夕焼け、また、思い出す。
@orange00
第1章 1. 勉強会
家に帰ると、彩さんがソファで横になっていた。手にはゲーム、机にはポテチ。
「おー息子ーおかえりー。」
「ただいまです。というか、なんでこんな時間に家にいるんですか?会社クビになったんですか?」
時刻は13時。ソファの側に座って、こっそりポテチを頂いた。
「あのね、大人にだって働きたくない日があるの!ね、頭のいい亮なら理解してくれるよね?」
「いやだって、彩さん一度甘えて会社休んだら、それからずっっと会社休み続けそうじゃないですか。」
ギクッ、とわざとらしい効果音を出したあと、彩さんは笑った。
「そんなことより、亮こそなんでこんな時間に帰ってきたの?高校退学になった?」
「今日は午前授業だったんですよ。退学になるような馬鹿な真似はしません。」
彩さんの冗談にマジレスしたあと、僕は制服から私服に着替えて、冷蔵庫を漁った。
「あ、冷蔵庫の奥にあるシュークリームセットは私のだから食べちゃ駄目よ〜!」
ほんとだ。奥にシュークリームセットがある。彩さんありがとうございます。ありがたく頂きます。
「んじゃ、いってきまーす。」
「どこ行くの?」
「友達の家。」
「りょーかいっ!遅くなる前に帰ってきてね〜。」
「はーい。」
「ん?ちょっと待って!私のシュークリームセット持っていっちゃ…」
彩さんが言い終わる前にドアを閉める。
シュークリームセットとスマホを自転車のかごにのせ、サドルに跨った。
自転車は不思議な感じがする。小さい頃は自転車で走っていたらふわふわと飛んでいってしまいそうな、世界から居なくなってしまうような気がしていた。だから自転車が嫌いだ。いや、嫌いだった。
今は、自転車に乗ってもふわふわ飛んでいくことなど無いと知っているし、自転車を使う機会が増えたから両手を離しても漕げるようにまでなった。すごいだろ。
そうこうしている内に目的地に到着した。
「あ、亮いらっしゃーい。なにそれお菓子?」
「颯太やっほー、お邪魔しますー。これシュークリームだよ。」
「え!今ちょうどシュークリーム食べたい気分だったんだけど。やっぱ亮天才だわ〜。」
どこがどうなって天才に繋がるのか理解できないが、それは置いとくとしよう。
「それじゃシュークリームは颯太の家の冷蔵庫で冷やすとして、勉強会始めるか。」
「えーやだー勉強したくないー。」
「僕ら今高2だよ?来年受験だよ?今のうちに勉強しましょう。」
僕に促されて渋々勉強用具を探す彼は、宮野颯太。同じクラスで、明るくてリーダー的な感じで、僕とは真逆な性格だ。
そんな真逆な僕らが今こうして家に行く仲になっているのだから、人生何が起こるかなんて分からないもんだ。
「そうだよな〜来年受験か。亮はどうせ凄いとこ受けるんだろ?」
「凄いところの定義がわからないけど、ある程度自分の学力に適したところを目指すよ。」
「いいなー!頭がいいやつは。俺の家そんなに裕福じゃないから学費安い国立目指せって言われてさ。国立なんて俺の学力じゃ入れるわけ無いのに。」
颯太は早くもペンが止まっている。
まだ空になっていないグラスに麦茶を注いで時間を潰していた。
「僕にも麦茶頂戴。」
「ん。いいよ。」
「ありがと。」
「ついでにシュークリーム食っちゃうか?」
「もう食べるの?まだ勉強始めて10分経ってないけど…」
僕の言うことが聞こえていないのか、聞こえているけど無視しているのか、彼は冷蔵庫へ向かった。
「わ〜!美味そっ!というか5個入りじゃん。2個ずつ分けて残り一個はじゃんけんだな。俺のゴッドハンドで勝…」
「あ、余った一個は食べちゃ駄目。彩さんの分残しとかなきゃ。」
彩さんの声を無視して家を出てしまったけど、僕の中にも申し訳無さとか良心とかは一応存在するのだ。
「彩さんってあの超美人の人か!授業参観の時にいたよね。」
「いたっけ。」
「いたいた〜!でもあんなに美人なお姉さんいるなんて羨ましいな。」
「いや、お姉さんじゃない。お母さん。」
「あーお母さんか…って…………え?」
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