第255話 急展開

          急展開

 -MkⅢ‐

 東大寺の周囲で、暴走した鹿を退治し、玉藻ちゃんの姉妹を何とか玉藻ちゃんに融合させた私達は、一寸お腹が空いたって事で、早速回収してストレージで血抜きをしたお肉を頂く事にして、BBQの準備中だ。

「師匠~、炭に火起すのに魔法使って良いにゃ?」

「良いわよ~、スマホの制御の特訓にも成るだろうしやって御覧なさいな~。」

「了~解~。」

「野菜は準備終っておりんすよ。」

「ありがと~、お肉ももう切り終わるわよ~。」

 そして切り終わったお肉の山を大皿ごと、焼き台の脇に設置したテーブルへと運び、ストレージから特製の焼肉ダレを取り出した。

「師匠~、火起こし出来たにゃ~。」

「よーし、ンじゃ準備も出来たし始めよう~。」

 タレを三人の取り皿に分け入れて、トングを使い、鹿肉を焼き始める。

 すると、それまで、多分危険と言う事で外に出して貰えなかったのであろうと思われる、この寺に養われている孤児の一人ではなかろうか。

 そんな子供が一人、物欲しそうな視線を此方へ向けている。

「そこの貴方、お腹が空いて居るのならこっちへいらっしゃい。」

 すると、その子供は、何の躊躇もせずに駆け寄って来た。

 しかし、無言で私から取り皿を奪い取る様にして手に取ると、焼けたお肉を積んで有る皿の前に陣取り、がっつき始めた。

 それこそ、涙を流して・・・

 ここの寺ではそれ程に切迫して状況で子供を養って居るのだろうか。

 暫くすると、寺の住職らしき人物が、他の孤児を連れ立って現れた。

「失礼致します、探索者の方々とお見受けいたします。

 わたくしはこの寺を収める住職を生業と致して居る生臭坊主に御座います。」

 自分で生臭と言うようなお坊さんほど実は位の高い人な場合が多いんだよな、等と思いながらその話を最後まで聞く事にした。

「先ずはその子が大変無礼を致して居るようで、謝罪いたします。

 重ね重ねで不躾とは思うのですが、この子達へ食事の提供をお願いできませんでしょうか。」

「構いませんよ、皆此方へ来てこの猫のお姉ちゃんに焼いて貰って食べてね。

 オーブ、お願いね。」

「任せるにゃ、師匠。」

「ご住職は、少しお話をさせて頂けるかしら?」

「ええ、勿論で御座います。」

 お肉を焼くオーブに、給仕の手伝いをする玉藻ちゃん、その様子を尻目に、少し離れた位置にあった丁度良さそうな石に腰かけて住職にいくつか話を聞かせて貰う事にした。

「ご住職、あの子達はここで養っている孤児と言う事で認識はあって居ますか?」

「ええ、概ね、ただ、孤児だけでは無く、御家庭の事情等で一時的に預かって居る子もおります。」

「そうなんですね、あの、初めに出て来た子は、余ほどお腹を空かせているようでしたが。 寺の経済状況はそれ程逼迫されて居るのですか?」

「いえ、そうでは無いのです、元々ここには野生の鹿が群生して居りまして、その鹿が客寄せになって居るお陰でこの寺はむしろ他と比べて経済状態は良かったのですが、突如全ての鹿が巨大化し、魔物へと変化して行ったのです。」

 成程、どこかからやって来たか、突如進化して発生してしまったクイーンのダダ洩れにする魔素で、元々居たただの鹿が魔物化して暴れ出したと言う事か。

「そっか、納得行った、此処は里から少し離れて居るしね、あんたも危なくて外へは出られなくなってたんだね。」

「お察しの通り、私が気付いた時には、周囲を魔物化した鹿に囲まれて居ました。

 探索者組合へ助けを求めに行く事も許されない状態になってしまい、備蓄の食糧で食いつないでおりましたが、この二日程は、それも底をついて居りました。」

「そうなんだ、じゃあ私達が来て、渡りに船だったと言う所かな?」

「そんな所で御座います、ただ、あの狐様がお助けに来て下さったので、何とか持ちこたえて居った次第でして。」

「成程、今度の玉藻ちゃんは子供達やこのお寺を護る為に現れたって訳か。

 私達はね、玉藻ちゃんの本体、何者かに暴走させられている妲己って子を、そこに居る玉藻ちゃんに頼まれて元通りに戻す為に旅してるんだ、探索者って訳じゃ無いのよ。」

「左様でしたか、いや、お強い方々で助かり申した、おお、これは失礼、自己紹介が未だでしたな。

 ここは東大寺、とは言えこの名は愛称のような物です。

 華厳宗の大本山、金光明こんごうみょう四天王してんのう護国之寺ごこくのてらと申します。

 その住職を務めて居ります、しがない阿闍梨あじゃりで、名を御座います。

 おい、阿闍梨って一番位の高いお坊さんじゃ無かったか?

