクよりもうんとマシな人間だと思うよ?


アモリギ:え......?


虎独:アンタがシェーレに入ったのは、ただ単に罪から逃げ続けるためじゃ無かったのかもしれないね。んま、ボクにはそんなこと関係ないけど!


アモリギ:......


(SE:重いドアの開閉)


虎独:さぁて、ただいまっと。もう夜も遅い、明日に備えて休んでおいた方がいいんじゃない?


アモリギ:え、明日、何かあるの......?


虎独:さぁ?どうだろうね。


アモリギ:......そ、そっか。じゃ......


(アモリギ、退場。1、2秒開けて)


虎独:明日、アンタが笑うか泣くか......ボクは、楽しみで仕方ないよ。


(少し間を開けてシーン変)

(次の日、早朝)


ナガレ:おい、ナオト。起きろ......起きろ!


ナオト:んん......?まだ1時間も寝てないんですけど......


ナガレ:“origami”について、先程電話で目撃情報が入った。


ナオト:何!?


(ナオト、飛び起きる)


ナガレ:相手は匿名、声はボソボソしていてあまり聞き取れなかったが、恐らく男だろう。


ナオト:場所は?


ナガレ:それが、随分具体的なんだ。三丁目の路地裏にある廃病院との事だけれど......そんな所に廃病院がある事自体、今初めて知った。


ナオト:俺もだ。......罠か?


ナガレ:恐らく。だが、相手は“ツトムの”ではなく“origamiの”目撃情報を寄越して来た。origamiの正体を知っているのは、ツトム自身か警察か......罠であっても、ツトムが直接絡んでいる可能性が高い。


ナオト:行ってみるしかねぇな。


ナガレ:嗚呼!


(少し間を開けてシーン変)

(2人、廃病院を前に立ち止まる)


ナオト:すげぇ......マジで廃病院がある......


ナガレ:見た感じ、大きな病院じゃなかったみたいだ。今の時代でも、こんなに整備されてないところなんてあるんだね。


(SE:重いドアを開ける)


虎独:どぉもぉ......?


ナオト、ナガレ:!?


虎独:あ、急に開けちゃったからびっくりした?ごめん、お二人さん。


ナオト:お前......ッ!


虎独:(遮って)しっ。そういうことは後でいいの。ボクはアンタらをとっ捕まえたり拷問したりする気は一切無いから、気楽に入っちゃってよ。


ナガレ:......ツトムの件は、嘘か?


虎独:さーぁ?そりゃ自分の目で確かめたら?


(重いドアを閉める)

(3人、中に入る。アモリギと遭遇)


アモリギ:ヒィィッ......!?な、なんで2人......


ナガレ:ツトム!?


ナオト:目撃情報は、嘘じゃ無かったってことか。


虎独:サプラーイズ。驚いたでしょ、3人とも。因みに情報を送ったのはボクでーす。


アモリギ:虎独......依頼の内容はどうした......


ナガレ:依頼!?お前、まさかこいつに依頼を......!


虎独:あららぁ?依頼の重複にご立腹かい?


アモリギ:こ、虎独のことを知ってるってことは、やっぱり、事務所の前で話してたのは......!


虎独:そゆこと。言っただろ?ボクは誰の味方でもない。


ナオト:どういうことだ?俺だけ何にもわかってない。ただ、ひとつわかるのは......こいつは、コドクなんて名前じゃない!


アモリギ:......は?


ナガレ:え?


ナオト:こいつは、タイガ......俺の双子の弟だよ!


虎独:あーあ、ネタバレしちゃったよ。


ナガレ:ちょっと待て。状況があまりにも複雑だ。説明してくれ、虎独。全てを知っているのはきっと、お前だけなんだろう?


