第274話 フォード王国の再興
フォード王国の再興
「済まなかった、皆の者、待たせてしまったようだ。」
「いえ、プローブ殿下の根回しのお陰で、この国も完全に落ちませんでした、むしろ御礼を申し上げたい次第で御座います。」
プローブの言葉に真っ先に反応して声を上げたこの御人は、トリノ・タラテガ侯爵。
王の近衛兵団を率いる最高軍事顧問だ。
「トリノ、近衛兵団を率いるお主に、一つ頼みがある。」
「はっ!何なりと。」
「此方のハイエルフ殿が、此度我を治療して下さった大賢者のエリー殿だ。
父上の病状も確認し、治りそうであれば治して差し上げたいと申し出て下さった。
此方のエリー殿を父の寝室へ、丁重に案内してくれ。」
「は、この大役、しかと承りました、お任せを。」
傅いて居たタラテガ侯爵がすっと立ち上がると、私の方へ近づいて来た。
「大賢者殿、ご案内いたします、此方へ。」
そう言うと、踵を返した。
「判りました、ツヴァイ、マリイをお願いね。
行って来るわ。」
「まぁま、いっちらったい。」
マリイがちっちゃいお手手を振って行ってらっしゃいする、超可愛い!
「ん、マリイ、いい子にしててね、すぐ戻って来るからね~。」
侯爵の後を着いて歩き出す。
「大賢者殿はハイエルフと伺いました、滅多に森を出て来られる事の無いお方が出て来られるなど、珍しい事ですね。」
侯爵は、話好きな人かも知れない、まぁ大概そう言う人は嘘も得意で、詐欺師とかやってる場合が多いんだけど、この人からはそんな気配は感じない、本当に国の事を思って居て、今回の騒動が丸く収まった事を安堵している感じの声の感じが伝わってくる。
「ふふ、私は変わり者なのよ、この世界を見て回って旅もしてるの。
そして、この世界の神、アスモデウスを唯一蹴っ飛ばした、多分。」
「は?蹴っ飛ばした??ですか?」
「ええ、そうよ?
だってこの世界ってかなりねじ曲がってるんですもの、私がそれを正しい方向へ治すの。
その為に、魔法も作った、魔道具も沢山作った。
そして世界の管理が出来て居ないアスモデウスを蹴っ飛ばした訳。」
「話しがぶっ飛んでて良く判りかねますが・・・」
「あ、話変わるけど、貴方の所の第二王子ね、多分私の元居た世界からの転生者よ。
で、今回私がちょっかい出してあげる気になったのはそれが理由、本来私は今、子育てで忙しいの。
同郷の者が迷惑掛けたとあっては私の意に反するので。
それは、私に対しての敵対行動と取りました、本来ならこんなお家騒動程度では私は手助けしないのでそのつもりでね。」
「は、心得ました。
一つお聞きしても?」
「何ですか?」
「もしも敵対した場合、どのように・・・」
「ランクル帝国の話は耳に入ってる?」
「ええ、一瞬にして城が消し飛び、滅んだと。
その後、レクサス帝国として再建を果たしたとも聞きますが・・・」
「その滅ぼしたのが、私。」
「あの大帝国が、一瞬ですか・・・」
「だから、気を付けてね、私を騙したりするだけでも大事と思ってね。」
にっこりと笑ってみせる。
「ははは、今の話を聞かされて敵対したり騙そうなんて考える者は居ませんよ。」
そんな会話をして居ると、大きな豪華に装飾された扉の前に辿り着いた。
「此方が王の寝所です。」
中に入ると、既にげっそりと痩せこけて、今にもその呼吸を止めてしまいそうな老人が天蓋付きのベッドに横たわって居る。
侯爵が声を掛ける。
「陛下、陛下の病を治療出来る可能性のある大賢者殿をお連れ致しました。」
「不躾に失礼致します、ハイエルフの、エリー・ナカムラと申します。
グローリーでは聖女などと言われて居りますが、お力に成れるかも知れないとはせ参じました。」
「・・・・」
王は、無言で右手をゆっくりと上げ、私に無礼を許すとばかりにそっと手を降ろした。
「では、失礼します。」
鑑定をすると、あの王子も相当のものだったけど、良く生きてると言うレベルで末期も末期だった。
癌細胞に浸食された部位は、胃の8割、大腸、小腸のほぼすべて、十二指腸、肝臓の凡そ半分、肺が6割、それと全てのリンパ腺が既にやられていた。
おまけに舌癌迄あって舌が腫れていて口からの呼吸も厳しそうな状況。
マジ生きてるのが不思議だ。
それと、併発して居たのだろうと思うが、骨髄性白血病の初期段階になってる。
これは、義体かと一瞬思ってしまった。
念の為全身義体を視野に入れて問診をする事にした。
