第236話 戦う、天女?

         戦う、天女?

 アインがファムに指示を飛ばす。

『ファム、出撃準備をお願い致します。』

『ファム了解。アタックヘリ「ロッテ・リべーラ」出撃準備完了です。』

 あの時に作ったアタックヘリに名前を付けて居なかったエリーは、安直にドイツ語で赤とんぼと名付けていた。

 足が生えてて見た目蜻蛉っぽかったからなのだが、耳障りが割と良かったりするのだから呆れる。

『行きましょう、ツヴァイ。』

『はい、お姉さま。』

 アインとツヴァイは、ロッテ・リべーラに乗り込み、

 飛び立つ。

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 ‐現場‐

 量産型アインと量産型ツヴァイが絡まれて居た。

 が、地元住民たちが立ちふさがって居た。

「おねげぇです、お辞めになって下せえお侍様方!

 あっし等がおっちんじまえばあんた方だって年貢が取れなくなっちまって共倒れになるんじゃあありやせんかい?」

 なかなか知恵の回る住民のようで、的を射た発言だ、正論に少しタジタジの侍。

「や、やかましい! 御屋形様がこの死病に掛かってしまったらお前らが困るのだぞ? 又戦になるであろう?

 そうなってはお前らも駆り出されるのだ、前線に送られて死にたくはないであろう!」

 それでも侍も一歩も引く気は無いようだ。

 そんな時だった、上空からけたたましいローター音。

 その巨大なトンボのような物は、ゆっくりと降りて来て、侍達の取り囲んで居る診療車の上に、その足を広げて降り、診療車を掴むようにして止まった。

 ローターが止まる。

 この謎の巨大物体が何なのかを判らない侍と住民たちは固唾を飲んで見守るしか無かった。

 前席の左扉と、後席の右扉が開く。そこから、サングラスをかけて、動きやすくかつ下着が見えない様にカスタマイズされた、胸を強調するようなデザインのバトル・メイドスーツに身を包み、18㎝もありそうなハイヒールパンプスを履いたアインとツヴァイが、そのすらっと長い脚を見せつけるかのようにして、診療車の屋根の上に降り立つ。

 前席から降り立ったアイン、後席のツヴァイ共に、エレガントにくるッと踵を返しつつヘリのドアを閉めると、同時に診療車の屋根から飛び降りる。

 アインは、背中から倒れ込むように傾いた後に、軽く診療車の屋根を蹴り、伸身のバク中で華麗に降りる。

 ツヴァイは、前に倒れるように上半身を倒し、右足を後ろにはね上げ、左足で踏み切ってその長い脚を前後に開く開脚前中で、周囲を魅了するように降り立つ。

 両名共に、体操選手であれば高得点の着地だろう。

 そんな着地を、ハイヒールを履いたまま成し遂げてしまう。

 既に、侍、住民共に、あまりの美しい所作での着地に見入っており、言葉が無い。

 アインが口を開く。

「そこまでです! この場はわたくし達が治めます!」

 ツヴァイが続く。

「量産型は速やかに診療に戻りなさい、住民達は早急に診療を受けるように。」

 何故か二人共、ポーズを取っている。

 何だか中二病くさいポーズだ。

「な、何者だ!?」

「わたくしは、この薬をお配りしている、ハイエルフで賢者の、エリー・ナカムラ様が従者、アイン・オリジン。」

「同じく、ツヴァイ・オリジン。」

 この姿を見たら、エリーは恐らく頭を抱えるだろう。

 なんでこうなった・・・と。

 いや、実際にナノマシンデータリンクと偵察用ナノマシンを駆使して見ていたエリーは、ガチで頭を抱えていたが。

 何やってんの、あの子達・・・ハァ。

 こんな風に育てた覚えは・・・

「貴方達、武士道は何処に捨てて来たのですか?」

「民を護るのが仕事なあなた方が自ら民を苦しめるとは言語道断、と、告げます。」

 1人が刀を抜く。

「女と思って言わせておけば!