 まぁいいや。

「私は、旅のハイエルフ、エリー・ナカムラと申します。 あの猫獣人の子は、私を師匠と仰いでついて来る変な子で、拳聖オーブ・スフィア。」

「あくまでも貴女はその子の師匠では無い、と?」

「ええ、私は何も教えて無いもの。

 で、もう一人は、ご住職も知っての通り、玉藻ちゃんね。」

「ええ、存じ上げて御座います、お稲荷様のお使いでらっしゃる。」

 あ、本当にそうなんだ。

 半信半疑だったけどw

「さ、お話も住んだ事ですし、ご住職もご一緒に如何です?」

「いや、私は生類は・・・」

「生臭って自分で言っててそれは無いんじゃない?

 それに、本来の生臭ってのは、自分で食べる為に殺す事でしょう?

 そして食べもしないのに殺すのを殺生と言うんじゃ無かったかしら?」

「いやはや、良くご存じで。

 しかし私がご一緒してしまうのも少し問題があるのですよ、世間では生臭と言うのは生類を食す事と思って居られる方々が多いもので、おいそれと口にして居る所を人さまに見られては成らんと言われて居りますので。」

「成程、それは面倒くさいね。

 後、あれでしょう、血の滴るような物を頂いてはいけないんじゃ無かった?」

「益々良くご存じで。」

「他の宗教でも同じ戒律があってさ、牛は食べてはいけない、ヒツジ、ヤギなどは大丈夫だけれども、血が滴るようなお肉はダメ、しっかり丁寧に血抜きをされて居る物でないと食べてはいけないってのがあって、その為にしっかり丁寧に血抜きをされた物では無いと食べられないって言うので、その為のお肉が売られて居たりするのよ。

 私のようなストレージがあれば何の問題も無くなるんだけどね。」

「それは興味御座いますな。」

「良かったら、住職の場合、ストレージは使えそうに無いからこのマジックバッグをどうかな?

 この間私がやっとバッグの内部に亜空間座標を固定できるようになったから作って見たんだけどね。

 ストレージみたいに無限では無いけどかなりの物が収納できるわよ。」

「これは、頂けるのですか?」

「ええ、良いわよ、私は、孤児を保護して居たり、そう言う活動を主体にしている人の味方だからね。

 序でにこれも入れといてあげるわね。」

 そう言って私は、マジックバッグの中に、鹿肉200㎏と、ローポーションを12本入れておく。

「これはこれは。

 宜しいのですか?」

「勿論、あの子達の為でもありますので。

 それと、これは私からの寄付金です、あの子達の為に出来る限り安泰な生活と教育をお願い致します。」

 そう言って、更に千両箱を一つ、バッグに押し込んで渡した。

 流石に驚いてたけどねw

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 今度は、京都方面へ向けて走る。

 今度の玉藻ちゃんの掴んだ反応は、岡山付近にあったものが京都へ向けてこちらへ近づいて移動中だと言うのだ。

 流石に大きくなったであろう玉藻ちゃんの反応を向うも察知して合流しようとしているのかも知れない。

 後二体のうちの一体、予想より早く合流できそうだ。

 と、思ったのもつかの間。

 玉藻ちゃんが、本体の妲己ちゃんの反応も有ると言って急いで合流する方向になってしまった。

 全速力でスパイダーを走らせる。

 遂に、妲己ちゃんに玉藻ちゃんが追い付かれ、戦闘が始まってしまったらしい。

 見つけた!

 最大戦速で走るスパイダーの上部ハッチから出た玉藻ちゃんが、ジャンプして飛び出す。

 驚いた事に、もう一体の、妲己ちゃんに襲われて防戦一方の玉藻ちゃんも、既に尻尾が二本になって居た。

 きっと何処かで何方かが見つかり、逃げだして合流したのだろう。

 私達と一緒に行動して居た玉藻ちゃんが尻尾6本だから、これで8本、妲己ちゃんと合わせると9本だから、これで全員揃った事に成る。

 さぁ、予定より早まったけど、玉藻ちゃん最終決戦だ。スパイダーの上部ハッチから、玉藻ちゃんを追うようにして、オーブも飛び出して行った。

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