宇宙戦争時代の科学者、異世界へ転生する【創世の大賢者】

第256話 玉藻と妲己

　　　　　　　　玉藻と妲己

　飛び出して行った玉藻ちゃんに、それを追いかけて行ったオーブ。

　それを追ってスパイダーを最大戦速で走らせ、ナノマシンを駆使し遠隔視で状況を確認しつつ指示を出す。

　ギリギリで妲己の攻撃をかわしつつ逃げる尻尾二本の方の玉藻ちゃん、そこへ６本の玉藻ちゃんが割って入って妲己の攻撃を受け流した所にオーブが何とか間に合う。

『オーブ、あんたが妲己と対峙しなさい、二人の玉藻はこっちにぶん投げろ。』

『師匠了解！』

　身体強化を発動したオーブが、二体の玉藻を襟をひっつかんでこっちへ放り投げる。

『よし、毒手拳発動して二三発当てたら飛び退け、砲撃するぞ。』

『了解にゃ～！』

　毒手拳を発動したオーブは、さらに加速を発動して懐へ飛び込み、喉笛に一撃鳩尾に一撃と的確に動きを止めるように地獄突きを撃ち込んで飛び退く素振りをしたので主砲を撃ち込む。

　直撃、だが、あの妲己って子、本気で強いわ、主砲も殆ど効いて無いだろうし、私が出張らないと、オーブでは対処しきれないだろう。

　飛んで来た二体の玉藻ちゃんを合体させてしまおうと外部スピーカーで指示したが、ダメだと言う合図・・・何で？

　何故か玉藻ちゃん同士で戦い始めてしまった。

　成程ね、騙されたか。

　残った二体の玉藻ちゃんは既に妲己側に取り込まれて居たと言う事だろう、そして妲己のコントロール下にある。

　ギリギリで躱して逃げて来たのは見せかけだ。

　玉藻ちゃんの言葉を思い出す。

「もしもわっちが本体に取り込まれたら、その時はわっちを殺しておくんなまし。」

　んじゃあ、そのようにしよう。

　スパイダーの装甲の上で戦って居る所へ、邑雅を携えて上がると、わたしは思考加速を最大の１２００倍までクロックアップ、そして超加速で身体強化し、圧倒的な速度で尻尾二本の玉藻ちゃんに居合一閃。

　真っ二つにする。

　すると、斬られた玉藻ちゃんは、黒い霧へと姿を変え、本体の妲己の方へと集まって行く。尻尾一本であれ程の強さでオーブをジワジワ押している妲己だ、三本になったら当然オーブは戦える筈も無い。

　玉藻ちゃんと私は急いで黒い霧となった玉藻ちゃんを追いかけ、妲己の元へと。

　そして、一瞬でも止まってくれたらオーブの毒手拳が決まるだろうと踏んで、無詠唱で雷を妲己に落とす。

　案の定、ほんの一瞬だけ止まった所に、すかさずに毒手拳が二発も決まる。

　事前の話し合いで、オーブには使う毒手拳は麻痺毒だけにしておけと言ってあったので、一発毎に少しづつ動きが緩慢になってきている。

　私は、玉藻ちゃんに、身体硬化、筋力強化、思考加速を無詠唱で掛けると、先行して、毒手を数発も入れられて切れている妲己と、オーブの間に割って入り、妲己の攻撃を止めた、危ない所だった、オーブじゃこの攻撃は受けきれなかった筈だ。