虎独:嗚呼、そうだろうね。もういいや、本当はもうちょっとミステリアスに説明しようと思ったけど、バラされちゃったし。


(虎独、溜息を吐いて話し始める)


虎独:まず依頼者の件から。ボクは今、3人の依頼者から依頼を貰っている。そのうちの2人が、アモリギ ツトムとダカツダ ナガレ。ツトムからの依頼は、“此処からツトムを逃がすこと”。で、ナガレからの依頼は、“ムシクイ ツツジの遺体を探してシェーレの事務所に戻すこと”だった。若干手間取ったけど、どちらもボクにとっては簡単な依頼......な、筈だった。3人目の依頼者が現れるまでは、ね。


ナガレ:まさか、3人目の依頼者も僕らに関係する人物なのか?


ツツジ:その通り。まだ、彼のサプライズは終わってない。


(虎独、ツツジ以外の3人、驚きに息を呑む)


アモリギ:ツツジさん......!?


ナオト:どういうことだ。ツツジさんは、確かに死んだ筈。ツトムに噛まれて!


ナガレ:待てナオト......そうだ、ツツジさんは吸血鬼に噛まれて絶命した......つまり。


ツツジ:稀に、吸血鬼の被害者は吸血鬼として息を吹き返すことがある。私は恐らく、ツトム君に埋められた後、その場で吸血鬼として生き返ったのね。


虎独:多分そんな感じ。ツツジの依頼は、“逃走したツトムを探し出し、もう一度ツツジと引き合わせること”。遺体は見つからなかったけど、ツツジ自身は見つかった。ボクがナオトの弟であることを言ったら、すぐに信じたよ。


ツツジ:信じるしか無かったのよ......急に事務所に帰って混乱を招くわけにもいかなかった。本当は、こうして2人の前に出る予定もなかったの。けど、虎独が来て欲しいって言うから...


虎独:嗚呼、驚かせたくってさ。んで、今ナガレとツツジの2人の依頼が完了した。別にここの4人を一気に引き合わせる必要はなかったけど、これはボクのちょっとした事情があってね......さっきナオトが言ってた、ボクの正体の件についてだ。


(虎独、咳払いをする)


虎独:そんな訳で、改めて自己紹介をしよう。ボクは、確かに虎独じゃない。ボクはそこにいるクチナワ ナオトの双子の弟、クチナワ タイガであり......特殊部隊シェーレの、5番目のヴァンパイアハンター。そうだろ?隊長。


ナオト:......嗚呼、その通り。


虎独:元々、兄貴......タクミは、ボクもシェーレのメンバーにして5人で活動させるつもりだった。けど兄貴の死後、隊長様が独断でボクを精神病院にぶち込んじゃったからシェーレは4人になったって感じ。


アモリギ:隊長に、双子の弟なんていたの......


虎独:やっぱり?みんなそう言うよねぇ。まぁ、二卵性だし顔も声も似てないしねぇ。隊長ったら、ボクのことを誰にも言ってなかったんだろ?


ナオト:隠してた訳じゃない!


虎独:なぁに焦っちゃってんの。別にそんなことで怒らないよ、ボクは。それに、そのお陰で綺麗なお姉さんに近づくことができたしね。


ナオト:ツツジさんに......?


虎独:嗚呼。どうにかしてそこの3人から依頼を受けたいと思った時、1番の問題は“依頼をよこしてもらえるほどの信頼”だった。ツトムもナガレも、どちらも追い詰められた状態だったから良かったけど......ツツジは違う。そこで考えたんだ、“いっそ、正体を明かしてしまったら?”。ナガレはナオトを経由してボクが精神病院から逃げたことを知るかもしれないし、ツトムはボクの正体を知ったところでシェーレの仲間と勘違いしてボクを警戒するだけだ。だが、ツツジなら正体を明かしたってシェーレの2人と接触することはないから、ボクが逃走したことを知る由もないし、正体を明かすことである程度の信頼を得られるって訳。


ナオト:何故そこまでして、俺を除いた3人の依頼を受けたがった?


虎独:......アンタに会うためだ、って言ったらどうする?ナオト。


ナオト:......!?


虎独:ボクは、病院から逃げてからずっと、アンタに会うためだけに依頼をこなして来た。ツトムの逃走で、やっとそのチャンスが巡って来たんだ。逃すわけにはいかない。“origamiが出た”なんて言えば、アンタは確実に来る。そうだろ?


