第20話 学生は楽しい
交流会に選ばれたメンバーは、午前の授業にはいなかった。ポツポツ空いた席、私の隣の席。お隣さん、優秀な令息なのですね。
交流会のメンバーはいつも研究を優先に一か月前後、学院生活を過ごすらしい。授業を受けなくても成績に影響が出ないメンバーが通常選ばれるとローラが教えてくれた。私の兄、優秀。
みんなで何かを作るとか考えるとか楽しそうだなと窓の向こうの雲を見る。何故か以前楽しかった何かがあったような。思い出すことは出来ないけど、雲を見ているとデンシャとスマホとのうっすらとしたイメージのような絵を思い出す。鼻がスンとしてちょっと切ない。
「どうかしました」
とローラが気にかけてくれる。相変わらず可愛い声に癒される。
「いやいや、何も、雲を見てました」
と言うと、シャーリスまで
「空気に溶け込んでおりましたわ」とコロコロ笑う。
シャーリスは、王都に行けなくなった理由は言わない。朝、また謝罪を受けただけだ。友達だからって全てを言わなくて良い。なんとなく私も誰にも第一王子に会った孤児院での事は言ってない。不敬な発言ばかりだったし。
兄様は本当に忙しいらしく、登校の際にも何か報告書を読んでいる。馬車に酔うのではないかと問うと
「全然問題無し」
と返ってきた。
この一か月近く私は、のんびりゆったりしている。
歴史の授業は面白く、少し離れた国の言語は難しい。でもなんか発音が可愛い。プップデューみたいな。最初に聞くと笑ってしまう。特技になるかわからないが私、刺繍を刺すの凄く早いらしい。ただ、絵面が駄目らしい。下手?センスがない?バランスが悪いなど言われた。決められた図柄をアンナが写したものを何枚か用意してもらって、授業中はひたすら刺す。そして提出を繰り返していたら、もう充分と言われた。
朝、席に着いていると隣の席のエイデル様(公爵令息)に話しかけられた。勝手に攻略対象ではと警戒をしていたものでほぼ挨拶しかしたことはない。
「ストンズ嬢、何度か貴方の板書を見たことがあるのだが、よくまとめられ見やすいレポートにしている。悪いのだが、交流会の研究レポートを一部まとめて下書きしてもらえないだろうか?」
話しかけられた事も驚きだが、女生徒の視線が痛い。じっとこちらを見るエイデル様も痛い。
「わかりました。上手く出来るかはわかりませんが、お手伝いいたします」
と答えた。
兄様の忙しい様子を見ていたのもあるが、エイデル様も大変なのだろう。残り数日、仕上げる為ネコの手も借りたいのだろうなと引き受けた。
エイデル様達のグループは、川から近くの田畑に水を引く、水を溜める方法というテーマだった。実利を伴った生活しやすくなる研究に流石選ばれるテーマだと感心した。
多くの意見が出ていて、それに合わせて実験や実施報告もあるが、問題点は見にくい。あちらこちらに似たような実験結果が飛び散っていた。まず、大きく分類して、その下に実験と結果、感想を考察としてまとめてみた。テーマを受けて意見の記入は話言葉をやめて箇条書きにした。ずいぶん見やすくなったのではと自己満足して、3日後にエイデル様に渡した。
同級の人達の研究が立派で勝手に家族に自慢したのは、仕方がないだろう。兄様の発表も楽しみだ。
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