 女とて容赦はせぬぞ! 切り伏せてしまえ!」

 この侍集団の上司だったのだろう、他の侍達も慌てて抜刀する。

「女性へ向けて刃物をチラつかせるとは、教示も何も持たぬのですか、良いでしょう、受けて立ちます。」

 エリーすら作った覚えのないメリケンサックを嵌めるアインと、同じく作った覚えのない日緋色金を練り込んだと思われる防刃グローブを嵌めるツヴァイ。

 お前らのボディーはミスリルとかオリハルコンを使用した全身義体と同じ材質の物なんだから、ンなもん要らねぇだろ。

 格闘の構えを取る二人に侍達が襲い掛かるも、二人は悉く、メリケンサックと防刃グローブを駆使して侍の刀を悉く折り砕いて、蹴り飛ばして行く。

「お主ら!待て!」

 戦闘中の彼らの背後から、大きな声で一人の武将が吠えた。

 振り返ったそこには、立派な鎧を着こんで、長い槍を携えた武将が騎乗して威風堂々と存在して居た。

「我は七本槍が一人! 徳川筆頭家老、本田忠勝である!」

「ははっ!」

 侍たちが戦闘を止め、下がる。

「何をして居るか! 民へ刃を向けるなど、言語道断!

 上様より沙汰の有るものと覚悟致せ!」

「ははっ! お許し下され!」

 全員が平伏する。

「さて、お主らが天女か?」

「天女とはどの様な物でしょうか? と、問います。」

 ツヴァイが聞いて、アインが続く。

「わたくし達は、ハイエルフ、エリーナカムラ様の従者ですが。」

「天より降りて来たのだから、天女であろう?」

「成程、しかしわたくし達は、この乗り物に乗って来ただけなので、空から降りて来た訳ではありません。」

「はっはっはっは、ではこれは巨大な蜻蛉であるか!

 我が槍の勝ちの様だのう。」

「その槍は蜻蛉切と言う見識で間違いありませんか?と問います。」

「そうか、この槍はわしより有名であるか。」

 何だか盛り上がりかける本田忠勝とツヴァイだが、アインが口を挟む。

「本田様は、何かの御用で此方へ来たのでは無いのですか?」

「ああ、すまぬすまぬ、そうであった。

 場内にもすでに病人が出て居るのじゃ、早急に此方にも対応願いたいのだが、良いかな?」

「成程、そのようなご用件でしたか、畏まりました、エリー様の意向により、発病した者が優先的に診察を受けられる権利が有ると伺って居りますので、私が其方の治療へ向かいます。」

 構えを解く事無く警戒を続けて居たアインが、構えを解く。

 と、それに呼応するように、ツヴァイも構えを解く。

 オリジナルの二体は、エリーより渡されたマジックバッグをポーチにして持ち歩いて居たのでそのまま本田氏の馬について走って行く。

「告、もっと早く走って構わないと告げます。」

「城内ではそのように速く走っては成らぬのでな。」

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「成程、つまりはこの方は横須賀に出張して居たが、二日前に帰って来た所である、と。」

『エリー様、恐らくはここまで早く感染が広がったかの謎が解けました。

 恐らくこの方が町中の人達とふれあいを忘れないお優しい方だった事が仇となったのでしょう。

 症状が出る前で、気付かなかったものと推測できます。』

 アインは直ぐにエリーへと報告を上げる。

『判ったわ、貴女達はそこで治療に専念しなさい。』

「イェス、マム。

 城内の診療はわたくし達が執り行います。」

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 こうして、江戸の大規模流感は幕を閉じたのだった。

 その代わりに、アインとツヴァイの変な成長がエリーの頭を悩ませる事に成ったが・・・


 後日、江戸の守護職が挿げ代わり、これ迄の道臣よりもずっと町民に対しフレンドリーな侍達が街中を警備するようになった、らしい。

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