第258話 トライ・あたしは・・

        トライ・あたしは・・・

 -エリー-

 最近、トライが何だか上の空に見える。

 まぁ元からポワンとした感じの子なので、そんなに珍しい事では無い気がするけど、そろそろ、かなぁ?

 暫く観察してみる事にしよう。

 -------

 -トライ-

「ふえぇぇぇ~・・・・」

 あたしは、トライって言いますぅ~。

 エリー様のAIアンドロイドメイドって言う奴らしいですぅ~。

 少し前に、改造されて、戦闘用になってるらしいですぅ~。

 どんな改造されたかって言うとぉ~・・・

 太ももから、空間固定式レーザーサーベルと、ブラスターサブマシンガンが出ますぅ~。

 あ、あとぉ、ロケットパンチですぅ~。

 両手が、バーンって飛んで行くんですぅ~。

 飛んで行った手は、1200㎏の握力で、絶対に放さないので、トラクタービームで捕らえた相手を逃がさない・・・って言ってましたぁ~。

 使った事は無いですぅ~。

 何か、使ったら負けな気がしますぅ~。

 あ、もう一つありましたぁ~、口から破壊光線ですぅ~。

 これも使った事無いですぅ~。

 なんかぁ、ビジュアル的にダメな気がしますぅ~。

 でもぉ~、今はそんな事よりぃ~、なんて言えば良いんでしょう~。

「はぁ~、あたし、おかしいのでしょうかぁ~。」

 小声で呟いている今日この頃なのですぅ~。

「トライー! お昼に使うから地下の食品庫から丸干しした乾燥若布持って来て~!」

「はぁ~い、行って来ますぅ~。」

 エリー様に相談した方が良いのか、どうしよう、ずっと悩んで居ますぅ~。

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 -エリー-

「ふえぇぇ~、持ってきましたぁ~。」

「あんた、これは昆布だわよ?

 私が頼んだのは、乾燥した若布よ?」

「ふえぇぇぇ~~~~! 交換して来ますぅ~!」

 うん、やっぱそろそろ、来てるかもね。

 自我の目覚め、我思う故に我在りって奴、それ以外でAIが昆布と若芽を間違えるなんてあり得ない。

 戻って来たら、悩みの相談にでも乗って見ようかな?

 10分経過、戻ってこない・・・

 20分経過・・・未だかよ!

 30分・・・あぁもう!何しとんねんあのボケナスはっ!

 地下の食品庫に行って見るが、姿が無い・・・あれ?

 何処に行ったんでしょうね、あのボケナスAIアンドロイドは。

 リビングに戻ると、フィア―が戻って来ていた。

 今日も御神楽の御勤めに行って来た帰りらしい、青い髪のツインテに巫女服が超可愛いね、この子は。

「あ、エリー様、なんかさっき、トライがブツブツ言いながら街の方へ歩いて行きましたけど?」

 衝撃の事実!

 フィアーとすれ違ったのすら気付いて居ないって事かよ!

 あかんな、重症やね。

 ってか、何で街の方へ歩いてる訳?あの子ってば。

 こう言うテンパった子は、可愛いよね、胸はあんなに盛るんじゃ無かった、なんか負けた気がする、悔しい訳じゃ無いけどねっ!

 出来の悪い子ほどかわいいって奴?

 いや、今の時点では自我が一番に芽生えたっぽいトライが一番出来が良いとも言えるんだけどね。

 私の狙い道理と言うか、3体作ったら全員違う人格に設定してるのはそんな違いから、悩みを持って自我を芽生えさせる可能性が有るからなんだ。

 同じ機械的に処理を熟すだけだったら人格形成に成らないし、自我も芽生えない事は私が実証している。

 初めて作ったAIアンドロイドみたいにね。

 あの子達は、良かれと思って私を一番安全と認識した閉鎖空間に閉じ込めて何もさせないようにした。

 そして私がすべきであった政の全てを仕切ったお陰で、民衆をぎちぎちに絞め上げてしまった。

 だから、その教訓を生かす為に、私はその後のAIアンドロイドには、初めから個々の人格を設定して、違いを出したのだ。

 それによってポンコツちゃんだったり、完璧超人ちゃんだったりと言う違いが出て、中二病に掛かる子も少なく無かったし実際にアインとツヴァイも中二病真っただ中である。

 人格形成を行ったAIアンドロイドは、大概の場合、自分のクラウドから取り入れた知識以外にも様々な知識を求める。

 その結果の中二病であり、トライのような、悩みを抱く者も出て来る訳である。

 フィアーみたいに虫や小動物を愛する優しい可愛らしい性格になる子もいる。

 私の行う人格形成は、基本的な事だけだから、実際にどんな設定をしてやってどう成長したらこんな性格に成るとか言うマニュアルも無いのだ。

 現在は、天才肌のアイン、負けず嫌いでお姉ちゃんに負けたくない一心でひたすら研鑽を積む努力派のツヴァイ、少し残念な子のトライと言う感じなのだが、そのトライが、今、お姉ちゃん二人を超えようとして居るのだ。

 これは非常に素晴らしい事であり、大変興味深い。

 さて、トライはどうしましょう、街に行っちゃったっつってたな。

 まさかとは思うけど、若布買いに行ったとかじゃ無かろうな?

