男女比1:20の異世界。意外に馴染めてると思っていたら、この生徒会がヤバすぎる!
途上の土
第1話 僕の日常
「と、いうわけで、だよ」
生徒会長
会長の制服のリボンが少し緩んでいて、僕はブラが見えないか少し期待した。
が、残念ながら、当てが外れる。
会長がライトブラウンのミディアムぱっつんヘアをかきあげて、生徒会メンバーを見回す。
本人は大人っぽい仕草だと思っているのだろうが、まるで子供のおままごとである。
なぜなら会長は高3とは思えないほどの童顔、低身長で、なんなら小学生に見えないこともないロリロリな見た目なのだ。
「男子は女子のお膝で休み時間を過ごす法案を賛成多数で可決にしようと思う!」
会長は右手を上げて、高らかに通知する。
「いや。『しようと思う!』じゃありませんから! なんですか! その頭の悪そうな案は! 男子の人権を無視しないでください。座る場所を選ぶ自由の侵害です」
僕は人権問題を持ち出して、会長の無茶苦茶な法案に反対する。
「慎ちゃん、そんな自由は法律では謳われてないと思うけど」
同学年の書記の
おしゃれにカールしたピンク色の肩にかかる程度の長さの髪をハーフアップにし、トレンドマークの赤縁メガネの奥には、穏やかそうなタレ眉と瞳がのぞく。
穏やかだからと甘く見ていると、この世界では大怪我をする。
僕は警戒を緩めない。
「いやいや。普通に考えてみ? 膝の上だと何するにも丸見えじゃん。スマホ開けば画面も丸見え。これは立派なプライバシーの侵害だろう!」
どうだ! この正論! 論破できまい!
「いえ。先輩。大丈夫です。先輩のスマホは既にハック済みなので、あまり現状と違いありません」
「ぉおおい! 現在進行形でプライバシー侵害してんじゃねーよ」
僕は立ち上がり、叫ぶ。
常時ハッキング受けてるなんて、初耳なんだが!
この危ない発言の子は広報の
彼女のきらめくような金髪は彼女が持って生まれたものである。美咲ちゃんはフィンランド人の母と日本人の父を持つハーフなのだ。
少し北欧人然とした彫りの深い造形に青い瞳、しかし柔らかそうで可愛らしい桜色の頬は美しさの中に幼さを差し込んでおり、笑うとできるエクボがキュートな女の子だ。
パソコン関係に強く、ハッキングだかクラッキングだか危ない用語を乱発するが、実際にやっているのか冗談なのかは不明である。
「慎一。男の子が『じゃねーよ』なんて言葉使うんじゃない」
「注意するとこそこ?! もっとありましたよね?! 犯罪的な何かがありしたよね?!」
トンチンカンな注意を飛ばすのは会計で3年生の
黒髪ロングの髪を今はポニーテールに結っており、うなじが眩しい。
キリッとした目は薫先輩の己にも人にも厳しい性格をよく体現しているのだが、僕には結構優しくしてくれる先輩だ。
「ま、慎ちゃんは反対ってことでいいから。ね。座ってて」
会長が僕の後ろまできて、背伸びして僕の肩に手を置き、グイッと座らせる。
そして、僕の膝の上にぴょんと飛び乗り、座った。
会長のお尻の感触に息子が起立しそうになるが、鋼の精神で必死に押さえつける。
今息子が起立すれば、会長のお尻に息子が接触する。それだけは避けねばならない。
「じゃ。反対1。賛成4ってことで――――」
「「「ちょーっと待ったァァ!」」」
薫先輩、桃山、美咲ちゃんの声がかぶる。
「何、ちゃっかり慎ちゃん先輩の上に座ってんですか? バカですか? ケンカ売ってんですか?」
最年少の美咲ちゃんが3年生の会長に全く物おじせずズケズケとクレームを入れる。
「そうだ! 智美、生徒会裏ルール忘れたとはいわせないぞ!」
薫先輩が会長に睨みを効かせながら言う。
生徒会裏ルール? 何それ。怖い。
「会長! アウトです! レッドカードです! 一発退場です」
あの穏やかな桃山が怒りで顔を赤らめて、優しそうな垂れ眉は吊り上がっている。僕の恐怖ゲージはもうとっくに振り切れている。
桃山の退場の掛け声で、薫先輩、美咲ちゃんも動く。
会長は3人に担がれて、「いやぁぁああああああ!」と叫びながらドナドナされていった。
一体どこに捨てられるのだろうか。それが川とかでないことを祈る。
僕は一人ポツンと取り残された。
取り残されてしまったので、僕のここまでの話でもしたいと思う。
僕はこの世界の人間ではない。
いわゆる異世界人だ。
別になんてことない平凡なただの高校生だったのだが、ある日、自動車事故に巻き込まれて、唐突に人生の幕を下ろすはめになった。
