第二話
関東地方では大雨が降っています。
台風21号(イマイくん)が本州に上陸しているのです。もう、まわりに熱帯低気圧時代の仲間はいないので、ひとりで北海道を目指すしかありません。お姉さんのことをおもうと、風速も加速していきます。どんどんはやくなって、台風21号(イマイくん)は目が回ってきてしまいました。ふらふらしていると、そこに偏西風さんがやってきました。この辺の緯度ではいつでも偏西風さんが吹いています。
「台風21号じゃない。ふらふらしているけど大丈夫?」
「やあ、大丈夫だとも。見てみなよこの風速を」
偏西風さんは少し不憫そうに微笑みました。
「君は恋をしているの?」
「そうだと思う」
「じゃあね、ひとつ恋のルールを教えてあげる」
「是非とも知りたいな」
「6秒ルールだよ」
「随分と半端な時間だね」
「そこが問題なの。6秒ルールってのは、6秒間見つめあった者同士は恋に落ちる法則なのよ」
台風21号(イマイくん)には少し考える時間が必要でした。算数が苦手なので丁寧に計算しました。台風21号(イマイくん)の風速は秒速17m/sです。それなので6秒間に移動する距離は17m×6秒で102mです。これではお姉さんと6秒間見つめあうことはできそうにありません。少なくともお姉さんが100m走が5秒台の俊足でなければいけませんし、テレビの中のお姉さんはいつも可愛らしいヒールの靴をはいていたのを台風21号(イマイくん)は知っていました。
「どうしよう、これじゃあ6秒見つめあうことができないよ」
これには偏西風さんも困ってしまいました。そこにユーラシア大陸の方からモンスーンさんがやってきました。
「また偏西風さんが若者の恋路におせっかいをやいているのかい。恋は法則なんかじゃ操れない。もっと衝動的なんだよ」
「モンスーンさんじゃない。せっかく素敵なルールを教えてあげていたのに。ふん。もう知らないわ」
偏西風さんは、いってしまいました。残されたモンスーンさんと台風21号(イマイくん)は、少しのあいだ東の方を眺めていました。
「偏西風さんとは昔から方向性の違いがね。まあ君には君の進路がある。みんなそれぞれ好きに進もうじゃないか」
モンスーンさんもいってしまいました。台風21号(イマイくん)は久しぶりに誰かと話して、なんだか元気が出てきました。偏西風さんとモンスーンさんに心の中でお礼を言いました。そして、東と西を横目に見ながら北上しました。
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