第53話 7月25日 慎一②
「どしたの、慎ちゃん? お姉ちゃんに抱きつきたさそうな顔して」
「いやしてないわ。微塵もしてない」
総ちゃんの襲来から5日。
どうしたら5人が僕のプロポーズを受けてくれるかを、目を閉じてウンウン考えていると、2階から降りてきた姉ちゃんが、都合の良い解釈で絡んでくる。
「お姉ちゃんに話してごらん?」
姉ちゃんが優しく微笑む。先の面倒くさい絡みも、必要な前置きだったと思えてくるから、ずるい。
姉ちゃんにもアメリカ行きはすでに伝えてある。
日本での仕事もあるだろうに、『私も行くよ』と即答してくれたのが嬉しかった。
「姉ちゃんならさ、どんなプロポーズされたら嬉しい?」
美人な姉ならば、この女性過多な世の中でもプロポーズの一つくらいされた経験があるかもしれない。少なくとも告白くらいならあるだろう。
藁にもすがる思いで、尋ねる。
「…………慎ちゃん。本当に本当に本っっっっ当に、残念なんだけど」
姉ちゃんは申し訳なさそうな顔して言う。
「実の姉弟同士は結婚できないんだよ?」
いつそういう話になったのだろう?
僕はギロリと姉ちゃんを睨んで、抗議の意を示すが、その程度で止まる姉ではない。
「でも、身体だけなら…………いいよ❤︎」
ダメだこいつ。
僕が立ち上がって無言で自室に戻ろうとすると、姉ちゃんが「ごめん! 冗談! 冗談だから!」と僕の服を引っ張って止めた。
♦︎
「プロポーズなんて簡単だよ」
どうしても相談に乗りたいという姉に付き合って、改めて座り直した僕に姉ちゃんは言う。
「断られるかも、とか思わないの?」
正直僕は思う。
それが怖くて、一人でうんうん悩んでいたのだ。
僕がアメリカに引っ張られるのは、どうやらすでに決定事項のようだった。
日本に戻れるのか。いつ帰って来れるのか。それすらも不明で、おまけにアメリカのどこかすら教えて貰えないのだ。
国家機密情報らしい。
だが、幸いなことに家族の同行は可。
母さん、姉ちゃんはすでに一緒に来てくれることが決まっている。
そして家族とは当然、妻も含まれる。
僕は今はまだ独身ではあるが、婚姻届にサインして役所に出すだけならば、1日あれば可能。
この世界の日本では重婚が認められる法制度となっているのだから、生徒会役員全員と結婚してしまおうというのが今回の僕の計画である。
人生を左右する決断だ。もちろん無理強いはしない。本人の意思は最大限尊重して、来たい人だけ来てもらう――
――というのは建前ェェエエエ!
僕はそんなにできた人間ではない。
やりたいことはやる。
したいことはする。
結婚したい人は…………
どんな手を使ってでも結婚するゥゥゥウ!
猶予は1ヶ月。
1ヶ月の間に、あの生徒会に結婚を申し込み、絶対に『YES』を引き出すのだ!
姉は言う。
「断らせないように、立ち回るのよ」
ちっちっち、と指を振る姉はどこか得意げで癪に触る。
プロポーズしたこともないくせになんでそんな尊大な態度なんだ。
「だから、どうやって立ち回るんだよっ」
「簡単よ? 決定的証拠を突き付けるの!」と姉は懐から写真を取り出して僕に突きつけた。
そこにはパンツ一丁でお腹を出して眠る僕が写っていた。
バッと奪い取ろうとして、すんでのところで間に合わない。
姉ちゃんはそれを大切に懐にしまい直した。
「弱みを握って脅せってこと? 最低かよ!」
「違う違う。この写真はただ慎ちゃんに見せて可愛い反応を引き出したかっただけだから」
「最低かよ!」
改めて罵倒するが、姉ちゃんは全く悪びれず、『怒った慎ちゃんも可愛い……❤︎』と片手を頬に当て、片手でシャッターを切る。ウザい。
「証拠と言っても色々あるでしょ? プロポーズに必要なのは『あなたはもう結婚に同意しました。責任を取ってください』という証拠よ」
「おい……それってまさか――」
「そっ」姉ちゃんが人差し指を唇に当てウインクする。「き・せ・い・じ・じ・つ❤︎」
既成事実!
そんな!
そんな裏技が?!
通常、『ちょめりんこファイナル』は結婚し、初めて迎える夜に執り行われる。文字通り最後の愛の儀式である。
いや、この考えは流石に古いと言われてしまうのか?
だが、少なくともこの世界ではヤルということは、もう結婚を見込んでいるということと同義だ。
しかし、既成事実は全くその逆!
まず『ちょめりんこファイナル』ありきなのだ!
いや、これはファイナルではない。次のステップへ進むためのちょめりんこなのだから、『ちょめりんこネクストステージ』である。
ターゲットを誘惑し、ちょめりんこを担保に結婚を迫る荒業!
必殺の禁止コンボなのだ!
例えば、プロポーズされたのが自分1人ではないと知った会長が「そんなの認められないよ」と言ったとする。
そこでこの禁止カード『既成事実』発動。
「えっ、僕の体を良いように弄んでおいて、結婚はしてくれないんですか? ヨヨヨ」
これで会長は「ごめん」と「分かった」と「おっぱい揉んでいいよ」以外の言葉は封じられる!
僕の完封勝利! おっぱいで乾杯だ!
分かっている。倫理的にどうなのか、というのであろう?
だが、僕はやる。
どんな手を使ってでも、彼女たちは絶対に連れて行く。
僕にとって彼女たちは何よりも大切な存在。
もうそんなところまで来てしまっている。
誰一人として欠けてはいけない。
全員をアメリカに引っ張るのだ。
あの生徒会全員を。
時間は限られている。
この夏休みが勝負だ。
ウインクポーズを僕に見せつける姉を置いて、僕は計画を詰めるため、無言で自室に戻った。
後ろから「え?! 相談終わり?! 唐突に終わった?! ちょ、せめて私のウインクの感想ちょうだい!」と聞こえたが、気のせいだと思うことにした。
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