ナオト:くっ......!


(ナガレ、ふと辺りを見回す。いつの間にか、アモリギの姿は消えていた)


ナガレ:待て、ツトムがいない。


ツツジ:嘘!?


虎独:あーあ、ボクの長話に飽きてどっかに逃げちゃった。ほんと、逃げ足だけは速いよねぇ。何処行ったか知らないけど、今追ったら追いつくんじゃない?


ナガレ:悪い、ナオト。僕はツトムを追う!


ツツジ:えぇ、私も!


(ナガレ、ツツジ退場)


虎独:ふふん、3つ目の依頼完了。ボクは、約束は守る主義だからね。


ナオト:......なんで病院から逃げた、タイガ。


虎独:なんで?そっか、ナオトは何にも知らないんだね。


ナオト:何も?そんなことはない。たった1人の家族だぞ?大事な大事な双子の弟だぞ?何も知らないわけがない。


虎独:へーぇ?本当かな。まず、2人きりになって1番最初にする質問がそれじゃあなぁ。ま、いいけど。そもそもの話、ボクがいつ逃げたかも知らないでしょ。


ナオト:いつ......?電話があったのがつい昨日だが。


虎独:昨日?ほぉ、昨日か。ボクが逃げたのは半年前、アンタがまだ普通にorigamiのことを追ってた時だよ。病院側はずっと気づかなかったか、隠してたかじゃない?


ナオト:あの病院が!?あそこに限ってそんな事はない。俺は、信用できるところに預けた筈だ!


虎独:あっそ、そう言う反応なんだ。まず1番信用しなきゃいけないのは誰?大事な大事な双子の弟なんじゃないの?ボクは、嘘だけは吐かないよ。あの病院は外面そとづらだけ良かった。アンタが吸血鬼絡みの仕事をしてるって知って、“実は吸血鬼に噛まれてるかもしれない”とか、“いずれ患者たちを襲う気だ”とか。ベッドの上に縛られたまま、点滴つけられて放置だよ。システムの隙をつけたのは、アイツらにボクへの関心が無かったから。ある意味感謝だね。


ナオト:......そんな事があったのか。


虎独:あ、やっと信じた?ここでやっとか。まぁ、逃走してから半年も連絡がない事は察しがついてたけどね。ボクは、アンタに会いたくてずっとシェーレを追って来た。依頼者から情報を少しずつもらったり、自分で実際に追ってみたりした結果、その情報を“データファイル”というものにまとめられるほどにはね。メンバーの年齢や所有する武器は勿論、性格や攻撃パターン......何から何まで、全部今日のために!


ナオト:そこまでして俺に会いたがる理由は?


虎独:そんなの山ほどあるさ。聞きたい事も伝えたいこともある。アンタに会って、かつアンタがボクの話をきちんと聞き入れてくれる状況を作れればなんでも良かった。素直に言う、言ってやる。アンタは、一方的な慈悲を優しさだと思い込まない方がいい。


ナオト:どう言う事だ?


虎独:確かにボクは、兄貴を失ったショックと戦争中のトラウマに悩まされて一度は精神を病んだ。確かに、ヴァンパイアハンターとして動ける状況じゃとても無かった。だけどな!立ち上がろうと努力してた、アンタみたいに強くなろうとしてた!ボクは声も高いし身体も小さい。そういうコンプレックスを消してしまうくらい強くなろうと、努力してた!なのに......なんでアンタはそれを全部無視して病院に送り込んだんだよ。なんで、ボクの努力を見てくれなかったんだ!


ナオト:......見てたさ。充分に見てた。でも、まだ戦える状態じゃ無かっただろ?俺には面倒を見る時間もなかった。だから精神病院に預けたんだよ。まさか......そんなことになっているとは知らなかった。


虎独:そう言うところなんだよナオト!面倒を見る?病院に預ける?ボクは子供じゃない。アンタと同じ19歳だ!産まれた時間は1時間と違わない。それなのに......なのに!お前は親にでもなったつもりか!ボクは自分で生きられる、ボクには自分の生き方がある!アンタが良かれと思ってボクを病院に預けたのはわかってる。だが、さっき言った通りだ。中途半端な愛は、一方的な慈悲は、決して優しさなんかじゃない。相手のことをわかってるつもりでいる事が、1番相手を苦しめる。


ナオト:......じゃあ、どうすりゃよかった?俺ぁ、どうすりゃ正解だったんだ......?


