第4話 もみあげ先輩

 

『可愛すぎるデスギドラ現る!!! 〜正体は須田 慎一くん?!〜』





『抱きたい男子人気投票

 第一位 須田 慎一(2-D)

  ――こんな男子実在したの?!

  ――漫画から出てきたような神対応

  ――その優しさに全米が濡れた

 第二位 天田 哲平(3-A)――』



『昨日の慎ちゃんのツッコミ:お前はダイオウグソクムシか』







 俺は掲示してある学校新聞を乱暴に剥ぎ取り、ぐしゃっと丸めた。


「田村くん、こいつ最近調子のってね?」


 山田が俺の心を代弁する。


「ああ。そうだな。ここらで一回しめておくか」


 俺は山田と共に2年の教室に向かった。







「慎ちゃんですか? なんかフラッと教室から出て行きましたけど」とテキトーに話しかけた女子が答えた。


 ちっ。運のいい奴め。

 できれば、同学年のいる前で恥をかかせたかったが、仕方がない。


「戻ってきたら放課後3ーBに来るように伝えろ。田村 俊平がそう言っているとな」


「はぁ。分かりました」



 生徒会副会長だかなんだか知らないがな、調子に乗っていられるのも今のうちだぞ須田!





 ■■■■■■■■■■■■■■■■■



 僕が昼休みにトイレに行っている間に、何やら先輩から呼び出しがあったらしい。

 なので僕は3年生の教室を訪れていた。

 放課後の呼び出しだったみたいだが、貴重な放課後の時間を謎の男子先輩に割きたくなかったので、昼休みのうちに終わらせようと思ったのだ。

 あと7分で午後の授業の予鈴が鳴るが、まぁいいでしょ!