「ぐ！が！・・・お、まえ！なにも、の・・・」

「あらやだ、まだ喋れるんだ。　

　お初にお目に掛かります、私はハイエルフのエリー・ナカムラ、妲己ちゃんよね、玉藻ちゃんから聞いてるわ。」

「ぐ・・・た、たま、も。」

　尻尾が分離し、二体の玉藻ちゃんが出現、成程、操られている玉藻ちゃんは目が赤いわね。

「私と戦うのに一人じゃキツイと思った？でも、それは悪手よ、私の強さはこんなもんじゃ無いから、ねっ！」

　おもいっきり蹴ると、後ろへと吹っ飛んで行った妲己ちゃんは背後で窺っていた私達と同行して居た方の玉藻ちゃんにタックルをされる。

　腹を蹴られ背中にカウンターのタックルを食らった妲己は、流石に動きが止まった。

　今の隙をついて鑑定しとくか。

　成程、左腕に付いて居る腕輪、あれが暴走を促して居る魔道具と言う訳だね。

「玉藻ちゃん！原因が判ったわよ！　左腕に付けてる腕輪を壊しなさい！」

「これどすか？」

「急いで！」

　玉藻ちゃんが爪を伸ばして（器用だな…）腕輪を壊そうと爪で切り刻む様なしぐさをする。

「エリーはん！アカン！壊れへん！」

「何ぃ～、マジかぁっ！

　オーブ！」

　大地魔法でダイヤモンド並みに硬くした魔法拳でオーブが腕輪を思いっきり殴りつけるが、それでも壊れない。

「師匠、痛い・・・」

　硬化してもイテェのかよ・・・

　こりゃ結界だな。

「玉藻ちゃん、腕輪抜けないの？」

「あきまへん、何や腕と同化してはる！」

　魔力を視覚化して腕輪を見ると、手首から融合し始めていて、それでもかなり抵抗して来て居たらしく、未だ上腕付近までしか融合しては居ない事が判った。

　腕を切り落とせば助かるかも。

「玉藻ちゃん、腕ごと切り落としなさい！

　私が絶対助けてあげるから！」

「わ、わかりました。」

　オーブが背後に回って羽交い絞めにしている妲己に対し、玉藻ちゃんは爪を出した状態で向き合う。」

「本体・・・いえ、妲己はん、堪忍え！

　堪忍しとくれやす！」

　妲己の左腕を、肩から下を切り落とした。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！！」

　妲己が崩れるようにして倒れ、それを玉藻ちゃんが支える。

　妲己が分化した方の玉藻ちゃんは、既に洗脳が解けている様子だ。

　妲己の元へ駆け寄った私は、融合部位が肩口の組織に残って居ない事を確認して止血。

　肩の細胞を少しだけ頂いて解析していると、妲己の意識が正常に戻って来たようだ。

「た、たま、も・・・ありが、とう・・・これで死んでも、悔いはおへん、バケモンに戻るのを、阻止してくれて感謝やで。」

「妲己はん、死んだらアカン・・・」

「大丈夫よ、あんたは死なないわ、私がすぐに直してあげるから、今は無理に喋ったりしないで寝てなさい。」

「貴女が、玉藻を面倒見てくらはったお人やね？」

「良いからもう喋るな、今から術式を開始する。

　解析終了、始めます。」

　妲己の細胞から作り上げたIPS細胞を患部に付け、爆発的に増殖させる。

「細胞活性化、魔素の収束、魔素によるエネルギー代替を実行。」

　患部の状態の確認に集中しつつ、マナを大量放出し、周囲の魔素を患部に集めて再生エネルギーへと変換させる。

「骨格再生開始、神経系再生及び再接続開始、筋組織再生開始、皮膚及び血管再生開始。

　腕よ再生せよ！　リザレクション！」

　大量の魔素が集まり、患部に闇が生まれ、超加速した再生によって患部が発光して見える。

　此処まで来れば後は、解析した妲己ちゃんのDNAを忠実に再現するだけだから、集まったナノマシンにお任せしておけばいいだろう。

「「す、すごい・・・さすがは・・・」」

「師匠！」（オーブ）

「大賢者はん！」（玉藻）

　二人とも、再生して行く腕から目が離せないで居るみたいだ。

　---------

　数分後、再生が終わり、妲己が意識を取り戻した。

「う・・・私は、助かったんどすか？」

「妲己はん！　よがっだ、いぎではりゅぅぅ～！」

　玉藻ちゃん感激のあまり涙声で何言ってんのか良く判んない状態だ。

　妲己と玉藻は、抱き合って喜びを噛みしめている。

　ふと、斬り落とした方の腕はどうなったかと腕を探す。

　しかし、周囲には既に腕は無く、腕だけで這って何処かへと行こうとした後だけが残って居る。

　あの腕輪はどんな物なのだろう、恐らくは腕輪を妲己に嵌めた張本人の元へと帰って行ったのだろうと思われる。

　果たして何者の仕業なのだろう。

　---------

　感動の再開？は、一段落を迎えたようだ。

「ホンマに、お世話になりました。

　わっちの分身体の妲己達を、長い事面倒見てくらはって、ホンマに感謝どすえ。」

「わっちの本体の妲己を、死なさずに助けてくらはって、ホンマ感謝どす。」

　うん、やっぱこの子ら同一人物だわ、ほんと良く似てる。

「まぁ良かったわよ、あ、それとね、本体の貴女に会ってからと思って黙ってたのだけど、貴女達には魔法の才能が有るから、この本を渡しておくわね、原本では無いけれど、全属性の魔法が記載された本、ネクロノミコンよ。」

「こんな貴重な物を宜しいんどすか？」

「言ったでしょう、原本じゃないって。

　でも、大事にしてね。」

「「大事に読ませて頂きます。」」