虎独:ボクの状態を、アンタの物差しで勝手に測ったりなんかしなきゃ良かっただけだよ。......と、いっても、過去はもう変えられない。だから、アンタにもう一度だけチャンスをやるよ。


ナオト:チャンス?


虎独:嗚呼。今からやるやり方なら、ボクが果たして本当に戦える状態かどうか測れる。勿論客観的にね。簡単だ......ナオト。ボクと戦え。


ナオト:え......?


虎独:まだ19なのに、年齢を感じさせない程の腕と頭。それがアンタの売りだろ?なら、それを超えたら......客観的に、ボクは戦える状態だと言える。もしボクが負けたら、ボクはまた病院に入るかどっか施設に入るかで大人しくしててやるよ。但し、ボク自身が選んだ所でな。


ナオト:あ、あぁ、それでいい。


虎独:もしボクが勝ったら......ナオト、アンタは二度とボク自身に干渉しちゃいけない。ボクは自由に生きるし、アンタも今まで通り吸血鬼を追い続ける。ボクが起こす出来事に触れても構わないが、ボク自身を縛るな。互いに、違う人生を歩むんだ。他人としてね。


ナオト:......俺らは、双子じゃなくなる?


虎独:さぁ?血は抜いて変えられないから、戸籍と肉体的には双子のまんまだろうね。でも、ボクは今の時点でもう“兄貴”と呼ぶつもりはない。ボクの兄貴は、クチナワ タクミだけだ。


ナオト:そうか、もう......呼んでくれないのか。


虎独:ふは、めっちゃ落ち込んでる!面白い、こんなことで落ち込んじゃうんだ。まぁ良い、やるかやらないか、今ここでアンタは選べる。やらないんならどのみちアンタは敗北、互いに自由だ。どうする?


ナオト:やる......やる!だが、互いに殺しはしない。これだけは絶対に約束してくれ。


虎独:別に?そこまでやろうとは思ってない。


ナオト:武器は?


虎独:ボクはバタフライナイフ。アンタは金属バットだろ?


ナオト:あぁ。


虎独:上等。やってやろうじゃねぇか!!!


(少し間を置いてシーン変)

(アモリギ、廃病院を出て、また1人くらい路地裏を逃げる。)


アモリギ:(息を切らしながら)もうここまで来たら大丈夫......かな。ツツジさん......ほんと、ほんと、ごめんなさい......


(SE:銃声)


アモリギ:ヒィィィッ!?


ナガレ:見つけたぞ!ツトム!


アモリギ:な、なんで......俺に出せる最大の速さで走ったのに......


ツツジ:そうね、その通りだわ。でも今、人間には出し得ない力を出せるのは貴方だけじゃないのよ。


ナガレ:因みに、そのまま進めばいずれ行き止まりだ。さぁ、もう逃げられないぞ。


(アモリギ、その場に崩れ蹲る)


アモリギ:(声を震わせて)......俺は、どうなるの?殺される?


ナガレ:今時、死刑なんて物騒なものは無い。更生施設で暫く生きる事になるだろうね。


アモリギ:更生......?俺が?今更そんな事はできないでしょ......だって、人いっぱい殺してんだよ......?自分でも信じられないくらい。


ナガレ:そんな事はない。誰にだって、贖罪の権利はある。それはツトム、君だって一緒だよ。


アモリギ:でも......でも!俺は、もうそんな事出来ないくらいに真っ黒に染っちゃったんだよ!それに、俺は誰にも嫌われたくない。もう逃げ続けるしかないのに!