プローブ王子の話から予想出来た食生活に対する質問に対しての答えは全てYESだった、まぁ同じもん食ってるんだろうからそうだわな。
最後に、更に2問の質問をした。
「陛下、後二つの質問に答えて頂きます。
但しこの質問に対しての答えは、ゆっくりお考えの上でお答えください。
一つ目、陛下は、ハイエルフにも匹敵する可能性のある半永久的な命を欲しいと思いますか? 但し、もしもそれを手に入れれば、王子やその子、その孫と、貴方の子孫の寿命が尽きて無くなって行く様をずっと見守り続ける事に成ります。
その逆に、この国や世界が、どんな風に発展して行くかを見届ける事が出来るでしょう。
二つ目、陛下の今の肉体を捨てて、魔道具の体に移る事に抵抗はありますか?
但し、魔道具の体に成ると生殖機能は失われます。
ですが、一切の病気からは解放され、一つ目の質問と被る部分ではありますが、悠久の命が得られます。
そして、これまでの人生で最も力があった時代よりもずっと強い力をも手に入れるでしょう。
以上の二つの質問の答えをお待ちいたします、それ迄は延命措置だけをして差し上げます。」
そう言って、私は一番苦しいであろうと思われる肺癌と舌癌、癌苞をばら撒いて転移を促進して居るリンパの癌を全てを除去、新しい肺を形成するべく、先に飲ませて送り込んだナノマシンに再構築を促して、体力回復の為にSPポーションを飲ませる。
これで暫くは症状が急激に加速する事は無いだろう。
「おお、少し呼吸が楽になって来た、大賢者殿、何をされたのかね。」
無理すんなよ王様、いきなり話しかけて来るとは恐れ入った、英傑だったんだろうね、よっぽどの・・・
「陛下、少し楽になったからと言ってすぐにお声を出しては体に触ります、じっくりお考えになってお答えになって下さって結構なので、安静になさいませ。」
そのまま質問に答える。
「私が今した処置は、先に飲んで頂いたポーションに入った私の特製の、体を治してくれる微生物に、陛下の呼吸した息を体に取り込む器官、肺の悪い所を私が取り除いてしまうのと同時に傷口を塞いでその肺の再生をやらせました、完全に元通りになるまでにはもう少し時間が掛かりますのでそれ迄は安静に。
それと、病を体全体に蔓延させている器官を除去、本来その取り除いた器官は体を治す筈の器官ですのでそれも元の状態で再生させて居ます。
それと、陛下の舌を侵食して居た部分を削ぎ落して病に侵される前の状況に修復再生させました。」
「悪い部分をこそげたのか?何時の間に?」
「私には色んな魔法やスキルが有りますので、そこは秘匿させて頂きます。
あ、取り除いた患部見ますか? かなりグロいですけど。」
「いや、良い、しっかり処分してくれ。」
「そうさせて頂きます。
そうで無いと、闇魔法の持ち主ならばあなたのクローンを作る事も出来るかも知れないからね、焼却処分させて貰うわね。」
「時に大賢者殿、何だか口調が・・・」
「ん? ああ、気にしたら負けよ? 私には誰も敵わないから敬語使わなくなっても誰も咎められないしね。」
と笑って見せると、その笑いに対して、王は引きつった笑顔を返した。
何故? こんなに素敵な笑顔なのに、何でひきつった笑顔が帰って来るのかしら?おっかしいな~・・・
ま、いっか。
数分考えた王は、決断に至ったようだ。
「決めたぞ、大賢者殿。」
「はい、では、伺います。
先ず、半永久的な不死を必要としますか?」
「要らぬ、わしを、この国を救ったプローブに家督を継がせて隠居する為にも、必要無い。」
「そうですか、では次の質問も、NOで宜しいですね。」
「ああ、そう言う事に成るな。」
「判りました、全力で今の病だけを根絶させて頂きます。」
もう一度、ナノマシンを飲ませる、まぁ要するにハイポーションに含まれる物と言う事に成る訳だけどね。
飲ませながらも胃の癌をストレージへ、そして腸をストレージへ、更に肝臓その周囲の癒着した腹膜を含む既に浸食の始まった個所の全てをストレージへと切り取る。
で、ついでに診察スキルを使って骨髄パターンを解析、同パターンの骨髄液を人工的に作ってそのまま全入れ替えを行った。
最後に、もう一本SPポーションを飲ませて、一通りの処置は終了。
もう一度鑑定をしてみると、血液内に多少癌の肉芽細胞が含有して居る事が判った、さっきリンパを撤去する時に、癌細胞が緊急輩出したのかも知れないね。
そうしたら、これは抗癌剤で駆除かな、流石にこれ以上の負担はきついだろうし。
アスパラギナーゼで良いかな?
