第322話 MkⅣ.VS.・・・
MkⅣ.VS.・・・
江戸を抜け、現在、足柄付近の地下を掘り進んでいる。
ちなみに足柄を抜けた先は、富士山とか見えるようになるので地上を走らせようかな、なんて思ってたりするので、地上は橋脚で少し高い所を走らせ、更にウレタンガラスのチューブ内を走る。
これは人身事故を防止する為でも有るし、周囲に衝撃波を出さない為の措置。
だって私のリニアは最高速度1000km/hをマークするからね。
いわゆる亜音速?実際音速を超える実験はした事あるけど、あれは超えるには音の壁って言われる変なプレッシャーみたいなもんに勝たないと超えられないので、乗客を乗せて走る以上は、安全面を考えたら無理に超える必要も無いかなぁと思ってそれ以上の速度はテストして無い。
まぁ、つまりはほぼ音速のそれを叩き出すのだから当然の様にソニックブームに似た衝撃が走る訳で、そんなモンが地表近くを移動すりゃ環境に何らかの影響を及ぼす事は明白だから、このチューブは必須になるんだ。
まぁ、そう言う事なのでその為の先行工事をしてた訳なんだけどさ・・・まさに今、たった今穴が貫通果たして表に出たんだけど、なんか変な奴居るのよ、断崖のてっぺんにさ、作り物の翼を腕に張ってて、飛び降りそうなんだけど思い切って飛び出せない感じの、怪し過ぎでしょ?
自殺志願者にしては迷いが大きいししかも謎の作り物の翼・・・
まさかとは思うけどあれで飛べるんじゃねぇかとか思って無いかなぁ・・・
目視転移して後ろから声掛けてやる事にした。
「そんな作り物の翼で飛べたりしないから、無茶は辞めなさい。」
「どわぁっ!!?」
声掛けてやっただけなのに驚いて飛び退いてその勢いで断崖から落ちかけてしがみ付いてるし、何してんのこのアホの子は。
「お、驚かさないでくれ!! 落ちて死ぬかと思っただろ!?」
「それ以前に飛ぶ気だったんちゃうんかい! 私のせいにすんな!
ッたく、ほら、手ぇ貸してやるから上がって来なさい。」
「ああ、すまない。」
引き上げてやると、付けていた翼は蠟を固めて作ったハリボテだった、ますますアカンやんか。
「あんたねぇ、こんなもんで空が飛べる訳ネェでしょうが!
ッたく近頃の若いもんは何考えてんだか!
事情位は聞いてやるから先ずは名前から白状しなさい!」
私の唐突な怒鳴り声に少し気圧されたように、このアホの子は口を開き始めた。
「僕は、いかろす言いまんねん、僕を虐める奴らを見返したろ、思って、空を飛ぼうと思ったんやけど、鳥みたいな羽根が無いと無理やって事で、毎日コツコツと蠟を固めて鳥の羽の形に作って、ついに昨日、完成したんですわ。
実に25年程も掛かってしもたんですけど、いざ、飛んでみようと思ってこんな所まで来てみたのは良かったんやけど、イザとなったら足が竦んで飛ばれへんかったんですわ。」
「お前、馬鹿なの?いや、馬鹿だろ? 馬鹿だよね、このイカレポンチ!」
「あの、僕の名前はいかろすでイカレポンチでは。」
「判ってるわよその位! やっぱあんたアホの子に認定するわ! あんたと漫才してる訳じゃ無いっつーの!
ったく・・・疲れさすなよもう。」
「ですから僕はいかろすです。」
「ああハイハイ、判った判った、この辺は山間だからイカが手に入らなくて食べたいなぁ、でも無いんだよなぁって烏賊ロスで落ち込んでるんでしょ! ってんな訳あるかーい! 何であんたと漫才せにゃならんのよ!
いい加減そのズレた発言やめて頂戴! もう、いちいちイライラする!」
「あ、でも今のは少し有るかもしれないです~。」
「あんた死にたい? もうそう言うボケやめて欲しいんだけど?」
「そんな事言わないで下さい、僕は空が飛びたいだけなんです。」
「そんな翼で飛べる訳が無いっつってんでしょ!
良い?人間の体の大きさ、重さが有る者が空を飛ぼうと思ったらまともな方法では無理なの!