と、思いきや、普通に目覚めた。
しかし、そこは見慣れない部屋だった。
鏡を見れば、眠そうな目の天然パーマのボサボサ黒髪少年が写っていた。
誰だコイツ、と初めのうちは思うが、僕のする動作と寸分違ぬ動きをすれば、コイツが自分なのだと猿でも理解できる。イケメンではないが仕方ない。僕はこの顔で妥協した。
リビングに行けば、僕のことを慎ちゃんと呼び、やたらと甘やかしてくる自称母と自称姉。
ここまでくれば、僕は慎ちゃんなる人物の体に憑依しているのだと理解できた。
だが、僕は慌てなかった。憑依ならそのうち剥がれて、元の人格が戻って、僕は天国にでも旅立つのだろうと、持ち前の前向き思考でのんびり、日常を過ごした。
そして、日常を過ごすこと、早3年。当時中2だった僕は今では立派に高2になりました。
どうやら憑依は解けないようです。トホホ。
日常を過ごして、分かったこと。
それはこの世界が男女比1:20のアンバランスな人口で、男女の貞操観念が逆転していること。
男子が女子に対して冷たい人が多いこと。
僕が憑依する前の慎ちゃんこと
この世界では一夫多妻も認められており、男性の二股は社会一般的には咎められることはないこと。
等々。
どうせ異世界に行くのなら、剣と魔法の世界でチート使って、俺tueeeしたかった。
しかも、せっかく女の子だらけの世界に来たのに、顔がイケメンな訳でも、運動神経が高い訳でも、頭が良い訳でもない。異世界でも平凡な男子だったのだ。正直がっかりだ。慎一くん。君にはがっかりだよ!
にもかかわらず、である。
何故か平凡な僕がこの高校に入って、2年生になった4月に、僕は現会長である
「ちょっとちょっとちょっと! 何ですか?! 何するんですか! 僕トイレ行きたかったんですけど!」
「ちっちっち。トイレなんて野暮用後回しさ。私たちの要件を先に聞いてもらおうか」
会長がその小さな指を振って、僕の都合を全く考慮しない発言をする。トイレ野暮用じゃないんですけど。結構差し迫ってるんですけど。
今度は私、とばかりに薫先輩が続きを話す。
「あなたは今日から生徒会副会長になりました。おめでとう!」
「わーパチパチパチぃ!」
会長がちっちゃな手をパチパチと叩く。
「………………ふぁ?! なんで?! 僕立候補してないです! 何かの間違いですよ!」
「いいえ、間違いではありゅませんー。キミは確かに生徒会副会長に決定したにょですー。これがその証拠」
会長は自分が噛み噛みなことはないこととして、話を押し進め、校長の公印が押された書類を水戸黄門の
なんでそんなに噛み噛みなのに、そんなドヤ顔ができるのだろう。謎である。
それは確かに正式な書類であった。
「でも、なんで?! 確か生徒会役員は立候補の上、選挙で決定するはずでは?!」
「ふっふっふ。確かに! キミの言う通りだよ。…………昨年度まではね! 私達は昨年度、ある法案を可決し、正式に決定した。なんだと思うかね?」
「えっと……生徒――――」
「――その法案とはズバリ! 副会長、推薦信任方式法案のことだぁ!」
質問しておいて、聞く気ねぇーよ! このちびっ子会長!
薫先輩が補足する。
「生徒会役員のうち、副会長については、現生徒会役員の推薦で候補があげられ、その信任決議をもって、正式に役員に加えるという内容だよ。私達は昨年度も役員だったからね。キミの名を挙げさせてもらった」
「制度改正に1年使っちゃったから、慎一くんは2年からの抜擢になっちゃったけど、これからよろしくね〜」
会長がちっこい手を差し出す。
俺はなんで制度を改正してまで、俺なの?! と聞こうとして止めた。
もし、好いた惚れたの話だったらいきなり過ぎて困るし、そうじゃなかったらそれはそれでガッカリだから。
俺は会長の手を取り、生徒会役員の副会長の座に収まったのだった。
この生徒会がヤベーやつの巣窟だとも知らずに。
「遅ぇーな、皆」
僕は待つのに疲れたので、帰ることにした。
どうせ、あんな無茶苦茶な法案通るわけがない。
僕は最後に会長の椅子に掛かっている会長のブレザーの脇の部分の匂いをすんすん嗅いでから、生徒会室を退室した。
前屈みの不自然な姿勢で。
―――――――――――――――――
【後書き】
第一話を読んでくださりありがとうございます!
既に完結していますが、レビュー、応援していただけると嬉しいです。
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