第30話 怪談 野球部のD先輩
私の高校の同級生にYって奴がいましてね。
野球部のキャッチャーなんてしてましたんでえらいごつい身体の大男なんですよ。身長は百九十センチで体重も百キロはあるかなあ。
先日たまたま会ったそいつがでっかい身体をね。ちっちゃく丸めるみたいにして言うわけですよ。
「梁川……久しぶりに会ったから面白い話聞かせてやるよ。まあ、本当は言わないほうがいいのかもしれないけどな……」
高校を卒業してから二・三年過ぎましてね、Yのところに同級生のHから電話があったんですよ。
「おおぅ!久しぶりだなあ、元気してるか?」
「オレは元気なんだけどさ……知ってるか?D先輩亡くなったらしいぞ?」
「ええ―っ!本当かよ………」
このD先輩っていうのがね、Yにはあまりいい思い出のある先輩じゃなかったんだな。
ちょうど同じキャッチャーのポジションを争ってたせいか、まあ陰でいじめられてたんですね。
ミットを隠されたりスパイクで踏まれたり……それと自分の悪口にはひどく地獄耳だった。
いじめの陰口なんかこぼすと翌日にはくだらねえ言いがかりつけてんじゃねえ!って怒鳴られたそうですから………。
そんな先輩でしたんで気乗りはしなかったんですが卒業して間がないし、部員の連帯感みたいなものがまだ残ってた時期だったんで、結局OB集まって弔問に行こうという話しになった。
葬儀は二月のそれはそれは寒い日だったそうですよ。
福島の二月といえば氷点下なんかはざらですからね。そんな中でも群を抜いて寒い日だった。
手が凍るように痺れて喪服着てるのが大変だったそうです。
そして久しぶりに集まった野球部のみんなと雑談なんか始まりますとYもつい調子にのっちゃってね。
「本当はこういっちゃなんだけどD先輩にはオレ、結構いじめられてたんだぜ」
「ああ、そういえば高校のころにもそんなこと言ってたっけなあ……」
「憎まれっ子世にはばかるっていうけど当てにならないもんだなあ……」
どうもD先輩ほかの人間にもちょっかい出してたらしくて後輩たちにはえらく受けが悪いんだな。
オレもオレもってんでD先輩の悪口大会みたいになっちゃった。
結局軽く飯でも食ってじゃあまたな、なんていって夕方前にはみんな別れたんですがね。
家に帰る途中がなんとも言えず気持ち悪いんですよ。
居心地が悪いっていうのかな……何がどうとは言えないんだけどとにかく気持ち悪い。
あえて言うなら視線を感じてる感覚に近いんですが、それも物陰からとか言うんじゃなくてすぐ隣でジッと見られてるようなそんな感覚なんですね。
でもそんな近くに人がいたらわからないわけないですし、周りを見渡してもだ~れもいないんです。
田舎の街だし、こんな寒い日の夜には誰も出歩きたがらないんですよ。
やだな~気持ち悪いな~と思いながらも原因がわからないからYもなるべく気にしないように帰り道を急いだんですね。
ところがふ…と気づいてみるとさっきから自分の口から出るしろーい息がすぐ目の前で吹き散らされてるんだな。
てっきり向かい風のせいかと思ってたんだけど、路地を曲がって追い風になったはずなのにまだ息が散らされる。
まるで自分の顔から三十センチくらいのところに見えない壁があるみたいなそんな感じなんですよ。
そして不思議なこともあるもんだな~と思ってYがその見えない壁に向かってぐいっと手を伸ばした………。
「梁川、そしたら見えない壁だと思ったのは見えない人の顔だったんだよ。オレはごつごつした男の頬と歯に確かに触れたんだ。
ちょうど右の唇から頬の半ばまで消えない傷が残っていてな……その傷跡に触れたときにわかったんだ。
D先輩には練習試合でファールボールを追いかけたときに出来た頬に大きな傷があったんだよ………」
あの先輩死んでも悪口にはうるさかったなあ、って私の前では笑ってましたけどね………。
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