〈ユア視点〉





入院カルテは外来カルテとは

違った面倒くささがある…




急変したりすると酸素ボンベや検査、投薬と

算定するものが多いしバタバタした中で書かれて

いるドクターの字はいつも以上に読みづらく

先輩達ですらたまに確認にいく位だった





(あっ・・・面倒くさいカルテ取ってしまった…)





カルテの中の殴り書きなのか旧型文字なのかも

分からない記載を見つけて肩が落ち

「乃木先生に確認に行ってきます」と

席を立ち上がると先輩達が「あっ!コレも」と

数冊のカルテを渡された…





分厚いカルテファイルを抱えて乃木先生を探すと

○○病棟にいると教えてもらい病棟に足を向けた





乃木先生は病棟の中央にある詰所で

看護師さん数人と話していて

「失礼します」と詰所に入り





「乃木先生、カルテの事でお伺いしたいのですが」





と声をかけると看護師さん達は

助かったとばかりに皆んな離れて行って

私を乃木先生の前に突き出した






ノギ「おぉー!受付の!!何歳だっけ?」





「22歳です、乃木先生この患者さんですけど」





ノギ「22歳いいねー肌の色もやっぱり違うねー」






と言いながら私の手の甲を数本の指で撫でてきた…

乃木先生は70代の男性のドクターで

少しスキンシップが多く

先輩達も手を焼いてるみたいだった…







キムラ「結愛ちゃんは

   乃木先生からしたら孫の歳だし!」





カワベ「そうそう!変な事しないわよ!」







と言っていたけど…

どうみても祖父が孫にする行為じゃないし

距離も近くてなんだかセクハラを受けてる気分だ…





ノギ「肌もホラ、すべすべだよ?」





と看護師さんに言いながらずっと撫でている

手を払い除ける事も出来ずに





「乃木先生、先輩達も待ってますから

 あの…確認をしたら

 直ぐに戻らないと怒られます」




ノギ「あーそうだね、どれだっけ?」




と更に私の横に近づく乃木先生に

半分諦めながらコレですとカルテを指さすと




ノギ「ん?・・・どれ?」




と机に肘をついてグッと近づいてきて

胸に先生の肘が軽く当たっていて

少し困惑していると





ミヨシ「おい!乃木先生の所でサボってってないで

     事務所戻って早く仕事しろ」




と三好先生の声がしてパッと

乃木先生から距離をとった…





ノギ「三好君、そんな言い方したら可哀想だよ」




ミヨシ「乃木先生も甘やかしたらダメですよ

  サボるの覚えたら癖になるんですから」




ノギ「サボってなんかないよねー?」




と私に笑いながら言ってくる乃木先生は

なんだか不機嫌な時の三好先生より怖く感じた…




ミヨシ「おい、確認あるなら早くしろ」




「はっはい…あのコレは…」





乃木先生は、三好先生がいる時は

変に距離を近づけたり触ってきたりしないから

三好先生が病棟を出ていく前に終わらせようと

早足でカルテをドンドン開いていった





「乃木先生、ありがとうございました」





と頭を下げて詰所から出て行こうとしたら

三好先生も「お疲れ様です」と乃木先生に

声をかけて一緒に病棟の出口方面に歩き出した




ロックを解除して病棟の外に出ると

先生は「ついて来い」と言って

自分の診察室へと入って行った





早く戻らないといけないけど三好先生も

なんだか不機嫌そうで刃向かう勇気もないから

失礼しますと診察室へ入って行った





先生は椅子に座ると真顔でコッチをジーっと

見ているだけで何も言ってこなくて…

どうしていいのか分からず「あの…」と声を

かければ、ため息を一つ吐き

部屋に設置された小さな冷蔵庫から

紅茶○伝のミルクティーを

1本取り出して「やる」と差し出してきた




「いいんですか?」




とためらないながら受け取ると




ミヨシ「昨日は珍しく正解したからな」




と言って「早く戻れ」と

椅子を机の方向に向けて何か書類を書き出した

私は手に握られた紅茶を見ながら





「ミルクティーは紅茶○伝しか飲めないんです!

  ありがとうございます」





紅茶とさっきの病棟のこと含めてお礼を伝えて

「失礼します」と診察室を出ていった





さっきの病棟での事は

何だか少し、嫌な気分だったけど…

三好先生のくれた紅茶を飲んだら不思議と

モヤモヤとしていた心が落ち着いていった…




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