そもそもが人間は重過ぎるの! これが空を飛ぼうと思ったらその体の三倍以上のサイズの翼が両翼に二対づつ必要! そしてその翼を羽搏かせる為の筋肉には人の背筋力の凡そ10倍から15倍の出力が必要なの!
だから、ドラゴンが空を飛んでいる原理だって、あの羽には魔法陣が組み込まれて居て反重力の魔法を発動して飛ぶのよ。
それでもどうしても空が飛びたいと言うなら、空を飛ぶための道具で飛びなさいよ!
こんな風に。」
そう言って呼び出して居た飛空艇が丁度到着したのでそっちを指差す。
「と、飛んでる・・・船が・・・」
「判ったら諦めなさい!イカレポンチ!」
イカレポンチっていつの時代の言葉だったのかしら、微かに記憶媒体の片隅に残ってただけで時代とかもう既に風化して不明になってる。
でもこのアホの子の名前とトンチンカンっぷりに咄嗟に出た単語だった。
「あ、あの船、ネエちゃんのけ?」
「ッたくしょうがないやっちゃな、人騒がせな投身自殺未遂二度としないって言うならちょっと乗せてあげても良いわよ。」
「と、投身自殺未遂って・・・結構本気やったんやけど、そんな風にしか見えんかったん?」
「他にどう見ろってのよ、あんなハリボテ手に括りつけて飛べる訳が何処に有るのよ。」
「せやかてもしかしたら飛べるかも知れんて「1%も在り得ないって!」」
「あのね、もっかい1から全部説明しないとダメな流れなの?これ。」
「ほんなら何でこの船は羽根も無いのに飛んどるんや?」
「これは反重力エンジンで浮き上がってターボプロップエンジンを推進力にしてるのよ。」
「僕に理解出来ると思うて言うてはる?」
「思ってる訳無いでしょ、でもそうしか言いようが無いんだから仕方ないじゃ無いの、あんたがアホ過ぎるのよ。」
「いちいちアホだバカだ言わんとって下さい、僕かて好きでアホしとる訳とちゃいますんやで?」
「でもそれもそうしか言いようが無いじゃない、他になんて言えと?」
「ん~・・・」
「あ、お馬鹿さん?」
「丁寧に言うてはるつもり?」
「いいや、それ以上思い付かないだけ。」
「結局馬鹿なんやね、僕。」
「判ったらそれで良いかしら?呼び方。」
「良くねーっす!」
「んじゃやっぱイカレポンチで良いじゃない、まだ可愛げあるし。」
「はぁ、もうそれで良いですわ。」
「まだ名前とも近いし、良いんじゃない?」
「そう言う良いじゃ無くてもうどうでも良いの方やけど?」
「なら良し。」
「はぁ。」
「さ、乗り込むわよ。」
「どうやって?」
「こう。」
トラクタービームで吸い上げさせる。
「わ、わ、わ! う、浮いてる浮いてる!」
「いちいち驚くな、うっさいな、もう。」
ブリッジへと上がると、流石はアホの子とは言っても空飛びたかっただけの事はあるのだろうか、すげーテンション上げて色々弄りたそうにしてたが。
「そこら勝手に触るなよ、落ちて死にたく無けりゃな。」
先に釘さしておいた。
アホの子の相手は読み切れないアホの子の行動を先読みし切って先に対策しとかないとダメだからとっても疲れる。
「おぉぉぉぉ、良いなぁぁぁぁぁぁぁ・・・
僕もこんなの有ったら自由に飛べるのかなぁ・・・
ほしいなぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~・・・」
むっちゃ欲しそうな眼を私に向けて来た。
そう言えば私ってば、インフラ整備してるんだったわよね。
初めは、リニアの資材運ぶ資材運搬船の艦長やらせて、定期客船の艦長にして定期航路を飛ばせてやっても良いか、でも今のままじゃアホの子の域を出ないから電脳化は必須だな。
ただここまで興味持ってくれるのならさぞかし大事に乗ってくれそうだし、一隻作ってやっても良いかって気にはなるわね。
「よし、決めた。
あんた、私の仕事手伝うって約束しなさい、そしたらそのアホも少しは改善させてあげられるし、飛空艇一隻作ってやっても良いわよ。」
「ほ、ほんまでっか~?」
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