第26話 サマーパーティーのファーストダンス
ガシャガシャ鳴ると
「離しなさい、私達は言われた事をしただけです」
甲高い声で嫌だといいながら暴れている王女様達。護衛も困っている。
ローレンス殿下は厳しい口調で
「貴方達は二か月前シャーリス嬢をふくめ令嬢3人を誘拐するように下賤な者達を雇ってましたね。王都の路地に馬車や荷車、下賤な者達を捕らえました。隣国から雇われたと話していますので、事情聴取させてもらいます」
「何も知らないわ」
癇癪をおこしながら叫ぶ。近衛騎士に囲まれてどこかに連れて行かれた。
突然シャーリスから王都に遊びに行くのが中止になったと言われた理由もわかった。シャーリスは私達を守ってくれていたのだ。巻き込まれないよう何も知らせず。シャーリスを見ると笑顔で私達を迎えてくれる。
「さぁ、フルーツタルトを食べにいきましょう。やっと静かになったのだから」
楽団も先程までの空気を一掃するかのように優雅な音楽を奏でる。
音楽を楽しみながら、お菓子に向かう私達は幸せだ。フルーツタルトの甘酸っぱさは、笑顔になる魔法。給仕が配るスパークリングの林檎ジュースはこの断罪をすっかり流してくれる。
みんな先程まであった茶番劇なんて魔法にかかったように忘れ、ホールの中心ではひらひら舞いふわふわ舞いを繰り返している。
私達が楽しくお菓子を堪能していると真っ直ぐシャーリスに向かって第二王子が近づき、スマートにダンスに誘う。
ホールの中心に向かう二人の後ろ姿は、未来が見える。
「お似合いだね」
とローラと顔を見合わせ、クスクス笑う。
演奏とダンスは二人を別世界に連れて行ってしまった。完全に二人の世界であんなに二人があまあまだったのを私は知らない
ローラは
「あの二人長いからね」
とちょっと含みをもたせながら話す。
クラスの令息がチラチラとローラを見ている。可愛いですものうちのローラは。私はローラに飲み物を貰いに行くと伝え、その場を離れたら、すぐにローラさん令息達に囲まれている。
空を見ようと窓に近づく。
夜になりつつある庭園の向こうに金の髪が揺れていた。
「行かなきゃ」
と引っ張られるような力に押されて早歩きで庭に行く。
暑さもほどほどで、風が気持ちよくスカートを揺らす。
「やぁ、君は。ストンズ嬢。何故こんな場所に?」「お久しぶりです。ローレンス殿下」
貴族の礼をする。赦しをいただき視線を上にあげ、その艶やかな金の糸に目が止まる。
「髪、黒い部分なくなりましたね」
下に降りて来た理由は交流会の発表が素晴らしかった事や刺激になって勉強意欲が湧いた事の感謝を伝えたかったから。
色々あった件は、巻き込まれただけで貴方のせいではなかったですね、隣国の陰謀を見事に打ち破りましたね、とか本当に色々話したかった。
なのにどうして違う言葉が出るのだろう。
以前より頬の痩け具合は気にならなくなったし、パーティーでの殿下は色気が凄い。そんなことに見惚れて言葉は出ない。
「貴方が言ってた通りだった。黒い髪は戒めなんて独りよがりだった。私の周りの者達はあの部分を見るたび心を痛めていた。過去に出来ず後悔や苦しみにもがかせてしまっていた」
「髪を切った事で皆が笑うようになった」
下を向き徐々に視線を私の眼に合わせた。話している声は聞こえているのに、右から左に流れる音で、私の心臓の音が大きくて、殿下に聞こえてしまうのではないか。
「ストンズ嬢?」
不安気に見る殿下に考えるよりも話すより、目頭が熱くなって泣きそうになる。
意味もなく泣くな、ギュと強く手を握る、不恰好な笑顔だろうが、
「前に進めて良かったですね」
と言う。
沈黙は夜の庭園には堪える、余計に話すことも出来なくなるし、水の音、楽団の音楽が風に揺られながらやってくる。
殿下が膝を曲げ、片手を私の方へ出し
「一曲いかがですか?」と色気たっぷりな美女の笑みで言う。
「よろしくお願いします」
震えそうな声をなんとか音にして伝える。
ゆったりしたワルツで、私はくるりくるりと回り、花の匂いが幸せで、笑ってしまう。石畳に足が囚われるが、ローレンス殿下のリードは上手く足運びを促して体幹はぶれない。二人でずっと笑い合うだけで話はしなかった。楽しかった。音楽がずっと続けばいいのに。
一曲が終わると身体は離れ、握られる手は、みんながいるホールへと連れて行く。
「ありがとう、楽しかったよ」
と告げるとセオ兄様を見つけ私を送り届けてくれた。
シンデレラの時間は幸せの時間。
色々あったサマーパーティーは、この気持ちに全て塗り変えられた。
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