 田村先輩を呼んで欲しいと近くの先輩女子に頼むと、「わぁ本物の慎ちゃんだ!」と笑顔で応じてくれた。



 待っているとなんかもみあげがやたら長く、縮毛で不自然にストレートになった髪型の怖そうな男の先輩と、小太りの男の先輩がやってくる。

 そしていきなり一喝。



「お前、放課後って言っただろぉが! バカが!」ともみあげ先輩。

「日本語通じる?」と小太り先輩。


「しかし、ですね。もみあげ先輩」


「誰がもみあげ先輩だ!」


 この先輩はいちいち威嚇しないと喋れないのだろうか。


「放課後は生徒会があるのですよ。ご理解ください」


「ちっ。何が生徒会だ。いい気になってんじゃねぇよ! 抱きたい男子ランキングも何か不正してんだろ、どうせ!」


 抱きたい男子ランキングって何?! キモすぎる。何がキモいってそれを気にして毎回チェックしているもみあげ先輩がキモい。


 しかし、僕そんなのにランクインしてんの? それなら不正を疑われても仕方がないかもしれない。

 僕よりイケメンの男子はこの学校にたくさんいるからだ。

 もみあげ先輩にしたって、もみあげと細すぎる眉は別として、顔は結構整っている。

 僕がランクインしているのは、おそらく『あいつに皆で投票してランクインさせようぜ』的な悪ノリなのだろう。


「それで要件はなんですか? まさかそのランキングについて文句言うためじゃないでしょう?」

 僕は面倒くさくなって、パッパと話を進めた。


「ランキングで不正してすみませんでした、と謝りな。土下座でな」


 もみあげ先輩がニチャァっと笑う。

 あぁ、土下座させたかったのか。

 自分より下の僕がランクインしてるから、もみあげ先輩のプライドが許さなかったのだろう。


 周りで先輩女子がひそひそ話す声が聞こえる。

「それはあんまりじゃない?」

「え。てか、慎ちゃん不正じゃなくない?」

「私も慎ちゃんに投票したよ」

「うちもうちも」





「うるせーんだよ! ガヤどもが!」


 もみあげ先輩が怒鳴り散らし、辺りはシーンっと静まり返る。




「もみあげ先輩、あまりカッカしなさんな。これでも食べて、落ち着いてください」


 僕はポケットからミルク味の飴ちゃんをもみあげ先輩に差し出す。カルシウムが足りてないからカッカしてしまうのだ。


「んなもんいるか! てか、てめぇ! もみあげって呼ぶんじゃねぇ!」



 余計に怒らせてしまった。

 でもまぁ、そういうことなら解決は簡単だ。





 僕は床に手をつくと、






 なって、1の字になるように腕を伸ばした。





 いわゆる土下寝だ。



「あ゛?! お前なにやってんだ?」


「何って土下寝ですよ。土下座よりも床につく面積が広いんだから、土下座よりも上位の謝罪です。僕の誠意、受け取ってください。もみあげ先輩」



「え゛……あ゛?! ……お前……ふざけんな!」



 もみあげ先輩は何故か少し戸惑いながら憤慨している。

 僕はいわれのない罪を謝っているというのに。

 これ以上どうしたら良いのか。



「慎ちゃんがこんなところで寝ちゃった!」

「可愛すぎるぅ!」

「毛布! 誰が毛布持ってない?!」


 パシャっパシャっ。パシャパシャっ。


 周りの先輩女子から写真を撮られまくる僕と、その後ろに写るもみあげ先輩。

 僕は普段から撮られまくっているから慣れている。なんなら定点カメラで盗撮されることにも慣れ始めているくらいだ。


 しかし、もみあげ先輩は違うみたいだ。

 シャッター音の嵐に怯みまくる。





 そこへ、







「………………慎ちゃん何やってんの?」



 会長と薫先輩が通りがかる。ここは3年生のエリアなのだから当然と言えば当然である。



「見て分かりませんか? 土下座です」


「見て分からないから聞いたんだよ慎ちゃん。というか、それ…………土下座?」


 会長が僕の土下座に疑義を呈す。

 おい、イチャモンはやめてもらおうか。これは誰がなんと言おうと土下座もとい土下寝だ! 刃牙でも見て勉強するんだな!


 会長とのやり取りの間に、薫先輩が周りの女子から経緯を聞いていた。

 そして、もみあげ先輩に詰め寄る。


「田村くん。後輩に難癖つけて呼び出すのは関心しないなぁ」


 薫先輩、言葉を選びながらも顔は詰問顔である。男子にこうも強気に出られる女子も珍しい。


「うるせぇ! 女子は関係ないだろ! すっこんでろ!」


 もみあげ先輩が薫先輩を殴ろうとするが、簡単にかわされ、関節を押さえられ、もみあげ先輩はそのまま引き倒された。


「いってー! おい! 女子は男子を守るもんだろぉが! ふざけんな、てめぇ!」


 もみあげ先輩、言うに事かいて、情けないことを言う。まぁでも、この世界では女子の方が強いのは確かだが。


「そうだとも。私は私の大切な人を守りたい。だから慎一に手を出すのは止めてもらおうか」




 きゅ〜ん❤︎




 薫先輩っ! いつも変態さらしてるけど、あなたは今輝いています!





「くそがっ! 覚えてろよ生徒会!」


 もみあげ先輩がもみあげを揺らしながら去っていった。

 小太り先輩はいつの間にかいなかった。白状な取り巻きである。





 会長が僕を立たせ、ぱっぱっとホコリを払ってくれる。会長もお子様に見えて結構面倒見が良いのだ。

 僕はお礼にミルク味の飴ちゃんを会長にあげると、嬉しそうに頬張った。可愛い。




「会長、薫先輩。ありがとうございました。助かりました」


「良いってことよぉ」と会長が僕の背中をぺしぺし叩く。さりげなくボディタッチされてる気がするが今は不問としよう。


「慎一はモテるからな。一部の男子のやっかみはこれからもあるだろうが、何かあれば私を頼れ」


 痺れるぅ〜❤︎


「だが…………その……お礼に、今度鞭で打ってくれると助かる」


 ふふっと鼻をこすってはにかむ薫先輩。

 僕は驚かなかった。

 そうじゃないかなぁと思っていたから。

 締めるところは締めて、そして最後に全てを台無しにするのが、この生徒会なのだ。

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