海賊たちのお宝くらべ

HiroSAMA

海賊たちのお宝くらべ

 ドコカノセカイの東と西の海には、たくさんの部下を率いた大物海賊がいます。


 東の海には赤鬼丸。

 赤いマントを羽織った伊達男で、彼に匹敵する剣の使い手はおりません。


 西の海には緑山王。

 鯨のごとき巨漢で、巨大な船をひとりで持ち上げたという噂がたつほどです。


 以前は、いがみ合っていたふたりでしたが、いつのまにか互いを認め合うようになり、いまでは大晦日に酒宴を開くほどの仲になりました。


 ある年の大晦日おおみそか

 誰が言い出したのか、その年に集めたお宝を持ち合い、どっちがすごいかをくらべっこをしようという提案がでました。

 酒のさかなにもなるだろうと、ふたりの大海賊は集めたお宝を持ち寄ります。


 最初の年は、おのおの山ができそうなほどの金銀を運んできました。

 赤鬼丸「どうだ俺様のお宝は? 宝物庫に収まらなくて困っちまうほどだ」

 緑山王「なんの俺様のお宝だって負けちゃいねえ。調子にのって集めすぎたせいで、危うく船を沈めちまうところだったぜ」


 山となった金銀は量も質も互角でどちらが上かなどわかりません。

 かといって、まともに数えていては年を越してしまう。

 結果、その年のお宝くらべは引き分けということになりました。



 前年の失敗を踏まえ、次の年は一番すごいお宝ひとつをくらべあうことにしました。


 緑山王「どうだこの白銀の剣は? 宝石を散りばめた装飾もさることながら、魔法がかかっていて切れ味も抜群だ。俺様はこいつで鯨をくっちまうような巨大蛸を仕留めたぜ」

 赤鬼丸「なんのこっちの海神の剣だって負けちゃいねえ。いぶし銀の刀身は派手さにゃ欠けるが、武器としちゃこっちが上だね。なんせひと振りで海を割って、しつこい海軍の船をまとめて沈めてやったからな」


 ふたりは互いのお宝を受け渡して検分します。

 ですが、最高品質であることはわかっても、どちらが上かは判断ができませんでした。

 まさか、大晦日に武器を振り回し、正月を血の海ではじめるわけにもいきません。

 結果、その年も引き分けになり、来年こそは決着をつけるという話になりました。



 そして、またも大晦日になり三回目のお宝くらべが開始されます。


 その年、ふたりが用意したのは美味い食べ物。

 食べ物の美味さならば、上下がつけやすいと海賊たちは考えたのです。


 ですが、料理勝負では当然料理人の腕がものを言います。それではお宝くらべではなく、料理人の腕くらべです。

 そこで赤鬼丸と緑山王は、自分らで調理できるもの限定することにしました。


 しかしながら、どちらの大海賊も料理の腕はからっきし。

 部下たちは今年の勝負はきっと素材くらべになるだろうと予想したのですが……意外にもそんな結果にはなりませんでした。


 何故なら、赤鬼丸が用意したお宝は『赤いきつね』で、緑山王が用意したお宝は『緑のたぬき』というお湯を注ぐだけで美味しく食べられるカップ麺だったからです。


 赤鬼丸「この『赤いきつね』はすげーぞ。お湯を入れるだけで、べらぼうに美味いうどんができるんだ。出汁の旨味がしっかり利いてるし、フワフワながらもコシのあるうどんも一級品だ。なにより、汁をその身に蓄えた油揚げが最高でな。一流の料理人を呼んだって、こいつより美味いものはちょっと作れないぜ」

 緑山王「なんの『緑のたぬき』だって負けちゃいねーぜ。こいつはお湯を入れるだけで、すんげー美味いそばができるんだ。旨味あふれる汁がそばに絡むと絶品だし、そば自体の風味もしっかりしてる。なによりいろんな具材をギュッと詰め込んだかき揚げが嬉しい。こいつにだし汁を吸わせた味には、ほとんどの料理人が頭をさげるぞ」


 当然、お宝くらべは食べくらべへと移行し、部下たちにも熱湯が注がれたカップ麺が振る舞われました。


 『赤いきつね』と『緑のたぬき』。どちらも美味く、食べくらべた部下たちも甲乙付けがたいと頭をひねります。

 これは今年も引き分けだろうなと、部下たちは思い欠けたのですが……そうはなりませんでした。


「「なんだーこいつは、めちゃめちゃウメーじゃねーか!!?」」


 そう言って、ふたりの大海賊が、相手のもってきたカップ麺を絶賛したのです。


 ふたりは勝負も忘れ、相手のもってきたカップ麺こそが至高であると主張します。

 これまで、引き分けを容認してきたふたりでしたが、気に入った食べ物のことでは簡単に引くことができません。

 あわや流血沙汰というところで、部下のひとりがこう進言しました。


 部下「そもそも、おふたりが競争していたのは、自分のお宝にどこか納得しきれない点があったからではないでしょうか? ですから、自分の認めた相手に『すごいお宝を手に入れたな』と言ってもらいたく宝くらべをはじめたのではないですか?」


 部下の言葉に赤鬼丸と緑山王は渋々ながらうなずきます。

 どれだけたくさんのお宝を集めても、どれだけ素晴らしいお宝を見つけても、本当にこれが最高のお宝なのか、他の連中はもっとすごいお宝を見つけていたのではないかと密かに疑問に思っていたのです。


 部下「ですから、こうやって相手から最高の賞賛を頂けた以上、ここで満足されてはいかがでしょう? お宝くらべは両者ともに勝利です」


 その言葉に納得すると、ふたりの大海賊は最高のお宝が決まったからと、お宝くらべ打ち切ることにしました。

 そして、翌年の大晦日からは互いの手に入れたカップ麺を交換し、最高の酒宴を開くことにしたのでした。


 めでたしめでたし♪

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