ラストバトル-3 ミーコ


 あたしは、ガシッとしがみついて離れようとしない雫を小突いて引き剥がそうと試みる。


 ふと視線を感じて顔を上げると、ジト目の視線を裕太と視線がぶつかった。


 頬を染めてあたしに見入っている雫に視線を向けてから、もう一度ジト目を向けてくる裕太に、あたしは雫を指さしながら力一杯首を振って否定する。その様子に雫はプウッと頬を膨らませ、またギュッとしがみついてきた。


 止めんか馬鹿もん!


 そんな雫の様子を見たせいか、裕太は明後日の方に顔を向け、ため息を吐きながら両手のひらを上に向け軽く広げて肩を竦める外国人かぶれの日本人がよくやるジェスチャーをあたしにしてみせる。


『誤解だぁぁぁぁぁ!』


 しかし叫びは声にならずにその場に落ちる。


『だから違うって! 誤解だって! あたしはノーマルだって! あんた一筋だって! あたしの全てはあんたの物だって! 愛してるのは裕太だけだってぇぇぇぇぇ……あれ?」


 そこで一同の呆れきった視線に気付く。


「あれ?」


 もう一度そう呟いてようやくそれ気付く。


「手下Aェェェェェ! あんた絶対、後で絞め殺してやるからねぇぇぇぇぇ!」


「お、俺のせいッスか……ウギャァァァ……」

「お、お姉さまぁぁぁ……」


 取りあえず手下Aに雫を投げつけてアストールに向き直る。首から上が火が点いたかのように熱い。何もあのタイミングで術が解けなくても……シクシク。


 気を取り直して目の前の戦場に集中する事にする。


 戦闘は続いており、男爵と白蘭がアストールに向かって拳と牙を振るっているが、効果が上がっているとは言い難い。


 そこに、隙を突いてミサイルをアストールに放つ裕太。


 あれは裕太が開発した新術かな? あたしも見たこと無い術だ。


 ミサイルは避けるアストールを更に追いかけ軌道を変える。



 ドガッドカッドガッドガァァァァァン―



 躱しきれずに、全てをその身に受けるアストール。この術ならで食らうわけには行かないわね。やるなぁ……さすがはマイダーリン。


 爆風で舞い上がった土煙が治まると、そこに現れたのは体中から魔族の証である紫色の血液を滲ませているアストールの姿……でも、ビデオテープの巻き戻しを見てるかのようにその傷は直ぐさま塞がっていく。


 させるかい!


「ニャァァァァァ!」



 ブオッ―



 気合いと共に吹き出る黒い炎。


 あたしはその呪火を右手に集め、炎の揺らめきが消え失せるまで凝縮する。


 凝縮した呪火は棒状に変化するがこれではダメだ。これじゃ、武器を持って攻撃なんてした事のないあたしが振るっても、アイツには当たらないだろう。


 もっと避け難い、『読み』の効きづらい、更に付け加えるならアイツの防御を突破できる高威力の攻撃方法が欲しい。


 イメージは植物の強靭な蔦……強いしなりと振るわれた際に先端の速度が音速突破するっていうアレだ。


 普通に使えば大きなダメージを与えることは出来ないだろうけど、あたしの呪火で作り上げたアレならどうだろう。


 そう、つまりは呪火で即席の鞭を作り出すのだ。


 実物を振るった事がないあたしが普通に鞭をイメージしてもダメだ。どうしても溶けたアイスのようになってしまう。


 なので段階を踏むとする。


 まずは棒状の呪火にひとつ節を付ける。ヌンチャクのようにブラリと折れ曲がり、ひとまずは成功。後はこれを無数に付けていく。


 ヌンチャクは三節棍になり、四節五節と節を増やす。


 段階を踏んだことが功を奏したんだろう、呪火の棒は呪火の鞭へと姿を変えた。


 妖力100%の呪火には及びも付かないが、これなら今のあたしにおいては最も威力があって、最も効率的な攻撃手段になるだろう。


 出し惜しみなんてしてられない……一気に攻め崩してやる!


「ハァッ!」


 気合い一線、あたしの呪火の鞭がアストールに襲い掛かる。


 鞭はアストールの魔法障壁をぶち破り、奴の左肩から右腰までを一気に打ち据えた。


 アストールは苦痛の呻き声を上げながらも傷を抑えて一歩退き、片膝を地面に付いてこちらを睨み付けてくる。


「女王様?」

「女王様ッスか?!」

「女王様だの」

「ガウ」

「女王さまぁん!」


 一斉に騒ぎだす外野達。


「…………」


「いよっ。女王様!」

「かっこいいッスよ女王様!」

「少し胸が足りないが……」

「ガウ」

「女王様ぁ〜わたくしもぶってぇ!」



 プチッ―



「うるさいわぁぁぁぁぁ! ボケナス共がぁぁぁぁぁ!!」



 ヒュン―



「ウギャ!」

「ヘギャッスぅぅぅぅぅ!」

「ぬう!!」

「キャイィィィン!」

「いや~んもっと〜」


 あたしはボケナス共に一鞭くれてやると、再びアストールに向き直り、右手を振るってもう一度、呪火の鞭を繰り出した。


「クッ!」


 アストールは飛び退いてその一撃を躱しながら、肘から突き出た突起に手をかける。


「二ヤァ!」

「フンッ!」



 バシッ―



 続けざまに振るったあたしの一撃を、肘から引き抜いた剣で弾き飛ばすアストール。


「ウ……ニャァァァァァ!!」


「チィィィィィッ!!」


 二度三度と繰り出すあたしの攻撃を、アストールは手に持つ剣で悉く弾き飛ばす。


 だけど無軌道に飛び交うあたしの鞭を……


「いつまでも弾き飛ばせるなんて思ってんじゃないわよぉぉぉぉぉ!」



 シュパシュパシュパパ―



「クッ……ガ……ヌオォォォォォ!!」


 急激にスピードを上げたあたしの鞭を、アストールは次第に防ぎきれなくなっていく。


 視界の片隅では、皆が大技を放つ為にそれぞれ詠唱に入っいるのが見える。



 パシュパシュパシュ―



 アストールの体のあちこちから吹き出る血飛沫。


「テヤァァァァァ!!」



 バシュ―



「グアァァァァァァ!!」


 遂に呪火の鞭はアストールの身体をまともに捉え、奴を激しく吹き飛ばす!


「今よ!!」


 あたしは肩で息をしながら、仲間にそう呼び掛けたのだった。


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