何かの物語のはずだけどタイトルがわかりません

兎乃マロン

第1話 記憶は突然降りてくる

『春の新しい芽吹きと共に君達新入生を迎え、


バタン、バタバタ、ドサッ


何かしらと首を慌ただしそうな音が聞こえる方へ向けると、ふわふわとしたピンクぽい髪色の少女が私の隣の席に座ろうとしていた。


その落ち着きのなさと隣の私に対しての配慮を一切見せなかった感じに不快な気持ちになってると、だんだんとズキズキと頭の痛みに襲われた。


こめかみを手で摩りながら、また前を向き顔を上げると我が国の第二王子が貼り付いた笑顔で話していた。


痛みとその人形のような顔立ちに

「なんか別世界みたい」

と思ったら、隣の女生徒の熱を感じた。

上気しているような顔の赤らみが、興奮の度合いを感じさせる。

「やば〜い」

なんて言葉を発して第二王子を見つめている様子は、コンサート会場でのアイドルを見ていた友人を思い出す。

自分の思考の海に、アイドルだのコンサートだのが浮かんできたことに私の頭はより一層痛みを伴う、痛みの中に違うヤバさを感じながら、隣の様子を見なきゃという使命感に突き動かされる。


顔立ちは大変可愛らしく、この子が主役です♪と言われても納得できる容姿をしていた。

ただ明らかにこの国のものではない言葉遣い、発言、略式語が漏れて聞こえてきた。

『転生者』と意識し始めるとそれだけで頭がいっぱいになり、『ではわたしは』と思い始めて下を見る。


どのくらい時間が経ったのか分からず、生徒達の足音がバタバタと聞こえる。

気がつくと私の隣の女生徒はいない。

講堂から立ち去る足音だけが耳元で大きく私がその場にいてはいけないと教えてくれる。

脚に力が入らないし頭痛はするし一気に色々考えてしまい私の顔色は最悪なものとなっていた。

教師らしき若い男性が近づいてきて

「体調が悪いのか」

と聞く。

素直に頭が痛く脚に力が入らないと伝えると若い男性は私を横抱きに担ぎ医務室に連れて行くと言う。


めちゃくちゃ注目されてるじゃん

やめて〜顔が熱くなる


そんな恥ずかしさでいっぱいになってると当たり前にあることに気づく。

「私、転生者?」

ガクンと意識が途切れたのは言うまでもなく、目が覚めたのは太陽も真上を過ぎた暖かい風が感じられる簡素なベッドの上でした。


「ふぅ〜」

とゆっくり息を吐くと、私の横から明るい茶色の髪が目に入った。

「シャル、気分はどう」

優しい笑みと小さい声をかけられて安心する。

「なんて言えばいいのかしら、そうですね、気分はとても悪いですわ」

と伝えると心配そうな顔を見せながら気遣ってくれる優しい兄に向けてもう一度ゆっくり息を吐く。

「身体は動くかい?先程医師からは緊張からくる立ちくらみと体調不良だと説明を受けたよ」

優しく私に話す兄に手を握ったり開いたりして見せた。

「大丈夫そうです」

と伝えると医務室の先生も顔を出して

「ゆっくりでいいわよ、無理しないでね」

と声をかけてくれた。

「馬車を待たせているよ」

と兄に促されエスコートされながら医務室を出て校門を目指す。

「シャルが緊張で体調不良になるなんて、そんなに入学を楽しみにしていたのかい?どうした?そんな様子見せてなかったじゃないか」

などと兄は不思議がっている。



馬車の扉が開くと

「大変でしたね」

と侍従に声をかけられて

「心配をかけました」

と伝えると微笑んで荷物を持ち中へと促す、馬車が走り始めても兄がまだ何か話しかけてくるが、この空間自体に現実味を感じられなくて意識を昔へと飛ばす。また頭の痛みがくる中で顔色が悪くなっていく私を見ている兄には気づかず、早く自室に戻ってこの現実と妄想との意識を整理しなければと一人思考に耽っている間に馬車が止まった。


私の家、ストンズ伯爵家に到着した。

「おかえりなさい」

と明るい声で茶色というより赤に近い髪色をした可愛らしく微笑んでいるお姉さんと言っても通じる母が出迎えてくれた。


すかさず兄が事情を話しながら、その様子を何故か他人事のようにドラマでも見ている気分になっていると母が近づいて私の額に手をあてた。

「熱はなさそうね」

と言いながらテキパキとメイドや侍女に指示を出す、さすがは母様と感心しつつ、私は侍女に自室に連れられる。そのままベッドにダイブ…したら侍女が悲鳴をあげた

「お嬢様がぁ〜」

なんて言うもんだから人が慌ただしくやってくる。はしたないと脳裏に浮かぶものだからすぐに立ち上がって、少し申し訳なさげに

「ごめんなさい」

と伝えるとすぐに侍女たちは、制服を脱がして簡易なワンピースに着替えさせてくれる。自分で出来るし恥ずかしいとの意識とのせめぎ合いをしていると布団を被せられお休みになってくださいと若干涙目で言われた。


誰もいない自室のサイドテーブルにある水差しから水を飲むとやっと落ち着いた。

私興奮してた?

ソワソワしてた?

明らかにいつもとは同じなわけはなく誰の目から見ても変だったろうなと考えつく。

整理しようと机にむかいペンと紙を用意する。


シャルロッテ・ストンズ(13)

伯爵家次女

父、母、姉、兄の5人家族

領地も普通、お父様は文官をされていて要職についているわけでもない

経済的にも普通の普通だと思う。


「これって乙女ゲームかな、ラノベかな、私ってモブかなぁ、転生者だったらもっと攻略対象とかなんたら…。とかあるよね」

姿見を見て確認すると明るい赤っぽい茶色のストレートヘアの外国人、普通に身長もありスタイルがいいわけでもない太ってるわけでもないがやわそうとか折れそうとかもない、普通。

顔はモデルさんのような気がするとニタニタ鏡を見ていると今日あった入学式の事を思い出す。

「王子ヤバかったな、あれ見たら、やっぱり私、美少女という要素を感じない。今日の席隣の子もアイドルみたいに可愛かったな」

と独り言。

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