ナガレ:ツトム!何故君は罪を拭うためにまた罪を犯す!何故泥を洗い流すためにまた沼へはまっていく!何にもならないんだよ、そんな事をしたって。それに......僕を救ってくれた人が言ってたんだ。“罪を犯す全ての生き物に、やり直せない事はない”って。でもそうじゃない!例えどんなにやり直せないような罪であっても、どんなに重すぎる罪であっても、“やり直さなくていい事”なんて無いんだよ!


アモリギ:......


ツツジ:......ツトム君。


アモリギ:な、なに......?


ツツジ:私、ツトム君が好き。


アモリギ:......!?


ツツジ:どんな貴方も好きよ。部屋の隅に寄って日を避けている貴方も、不器用に笑いかけてくれる貴方も、戦う時に気合が入る貴方も。でも、私は貴方が好きなの。罪を犯した貴方も貴方、人を殺めた貴方も貴方。origamiなんかじゃない、貴方以外の何者でも無いの。私はそれでも、貴方を嫌いにはならないわ。


(アモリギ、迷い狼狽えるように呼吸を荒く、声を更に震わせる)


ナガレ:罪から逃げないで。


ツツジ:自分から逃げないで。


ナガレ:贖罪を恐れないで。


ツツジ:自分を嫌いにならないで。


アモリギ:......本当に、俺にも......?


ナガレ:嗚呼。君には贖罪の意思がある。そうだろう?もうこれ以上、罪なき人を殺してほしくは無いんだ。大事な仲間には。


アモリギ:......本当に、できる、かな......


ツツジ:えぇ。私は、罪を償おうと頑張っている貴方の方が好き。だって私、頑張ってる人を嫌いになんてなれないわ。


アモリギ:本当に、本当に......


ツツジ:一緒に、償っていきましょう。


アモリギ:......はい。


(アモリギ、安堵した様に涙を流す)


ナガレ:一緒に、施設に来てくれるかい?


アモリギ:本当に、俺にも、出来るなら......!


ナガレ:出来るさ、時間はかかるかもしれないけれど。


アモリギ:......はい。


ナガレ:ツツジさん、先に行ってて。


ツツジ:え?ナガレは?


ナガレ:僕は虎独を止めてくる。アイツ、ナオトに対して何か企んでいるみたいだったんだ。最悪、どちらの命もないぞ。


ツツジ:そうね。ツトム君に必死になりすぎてつい......


ナガレ:はは、無理もないさ。


ツツジ:......お願いできる?


ナガレ:......嗚呼。ツトムの事、頼んだよ。


ツツジ:えぇ。


(ナガレ、少し寂しそうに微笑んで退場)

(少し間を開けてシーン変)

(虎独、ナオトともに息を切らし睨み合い続けている)


虎独:へーぇ?中々、やるじゃん。


ナオト:お前、いつの間にそんな強くなったんだ?前はそんな小さなナイフでバットに対抗できるほど、強く無かったはずだ。


虎独:さぁね?病院を出てからずっと走り回ってたしねぇ......?


ナオト:まだやるのか。


虎独:そうだねぇ。これで決着にしてやらぁ!!!


(虎独、勢いよく飛び上がる。が、一瞬の隙を突かれてナオトのフルスイングに激突。地面に叩きつけられる)

(SE:殴り)


虎独:ゲホァ......ッ!?


ナオト:(荒い呼吸を数秒続けて)......だがな、まだ甘い。二卵性と言えど、流石双子だな。振りかぶり方が俺と全く一緒だ。


虎独:クソ......身体が、動かねぇ......


ナオト:対あり、か。


虎独:クソ......クソ野郎!なんで動かねぇんだよ、動けよ!ヤク入れてんだろ!!!!


ナオト:は!?お前ヤクやってんのか!


虎独:嗚呼!もちろん努力をした上でだ。病院じゃ一年中ベッドに縛り付けられて、十分な栄養も与えられないままずっと点滴生活だったからな!回復にはかなりの時間と努力を要したさ......今日絶対に勝てる様に、念には念を重ねておいたのに!なのに......どうして!


