第40話 キルドーザー事件
事の発端は、2000年にこの町で自動車修理業を経営していたマーヴィン・ヒーマイヤーが、市役所に対して隣接する土地にコンクリート工場が建設されると、溶接工場の看板が道路から隠れると市の計画に反対したことから始まった。
彼はロッキー山脈の眺望が美しいこの街に惚れこんで移住してきた男で、町の行事などにも積極的に参加しており友人も多かった。
「町の景観を守ろう」というマーヴィンの建設反対運動には友人を中心に賛同者が続出し、2001年には町を相手取り訴訟を起こしたが、敗訴してしまう。
それでも反対運動を続けたマーヴィン達だったが、2年後の2003年に、地元新聞社・スカイハイニュース社が、町の活性化と雇用に不利益だとマーヴィンを始めとする市民達を非難する記事を自社の新聞に掲載した。
そのため反対運動に関わっていた住民達は次第に運動から離脱していき、ついに婚約し既に同居していたマーヴィンの恋人も、彼の元を去ってしまった。
友人の多い誠実な人格であったマーヴィンは一転して孤独になった。
また、町がマーヴィンの店舗を抜き打ちで立ち入り検査し、設備の不備を理由に罰金と業務改善命令を出した。マーヴィンがこれに従わなかったため、町は彼の店に対し業務停止命令を下し、営業停止の処分とした。
孤独になったばかりでなく、生きるための職まで奪われてしまったのだ。
結局市によってコンクリート工場は建設され、更に翌年の2004年3月にはマーヴィンの父が死去し、マーヴィンは孤立し追い詰められた。
もう失うものなど何もない。
こうして、彼の復讐の計画が始められることとなった。
たった一人で日々住民たちへの憎悪を募らせていく彼は、倉庫に引きこもり、あのモンスターマシンを1人黙々と作り始めるのだった。
超大型ブルドーザーを通販で購入すると厚さ10センチのコンクリートと鋼鉄で覆い、さらに車体の前後、側面に銃口を開け、5つの銃を配置した。
拳銃やライフルなどものともしない。警察の通常装備では決して倒すことのできないモンスターであった。
こうして「キルドーザー」を作り上げた彼はついに、「私は人間の間違いを正すために殺し合いをするのだ」「神からグランビーの住民たちに天罰を下せとお告げがあった」と思い込み、街の破壊を実行に移すのである。
もはや彼の怒りは妄想の域に達していて、正常な判断力は失われていた。
最初に襲いかかったのは、もちろん自宅隣に建設されたコンクリート工場だった。
続いて、マーヴィンは工場の建設許可を出した前市長の家、銀行、新聞社など次々に破壊を繰り返していく。ついには、プロパンガスタンクのある貯蔵施設へと向かっていく。
その北側には、住宅地があり、ガス爆発を起こせば、大惨事になる危険性があった。
キルドーザーからガスタンクに向かって銃を連射するマーヴィン。
この緊迫した状況に、当時の警察署長は銃撃をかいくぐってキルドーザーに飛び乗ったが、内部から入口を溶接して封印していたためマーヴィンの凶行を止めることはできなかった。
さらに、キルドーザーの行く手を阻むべく、大型重機「スクレイパー」を動員したのだが、圧倒的なパワーの前になすすべもなく、あっさり押し戻され失敗に終わる。
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現場に駆けつけた警察官は当時の心境をこう語っている。
「キルドーザーで破壊を続けるヒーマイヤーから町を守ることは、もう不可能だと思っていました」
#__i_8529a101__# 破壊された工場
しかし、事件は意外な結末を迎える。
キルドーザーでの破壊行為開始から3時間……突如、あのモンスターマシンから大量の煙が上がったのだ。
エンジントラブルだった。
どうやら銃撃か手りゅう弾の衝撃によってラジエーターが破壊されエンジンがオーバーヒートしてしまったものと思われる。
動きが止まったキルドーザー……警察が犯人確保に向かおうとした矢先、内部から銃声が響いた……自殺だった。
マーヴィンの自宅には犯行声明となる肉声テープが残されていた。
彼は「住民の悪意、町の新参者に対する悪意がコンクリート工場をあの場所に建設させたのだ」と怨念にも似た思いを語っていた。
結局、15カ所の建物が破壊されたものの、住民への被害はなく事件は幕を閉じた。当時、現場にいた警察官は、事件をこう振り返った。
「彼のしたことは許されることではありません。しかし、家の隣にコンクリート工場を作られたら誰だって怒る。孤立していく彼を救ってやることはできなかったのかと考えることがあるんです」
管理人も見たことがあるが、コンクリート工場には騒音や粉塵がつきものである。
町外れにある自分の家が生贄にされたと彼が信じたとしても無理はない。
行政が彼の店と住宅を買収して代替え地を与えていれば、この事件はなかったに違いない。
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