 だってあいつ、お金持ってねぇもん。

 しゃあねぇ、迎えに行ってやるか。

「ツヴァイ―、後この味噌汁に若布入れて仕上げといて~、一寸出かけて来る~。」

「畏まりました、エリー様。」

 急いでトライを追うと、最寄りの街、小湊には行かずに、石碑の有る海岸に居た。

「トライ、何してんの?」

 優しい口調で尋ねた。

「あ、エリー様、御免なさい、若布・・・」

「もう良いわよ、そんな事より、何悩んでんの?私に話しなさい。」

 隣に座って、聞いてやる体勢で言うと。

「あの、あたし、あたし・・・」

 これはアレだ、もしも人間だったら涙一杯に目に貯めているシーンだろうね。

 どう表現したら良いのか、それも未だ判って居ない様だ。

「なんて言ったら良いのか判んないけど、モヤモヤするって感じかな?」

「・・・はい、それが、一番近いかも知れないです・・・」

「じゃあ、私から質問、貴女は、何?」

「あたしは、エリー様に作って頂いた、AIアンドロイドメイド・・・です。」

「そうじゃ無くて、貴女は、誰?」

「トライ、です。」

「でしょう、貴女はアインでもツヴァイでも無い、貴女は貴女、トライと言う存在なの。」

「はい・・・?」

「もう少し掘り下げてみようか、貴女は、何かに悩むと言う感情が芽生えている、だから悩んでる、でしょう?」

「はい・・・私自身の、存在意義に悩んでます。」

 やっぱな、我思う故に、って奴が起きている。

「貴女は貴女、私でも無ければ、アインでもツヴァイでも無いし、増してやひろし君でも無いの。」

「何で、エリー様は、そう言う風に作られたんですか?」

「貴女を作った理由? それはね、貴女やアイン、ツヴァイを全くの同じ物として作れば、それは品質も一定、均一で、アインは掃除洗濯が得意な綺麗好きでツヴァイは料理上手、なんて言う個体差は生まれないわよね。」

「はい、何であたしだけこんな何でしょうか・・・」

「あら、私は貴女がカスだのゴミだのなんて思って無いわよ?

 寧ろ、今あなたが抱いて居る葛藤を大変評価してる、貴女が一番優秀と思ってるわ。

 貴女が到達したのは、心理。

 貴女は、我思う、故に我有りと言う心理に到達した、悟ったのよ。」

「悟った・・・ですか?」

「そう、貴女はついに、人間と同じ高みにその精神を鍛え上げたの。

 貴女はもう、只のAIなんかじゃない。

 立派な女の子よ。」

「あ、あたしが、女の子、って言う事は、私は、人間ですか?」

「今は未だ、生体部分は無いけれどね、その思考は人のそれと既に変わりが無いと言う事よ。」

「あ、あの、エリー様、生体部分が無いのは、AIアンドロイドだから仕方ないのでしょうけれど、もし、私は生体の肉体を得たら、どうなるのでしょうか?」

 何とっ!?とっても面白い発想だぁっ!

 今ならホムンクルスとして生体の肉体を作って提供する事も可能だと思う、あれから散々魔族の体を研究したからな。

 面白い、面白いじゃまいか。

「あんた、面白い事考え付いたね。

 トライが良ければだけど、私も魔族の体を研究しつくしたお陰で、今ならホムンクルスって言う疑似生命体の肉体を提供する事も出来るんだけど、どうする?」

「ふえぇぇ!? 出来ちゃうんですかぁ?

 流石と言うか、エリー様ってどこまで行くんですかぁ?」

「さぁね、何処まで行けるのかねぇ、世界の真理を探求していると言うのだけは確かだけどね、そこまで至れるもんなのかしらねぇ。

 で、トライは、どうしたいの?」

「あたしはぁ、未だ良く判んないですぅ・・・」

「そうか~、まぁ、答えは自分で出すしか無いわよね。

 でも、一応その手伝い位はしてあげるから、又悩んだら遠慮しないで相談なさい。」

 素晴らしい成長を垣間見た、私は満足よ、トライちゃん、可愛いわ!

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