ナオト:どちらにせよ、そんな一時的な方法で強くなったってヴァンパイアハンターとしては戦えねぇ。身体を蝕まれていくだけだ。お前には、暫く大人しく療養してもらおう。


虎独:......


ナオト:だが、約束通りどこに入るかはお前に決めてもらいたい。俺、お前の兄貴はやめるつもりないけど......確かにお前の親じゃない。それは、その通りだ。今まで、本当に悪かった。


虎独:......っそ。


ナオト:だから、いつかもう一度戦わせてくれ。もう一度、兄弟として戦いたい。そして......俺を、倒してくれ。


虎独:はは、最後まで厚かましい。


ナオト:本当、そうだよなぁ。でも、家族なら当然なんだよ。兄貴であろうと弟であろうと、親であろうと子供であろうと。大切な人が元気でいてくれる、それに越した幸せはねぇんだ。


虎独:......負けたよ。アンタ、案外中途半端じゃねぇのかもしれねぇな。


ナガレ:ナオト!応援に入った......って、えぇ?


ナオト:あ、すまねぇナガレ......もう決着、ついちまったんだわ。


ナガレ:だ、大丈夫そうじゃないけど一応聞いておこう。大丈夫?虎独。


虎独:さぁね。ヤクは切れて動けないし、あんまり感覚がないけど多分骨が数カ所折れてる。


ナガレ:ナオトは弟にも容赦がないのか......


ナオト:ツトムはどうした?


ナガレ:説得したよ。今はツツジさんと一緒に施設に向かってる。


ナオト:そうか、そっちも解決したんだな。


虎独:3つ目の依頼は失敗、かぁ......


(少し間を開けてシーン変)


ナガレ(N):あれから半年。僕らは、それぞれ違う道を進んでいる。虎独、いや、タイガ君は入院して、回復に向けて身体を休めているらしい。“特殊部隊シェーレ”という形こそ無くなってしまったものの、ナオトとツツジさんは今もヴァンパイアハンターとして活躍している。ツトムは今も施設で暮らしているけれど、特に大きな問題は起こしていないそうだ。きっと、吸血鬼も、人間となんら変わりなく生活できる時代は、そう遠くないだろう。そして、僕は......


(少し間を開けてシーン変)

(SE:足音)


ツツジ:すみません、資料を提出しに来たんですが、所長のお部屋はどちらに?


ナガレ:え、あ、えーっと......って、ツツジさん!?


ツツジ:あら、ナガレじゃないの。久しぶり。


ナガレ:えっと、所長は今、席を外してると思うよ。ごめんね、せっかく来てくれたのに。


ツツジ:あら、そうなのね。大丈夫よ、また違う日に来れば良いだけの話だから。ところで、どう?最近研究は上手くいってるの?


ナガレ:あー、まぁまぁかな。今は吸血鬼の自然繁殖についてやってる。ツツジさんは?


ツツジ:こっちはだいぶ好調よ。貴方とタクミさんのお陰で、更生できる吸血鬼が増えて来たみたい。この間ツトムに会ってきたけれど、前とは大違い。シャイなのは相変わらずだけどね。


ナガレ:そうか、ツトムも......ツツジさんのお陰だよ、きっと。


ツツジ:そうかしら?貴方があの時一緒に説得してくれたからだと思うわ。本当、有難うね。


ナガレ:......ツツジさん。ずっと、言いたかった事があるんです。


ツツジ:あら?なぁに?


ナガレ:......その、僕......


(数秒沈黙)


ナガレ:絶対、2人には幸せになって欲しいなって。


ツツジ:あら、それは有難う。そうね、そんなこと言われちゃったら、なんとしてでもツトム君を更生させて早く施設から出てもらわないと。


ナガレ:そう、だね。大丈夫だよ、あいつ、育ての親が良い奴だから、根はきっと良いと思う。だから、僕が言うことじゃないけれど......絶対、離さないであげてね。


ツツジ:当たり前よ。彼きっと、私がいないと駄目だから。有難うね、本当。


ナガレ:いいえ、こちらこそ。


ツツジ:じゃあ......


ナガレ:いつか、また会う日まで。

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