ラストバトル?-2 裕太


 ……眠い……眠くて眠くて仕方ないのに、周りがうるさくて目が覚めた……。


 一体なんだ? この騒音。


 岩が激しく砕ける音とか、空気が弾ける爆発音、悲鳴や許しを請う声、怒声や泣き叫ぶ声が鳴り響く……いや待て理由は分かった。


 俺は夢を見てるんだ。そうであるに違いない。だからこのまま目を瞑ってやり過ごそう。


「絶対大丈夫って言ったじゃない!」


「だ、だからもう傷は塞がっておるじゃろ!」


「じゃあ何で目が覚めないのよぉぉぉぉぉ!」


「わぁぁぁぁぁ! 金城さん! 大岩は反則ッスぅぅぅ!」



 ズゥゥゥン……―



 ………………


「男爵が大丈夫っつってんだから、信じて大人しく待ってろよあんた!!」


「だ、ダメです基! 今の彼女を刺激したら……うわぁぁぁぁぁ!」


「薫ぅうわぁぁぁぁぁ!」


「お姉様ぁ! どうせぶつなら私をぶっ……ギェェェェェ!!」


 ……我慢我慢……


「何で裕太は目覚めないのよぉぉぉぉぉ! うわ~ん!」


 …………


「ちょ、ちょっと待て猫女! 呪火を出してどうするつもりだ!」


 げっ!


「あんたら殺してあたしも死んでやるぅぅぅぅぅ!」


 …………


『ご主人……様? 目覚めた……なら……あの猫止める……希望……』


「何で俺らが殺されなきゃなんねぇんだ?! この場合男爵だけだろ?!」


『白蘭か? 見逃してくんない?』


「仁藤お前……お前がそう言う奴だったとはな……よぉうく分かった!」


「基……普通ならここは全員で彼女を止めるべきなのでは?」


「物事を円滑に進めるには犠牲は付き物だ!」


『……全員……死亡……』


『……しゃあないなぁ……』


 俺は内心溜息を吐きながらむくりと起きあがると、今にも呪火を爆発させかねない彼女の名前を静かに呼んだ。


「ミーコさん?」


「覚悟を決めた奴から前に出な…………へ?」


 途中で俺の声に気付いたミーコさんは、ピタリとその動きを止め、キキィ~っとまるで機械仕掛けの人形のように、涙と鼻水で乱れた顔を振り向かせた。


 他のみんなは一様にホッとした顔を見せる。


 中にはこの俺に責めるような視線を向けてくる奴もいるが……お前だ仁藤。


 雫ちゃん……そんな心底残念そうな顔されると俺、傷付いちゃうよ。


「ミーコさん……その辺にしときなよ……俺は大丈夫だから……」


 ミーコさんは、俺のその言葉を聞くと、顔をくしゃくしゃに歪めて、再び涙を溢れさせながら俺の胸に飛び込んできた。


「裕太ぁぁぁ! 裕太ぁぁぁぁぁ!!」


 泣きじゃくるミーコさんをそっと抱きしめながら、俺は男爵に視線を送り、軽く笑って頭を下げる。


 男爵はそれに苦笑しながら肩を竦めて応えると、みんなを連れ立って離れていく。


 気を利かせてくれたのだろう。


「ミーコさん……何度も言ってるけど、俺はミーコさんを置いて死んだりしないって」


 俺は、俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくるミーコさんの耳元でそっとそう囁いた。


「ヒックだって……傷ヒック酷かったヒックし……いつまでヒック経っても目がヒック……覚めないし……ヒック……」


「さすがにあんだけダメージ受けたら、いくら俺だって回復するのに時間かかるよ……でも大丈夫。これからも最後には絶対にミーコさんの元まで戻ってみせるよ」


 ミーコさんの様子に苦笑しながらも、俺はそう答えながら再び彼女をギュッと抱きしめた。


「…………」


 それで少しは落ち着いたのか、ミーコさんは無言でコクリと頷いて、抱擁を返してくる。


 そこで、ふと思い出したことがあって、抱擁を外してミーコさんに尋ねた。


「ミーコさんそう言えばさ……」


「なぁに?」


「さっきキスしたときに気になったんだけど……」


「な、何が?」


 耳まで真っ赤にしながら、慌てたように視線をキョロキョロと忙しく動かしてそう逆に尋ねてくるミーコさん。


 う~んこの辺の変に純なところがツボなんだよね。


「ミーコさんタバコ止めたの? 全然臭いしなかったんだけど」


 行方不明になるまでは、確かにセブンスターの匂いがしていたのだ。


「えっ? あ……だ、だって……前に裕太、タバコの臭い嫌いだって……」


 そう言えば付き合い始めにそんなことも言ったような……。


「ミーコさん、かなりのヘビースモーカーだったのに……大丈夫?」


 そう尋ねた俺だったが、ミーコさんはニッコリ笑みを浮かべて答えた。


「あたしは裕太のためだったら、タバコ止めるぐらい何でもないわ」


 その笑顔を見て柄にもなくドキンと胸が高鳴る俺……俺は、君の笑顔を見るためだったら何だってしてみせるよ……口に出しては言わないけどね。


 何はともあれ、この笑顔を見れただけでも、全ての苦労が報われたと思う俺なのであった。


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