武蔵野は、レモネード。

荒川 麻衣

レモネードと渋谷

武蔵野についての本が私の本棚にはある。文豪ストレイドッグスとのコラボ表紙だ。いつだったか忘れたが、新世紀エヴァンゲリオン目当てで買ったヤングエースに、文豪ストレイドッグスが載っていて、ちょうどレモネードの爆発を受けた与謝野晶子のあとに、満を辞して泉鏡花登場、と言うシーンで、「え?こども?こんなこどもが?」とまぁ、泉鏡花の本に高校時代どハマりしたニンゲンとしては、非常な驚きだったし、続きは気になっているが、いまや追っ付けないぐらい、本棚に収まりきらないレヴェルで話がすすんでおり、聞いた話によると、演出家の中屋敷という人がラジオに出た時に聞いた話によると。その泉鏡花は、舞台版だと非常によく動くらしいが、わたしが見たのは飛行機で首輪をつけてなんか太宰治だと名乗るいけすかないガキが説得する場面。太宰治は嫌いだが、いくらなんでもお兄さん、そのカッコとそのノーブルなたたずまいとその声で話すのは太宰治じゃなくて中原中也じゃないかと思うと、その中原中也はもっとガキに見え、中の人、演じている役者陣の年齢やら、アニメ版の声優の配役やらを見ると、「え?!神谷さん?!神谷浩史、茨城が産んだスターじゃん!」

「え、こいつ、20代後半?!は?!ガキじゃねーのかよ」

「え、こいつ、多和田秀弥ってあ、スターニンジャ、そーいやドリライ2013ってどっちだっけ、和田琢磨か多和田秀弥


あ、多和田秀弥か」

みたいな新鮮な驚きがあった。


 そんな武蔵野のあとがきを読むと、「私の知っている渋谷とだいぶ違うなぁ」



道玄坂、渋谷が明治時代のおもむきを残してない、と聞いたが、渋谷は、道玄坂をずっと上がっていくと、昼でも暗く、幽霊やちみもうりょうがうようよいるので、百鬼夜行が起きてもおかしくない。


 武蔵野がどこからどこまでを指すのか調べないまま、昨日はぐるぐると、渋谷の道玄坂をまわって、TSUTAYAへ行き、となった。


 渋谷というのは、どうも江戸時代から雰囲気が変わらない気がする。

 20年、いや、もうすぐ25年になるんだな、渋谷に用事があって通い続けて25年だ。


 あなたにとっての渋谷は、どんなところだろうか。おしゃれ?ギャル?華やか?


 どれも違う。私みたいな、池袋や秋葉原になじみのないオタクな私にとって、渋谷ほど多種多様なプレイグラウンドはない。だいたい、原宿はオシャレすぎ、気後れしてしまうが、渋谷は基本的に変人の集まりなので、原宿から渋谷へおりると、息ができてほっとする。


 意外や意外、コスプレ姿で異常にレベルが高い人には、秋葉原、池袋ではなく、平日の渋谷にいる。円山町じゃなく。ふつーにいたのは、道玄坂の上に、かつてはコスプレ衣装専門店コスパの本店があった。

 「ほんとかよ?」と思って、渋谷の道玄坂をのぼって行ったら、狭い店内で天井から衣装が吊るされていてあぜんとした覚えがある。


 自分みたいに中途半端なオタクは、ファッションに興味がうつったりお腹すいたり音楽を聴きたくなったりご飯食べたくなったり本読みたくなったりと、まぁ興味がやたら幅広いし、なおかつ、動きたくなると踊りたくなるので、公園通りをあがってがーっとかつては歴史のある場所だった代々木公園でなぜか、ダンスバトルしたりと、やたらと好奇心旺盛なので、渋谷と言うまちじゃなきゃ、ダメなのだ。


 だって、池袋や新宿で突然踊り出したら変でしょ?


 武蔵野といえば、こんなこともあった。

 渋谷の円山町、道玄坂をあがると百軒店(ひゃっけんだな)がある。

 あそこ、江戸時代から時間止まってるんじゃないだろうか。


 ちょいちょい、渋谷は江戸の匂いがする。ふわり、とでなく、強烈に香る。まるで、そこに、明治や江戸を生きた人間の魂がそこに宿り続けるかのように。


 ちなみに、個人的にまた行きたいお店、コロナ禍にも対応できる、おしゃべり厳禁の名曲喫茶ライオンの「レモネード」は一度飲んだだけだが、絶品なので、ぜひ、文豪ストレイドッグスが好きだったり、レモネードが好きだったり、梶井基次郎が好きだったり、レモンが好きな人間は試して欲しい。


 ぶっちゃけ、物音ひとつ立てるのを許されないぐらい静かだったので、勇気がいる。私も15年前に一度行ったきりだが、あそこはふつーに100年後もある気がするよ。

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武蔵野は、レモネード。 荒川 麻衣 @arakawamai

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