ちゃんと食材として収穫しただけではなく医療用としても精製して居た物が有ったのでこれでいけると思う。
点滴を施して、様子を見る。
拒絶反応も出て居ないし、大丈夫だろう。
点滴が終われば、恐らくはもう動き回れるんじゃ無いかな?
なんかこの人むっちゃつえーし、何がって、精神的に特に強いかも。
流石一代で王国を築いた人って感じだ。
未だ領地はこの城塞都市だけみたいだけどな。
こう言う強さを持った人って普通に癌から復帰する事多いし、もう大丈夫だと思う。
30分ほど経って、もうすぐ点滴が終わる。
もう一度鑑定して見る。
うん、普通こんな急激に効くもんでも無いんだけど、肉芽細胞ほぼ消えちゃったね、スゲーな、精神力の勝利って奴?
人体ってのは謎だらけだけど、ここ迄あからさまなのを見せつけられるとは思わなかったわ。
いやぁ、精神論で片付いちゃうって本気で凄いわ、マジで。
まぁでも、治ったって事で全て良し!
良し、王子より何故かこのおっさんの方が基礎体力有るし、SPポーション飲ませたらすっかり年齢平均以上の体力に戻ってるからもう大丈夫だろ。
「さ、もう大丈夫よ、念の為、私は明日も来るわね、もう一度抗癌剤を常駐点滴しに来るだけだけど。」
「なんと、もう動いても構わぬと?」
「ええ、貴方年齢平均より体力有るし、既に平均的な体力程に回復している様なので、大丈夫じゃ無いかと。」
「そうか、では皆の前に出向くとしよう。
心配をかけてしまったからな。」
「そうですね、その位なら大丈夫でしょ。」
ベッドから起き上がる国王だが、体力は戻ってもしばらく寝込んで居た事で筋力が著しく落ちていて、少しよろける。
予測はして居たのですぐに支えてあげると、すまぬと一言だけ言って私に少し体重を預ける形で、歩く事にしたようだ。
9家とプローブの集まって居る会議室へと連れて行く事にした。
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「皆の者、済まなかったな、もう大丈夫だ。」
「「「「「「「「「陛下っ!」」」」」」」」」
うん、皆嬉しそうだねっ!
良かった良かった♪
「「「「「「「「「「ああっ!女神様だ!あなたは女神様だ!」」」」」」」」」」
え?! いきなり?? 突如私に矛先が向いたんですけどっ!??
それに何それっ! どっかの某アニメの某キャラしか思い浮かばないんですけど!?
「あのね、大袈裟なんだけど?」
「何をご謙遜成されるか、いつお亡くなりになっても可笑しく無かった陛下がものの数時間ですっかり全快してこの場に居られるのだ、それはもう女神の寵愛を受けたとしか思えませぬ!」
何をとんでもない飛躍してるんだこの人達・・・
「あ、あのね、私は女神なんかじゃ無いし、普通のハイエルフなんだけど!」
「又もご謙遜、あ、現世にご降臨成されて生活されて居る事を秘匿されて居られると言う事ですな!
では我らだけの間で秘匿いたしましょう。」
「はぁ、、、何言ってもダメかよ・・・」
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その3か月後、当時建築途中だった教会に、女神と守護天使の像が運び込まれたのであった。
その御姿は、エリーと、アイン、ツヴァイにそれぞれ似て居た・・・らしい。
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